平成22年度 第5回-1 国際情勢研究会 報告1「金融危機後の米国経済」 みずほ総合研究所 調査本部政策調査部 主任研究員 西川 珠子【2010/10/22】

日時:2010年10月22日、場所:(財)貿易研修センター

平成22年度 第5回-1 国際情勢研究会
報告1「金融危機後の米国経済」


みずほ総合研究所 調査本部政策調査部 主任研究員
西川 珠子

西川 珠子 サブプライム・ローン問題に端を発し、2008年9月のリーマン・ショックで一気に深刻化した金融危機に対し、米国の政策当局は空前の規模の景気・金融安定化策を実施してきた。これらの効果もあり、米国経済は大恐慌に次ぐ、長く深い景気後退を経て2009年6月には回復に転じた。しかし内訳を見ると、在庫投資積み増しの寄与が大きく、最終需要の回復は鈍い。また生産・雇用は急激に落ち込んだ後、いまだ2004、05年ごろの水準で停滞している。生産はかろうじてV字型で回復しているが、雇用は低迷が続いている。さらに、このところ政策効果の息切れとともに米国経済が二番底に陥るという懸念が強まっている。
 米国経済の回復力が乏しいことの背景には、複合的な要因があるが、あえて要因を1つに絞るとすれば、「信用膨張」とその修正(Deleverage)に尽きるのではないか。今回の景気拡大局面で米国の信用残高の推移を見ると、名目GDPで3倍を超える規模に膨張している。そして「信用の膨張と修正」を加速させているのが、資産価格の低迷という問題だ。株価、不動産価格を見ると、資産価格は2006~07年ごろをピークに急速に下落した。米国の家計や企業が保有している資産から負債を引いた純資産も大幅に減少し、ピークと比べ、21.8兆ドルも減っている。
 一方、銀行の貸出残高の推移を見ると、2008年第4四半期のピーク時点から約5000億ドル減少したが、金融危機前の急拡大局面よりは依然として高水準にあり、なお調整余地が残っている。また一般の貸出に比べ、中小企業への貸出では中堅・中小行の果たす役割が大きい。このため、これらの金融機関の経営不振は、中小企業に大きな打撃を与えている。
 今年7月には、大恐慌以来ほぼ80年ぶりの抜本的な金融規制法である金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act、通称:ドット・フランク法)が成立した。しかし金融危機は必ず形を変えて発生するので、これが再発防止につながるかという点については評価が難しい。またオバマ政権は3500億ドル規模の追加対策を発表しているが、中間選挙で共和党勢力の躍進が確実な情勢では、政策が実現する可能性は低い。
 財政面でより大きな問題は、今年末で期限切れを迎えるブッシュ減税の延長だ。今の状況で減税を見送れば、景気が二番底に向かうのは不可避とみられる。このため政府は議会に何らかの妥協点を目指すよう促し、一旦は失効しても、来年度に持ち越して何らかの形で延長させると考えるのがメインシナリオだろう。一方、外需に関しては、輸出の拡大が貴重な成長の源泉になっている。家計部門では力強い消費の拡大が望めないため、オバマ政権は消費依存から輸出重視の成長への転換を企図している。
 今後の米国経済については、民間部門はDeleverage圧力の下で強い調整を強いられているので、景気拡大のペースは緩やかになるだろう。FRBは積極的な金融緩和を実施しているが、信用創造には結びつきにくく、貧血気味の経済成長が長期化するというのが当社のメインシナリオだ。また二番底はメインシナリオではないが、国内需要が脆弱なので、新興国の成長鈍化など外的ショックへの耐性は非常に弱い状況が続くだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部