平成22年度 IIST国際情勢シンポジウム「中国を巡る世界情勢」【2010/12/17】

日時:2010年12月17日、場所:東海大学校友会館「富士の間」

平成22年度 IIST国際情勢シンポジウム
「中国を巡る世界情勢」


報告1「尖閣の衝撃と日本外交」
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
北岡 伸一

北岡 伸一 中国では、国際関係を力対力という面で見る要素が日本より相当強い。そして今回の尖閣諸島の問題に際しては、日米が沖縄の基地移転問題でゴタゴタしていたことが、中国には「弱み」に見えた。少なくとも中国の軍や軍関係者の間で、そのような認識が広がったことは間違いない。抑止力とは相手が攻撃をしたり、変なことをした際に、報復、反撃する能力があるということだが、ただ能力があれば良いのではなく、非常な力があっても、相手が「そんな力は使えやしない」と思えば、抑止力にはならない。しかし、日米間がゴタゴタしていれば、中国に「そのようなものは使えない」と思われる。例えば普天間、あるいは沖縄に海兵隊があるのは有効だが、これを使いこなすような合意があり、日米がじっくり話し合って共同歩調をとれることが重要だ。
 また尖閣問題に関し、根本的にまずかったのは、日本側に準備がなかったことだと思う。容疑者を逮捕し、起訴、裁判のプロセスに進めばどのようになるかについて、事前に考えていなかった。国際政治、安全保障では前向き、能動的に準備することが重要だが、日本ではこういうことを誰が考えるのかが決まっていない。海上保安庁や海上自衛隊、外務省はそれなりに考えているであろうが、一緒になって考えていない。米国では、そういうことを行うのが国家安全保障会議で、多くの国にはそういうものがある。私は尖閣事件が起きてすぐ、強くそれを主張し、今日閣議決定された防衛計画の大綱には、国家安全保障に関する関係閣僚間の政策調整と首相への助言などを行う組織を首相官邸に設置することが盛り込まれた。これはすぐに実現される訳ではないが、ぜひやってほしい。日本としては言葉はおだやかだが静かに安全保障を固め、国境線の中のところでしっかり準備しておくことが重要だ。
 また、南西重視という問題もある。現在、日本の自衛隊のかなりの部分は北海道におり、人員削減のほか、南西重視で北海道の人を減らし、より移動しやすくすることが課題になっている。南西重視は中国を挑発するからいけないという人たちがいるが、南西に出てきているのは中国なのである。日本の防衛力強化はあくまでも国境の中を守るためのもので、日本の領土領海領空に侵入しようと考えている国は別として、誰にも文句を言われる筋合いのものではない。かりにそういうことを周りから言われても、気にしないで行うべきだ。言葉はソフトにし、安全保障は粛々と進め、経済活動を深め、人的交流、歴史共同研究は行っていくべきだろう。

報告2「最近の米国の対中国政策: 中間選挙の結果を踏まえて」
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
久保 文明

久保 文明 オバマ政権の対中政策には、最近大きな変化が見られる。最初はかなり柔軟なアプローチをとっていたが、これがどの程度、ナイーブだったのかはわからない。オバマ政権が誕生した2009年1月は、米国経済の底がどこにあるのかが見えず、どこまで落ちていくかわからない恐怖があった。そういう意味でオバマ政権は当初、特に経済大国になった中国を含む多くの国の政府に大型の景気刺激策を実施してほしいという希望を強く持っていたと思う。他には金融や通貨の問題、環境問題、北朝鮮やイラン、核不拡散など様々な問題で、中国の協力や譲歩を欲していた。そのため、問題もあることは認識しながら、大規模な協議を行うというアプローチで始め、交渉にもエネルギーを費やしたのではないか。
 しかし、2009年後半から今年前半にかけ、難しい問題が多数登場してきた。1つは気候変動問題で、中国の協力を期待していたが、どうも駄目だとわかった。そしてアメリカによる台湾への武器売却に、中国が反発する。さらにチベット問題ではオバマ大統領が今年、ダライ・ラマに会った。また人民元切り下げの問題は、かなり難しい問題として現在も続いている。このほかグーグルの問題では、ヒラリー・クリントン国務長官が2010年1月に、「インターネットの世界において新しい壁、つまり冷戦のときの壁のようなものが築かれつつある」として、かなり強いレトリックで中国を名指しで批判した。その後は韓国海軍の哨戒艦沈没事件が起き、中国はその際、北朝鮮をかばっている。
 アメリカ政治では現在、イデオロギー的な分極化が進んでいるが、中国に関しては共和党、民主党のそれぞれに親中派、反中派の双方が存在している。ただ、どちらかと言うと野党は与党の政策を批判するので、共和党では中国批判が強くなっている。その共和党が下院で多数党になったため、議会においては今後、中国批判が徐々に表面に出てくる可能性があるだろう。
 また注目しなければならないのは、中国による南シナ海と東シナ海での行動で、アメリカがかなり強く明確な反応を示したことだ。南沙諸島、西沙諸島での中国の行動については警戒心を持って見てきたが、クリントン国務長官はハノイで開かれた会議で、領土問題に関するアメリカの仲介を申し出ている。アメリカが当事者でない領土問題について仲介することは異例だが、アメリカも利害関係者だという考え方に立脚している。アメリカには領土的野心はないが、公海における航行の自由(freedom of navigation)という観点では当事者で、これは絶対に譲れないと強く主張している。ただアメリカも、中国と断絶する訳にはいかず、経済的な相互依存や北朝鮮に関する6ヵ国協議の問題もある。したがって、今後も中国と協力を続けていかなければならない。
 オバマ政権の中国観は現在かなり変化しており、アメリカは日本や韓国との関係強化を重視するようになっている。これについては日本がはっきりしないところが心配の種だが、中国ファクターにより、アメリカはこれまでそれほど親密な関係になかったベトナムなどとも関係を強化しつつある。この辺りが重要なポイントだと感じている。

報告3「中国の政治外交の新情勢」
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
高原 明生

高原 明生 最近の中国の変化における1つの重要な側面は、中国が自己主張を強めていることだ。そしてその内側には実は、中国の迷いや論争がある。何を巡って論争しているのかというと、「韜光養晦」(とうこうようかい)という言葉があり、これは鄧小平が存命だったときに外交方針はこれで行くよう残した遺訓だ。これは要するに、「あまり偉そうにせず、頭を低くして低姿勢で外交をしなさい」という意味だ。しかし、これに対し、「韜晦するのはもう結構。中国は立派になった。もっと自己主張を強め、自己の権益を海外でもしっかり守っていく方針に変えて良いのではないか」という声が強くなっている。
 2009年7月に北京で開かれた駐外使節会議には、世界中の大使が集まった。そして、胡錦濤国家主席が演説し、韜光養晦という言葉の前に堅持という言葉を加えて使った。またその次に、為すべきところは為すという表現の前に、積極という言葉も加えた。例えば、主権を守る、台湾やチベットなどへの内政干渉をさせないなど、やるべきときにはやるが、そうでないときは韜晦するというのが「韜光養晦、有所作為」で、胡錦濤主席はこれに2文字ずつ加えた。一応、論争の両側の顔を立てた形だが、重要なのはやはり、為すべきところを為すに積極の2文字が加わったことだ。そして中国の人たちはこれを、「自己主張を強めていくべき」、「海外における権益を確保し発展させていく」という指示として受け止めた。
 実は特に昨年後半から、中国外交は摩擦の連続だ。最初は日本との関係は良かったのだが、9月には尖閣沖の衝突事件が起きた。中国ではまたメディアの変化もあり、軍人らが非常に激しい言葉遣いでアメリカやインド、そして日本に対抗することを説いている。なぜ自己主張を強める新しい外交方針が出てきたのかだが、理由の1つとして内政との連動があり、中国内部はかなりガタガタしている。マクロ経済的には、中国は隆々たる発展を遂げており、これが一面においては自信の源になっているが、一皮むくと大きな経済成長のひずみが生じ、多くの人が不満を持っているのが実状だ。
 強硬外交の背景には、他にも様々なことがある。元々中国ではリアリズムの考え方が主流で、覇権争いの中で生存と繁栄を勝ち取るための闘争が外交だという考え方が根強い。そのような考え方に基づき、中国は軍事力を強化し、自分の権益は自分の力で守るべきだと公に語る人が増えてきている。このような中、2010年初めに出版された『中国夢』という本が注目を集めた。これは、劉明福氏という国防大学教授の著書だ。中国社会は分極化し、今ではチャイニーズ・ドリームを実現することは難しくなっている。しかし、国が出てきて「君のチャイニーズ・ドリームはしぼんでしまったかもしれないが、これからは国があなたに代わり、世界のチャンピオンになる」というのが最近はやりの思潮だ。個人から国家のチャイナ・ドリームへというナショナリズムを象徴するのが、この本の題名だと私は解釈している。
 尖閣の事件について言えば、中国には「日本が強硬なのだ」という誤解がある。様々な不正確な情報が、中国メディアには出ている。日本には中国の要人と率直に意思疎通できるパイプがなく、正確な事情を伝えられる人物がいなかった。そしてそういう人物が中国側にもいなかったことが、大きな問題だった。一方、7月にはベトナムのハノイでASEAN地域フォーラムが開かれたが、中国はそこで完全に孤立してしまった。中国はこれによって衝撃を受けたはずで、そうしたショックが日本への対応に関する判断を誤らせた面もあっただろう。また、一部の軍人が強硬論者で、尖閣問題に関する当局の対応に不満を抱き、勝手な行動に出たこともある。これは権力闘争と絡んでいたのかもしれないが、なかなか証拠が挙がってこず、今の段階でははっきりしたことは言えない。

報告4「北朝鮮の新体制と中国」
関西学院大 学国際学部教授
平岩 俊司

平岩 俊司 北朝鮮は昨年4月にミサイル発射実験を行い、5月には2006年に続く2度目の核実験を行った。中国は一応、ミサイル発射実験については議長声明に賛成した。もちろん(安保理)決議にならなかったという不満は残るが、内容はそれなりに日本外交としても納得のいくものになったように思う。それに続く核実験に至っては中国もあまり反対せず、決議になった。この辺までは中国にもある程度、国際社会との協調の中で北朝鮮に向き合おうという姿勢が見えていた。
 しかし、10月の中国と北朝鮮の国交正常化60年記念を巡り、温家宝氏が北朝鮮を訪問したころから中朝関係が緊密な印象を与えるようになった。さらに今年はより明確な形で、中国と北朝鮮の緊密化が印象づけられた。まず今年3月末、韓国の哨戒艦が沈没する事件が発生した。これについてはアメリカ、韓国、スウェーデン、イギリスの4ヵ国が共同調査を行い、沈没の原因となった魚雷について北朝鮮製であろうとし、また魚雷を撃った実行犯について北朝鮮の潜水艇であろうと結論づけた。しかし中国はこれに対し、「北朝鮮の犯行とは言えない」という立場をとり、また国連安全保障理事会は最終的に、制裁という形でなく、議長声明という形をとらざるを得なかった。しかも声明では、北朝鮮を名指しで批判することはなく、北朝鮮はこれに対してある種の勝利宣言を行った。
 金正日(キム・ジョンイル)総書紀は5月に中国を訪問したが、これはまさに哨戒艦事件の報告書が出る直前で、中国に対して自分たちが潔白だと説明したといわれる。またこの問題に関して1つ特徴的だったのは、中国が常にアメリカを意識していたということだ。そして米中関係が緊張すればするほど、中国にとって北朝鮮の存在価値が大きくなるという構造がある。中国としては、ある種のバッファー・ゾーンというか、米軍が駐留する韓国との間に存在する北朝鮮の体制が動揺しては困るという思いがあるのだろう。北朝鮮の後継者問題についても、やはり中国が側面から支えているところがあると思う。
 一方、韓国の延坪島に対する砲撃事件については、中国にもかなり寝耳に水だったと思う。今回の事件は明確に北朝鮮が行ったことで、なおかつ民間人にまで被害者が出たため、中国がどのような対応をするかが注目されたが、やはり基本線は従来と変わらなかった。そして中国側は対話路線を準備し、6者協議の首席代表会合を開こうと提案することになった。これは従来の6者協議の再開ではなく、哨戒艦事件を含め、昨今起きている朝鮮半島の新しい情勢を協議し、6者協議本体を再開させる条件を議論する会議だという。中国は対話に移行するポイントを待っており、自分たちがイニシアティブをとる形でこの問題を処理したい。ただ依然として、日本もアメリカも韓国も一切、妥協するつもりはないというのが現状で、しばらくは今のような状況が続くことになろうかと思う。

開催風景1
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Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部