平成23年度 第3回 アジア研究会 「中国のアジア諸国に対する経済協力の現状」独立行政法人 国際協力機構(JICA) 東・中央アジア部 部長 北野 尚宏【2011/10/19】

日時:2011年10月19日

テーマ「中国の東アジア経済協力と日本」

平成23年度 第3回 アジア研究会
「中国のアジア諸国に対する経済協力の現状」


独立行政法人 国際協力機構(JICA)
東・中央アジア部 部長
北野 尚宏 (きたの なおひろ)

中国の対外経済協力実施体制と方針
北野 尚宏 中国の経済協力は主に商務部が担っている。対外援助は同部の対外援助司が所管しており、日本でいえば外務省国際協力局にあたる。日本の円借款にあたる元建の優遇借款については、商務部が供与枠を決め、中国輸出入銀行が実施している。受入れ国である他の開発途上国からは、商務部や中国輸出入銀行のような中国企業の対外進出を支援する部門が対外援助を担っているのは望ましくなく、独立した援助機関を早期に設立すべきだという意見も出されている。

 2011年4月に公表された「中国の対外援助」白書によれば、中国の対外援助額は2009年末までの累計で約2千6百億元(約3兆1千億円/1元=12円)にのぼる。一方、国家開発銀行だけでも2010年の外貨融資規模は434億ドル(約3兆3千億円/1ドル=75円)に上り、第12次5カ年計画(2011~2015年)中には5千億ドル(約38兆円)の外貨融資を計画していると言われ、このうちかなりの割合は開発途上国向けと見込まれている。中国の対外援助資金の地域分布を見ると、2009年では本日のテーマであるアジアは32.8%でアフリカの45.7%に次いで第2番目となっている。

 中国は2009年に外交方針を転換して、「核心的利益」を強調するようになったが、定義が不明確だったため、米国や周辺諸国との摩擦を生じさせた。そのため2011年に入って核心的利益をめぐる中国側発言は軟化し、「平和的発展」を強調するようになった。但し、2011年9月に公表された「中国の平和的発展」白書にあるように、核心的利益は依然堅持されている。核心的利益とは何か。「中国の平和的発展」白書によれば、国の主権、国の安全、領土の保全、国の統一、中国の憲法に定められた国の政治制度、社会の大局の安定、経済社会の持続可能な発展の基本的保障が含まれる。

 このように外交方針が転換される中で中国は2010年8月に全国対外援助工作会議を開催し、今後の対外援助政策について議論が行われた。2011年3月に発表された第12次5カ年計画要綱では、対外援助の強化として対外援助においても途上国の民生福利事業を重視する、等が謳われている。2011年4月に公表された初の「中国の対外援助」白書等では、被援助国の発展能力向上支援、LDC向け支援の割合増加などが強調されている。国際援助機関との連携、地域経済協力フレームワークの活用などが方針として打ち出されている。また、中国政府は、中国企業の対外進出を奨励する一方、2011年9月には「対外投資国別産業ガイドライン」を公表し、海外に進出する中国企業が互恵的発展の理念を確立し、自らの投資方針と投資対象国のニーズをマッチングさせることを慫慂している。中国対外コントラクター協会も2010年5月にCSRレポートを公表している。

中国の周辺アジア諸国に対しての経済協力
 中国の周辺アジア諸国に対しての経済協力については、まず鉄道港湾建設の構想について紹介したい。現在、中国とモンゴル、ラオス、キルギス・ウズベキスタン、パキスタン、アフガニスタン、ミャンマーをつなぐ鉄道建設構想が検討されている。パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーでは中国の支援で港湾建設が計画、一部実施されている。

 モンゴルについては、モンゴル向け海外投資の約8割、貿易総量の約6割を中国が占めており、2003年に中国輸出入銀行経由ソフトローン3億ドルをコミットしている。2011年にも中国輸出入銀行経由のソフトローン5億ドルをコミットし、ウランバートル市内の橋梁建設等に充当されることになっている。中央アジアに関しては地域協力フレームワークの一つである上海協力機構を通じて2004年に9億ドル、その後さらに同等規模のソフトローンをコミットしている。2009年には100億ドルの借款をコミットしている。

 パキスタンについては中国新疆のカシュガルからイスラマバードに至る鉄道路線の計画中である。2011年10月、「カシュガル・ホルゴス経済開発区を支持する国務院の若干の意見」が公表された。同意見では、新疆の経済発展のために中国・キルギス・ウズベキスタン及び中国・パキスタン鉄道の建設促進が明記されている。スリランカにおいては2007年に供与された中国輸出入銀行の借款によってハンバントタ港第一期工事が進捗しており、第二期工事に関しても2011年1月にEPC契約が締結された。バングラディシュのチッタゴン深水港は2010年3月に建設支援を表明している。

 アセアンについては2009年の第12回中国アセアン首脳会議で中国アセアン投資協力基金の設立、アセアン向け150億ドル(うち優遇借款67億ドル)の借款供与が表明された。投資基金については2010年3月に運用が開始され、2011年5月にはIFCが正式に参加をしている。借款については2010年5月現在101億ドル(うち優遇借款31億ドル)が実施されている。

 うち、ミャンマーについては2009年10月にチャウピュー港、2010年6月にパイプライン建設が着工している。2011年4月にはチャウピューから中国との国境のムセを結ぶ鉄道建設に関する覚書が締結されている。ラオスについては、現在、第4タイ・ラオスメコン橋がGMSの枠組みで建設中である。タイ側はタイの資金、ラオス側は中国の資金が使用され、コンサルタント、コントラクターともにタイ、中国のJVである。鉄道については中国雲南省昆明からラオス経由バンコクを結ぶ高速鉄道建設構想があり、ラオスにおいては中国中鉄二院工程集団有限責任公司が2010年12月に事務所を開設、ラオス区間の設計を担っている。同公司は鉄道部傘下の企業で、過去に円借款事業である重慶モノレールの建設を請け負っており、エチオピアではアジスアベバ市のLRT建設事業及びジプチまでの鉄道建設事業の準備に参画している。また、バングラディシュでもADBが融資する鉄道建設事業を受注している。

対外援助分野における中国の国際機関や二国間援助機関との関係
 中国は、対外援助において国際機関や二国間援助機関との関係を従来以上に重視するようになっており、2011年5月以降だけをとっても国連後発開発途上国(LDC)会議、MDGsフォローアップ会合、G20開発作業部会など様々な開発関連の国際会議に積極的に参加している。国際機関や二国間援助機関も中国とのエンゲージメントに積極的に取り組んでいる。JICAは2009年に緒方理事長が李克強副首相と会談を行って以来、商務部や中国輸出入銀行とのワークショップ等を通じ情報交換を行い、経験交流にも努めている。日本企業についても直接、間接的に対外援助を含めた中国の資金を利用してビジネスを展開する例が出てきている。


(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部