第110回-1 中央ユーラシア調査会 報告1 「日本と中国の中央アジアに対する経済協力の現状と展望」独立行政法人 国際協力機構(JICA) 東・中央アジア部 部長 北野 尚宏 【2011/05/26】

日時:2011年5月26日

第110回-1 中央ユーラシア調査会
報告1「日本と中国の中央アジアに対する経済協力の現状と展望」


独立行政法人 国際協力機構(JICA)
東・中央アジア部 部長
北野 尚宏

北野 尚宏 中国の経済協力実施体制
 中国の経済協力は主に商務部が担っている。対外援助は同部の対外援助司が所管しており、中国企業の対外進出を後押しする部局もある。外交部、世銀・ADBを所管している財政部、中国企業の対外進出の許認可権限を有している国家発展改革委員会も経済協力政策に関与している。日本の円借款にあたる元建の優遇借款については、商務部が供与枠を決め、中国輸出入銀行が実施している。資源開発関連で国際的に関心をもたれているのは国家開発銀行である。設立時の母体のひとつである国家発展改革委員会と連携しながら中国企業の対外進出、資源獲得といった活動を金融面でサポートしている。
 中央政府の対外援助予算は2010年で約2千億円程度であるが、国家開発銀行の同年の外貨融資規模は約3兆円である。最近の報道によれば、国家開発銀行は、今後5年間に約5千億ドル(約42兆円)の資金を供与することを表明している。このように対外援助以外の公的資金の供与額が極めて大きいのが中国の特徴である。

中国の対中央アジア経済協力
 中国は独立後の中央アジア諸国と経済貿易協定を結び、同協定のもとに経済貿易委員会を設立し、経済協力等の協議を継続している。特にカザフスタンとは交通、科学技術、金融等11の分科会を設けている。
 一般的に、中国は資源国に集中して援助を供与していると言われる。確かにカザフススタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンといった資源国に対して援助を行っているが、キルギス、タジキスタンといった目立った資源のない国に対しても頻度高く援助を供与している。キルギス、タジキスタンの政情の不安定化は即座に新疆の安定に影響することもあり、中国政府はこれらの国の安定的な発展を支援しているものと思われる。
 中国の中央アジア諸国に対する輸出額は、カザフスタン向けが大きな割合を占めていたが、2008年はキルギスが急増した。中央アジア諸国の中で唯一WTOに加盟しているキルギスは関税障壁が低く、中国は消費財をキルギスを通して中央アジア市場に流通させている。一方、中央アジア諸国からの輸入はカザフスタンからの石油が圧倒的に多い。今後はトルクメニスタンからの天然ガスの輸入量も増加すると見込まれている。
 中国の対中央アジア投資額は中国政府の統計によれば2008年には約6億6千万ドルに達したが、中国全体の対外投資額の1%にも満たない。カザフスタン向けが大宗を占めており、資源開発等の分野で投資を行っている。ただし、ケイマン諸島やバージンアイランドを経由して迂回した投資金額は反映されていない。実際にカザフスタンが受け取っている中国の投資額はより大きいと言われている。カザフスタンと中国の間は既に石油パイプラインで結ばれ、カスピ海から石油が新疆まで輸送されている。トルクメニスタンから北京まで5千キロを越える天然ガスパイプラインが既に開通している。最近の報道によれば、トルクメニスタンのガス田開発に中国開発銀行が41億ドルの借款供与を約束したとのことである。トルクメニスタンにとっては安定的な市場が確保でき、中国も海洋を経由しないで天然ガスを直接輸入できるので、お互いにwin-winの形になっている。

日本の対中央アジア経済協力
 日本の対中央アジアに対する協力については、2009年11月の官房長官の声明の中で、日本はアフガニスタンを見据えて、中央アジアに対しても取り組んでいくという考え方が表明されている。ODA供与実績額が大きいのは、円借款が供与できる国であり、ウズベキスタン、カザフスタン、アゼルバイジャン等である。キルギスはかつて円借款を供与したが、経済状況が悪化して債務救済を行った後円借款の再開には至っていない。  アフガニスタン支援を念頭に、JICAとしては今後特に域内の脆弱国であるタジキスタンとキルギスに対する協力に力をいれたいと考えている。カザフスタンの首都アスタナでは、黒川紀章氏デザインの都市計画に基づきインフラ整備が行われ、空港や上下水道といった象徴的な円借款案件を日本のコンサルタントやコントラクターが受注した実績がある。防災協力では、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場跡に隣接する地域で地域医療の改善計画が行われてきた。また、同国アルマティ市等これまで地震被害があった都市でも防災の技術協力を実施してきた。

中央アジア地域経済協力(CAREC)
 中央アジアにおける地域内協力の枠組みとしては、上海協力機構(SCO)や、ADBが97年から主導しているCAREC(Central Asia Regional Economic Cooperation:中央アジア地域経済協力)が挙げられる。後者は流通網を改善し、貿易を活発化し、エネルギーや運輸インフラを改善することで地域の所得水準を高め、開かれた地域を目指すことが目的である。8ヵ国6国際機関(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、中国、アフガニスタン、モンゴル、ADB、EBRD、IMF、イスラム開銀、UNDP、世銀)に加えて、2010年にはトルクメニスタンとパキスタンが参加し10カ国になった。CARECの特徴の一つとして、中国が参加することで、中国経済の活力を中央アジア地域の発展に活用しうる点を挙げることができる。JICAはオブザーバーであるが、パートナーとしてCARECに積極的に参加している。

中国の対外政策変化の兆しとJICAの対応
 中央アジアに限らず、現場レベルでは同じ地域、同じ国、同じセクターで日本と中国がそれぞれプロジェクトを実施しているケースが増加しており、双方間の情報交換や経験交流が重要になっている。JICAは、緒方貞子理事長が2009年12月に中国の李克強副総理と会談して以来、特に商務部、あるいは中国輸出入銀行とはセミナーや研修を開催し、中国との関係構築に努めてきた。
 中国政府も国際社会において積極的な役割を果たしていこうとする姿勢がうかがわれる。例えば、2010年7月に開催されたキルギスの支援国会合では、王開文駐キルギス中国大使が、1350万ドルの人道支援、440万ドルの追加的無償支援、さらにSCOを通じた100億ドルの借款の一部を南部復興向けに約束している。2011年5月にトルコ・イスタンブールで開催された第4回後発開発途上国(LDC)会議には、中国より商務部の対外援助担当副部長が参加し、中国はこれまで以上にLDCの発展に貢献をしていくと述べた。
 JICAとしても、今後とも中国との情報交換、経験交流を中央アジアはじめ現場レベルで進めていきたい。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部