第113回-1 中央ユーラシア調査会 報告1 「カスピ海周辺地域に於ける原油・ガス資源開発状況とP/L戦略」(財)日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット 国際動向・戦略分析グループ 研究主幹 杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)【2011/09/16】

日時:2011年6月23日

第113回-1 中央ユーラシア調査会
報告1「カスピ海周辺地域に於ける原油・ガス資源開発状況とP/L戦略」


(財)日本エネルギー経済研究所
戦略研究ユニット 国際動向・戦略分析グループ
研究主幹
杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)

パイプラインの現況と各国の動き
杉浦 敏廣 今月の前半から本日まで、いろいろなことが同時並行的に起こった。何が起こっているのか整理したい。
 9月6日にノルト・ストリームがライン・フィルした。ライン・フィルとは、パイプラインが完工して、最初に天然ガスや原油を流し込む作業、記念式典のことである。フィンランド国境のヴィボルグにポンプステーションがあり、そこで、ライン・フィルが行われた。その2日後には、ウラジオストクの沖合いルースキー島で、総延長約1800kmのサハリン・ハバロスク・ウラジオストクの天然ガスパイプラインのライン・フィルが行われた。翌日9月9日、太平洋パイプライン(ESPO)が、スコボロジノからウラジオストクまで繋がった(稼動は来年後半)。驚くべきスピードでパイプラインができている。9月15日には、KOGAS(韓国ガス公社)とガスプロムが、北朝鮮経由の天然ガスP/L建設に関するMOUを結んだという報道があった。MOUの中身について詳しいことは書かれていないが、おそらく、北朝鮮経由韓国向けのパイプライン建設に基本合意したということではないか。3者で結んだのか、2者がそれぞれ個別に契約を結んだのかはわからない。本日9月16日には大きな二つの動きがある。一つは、トルコのイスタンブールで、トルコとアゼルバイジャンの天然ガス交渉が行われる。この天然ガス交渉はカスピ海で生産されるシャハ・デニス第2期、生産量160億立米の天然ガス交渉。もう一つは、黒海沿岸のソチで、ガスプロム、イタリアのエニ、フランスの電力会社EDF、ドイツのヴィンタースハル4社の首脳が集まり、サウス・ストリーム構想への権益参加問題を協議する予定。このように、世界中でロシア・中央アジア・カスピ海の天然資源を巡り、いろいろな交渉が同時並行的に行われている。

カスピ海/黒海・周辺地域のパイプランの概要
 ロシアは海洋鉱区の探鉱・開発技術をもっていないので、必ず外資と組まないと海洋開発ができない。石油ガスの生産第一位の国であるが、西シベリア、サハリン等、従来の生産地は全て陸上であった。バレンツ海においては、旧ソ連とノルウェーの間にあった領海画定紛争が最近解決した。ノルウェーはすぐにバレンツ海で地震探鉱を行い、調査は終わっている。ロシアは来年行う予定である。ロシアは海洋開発をやろうとしても技術がないので遅れている。北極海カラ海等の探鉱・開発でロスチネフ社はエクソン・モービルと提携したが、おそらくエクソン・モービル主導の北極海開発になるのではないか。
 ロシアの西シベリア地域からのパイプラインがヨーロッパに行くには、大きく分けて二つある。ベラルーシ、ポーランドを通って、ドイツ・ベルリンまで行く輸送路と、ウクライナを通ってドイツへ行くルートである。後者がメインで、パイプラインの年間輸送量能力は約1200億立米である。ドイツからは他のヨーロッパ諸国にも送られる。ヨーロッパ国内は、パイプラインで全て結ばれている。今話題になっているノルト・ストリームもある。ノルウェーからは海底パイプラインでイギリスへ行っている。
 イタリアは、北アフリカから地中海縦断パイプラインで、天然ガスを地中海から供給している。リビアからのパイプラインをグリーン・ストリームというが、これが今回止まったので、イタリアはリビアから入らなくなった天然ガスを急遽ロシアから手当てした。今年の1-8月を見ると、ロシアからの天然ガス輸入量が増えている。一方、ドイツ、フランスは、1-8月でもロシアからの天然ガスの輸入量は減っている。これは、国益上、ロシアからの天然ガスを増やさない方針のためで、メルケル首相もはっきりとそう言っている。
 カスピ海を中心としたパイプラインには、トルクメニスタンからロシア中央へいくサッツの大動脈がある。従来はロシアからバクーまで、2006年まで天然ガスを輸出していたが、2007年からは同じパイプラインを逆送して、バクーからロシアに天然ガスを輸出している。カスピ海で天然ガスの生産が始まったからである。
 トルクメニスタンのガス田からは毎年約500億立米がロシアに流れていたが、今は年間約100億立米になっている。ロシアがウズベキスタンとの国境でガスを止めてしまった。現在では、トルクメンからウズベクとカザフを通って、中国、上海へ流れている。トルクメニスタン国内には東西を接続するパイプラインがない。天然ガスをカスピ海経由輸出するためには、まず国内に東西パイプラインをひかなければならない。自力で国内に約1000kmのパイプラインを建設中である。
 1990年代末にトルクメニスタンの天然ガスをカスピ海横断パイプラインを作って、バクーからヨーロッパに輸出する計画にトルクメニスタン、アゼルバイジャン、ヨーロッパが合意したが、その合意をアゼルバイジャンが反故にした。シャハ・デニスは大油田鉱区だと思っていたが、実際に掘ったらガスであった。ガスならトルクメニスタンからパイプラインを引くのはやめて自国で輸出しようということになり、反故にした。そこで、トルクメニスタンとアゼルバイジャンの仲が悪くなったという歴史がある。
 黒海周辺のパイプラインであるが、黒海周辺にはパイプライン構想がたくさんある。
 カスピ海は、海か湖かという論争をきかれたことがあるだろうか。海と湖では大違いである。湖なら海洋資源は沿岸国の共有財産になる。海は領海の概念があり、大陸棚であれば自国のものになるので、海か湖かという論争が続いている。ソ連邦の時代は沿岸国がソ連とイランの2カ国だけだった。しかし、1991年の各国の独立によって、カスピ海沿岸国が5カ国になった。5カ国になって、今、カスピ海を湖だと言っているのはイランだけである。イランには外資がはいらず、海洋開発技術がないので、イランの沖合いでは開発がなされていない。
 中国では2009年の末に、カザフスタンとの国境から中国沿岸までパイプラインが通った。トルクメニスタンからの天然ガスが中国に流れている。ロシアはアルタイパイプラインを引いて、ロシアの西シベリア産天然ガスを中国に売ろうとしている。ロシア・中国間では、年間680億立米の天然ガス供給で基本合意しているが、その後なにも実現していない。中国とロシアは天然ガス交渉を継続している。
 ウラジオストクまではパイプラインができたので、延伸するかどうかを、ロシア・北朝鮮・韓国で協議している。サハリンではパイプランを南まで引いて、LNGにしている(サハリン-2)。
 いろいろなパイプランができると、トルコが非常に重要な位置を占めることになるので、トルコも強気にでている。

カスピ海周辺地域の今後
 今後、カスピ海、黒海地域がどうなるのか。楽観的なシナリオは、天然ガス、原油の探鉱・開発が進み、それがヨーロッパのエネルギー安保に繋がるということである。
 逆に悪いシナリオも考えられる。中央アジア諸国5カ国、コーカサスはお互いに仲が悪い。アゼルバイジャンとトルクメニスタンは現在も仲が悪い。アゼルバイジャンはトルクメニスタンのガスをヨーロッパには流れないようにしているので、ヨーロッパが仲介して、カスピ海横断パイプラインを作らせようとしている。仲が悪いことを欧米が利用して、19世紀のグレートゲームのようなことになる恐れもある。
 ビジネスの観点からも、原油とガスの探鉱・開発が進んで、ひいては欧州、世界のエネルギー安保に繋がればよいと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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