平成23年度 国際情勢講演会 「新政権誕生後のミャンマー情勢」 日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産・食品企画課課長代理/前ジェトロヤンゴン事務所長 小島 英太郎【2011/06/28】

講演日時:2011年6月28日

平成23年度 国際情勢講演会
「新政権誕生後のミャンマー情勢」


日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産・食品企画課課長代理/前ジェトロヤンゴン事務所長
小島 英太郎

小島 英太郎1. 総選挙と大統領制への移行
 まず、ミャンマーは基本的に変化したという点を、念頭に置いていただきたい。報道では「軍政の延長の政権ができただけ」というトーンが否めないが、既に軍政ではなくなっているという事実は事実としてとらえておく必要がある。多くの批判はあるものの、一応の民主化手続きを踏んだ新政権が誕生し、軍政の延長と見るだけでは状況を見誤る。
 ミャンマーは7地域7州で構成されており、7地域は元々、軍が直轄統治してきた場所で、7州は少数民族と軍が共同で統括してきたようなところだ。少数民族をいかにまとめていくかは、ミャンマーにとって非常に重要なテーマである。3月までは、一般的にタンシュエ議長をトップとする軍政とアウンサンスーチー氏を初めとする民主化勢力の対立軸だけで、ミャンマー像が描かれることが多かったが、それほど単純・一面的な構図ではなく、根深い関係を持つ少数民族を含めてミャンマー情勢を見る必要がある。過去20年間、民主化勢力、少数民族との和解を模索する様々な動きがあり、同時に「民主化ロードマップ」も進められてきた。 2003年に始まった7段階の民主化ロードマップは紆余曲折があったものの、総選挙(第5段階)が昨年11月に行われ、1月末に連邦議会が招集(第6段階)されたあと、連邦議会で大統領を選出、大臣も任命して新政権が誕生した。3月30日には、これまで政権を担っていた国家平和発展評議会(SPDC)が解体され、新たな国づくりが始まった(第7段階)。
 今回の民政移管によって「ミャンマーが民主化したかどうか」という問いは、非常に難しく、立場によって議論が分かれるところだ。しかし、民政移管を行うためのステップ・手続きをある程度踏んだことは事実として残った。2015年には2度目の総選挙が予定されており、インドネシアと同様、徐々に変わっていくだろうという気がするが、中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、ロシアなどは、一連の民政移管に対してすでに賛辞を送っている。ASEANは1月に、「経済制裁をやめても良いのではないか」という発言もしていた。一方、アメリカ、欧州連合(EU)、カナダ、オーストラリアなどはまだ経済制裁を続けているが、EUは一部緩和する動きをしており、さらにもう少し関与を深めようという動きも見せている。
 政府は軍事政権から大統領制になり、トップはテインセイン大統領で軍政時代にナンバー4だった人物だ。一方、新政権では民間からも大臣が出ており、特にヤンゴンの日本人社会やミャンマーの社会で期待して受け止められたのは、ミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)の会頭をしていたウィンミイン氏が商業大臣になったことだ。また新しい連邦議会では軍がバックアップして作った連邦団結発展党が8割程度を占めているものの、他にもスーチー氏が率いる国民民主連盟から分派した国民民主勢力や少数民族政党など21政党が議席を取っていることは注目してもよい。さらに新しい変化という意味で私も非常に期待したのは、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に勤めていたウ・ミン氏が大統領顧問になったことだ。
 先にも述べたとおり、アメリカ、EUなども関与を強める動きを見せている。3月30日に新政権が誕生してまもない4月12日、EUは経済制裁の一部緩和を発表し、その後も高官が訪問している。また、米国もユン国務次官補、共和党のマケイン上院議員がミャンマーを訪問している。ただ、やはりスーチー氏の立場は非常に重要で、アメリカ、EUは彼女の意向を汲んで経済制裁を続けざるを得ないといったところもあり、彼女の今後の動向は、経済制裁の緩和や解除に影響を与えると思われる。

2. 経済の状況、今後のビジネス・チャンス
 政府は2009年度のGDP(国内総生産)成長率を10.4%としているが、アジア開発銀行(ADB)は4.4%としている。また、1人当たりGDPは、まだ700ドル程度(IMF推計)だが、今後は拡大傾向にあるのは間違いないだろう。インフレについては多少進んでいるが、以前ほどではなく、問題になっているのはむしろチャット高で、輸出産業に大きな影響を与えている。
 産業では、6割5分を食品加工産業が占めている。ミャンマーにはUMFCCIと関係のある産業団体がかなりあり、もしもミャンマーと取引する場合には、これらの団体とお付き合いするのが良いだろう。市場としては、何と言っても約6000万人の人口があり、これは非常に魅力的である。ミャンマーといえば低所得国というイメージがあるが、高給層、中間層も少しではあるが出てきている。ミャンマーへの観光客については、過去に比べると戻ってきている。日本からはまだ大きく改善した訳ではないが増加傾向にあり、韓国からは昨年12月時点で既に前年を上回っている。ただカンボジアへの観光客などと比べると1、2桁少なく、ミャンマーには多くの観光資源があることを考えると、まだ十分理解されていないと思う。
開催風景 ミャンマーへは2010年度に160億ドルの外国投資が入った。これは7月ごろまでに認可された数字で、中国、香港、韓国といった国々による投資案件だ。つまり総選挙前の段階でこれだけ多額の投資をしようと思う国があり、ビジネス・チャンスを感じていたということだ。また昨年以降は、近隣諸国からも多くのミッションが訪れるようになっている。貿易を見ると、輸出は天然ガスのほか豆類など一次産品がほぼ全体を占めており、例外的なものとしては縫製品が伸びてきている。輸入ではトラックや建設機械、天然ガス採掘用の機械などが入ってきている。ちなみに日本は投資では12位で、駐在中は「なぜ日本は来てくれないのだ」とミャンマーの人たちからよく言われていた。
 天然ガス開発への参入を見ると、フランスのトタルやマレーシアのペトロナスのほか、韓国、タイ、中国、インド、ロシア、オーストラリアといった国々が入っている。また、最近よく話題になるのはミャンマー南部のダウェイという場所で、タイのイタルタイが開発を始めている。5~10年先には山手線内側の3分の1ほどの大きさがある広大な工業団地が誕生し、バンコクへ道路や電車でつながる見込みだ。ミャンマーにとっても重要なロケーションだが、タイの産業から見てもインド向け、あるいはヨーロッパ向けの出口として注目される場所になるだろう。またミャンマーでは中国の影響力が非常に高まっているおり、街中には中国人が増えているようだ。直接投資額はかなり高く、中国との取引は増えている。また、韓国もかなりミャンマーとの取引を増やしている。それに対し、日本企業の動きはまだ緩やかだ。日本とのビジネスでは、衣類、履物のような労働集約型産品の日本向け製造・輸出が伸びてきており、また、日本からミャンマーへの輸出では建設機械が多い。
 今年1月末、新政権が誕生する前に、ミャンマーは突然、経済特区法が制定した。表面的に見るとかなり優遇された制度や法律ができているが、注意しなくてはならないのは、まだ経済特区法が適用され入居できる場所が存在していないことだ。これがもしも軌道に乗れば、投資しやすい環境になると思う。新しい国づくりは始まったばかりで、制度変更もまだ行っている段階なので、現地へ行く場合には現状をよく確認していただく必要がある。
 ミャンマーに投資する場合の政治リスクについては、欧米の経済制裁がまだ行われているので気を付ける必要はあるが、日本企業もそろそろ動く、動ける時期に来ているのではないか。また、欧米もミャンマーへの関与を強める動きを見せているので、日本政府も今一歩関係を深め、日本企業がより動きやすい環境を作ってもよいのではないかと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部