第111回-1 中央ユーラシア調査会 報告1 「中央アジアの国際関係-水・領土問題からみる地域統合の課題と展望」筑波大学 人文社会科学研究科国際日本研究専攻 准教授 ティムール・ダダバエフ(Timur DADABAEV)【2011/06/23】

日時:2011年6月23日

第111回-1 中央ユーラシア調査会
報告1「中央アジアの国際関係-水・領土問題からみる地域統合の課題と展望」


筑波大学 人文社会科学研究科国際日本研究専攻 准教授
ティムール・ダダバエフ(Timur DADABAEV)

はじめに
ティムール・ダダバエフ 中央アジア地域において、水問題、領土問題を別々な問題として扱う研究が多い。水問題は、技術的な問題として扱う場合と、政治的な側面から扱う二つの研究が見られる。国境に関しては、旧ソ連時代の政策が未だに悪影響を及ぼしている。この二つの問題は、本質的には同じ問題で、両問題を中心に扱うようなフォーラムもしくは仕組みが必要ではないか、というのが私の主張である。

統合へのモチベーション
 統合に関するモチベーションとして、大きく分けて、経済面、安全保障、資源に関する三つの考え方が挙げられてきた。経済面では、いくつかの仕組みが提案され、特にCIS(独立国家共同体)の仕組み、ロシアが主導権をもっているユーラシア経済共同体が潜在力を発揮し、現段階ではロシア、ベラルーシ、カザフスタンが積極的にその仕組みに参加している。
 安全保障の分野では、CISの中に、安全保障を一つのシステムとしてみる仕組みが作られた。また96年には上海ファイブという仕組みがつくられ、2001年に上海協力機構に生まれ変わり、安全保障問題を大きな一つの仕組みとして取り組んできた。上海協力機構は領土問題の一部を扱ってきたが、ロシア、中国、中国と接する国々との問題であり、中央アジア諸国内もしくは中央アジア地域内の領土問題、土地、飛び地の問題を扱ってはいない。経済面、安全保障面において、中央アジア地域の問題を扱う地域機構ができたが、領土、水に関してはそのような問題を効果的かつ建設に取り上げる機構ができなかった。

統合のモデル
 統合の進め方にはいくつかのモデルがある。一つは、関税同盟論というもので、地域統合を目指す国々はFTAから関税同盟、関税同盟から共同市場、共同市場から経済連合、最終的に完全な経済連合につなげる考え方である。他に、機能主義と新機能主義というアプローチがある。機能主義は、上海協力機構が現在適用しているアプローチで、全ての分野で同時に協力の仕組みを構築するのではなく、一つの分野を選びその分野で進歩があった段階で、別な分野で新たに協力の仕組みを構築する考え方である。上海協力機構の歴史を見ると、領土問題を解決できたら次の問題に移るという拡大論理がある。ロシアは新機能主義的なアプローチを試みた。このアプローチの特徴は、経済面のみならず政治面での協力もしくは統合を意味する。政治面での協力に前向きな国は、この地域ではカザフスタンしかなく、ロシアとカザフスタンのみで統合体を作るのは難しく新機能主義的な仕組みの構築は難しいである。
 結果として機能主義もしくは経済同盟論というアプローチを適用する考え方が非常に多い。しかし、水問題では、いずれの方法も残念ながら潜在力を発揮できなかった。

中央アジア地域の水問題
 中央アジア地域は、乾燥しており水が非常に不足しているが、水資源が平等に配分されることには至っていない。水資源に恵まれている国と恵まれていない国があり、恵まれている国は上流国で、農業を積極的に行っているのは水資源に恵まれていない下流国である。うまく水を配分する仕組みがあれば、この二つのグループに問題は起こらない。ソ連時代にその機能を果たしていたのが、モスクワにあった水資源省である。各共和国に水資源省の支部があり、制度として機能していた。ソ連崩壊後、92年にはICWC国際水管理委員会が作られたが、あまりうまく機能しなかった。98年には水問題に関して水利用コンソーシアム形成に関して協定が作られた。協定の中で、上流国から下流国への水の提供、下流国から上流国に必要なエネルギー資源を水の代わりに提供するという仕組みが合意され、99年までの1年間、部分的にこの協定は機能した。ただし、下流国から上流国へのエネルギー資源の提供の割合と上流国から下流国への水の提供すべき水量に関して上流国と下流国間で見解の違いが生じ、この協定は機能していないことになった。
 キルギスタン、タジキスタンは、水資源を下流国に提供するだけではなく、自国のエネルギー発電に使うべきだという考え方から、ダム建設を始めてしまった。当然のように下流国の国々から反対があり、対立が表面化した。また、91年の段階では水は商品ではなく、共通、共同で使う資源という考えであったが、2000年以降になると、タジキスタンとキルギスタンは、水は商品である、下流国に水を提供する代わりに、何かを頂かなくてはならないという考え方を強調し始めた。それに対し、下流国は水は自然に作られるものであり、上流国のみの資源ではないということを出張し、水の流れを止めるようなダム建設を中止するべきと主張した。
 水問題を扱うとき、ヒューマン・ファクターという、中央アジアの国々のリーダーや水資源に携わる専門家の役割が非常に大きい。91年の段階では、水管理に関係していた専門家のつながりが非常に強かったが、ソ連崩壊から20年が経ち、専門家もほとんどいなくなり個人的な繋がりやネットワークがなくなってしまった。
 もう一つはリーダー同士の関係である。中央アジア諸国の場合、リーダーの意思が政策決定に非常に強い影響を与えることがある。そのリーダーの考え方により水政策も変わる。ウズベキスタンのカリモフ大統領と、タジキスタン、キルギスタンの指導者の考え方が正反対で対話が成り立たない。
 このように国家間の見解の違いやとヒューマン・ファクターの問題があり水問題は深刻化していった。

水問題と領土問題の共通性
 二つの問題の共通性を強調すると、両者とも民族主義の象徴であると同時にリアルポリティックの犠牲になっている。つまり各国が自国の利益を強調するあまりに解決がなかなかすすまない。歴史的な資料の自由解釈という問題もある。どの資料が優先的に使われるべきか合意がなければ解決も全く進まない。領土問題に関しても水問題に関しても同じである。さらに、国家間の資源、領土に関する民族主義が非常に強く表れるようになった。資源に関する国家間の競争も現れるようになった。

まとめとして
 これらの問題を国際法に基づき解決することは不可能に近いことである。つまり、各国の政治家による政治的な決断によりしか解決しない問題である。しかし、現実的で、実施可能な政治家同士の対話とこれらの問題を検討する仕組みがないと政治判断にはいたらない。この地域の諸国間の関係において問題が表面化したから統合や協力が不可能だという考え方ではなく、これらの問題を解決するために何らかの仕組みが必要なであることが課題であり、問題提起をしなくてはいけない。
 水コンソーシアムというと非常にあいまいで形がはっきりしないが、フォーラムや対話のプラットフォームでも構わない。水と領土に特化した対話の仕組みが必要なのではないか。上海協力機構は非常に良い前例だったと思う。中国と旧ソ連諸国の間にも領土問題があり、上海協力の仕組みができる前に、これらの問題を解決することは非常に難しいという考え方が多かったが、上海ファイブや上海協力機構の枠組みを通して対話が進み最終的に解決に至った。 
 これから得られる教訓として、まず一つめは、協力の仕組みにはやはり信頼関係強化を要することである。それには、リーダー同士の会合と対話の仕組みが必要である。お互いの考え方を言い合える場もない状況では何事も進まない。二つ目は、二国間関係が多国間の合意を支えるような仕組みをつくらなければならないことである。多国間で決めたことを、あとから二国間で、反するような合意で解決しようとすることが多く、多国間の合意がなかなか動かない。三つ目は、規模が小さくてもよいので、実現可能な問題設定をしなくてはいけないことである。四つ目は、国家間協力において、CIS、上海協力機構、中央アジア+日本、ユーラシア経済共同体の教訓から、大規模のプロジェクトがなかなか成功していないことである。つまり希望が中・小であっても、問題がはっきりしていて、どのように解決するのか図るメカニズムがあり、実現するまでコミットメントをもってもらうプロジェクトや取り組みが必要である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部