平成23年度 国際情勢講演会 「日ロ経済関係とロシアの対日経済政策の展望」 ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所副所長 高橋 浩【2011/09/15】

講演日時:2011年9月15日

平成23年度 国際情勢講演会
「日ロ経済関係とロシアの対日経済政策の展望」


ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所副所長
高橋 浩

1. 日露間の貿易増大
高橋 浩 日本の世界に対する貿易、投資において、ロシアはかなりマイナーな存在だ。2010年実績では、輸出は20位、輸入は13位で、シェアは1~2%程度だった。しかし近年は、ものによってかなり存在感を増している。日本からの自動車輸出台数を見ると、ロシアは昨年、全体の3位だった。また最近、特に注目すべき点は、ロシアからのエネルギー輸入が非常に増えていることだ。日本の原輸入国では、ロシアは6位で、石炭も伝統的にかなりのシェアを占めている。
 2005年にはトヨタ自動車が、ロシアのサンクトペテルブルクに工場を建設すると発表した。この2005年は日本とロシアの経済関係において、ある意味で転機になった。世界のトヨタがロシアへの進出を決めたことは、ロシアが投資しても大丈夫な国になったことを意味し、これ以降、日本企業、特に大手企業がロシアに工場建設をするようになった。中国などと比べれば、まだ圧倒的に少ないが、工場建設の流れはかなり定着してきたと思う。1991年にソ連からロシアへと体制が変わったが、我々は90年代の大きな経済混乱をよく知っているので、当時を振り返ると、日本企業がロシアに工場建設するようになったのは相当な驚きだ。2005年以降には、日本のメガバンク3行(三井住友、三菱東京UFJ、みずほ)もロシアに進出しており、ある程度、普通の経済関係の素地ができてきたと思う。
 2000年代以降には、日本とロシアの貿易関係も非常に増えてきた。ピークは2008年で、そのまま増えれば往復300億ドルを超えるといわれたが、リーマン・ショックの影響から秋以降には大きく減少し、2009年には半分以下になった。しかし、その後まもなく回復している。日露の貿易が増大した原因は何かというと、簡単に言えば、ロシアの内需、消費が非常に増えていることだ。賃金の伸びなどが非常に高く、名目では年によって30%、実質でも10%ぐらいの成長を、2000年代には続けている。
 輸出で自動車が増えているのは良いことだが、少し自動車に偏り過ぎており、全体に占める自動車の割合は中古車を含めて2010年は62%になっている。2008年ごろには、75%近くになったこともあり、日本からは食材や化粧品なども輸出されているのだが、自動車に比べると圧倒的に金額が少ないため、輸出の多様化は目につきにくい。
 一方、トヨタのロシア進出以降、大企業がロシアに注目し始めたほか、様々な中小企業もビジネス・チャンスを見つけ、ニッチな産業で参入している。大枠で見れば自動車に偏っているが、品目自体は多様化している。
 一方、ロシアからの輸入は近年大きく変化しており、原油と液化天然ガス(LNG)が大変な勢いで増えている。従来は、輸入では水産物、木材、非鉄金属が多かった。また石炭は、伝統的にそれなりのシェアが維持しており、石油、ガス、石炭というエネルギー資源の輸入が増えていることになる。「日本はロシアにエネルギー資源で依存しており、危険だ」と指摘する人もいるが、私自身はエネルギー資源の多様化という観点から、この程度は問題ないと思っている。

2. ロシアの対日経済政策の展望
 ロシア政府は現在、(1)省エネ・エネルギー効率、(2)原子力、(3)医療、(4)宇宙・通信、(5)情報技術という5つを経済政策の重点分野として挙げている。では、その中で日本には何を期待しているのかというと、ロシアのナビウリナ大臣の発言によれば、(1)の省エネ・エネルギー効率と(2)の原子力だ。原子力については、日露原子力協定が批准に向けて今国会に提出されている。日露間では原子力関係の協力を強化する予定があったが、日本で震災や福島第一原子力発電所の事故が起きたため、今後、具体的にどう進むのかについては、若干問題があると思う。一方、省エネ・エネルギー効率は、日本が最も得意としている分野なので、有望である。
会場 では、日本とロシアのビジネスはどのように流れているのか。ビジネスは最終的に企業同士が行うものであり、またロシアのビジネスでは少なくとも、連邦政府はあまり重要でないと思う。例えば、自動車の場合、連邦政府もかなり尽力するが、重要な役割を果たすのは地方政府だろう。ロシアでは、ビジネス・チャンスがあって工場を建てようとしても、手続きに大変長い時間と莫大な書類が必要になり、それらを手際よく行うためにも州行政府の協力が必要だ。土地の取得などの面でも、州行政府や共和国行政府の力が必要になる。ただ、83ほどの地方自治体のようなものがあり、これらすべてが頼りになるという訳ではない。知事や大統領等のリーダーの手腕にもより、またスタッフのスピード感や、やる気というものもある。ロシアは一枚岩ではなく、地方によって相当異なることを認識していただきたい。またロシアも資本主義国家で、ビジネスはお金がもうからなければ仕方ない。ただ、全体的に親日で、これは日本企業にとってメリットだと思う。
 日本企業とロシア企業は、互いに必要としている点はあるが、その一方で誤解も少なくない。ロシア企業ではとにかくトップが決断したら物事が速く進むが、日本企業はなかなかこれについていけない。ロシア政府や一般企業が日本企業に期待しても、なかなか先に進まないため、そのままになってしまうことが多い。
 また日本企業が作るものは高品質だが、実際にロシアで日本企業が製品を作る場合、高品質なものができないことも多い。要するに、お互いのレベルが合わず、日本側は高品質な製品への過度な思い入れがあるのに、ロシア側がそれについていけず、認識のギャップが大きい。

3. 今後のイベントとビジネス・チャンス
 ロシア経済はそれなりに成長を遂げており、昨年の成長率は約4%だった。しかし、ロシアでは機械設備の老朽化が進んでおり、設備更新、インフラ整備の遅れが目立つ。こういった分野は日本企業にとってビジネス・チャンスでもあり、工作機械などをかなり輸出しているところもある。ただロシアの企業すべてが、日本の工作機械メーカーの非常に高品質な製品を必要としている訳ではない。
建設事業でも、日本企業の参入がどのようなところで可能かについて調査する必要がある。一般的に建設関係はなかなか参入が難しいが、住宅、オフィスは根本的に足りておらず、品質も非常に悪い。したがって、この分野でもビジネス・チャンスは大きいといえる。ロシアでは来年以降、大きなイベントが続く。ウラジオストクでは来年、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議があり、橋やホテルなどの建設、道路や空港の改修が進んでいる。また2014年にはソチの冬季オリンピック、2018年にはサッカーワールドカップも開催される。そして2013年には、タタルスタン共和国でユニバーシアード大会も予定されている。さらに極東のアムール州では、ロケットの発射基地も建設中で、2万~3万人程度の町を作る計画も進んでいる。
 建設部門での参入には難しい点もある。しかし、他の国でもそうだろうが、このようなイベントが続くときには経済が上向きになり、経済界も盛り上がってくる。こういったものを意識しながら、ロシアでビジネスをやっていくことが重要である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部