平成23年度 第4回 アジア研究会 「中国経済の構造変化とその影響」キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 瀬口 清之(せぐち きよゆき)【2011/11/10】

日時:2011年11月10日

テーマ「中国の東アジア経済協力と日本」

平成23年度 第4回 アジア研究会
「中国経済の構造変化とその影響」


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
瀬口 清之 (せぐち きよゆき)

1. 重要度増す中国市場と日本の優位性
瀬口 清之 2000年以降の日本の輸出で地域別ウェートの推移を見ると、アメリカ、ヨーロッパのウェートが低下する一方、中国がほぼそれをカバーする形で増えてきた。そして2010年には中国が、ドルベースの名目GDP(国内総生産)で日本を抜いた。その時点での中国の経済規模は米国の40%だった。中国はさらに、2020年ごろまでにアメリカを抜いて世界1位になるとみられている。中国がアメリカの60%の規模に当たる新たな市場をこの10年間で作り出すとなれば、世界の企業は中国を狙い、競争してくるだろう。そう考えると、特に2015年ごろまでの、中国が高度成長の最も良い時代を謳歌しているときに、中国のマーケットをどの程度取れるかが、勝負どころとなる。日本が負け組になれば、他の国々の勝ち組の企業が中国で膨大な収益を上げる。その収益力で日本企業の高い技術力を買い、中国で生産して日本に輸出するようになれば、日本の産業の空洞化は決定的になる。これが日本として最も心配すべきリスクである。
 ただ幸運なことに、日本には追い風が吹いている。先進国の状況を見ると、ヨーロッパの金融不安は今後しばらく厳しい状態が続くとみられる。アメリカは今のところ、FRB(米連邦準備制度理事会)ですら楽観的な景気回復見通しを立てているが、おそらく下方修正されるだろう。一方、日本は東日本大震災後の復興政策もあり、来年は成長率が浮き上がる。そういう意味で日本は相対的に優位にある。企業の財務内容や金融機関の財務体質を見ても、日本が欧米と比べて優位にあるのは間違いない。
 中国は新興国、BRICsの中でも、突出して良好なパフォーマンスを保つと思われる。韓国もウォン安を活かして中国市場に浸透している。欧米経済が停滞する中、日中韓の3国は来年、相対的に健全な状態を維持するだろう。2020年には、インドもASEAN諸国もパフォーマンスを上げるようになる。2012年は、日中韓、東アジア3国がリードするアジアの時代の幕開けが明確となる年になるだろう。

2. 急激に変化する中国市場
 中国経済はリーマン・ショック後に急回復を遂げ、その後やや過熱気味になったため、金融をゆるやかに引き締め、9%台後半から前半へと成長率をうまくコントロールしてきた。この間、物価の上昇に悩まされてきたが、足下についてはそれほど心配しなくても良い状態になっている。貿易収支は現在、ゆるやかな減少傾向にあり、2008年には2900億ドルを超えていた貿易黒字が、今年は1600~1700億ドル程度に落ちるとみられる。中国の政府はむしろこれを歓迎し、3兆ドルを超える外貨準備高を減らせれば良いとみているようだ。ただ将来、貿易収支が長期的な赤字状態に陥らないよう、輸出競争力をつけていくことは中長期的に重要な課題だろう。
 中国の株価は、ゆるやかな金融引き締めを映じ、また欧州の金融不安も受け、徐々に低下している状況だ。住宅については根強い需要が衰えていないが、北京や上海のような主要都市では取引が難しい状態にまで規制が行われた結果、不動産開発投資に衰えが見られる。中国の不動産価格水準は、一般庶民の手が届かないレベルに上昇しており、これは深刻な社会問題になっている。
 中国では構造的な輸出競争力の高まりを映じ、2005年から急速に貿易収支の黒字が増えた。これに自信を付けた中国は2005年以降、従来の輸出投資主導型の経済から内需主導型の、より安定的な成長率を維持できる経済へと移行を進めてきた。そして人民元を切り上げ、最低賃金を上昇させたほか、法人税では輸出企業に対する優遇税制を取りやめ、内需企業との平等化をはかる税制に変えた。その効果から内需の拡大が見られ、現在は高度成長期の只中にある。
 この高度成長を支える内需の2つの推進力は、都市化とインフラ建設だ。都市の住民が増加する一方で、農村の住民はゆるやかに減少している。そして農村における余剰労働人口の減少は、労働需給の逼迫、急速な賃金上昇を招いている。これは「ルイスの転換点」と呼ばれるもので、中国では2004年以降、兆候が現れてきたといわれる。また中国の大規模インフラ建設については、2015年に山を越えるとみられている。
 総括してみると、中国経済では期待とリスクが並存している状況だ。期待としては、アメリカの6割に相当する市場が、今後10年間で現れる。所得水準は上昇し、主要都市では庶民が日本の製品・サービスをどんどん買えるほど、豊かになってきている。その一方で、中長期的なリスクもかなり指摘される。これは最近、「中所得国の罠」という言葉で総称され、中所得国まで発展しながらも、その後、経常赤字に陥り、再び低所得国に戻ってしまうというリスクだ。
 日本の対中投資は昨年から、第4次ブームに入っている。今年1~9月は、件数だけでなく、金額も大変な勢いで伸びている。その主な要因は中国で成功した製造業の大企業が、その収益を再投資に振り向けていることだ。中国のマーケットで勝負しなくてはならない時期に、特に日本の投資が増えていることは、日本の優位性がある程度、反映される結果が既に出ているということではないか。
 日本の投資が増加していることの背景には、中国での所得水準上昇により、消費行動が変化していることもある。中国の国内市場では、「Made in Japan」が信頼されており、日本企業は「中国はこんなに儲かるマーケットに変わったのか」と驚いている。急速な所得水準向上に伴い、消費者の品質を見る目が厳しくなったため、日本の製品・サービスに対する意欲は高まっている。
 これを受け、マクロ的な変化も現れている。2007~09年には日本の対中貿易黒字は300億ドル程度だったが、2010年にはほぼ倍増し、560億ドルまでになった。今年は残念ながら、震災後のサプライチェーンの問題によって輸出が落ち、伸びが縮んでいる。しかし来年にはまた、黒字幅が拡大すると考えられる。投資に関しては、中国では今後ますます「日本企業を誘致して技術提携したい」というニーズが高まると予想される。
 日本企業の対中直接投資の拡大について産業空洞化が懸念されているが、これは間違いだ。中国では今後10年で、米国の6割に相当するマーケットが生まれる。もしも日本企業がそのマーケットに出ていかなければ、米国、韓国、台湾、欧州等の企業が進出して大きな収益を確保し、中国市場で得た巨額の利益を用いて日本企業を買収し、日本市場への進出を狙うのは必至だ。こうした事態を防ぐためにも、中国市場に対しては、「攻撃は最大の防御」であり、「産業空洞化論」は成立しない。逆に中国市場への積極的進出が日本の空洞化を防ぐ。中国における所得水準の上昇は非常に早く、今後5年で2倍になる。また中国に関しては、元高によって相殺されるため円高の影響も大きくないと考えられる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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