平成23年度 国際情勢講演会 「インドにおける日本企業進出の可能性や留意点」 経済産業省通商政策局アジア大洋州課課長補佐 松島 大輔【2011/05/30】

講演日時:2011年5月30日

平成23年度 国際情勢講演会
「インドにおける日本企業進出の可能性や留意点」


経済産業省通商政策局アジア大洋州課課長補佐
松島 大輔

※主催:一般財団法人貿易研修センター
共催:公益社団法人 関西経済連合会、在大阪・神戸インド総領事館、独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)大阪本部、大阪商工会議所

松島 大輔1. 巨大な人口によって生み出される新たな市場
 インドでは堅実に経済成長が続いており、2008年のリーマン・ショックでも、あまり影響を受けなかった。政治は国民会議派といわれる与党の連立政権だが、非常に安定的に推移している。日本の衆議院に当たる下院の選挙でも、マンモハン・シン氏が大勝し、引き続き連立政権を維持している。また今月初めに結果が出たが、統一地方選も行われた。インドには28の州のほか、直轄州があり、その一部で州選挙があった。与党の統一進歩同盟(UPA)は、政治的なスキャンダルで批判にさらされていたが、結果は3勝2敗でまずまずの状況だと思う。
 南部のケララ州と西ベンガル州では、共産党が政権を握っていたが、今回の選挙で30年ぶりに政権を退いた。また鉄道大臣を務めていたママタ・バナジー氏率いる政党が、西ベンガル州で勝利した。日印は共同で高速貨物専用鉄道のプロジェクトを進めており、これについては様々な議論があるため、新しい鉄道大臣の登場も注目される。さらに最も多く日系企業が進出している南部のタミル・ナードゥ州では、与党が政権をかけて戦い、残念ながら負けてしまった。日本政府はこのタミル・ナードゥ州と共に様々なプロジェクトを進めようとしているので、今後はどうなっていくのかだ。
 インドでは、25歳以下の人口が50%以上を占めている。日本では1995年に「人口のボーナス」がなくなり、2005年には人口減少社会に突入したが、インドでは2035年ごろまで「人口のボーナス」が続く見通しだ。巨大な人口が新たな市場を生んでおり、四輪自動車の市場は現在260万台で、2015年には500万台になるとみられる。四輪自動車のシェアの半分はスズキ自動車が持っており、1社で120万台超の生産を進めている。携帯電話も既に6億台以上が出回っており、毎月1500万台以上増えている。人口の増加に加え、中間層も人口の13%程度を占めるようになっている。全体の人口が12億人なので、13%でも1億8000万人で日本の人口を超える。

2. 増加する日系企業の投資
 しかし、インドには1つ大きな懸念材料がある。それはインフレで、大きく分けて2つの要因がある。1つはエネルギー不足だが、省エネ、新エネなど日本が得意とする技術が役立つ分野でもあり、これは日本企業にとってビジネス・チャンスになり得る。もう1つは農業分野で、現在、インド政府は「第二の緑の革命」として増産を進めているが、2009、10年は一部で作柄が良くなかった。一方、従来は「農業が風邪を引くと経済全体が肺炎になる」ともいわれたが、近年は製造業を中心に強化されてきており、農業分野が多少悪くなってもうまく回るような経済ができつつある。
 こういった中、日系企業のインドへの投資はかなり増えている。そして最近、注目されるのは、大手だけでなく中小の投資も増えていることだ。また全体の3分の1の企業が南部を目指しており、従来の北の集積から南の集積へと拡大してきている。チェンナイは、南部タミル・ナードゥ州の州都で、現在は223拠点があるが、数年以内に400件を目指すというのが同州の目標だ。昨年3月には日産が進出し、20万台の自動車を生産、7割をヨーロッパ向けに輸出するという。また東芝はここでタービンを作るという。重電の進出も注目すべきで、今年1月にはグジャラート州のスーラットに三菱重工がタービン・ボイラーの工場を作った。これに次ぐ形で、東芝、日立もチェンナイに新しいタービン・ボイラー工場を作ろうとしている。現在はバンガロール、チェンナイが、注目すべき地域になっている。
 インドの最大の課題はインフラの未整備とされ、2012~17年までの5年間で80兆円のインフラ投資が必要といわれる。したがって、これをどう担保していくかが、インドのビジネスで重要なポイントだ。一方、全世界のインフラ・プロジェクトに向けたファイナンスの5分の1がインドに集中しており、インドのインフラ・ビジネスへの各国の関心も高まっている。最近は米国やロシア、イギリス、シンガポール、中国の首脳がインドへ行き、インフラ案件の商談を成立させた。日本政府としても、「インドでやってみよう」という日系企業を支援していく。
 デリー・ムンバイ間の産業大動脈に関しては、我々がスマート・コミュニティというエコタウンの構想を出している。例えば、水が足りないところでは、日本の最新鋭のリサイクル、水の技術、雨水の回収技術が活用できる。海岸沿いであれば、いわゆる海水の淡水化が可能で、こういった技術で日本は優位に立ち得る。昨年度は4ヵ所、今年4月からは2ヵ所で新たなコンソーシアムを形成し、スマート・コミュニティについて研究していく動きが進んでいる。

3. 新天地インドで新しいビジネスの展開を
 しかし、これらのプロジェクトを個別に進めていくには、相当な課題がある。インドの場合、基本的にはPPPで民間のお金を前提にビジネスが進むので、インドの実情をあまり知らない日系企業は入りにくいことがある。また日本企業が提供する製品は技術に裏打ちされている反面、値段が高い。そのような問題を解決する場として現在、協議会を立ち上げている。日本ではインフラ案件のほとんどが公共事業だが、インドでは民間企業とのタイアップになるため、そのような点をまず見える化し、インフラ案件の進行をモニタリングするプロジェクト・マネージメントが重要だ。
 日本政府では2年前から、デリー・ムンバイ間の州や中央政府の政策担当者らを日本へ招き、研修ツアーも行っている。昨年度は堺市でシャープの太陽光発電やスマート・コミュニティを見てもらったほか、北九州のエコタウンも訪れた。これをインドに持ち帰って事業に役立てていただきたいと思い、地道な努力を積み重ねている。また3年前からプロジェクト・デベロップメント・ファンド(PDF)という仕組みを作っており、これは現地で調査や実証試験を行うための資金を提供するものだ。さらに事業権の入札は従来、一発入試のように行っていたが、まず日本側に優先交渉権を与えてから他の人にチャレンジしてもらうという仕組みも作ろうとしている。さらに、作った案件を実際にファイナンスするため、インフラ・ファンドというものも考えた。これは総額90億ドルの大きな額で、インド側と日本側で45億ドルずつ折半する。またインドでは現在、外資を規制しているが、ある種の特別な措置によって金融面でも連携できないかと模索している。インフラ案件をインドで考えているなら、アーリーバードというスキームも活用していただきたい。
 そしてもう1つ、日系企業の3分の1がインド南部へ出ており、そこでもインフラを整備しなければいけない。今年1月22日にはタミルナード州と経済産業省が初めて覚書を結び、これに基づいてインフラの整備や日系の中小企業の進出をサポートし、不足している工業団地の建設も進めようとしている。
 日系企業の最大の課題は、製品が高いことだといわれる。しかし、ライフサイクルコストで見れば、日本の物はあまり高くないのではないかという問題提起をしている。安い物を何度も買い換えるなら、10年持つ日本の物が実は安いのではないかということで、長期コストを削減していくのが1つの日系企業の売りではないかと痛切に感じる。このため昨年ごろから我々は、環境、省エネの価値をお金に変えられるような工夫にも取り組んでいる。
 インドでは25歳以下が50%であるのに対し、日本は65歳以上が23%の超高齢化社会だ。その上に、家電メーカーが7、8社いる状況で、市場の飽和状態が続いている。ぜひ新天地インドを目指し、新しいビジネスを展開していただきたい。インドのような新興市場では、先に出た人が一番強いといわれる。2012年は日印の友好条約締結60周年で、この時代がおそらくターニング・ポイントになるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部