平成23年度 国際情勢講演会 「新世界の国際情勢を読む-東日本大震災と国々の興亡-」 前朝日新聞社主筆 船橋 洋一【2011/04/08】

講演日時:2011年4月8日

平成23年度 国際情勢講演会
「新世界の国際情勢を読む-東日本大震災と国々の興亡-」


前朝日新聞社主筆
船橋 洋一

船橋 洋一  昨年『新世界国々の興亡』という本を出版した。中国、インドをはじめとする新興国が台頭し、これまでのG7体制、西側という概念も崩壊しつつある。経済ではエネルギー、環境、特に新興国の新しい開発ストラジー、戦略思想、中国型の国家資本主義のようなものが広く認知され、受け入れられるようになってきた。国連を中心としたブレトン・ウッズの体制もなかなか機能しない時代の中で、今後の日本のあり方について報告してほしいと依頼された。今回の3.11の大震災は日本の国力、戦略的な立場、そして今後の経済を中心とした成長力、存在感、それらを含めて考えたとき、非常に大きなインパクトを及ぼすに違いないと思う。本日は東日本大震災と国々の興亡というようなことでご報告したい。

1.求められる危機の際のリーダーシップ
 一昨日、トルコのイスタンブールから帰国した。イスタンブールでは民間で紛争予防の国際NGOをやっている。半分以上が政府の外務大臣、国防大臣などを務めてきた方々だ。そこで東日本大震災について私が報告し、様々な議論が出たが、その中でのジョージ・ソロス氏の「震災は日本の再生を可能にするのか」という質問は、ガバナンスの危機、さらに政治のリーダーシップの重要性を示唆する、ある意味で非常に鋭く真実を突いたものであった。危機のときのリーダーシップを民間も政府も含め、果たして本当に練り上げてきた国なのだろうか、というようなことを今、痛切に感じている。
 国の姿というのは、危機のときに一番よく見える。では日本という国は、どこが強く、どこが弱いのか。強いところは普通の人々、被災地の方々の健気だ。時に気高い取り組みをしており、ここに日本の人たちも世界も感動している。世界140カ国から、これほどの共感、懸念が寄せられる国はあまりないと思う。つまり戦後日本の世界との関わり、政府開発援助(ODA)や企業の直接投資、謙虚な外交姿勢、協調を重視する姿勢、日米同盟による平和・安全への下支え効果、そういったものがすべて世界の人々にとってプラス・イメージになっているということだろう。そして、これだけ多くの国々から手を差し伸べられる国は、強い国だと思う。ただ、我々はこれに、どのような形で応えることができるだろうか。国際社会では形をもった善意は形でお返しするもので、特に言葉が重要となるが、日本は世界とのインターフェースに課題もある。

2. ヒューマン・セキュリティ・ステートとして、安心・安全の再構築を
 今回の震災は広域で、原子力発電所の事故もあった。また、サプライ・チェーンが世界に広がっているため、震災の影響によって世界各地で自動車や様々な機器の生産が止まってしまった。日本の部品はグローバル・マーケットで40~60%のシェアを持ち、これは日本の強さであったが、一気に弱さに変わってしまったということもある。日本が失ったものはとても大きく、人命、コミュニティ、財産は言うまでもないが、安全・安心というブランドも失った。
 しかし、福島第一原発では事故が発生したが、宮城県の女川原発や福島第二原発では事故は起きていない。また、耐震構造が日本ほど厳しい国は世界に存在せず、他の先進国もマグニチュード9の地震に耐えるのは無理で、同様の地震があれば日本以上の被害が生じると予想される。米国の国家安全保障会議の元大統領補佐官からそのように指摘され、私は日本における議論も、もう少しトータルに見なければならず、強さと弱さを同時に考えなければいけないと感じた。11日に地震が起こり、14日に日銀が緊急の日本型の量的緩和を一気にやり、G7の協調介入によって金融的な連鎖反応は食い止めた。これは今回の危機の中では非常に機敏で、クライシス・マネージメントで一番うまく行ったところだ。
 この大震災でみえた強さ、弱さ、失ったもの、得たもの、いろいろあるが、戦略的課題、政策的課題を考えた時、日本は「ヒューマン・セキュリティ」(安心・安全立国)という概念を国づくりの基本的概念として打ち出すべきだと思う。今回の地震、津波によって日本は、世界からも国民からも「ハイリスク国家」と見られるようになった。今後は、環境破壊や気候変動による自然災害なども起きるだろう。核だけでなく、技術の高度化や巨大化によるリスクの高まりは避けられない。文明化すればするほど、リスクが高くなるが、国家安全保障的な機能が日本にないため、危機に対して無防備で脆弱な国であるといえよう。そこでは、国家間の紛争よりもむしろ国境を越えた形で、人間の生存、尊厳を脅かす危機の際にヒューマン・セキュリティ・ステートという概念を打ち出し、安心・安全を再構築する必要がある。さらに国の大戦略として、資源配分、官僚機構の作り方も含めて考えていかなければならない。そういう日本の新しい形は、世界にとっても大きな意味を持つ。私は国連に「地震津波連合」のようなものを作れば良いと思う。他の国々との共通の課題に一緒になって取り組んでいくことで、日本は知的にも政策的にも世界に貢献できるだろう。

3. 危機管理は戦略的課題
 今回の地震と津波、原発による危機については、甘さをはずし、科学者や行政官、専門家らによる、しっかりした分析、評価が必要である。さらに、本気になってグリーン・ソサエティを作らなければならない。原子力の推進は現実問題として政治的に難しいだろうが、長期的には、原子力なしでの日本の経済活動は続けられないから、徐々に脱皮していく必要がある。太陽光や風力など再生可能エネルギーだけでは難しいだろうから、その辺も含めた大決断が必要だ。それぞれの過程で、電力を自給自足的なものにして電力会社に売るなど、リスクをどう分散するかということも中核に据えたエネルギー供給システム、需給システムを作らなければならない。しかし、それにはコストがかかり、国民の覚醒、自覚も必要になる。
 もう1つは財政問題である。日本ではこれから、企業も個人も、資産を海外に本格的に移し始めるだろう。なぜならば、日本のリスクが今後、高まっていくからだ。貯蓄率は既に下がり始めており、今後は急速に下がっていくと思う。また復興計画を作る際、財源問題は一番の壁で、国債の増発に続く増発という訳にはいかない。同時に財政の再建計画を、作り直さなければならない。危機管理は日本の最も戦略的な課題だと思っている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。

Keirinこの事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部