平成23年度 国際情勢講演会 「最近の中国の経済情勢とビジネス環境 ~中国市場販路開拓と留意点~ 」 伊藤忠商事(株) 中国総合研究所 代表 古屋 明【2011/10/18】

講演日時:2011年10月18日

平成23年度 国際情勢講演会
「最近の中国の経済情勢とビジネス環境
~中国市場販路開拓と留意点~ 」


伊藤忠商事(株)中国総合研究所 代表
古屋 明

主催:一般財団法人貿易研修センター、宮崎県、(社)宮崎県物産貿易振興センター、九州経済産業局
後援:九州経済国際化推進機構

古屋 明中国市場の捉え方
 まず初めに申し上げたいのは、中国マーケットは「日本の内需」であるという点だ。少子高齢化で日本の内需が縮小していく中、成長著しい中国を自社の成長戦略の中に取り込んでいく、日本の成長の後押しを中国にやってもらうという考え方が重要だ。
 2つ目は、日本と中国は距離が近く、他の国と比べて貿易を行うのに大変有利であるという点だ。距離の近さは輸送費が安く、往来に便利。経済力が大きく距離の近い国同士というのは互いに引き合う力が強い。「貿易における引力の法則」が働く。世界第2位の中国と第3位の日本が隣り合わせに存在することは有史以来なかったことであり、他の国では考えられない強みだ。こうした地政学的優位性を利用して貿易をどんどん行うべきである。加えて、人民元は今後もっと高くなる。2005年7月21日に2.0%切り上がってから現在まで約30%上がったが、米国はまだ実勢より2割ほど安いと主張し、人民元安に誘導しているのは輸出業者への実質的な補助金であると、これまでに何度も言ってきた。5年間で貿易を2倍に増やしたい米国にとって中国の人民元安は容認できない事態だ。こういう状況ですから、今後、人民元は高くなっていく。日本の対中輸出に有利な状況が生まれることは間違いありません。
 3点目は中国のマーケットを過大評価してはいけないし、過小評価もだめという点だ。日本の経済界、産業界には中国のマーケットを過大に評価する傾向が強い。しかし中国マーケットは深いところで複雑な動きをしている。市場以外から様々な制約を受けることがある。新興国市場としてまだ未成熟、未整備な部分がたくさんある。日本企業は実態に即して等身大の中国を見ていく必要がある。インフラはかなり整ってきたが、中国市場にはまだ「信用」が希薄だ。市場経済は「信用」が欠かせない。「信用」がないと市場経済は回らない。代金回収がままならない、知財権侵害や技術の盗難事件が後を絶たない。こうした「光と影」が市場全体を覆っているので、やはり注意深く見ていくことが重要だ。

中国経済・政治とビジネス環境
 現在、中国の不動産価格は「天価」と呼ばれ、庶民には高嶺の花になっている。一部地域では下落しているが、大都市の中心部では高止まりの状態だ。北京五輪、リーマン・ショック、上海万博の3つの出来事でマネーが市場に溢れ、これが影響して不動産バブルとインフレが進んできた。
 インフレは、今年6~9月の4ヵ月間連続で6%台が続き、社会不安、政治不安への影響が懸念されている。昨年10月ごろからインフレは徐々に進行し、政府は利上げや預金準備率を引き上げることにより、企業に貸し出すお金の量を抑制してきた。その結果、中国市場ではマネーサプライが減少し、しかも金利が高いため資金調達が難しくなっている(中国語で「銭荒」という)。また人手不足で人件費が高くなった(中国語で「人荒」)。従来、沿岸部で働いている人たちの多くは内陸部からの出稼ぎ(農民工)だったが、近年、政府が内陸部への投資を進めたことにより、内陸部での就業、雇用の機会が容易になって沿岸部が大変な人手不足に陥った。また、企業にとって大変なことだが、急激な経済成長で電力が極度に不足(中国語で「電荒」という)している。これが恒常的な問題になっている。
 この「銭荒、人荒、電荒」の3つが、外資企業ならびに中国企業を苦しめている。これが過渡的な現象かどうかの判断は難しいが、私は中国が現在、大きな転換点に直面していると考えている。
 今後も長くこうした状態が続くだろう。上海近郊の温州で起きた高速鉄道衝突事故は象徴的で、事故は起こるべくして起きた。急ぎすぎの経済への警鐘であろうと考える。以下にもいくつかの要因があるが、中国の高成長は万博で終わったと見るのが妥当ではないだろうか。
 「2015年問題」というのがある。これは生産年齢人口(15~64歳)が2015年にピークを迎え、2016年以降、大きく減っていくという問題だ。この人口変動の波は中国の経済にとって大きな影響を与えるだろう。経済の減速は一過性のものという見方もあるが、そうではなく、おそらく2020年代に到達する前に、中国の成長率は5%前後に落ち込み、薔薇色の高度成長を続けることが無理になる可能性が高い。資源・エネルギーの問題や悪化する環境汚染の問題も成長を制約する要因だ。さらに政治では、チュニジアから始まった中東の民主化革命が、中国にも押し寄せる可能性も否定できない。また、インドやベトナム、インドネシアなどアジアの人口大国が中国の後を追い掛けている。これまで海外投資の大部分を中国が吸引してきたが、今後はそうもいかなくなる。
 2012年には中国の最高指導部が交代する。政治の混乱も頭に入れておくべきだろう。
 しかしながら中国ほど有望なマーケットはないことも事実。中国動向をウォッチしつつ、成長分野、有力分野を見極めながらビジネスを展開していくことが重要となってくる。

開催風景中国ビジネスの留意事項
 中国で契約交渉を行う場合、想定内のもの、合意済みのものはすべて契約書に書き出し、曖昧な表現は除いて、情実は入れ込まずに「明快な契約書」を作ることが重要だ。
 日本企業は、従業員対策に苦労しているところが多く、日本人の総経理の仕事の約8割は人事労務管理だと思う。中国の従業員が能力を発揮しやすい、働きやすい環境を作ることが重要だが、日本企業では総経理が日本人で、中国人は総経理になれない。あるいは現地の日本人責任者には責任のみが重く与えられ、十分な権限が与えられていないといった問題もある。あくまでも「権限と責任」は同等であるべきだ。
 中国でビジネスを行う際には、局地戦と限定戦が重要だ。中国大陸は広く、国土は日本の26倍、人口は10倍で、漢族の他55の少数民族が暮らす。このような国でビジネスをやることは狭い日本列島で商売をするのとは違って様々な問題が生じる。中国各地に多く出店したがる経営者がいるが、それは危険だ。
中国では自社製品の知名度や認知度を上げ、ブランド化することも重要だ。要するに、品質が良く信頼度の高い商品を作りあげても、知名度がなければ売れない。どんなに品質が良くても高くては売れない。品質、価格、ブランドが三位一体となってはじめて商売が可能になる。
 中国は物事が人間関係的に処理される「人治社会」。関係の深さが法律よりも強い。このため、中国の人たちとはできるだけ仲良くならないと商売が前に進まない。明るく社交的な人材のほうが中国で成功する確率が高い。また、言葉は非常に重要なコミュニケーションの手段で、中国語は「中国社会のパスポート」と言えるだろう。
 中国では2008年に労働契約法が公布され、従業員との有期限の契約は2回までは許されるが、3回目の契約では期限を設けてはいけないということになった。これは、一種の終身雇用。従って、できるだけ2回までの契約で、その人が有用な人材かどうかを見極める必要がある。
 中国には、様々なリスクが存在する。政治のリスクを含め、リスク・マネージメントをしっかりやっていかなければならない。また、ビジネスではコンプライアンス(法令順守)も重要だ。最近、法律違反を犯す日系企業が多く摘発の対象になっている。特に中国の税法に基づいて個人所得税の納入を怠る人が多い。 183日以上滞在する外国人には個人所得税納入の義務がある。これをかわそうとして税務局に摘発されたケースが多々ある。また中国には細かな業界法があるが、その存在さえも知らない企業が多い。自分が属する業界の法律にはしっかり目を通しておくことが重要だ。
 中国は今年から来年にかけて、経済が減速してやがて安定成長へと徐々に移行し、市場も成熟していくだろう。存在する様々な問題も徐々に解消されていくと思う。しかしながら、ビジネスを行う際、リスクサイドからものを見ることが肝要で、リスクの所在をはっきり認識し、事前の対策を怠らないことが重要である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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 平成23年度 JKA補助事業 IIST国際情勢講演会 報告書 (PDF:3MB)


担当:総務・企画調査広報部