平成23年度 国際情勢講演会 「最近の内外エネルギー情勢と日本の課題」 (財)日本エネルギー経済研究所 顧問 十市 勉【2011/10/06】

講演日時:2011年10月6日

平成23年度 国際情勢講演会
「最近の内外エネルギー情勢と日本の課題」


(財)日本エネルギー経済研究所 顧問
十市 勉

十市 勉最近のエネルギー情勢
 最初に、日本を取り巻く国際的なエネルギー情勢をお話して、それを踏まえて大震災を契機に、日本が直面しているエネルギー、特に電力問題にどう対応すべきか述べたいと思います。まず、私が注目している4点を挙げたい。
第1に今年初めに北アフリカのチュニジアで始まった「アラブの春」といわれる民主化運動が、他の中東諸国にも波及し、現在も進行中で、今後の石油、天然ガスの供給不安につながっている。
 第2に天然ガスをめぐる問題で、近年、シェールガスの生産が特に米国で急増し、「シェールガス革命」といわれる大きな変化が起きている。天然ガスの役割は、福島第一原子力発電所の事故後、日本国内だけでなく、世界的にもますます高まっている。
 第3に原子力の問題で、福島の事故が起きる前は、地球温暖化対策や人口増加に伴うエネルギー不足から、その開発が期待されていた。しかし、事故を受けてドイツは早々に脱原子力へ軌道修正し、また再生可能エネルギーの役割が非常に高まってきている。
 第4が、地球温暖化の問題である。温暖化対策に関しては、京都議定書のようなトップダウン的な方式で温暖化ガスの排出削減を進めることは現実的でないことが、はっきりしてきた。また京都議定書を作成した時点とは、世界の構造が大きく変化し、中国やインドなどBRICs諸国の経済や政治力が際立って大きくなっている。
 最初にWTIという原油価格に触れたい。アラブの民主化運動や3.11を受け、一時は110ドルになったが、特にヨーロッパの景気や金融への不安が広がり、最近は下がってきている。直近では80ドル台だが、ブレント原油は100ドルを超えている。通常はブレント原油の方がWTIより安いのだが、昨年来逆転しており、価格差は20ドル以上という異常な状態だ。また日本では現在、原子力の再稼働ができないため、ガスの輸入が増加しており、天然ガス価格は非常に高くなっている。二酸化炭素(CO2)をあまり排出しない天然ガスは地球温暖化対策でも注目され、世界的に今後ますます利用が拡大するとみられる。
 再生可能エネルギーについては、日本を含め、世界的に関心が高まっているが、世界の一次エネルギーに占める比率はまだ3%程度で、水力発電とあわせても6%程度にとどまっている。このため、今すぐ原子力発電に代わるという規模ではない。今後増えていくのは確実だが、化石エネルギーへの依存は依然として高い。そのような中、特に中国のエネルギー需要は急激に拡大しており、その世界的なインパクトは極めて大きいといえる。

大震災後のエネルギー政策の課題
 東日本大震災の発生前、原子力発電所は世界30ヵ国で436基あり、計約4億kWだった。その後イランで原子力発電所が稼働したことで、現在は31ヵ国になっている。基数では米国が最も多く、次いでフランスの58基、日本の54基で、中国は現在、猛烈な勢いで開発を進めている。
 福島第一原子力発電所で最悪の事故が起きたことで、日本国内では「脱原子力依存」の世論が高まっている。原子力についてはこれまで、「絶対に事故は起きない」という前提で来たため、事故発生によって原子力を人類が制御できない技術だと考える人が増えたのも、ある意味、当然だと思う。福島の事故を機に、ドイツは脱原子力に舵を切り、イタリアも国民投票で新設しないことを決めた。一方、福島の事故後も原子力の利用を進めるとしている国は、米国、イギリス、フランス、ロシア、中国という核兵器保有国だ。これらの国は放射能に対するそれなりの免疫を持っており、原子力発電には「リスクもある」という前提で利用を進めてきた。このため、重大事故は絶対に起きないという前提で来た日本とは、リスク管理や危機管理の面での対応も異なる。
 一方、日本は非核兵器保有国で唯一、核燃料サイクル技術を認められており、国際的な厳しい査察の下、平和利用を進めてきた。私も核兵器保有には反対だが、日本の周囲では中国、ロシア、朝鮮半島で核兵器開発が行われている。日本は日米同盟で核の傘の下に入っているが、国内で技術を持っていることが、1つの間接的な核抑止力になる。このため、原子力政策を考える際は、安全保障問題も考慮する必要がある。そして、そこにもう1つ非常に懸念される点がある。それは、アメリカは国内ではあまり原子力の設備、原子炉を造る技術はなく、日本の東芝がウェスティングを買収し、日本の技術がなくなれば、結局原子力発電の技術を持っている国はフランス、中国、ロシアであり、アメリカにとってはアウトオブコントロールになるという恐れもあり、今後の核拡散問題への対応等にも影響する視点も考慮する必要がある。
開催風景 ここで、日本の問題へと入っていきたい。大震災を経て日本のエネルギー政策では、以下の3つが課題になっている。第1に、従来の大規模集中型システムの見直しをどのように進めるかだ。この点については、自然エネルギーも含め、分散型のエネルギーをどう増やしていくかということになる。第2に、最も深刻な問題は、原子力の「絶対安全神話」が崩れた中で、原子力に対する信頼回復をどうはかっていくかだ。第3に、全国的な送電線のネットワーク強化の問題である。日本では富士川を挟んで周波数が50Hzと60Hzに分かれ、周波数変換の能力が100万kW程度しかなく、東日本では計画停電となったが、このような現状をどう変えていくのか。情報通信技術が一段と重要性を高める21世紀においては、エネルギーの中の電力をいかに安定的に、しかも安価に供給するかというのは、国家の存立を左右する安全保障問題でもある。その意味で、送電ネットワークというのは、最も重要な社会的なインフラといえる。
 国内ではまた、定期検査を終えた原子力発電所の再稼働が難しくなっている。野田佳彦首相は、「安全を確認できたものは再稼働させる」という基本的な原則を示しているが、安全性の確認をどのような基準で判断するかという問題がある。もしも原子力発電所がすべて停止した場合、今年の冬に関しては、過去の冬場の最大電力を考えると日本全体で厳しい需給状況になる見込みだ。今回、特に問題が大きいのは西日本で、関西電力は原子力依存が半分近いため、大変だ。そして来年の夏になればさらに厳しくなる見込みで、このため安全を確保した原子力発電所の再稼動について真剣に考えなければいけない。電力についてはまた、停電が起きないことも重要だが、問題はそれだけではない。石油や天然ガス火力の利用拡大で燃料の輸入代金が大幅に上昇し、今後の料金値上げの要因にもなり、これは国民生活や産業活動にも大きな影響を及ぼす。

求められる多様性
 エネルギー問題の難しいところは、「これをやれば全部解決する」という1つの答えがないことだ。そういう点では、多様性を持つことが重要になる。場合によっては省エネルギーの規制の必要で、行き過ぎた贅沢については規制を強化した方が良いかもしれない。またLED照明や燃料電池などが期待されているほか、スマートシティ・コミュニティなどの実証事業への支援策の強化も必要である。さらに、家電製品やエコカーなどに関しては、エコポイント的なものを復活させる。これらについては、第三次補正予算でもかなり手厚くするということで動いている。
 再生可能エネルギーについては、固定価格買取制度によって推進していく。ただ、買取価格の設定が最大の問題で、高ければ高いほど普及は進むが、消費者や企業の電気料金に転嫁されるため、適正な価格にする必要がある。また私自身は、再生可能エネルギーについて、基本的に地産地消にすべきだと思っている。メガソーラーや風力、地熱発電など大規模事業には、投資ファンドなどの関与も必要だが、重要なことは住民や自治体が何らかの形で事業に参加し、地域住民がステイクホルダーになることだ。
 また天然ガスの活用に関しては、パイプラインの整備も必要だ。さらに技術革新に向けた研究開発の強化も重要になる。原子力については「もうやめるべきだ」との議論もかなりあるが、一度人類が生み出した技術を完全に封印することは難しいのではないか。したがって、技術革新によって、より安全な原子力、安全対策に力を入れ、そこで再生可能エネルギーやスマートグリッドのような新しい技術と競争させる。最終的にどの技術が社会に受け入れられて普及していくかは、その結果によって決まるものであり、様々な技術開発に官民を挙げて取組むことが必要である。
 現在、新しいエネルギー政策の策定議論が始まっているが、私は今後とも一定規模の原子力発電を維持していくことが必要だと考えている。そのためにも、日本は原子力の分野で、技術の継承やそのための人材育成をしっかりと進めていくことが求められる。将来、もし原子力発電をやめることになったとしても、現在ある原子力発電の安定的な稼働や廃止には人材が必要で、使用済み燃料の問題もある。いずれにしても、若い有能な人材を確保するためにも、夢のある原子力の将来ビジョンが必要である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部