平成23年度 第1回-2 国際情勢研究会 報告2「中国がけん引するASEAN経済」 拓殖大学 海外事情研究所 教授 吉野 文雄【2011/04/21】

日時:2011年4月21日、場所:(財)貿易研修センター

平成23年度 第1回-2 国際情勢研究会
報告2「中国がけん引するASEAN経済」


拓殖大学 海外事情研究所 教授
吉野 文雄

1.東南アジア諸国への中国の進出
吉野 文雄     世界同時不況、世界金融危機といわれる事態が起き、2008年9月15日のリーマン・ショックで青天の霹靂のような事態になった。そして東南アジアの国々も輸出が減って打撃を受け、外資は引き上げると予測された。しかし、実際には様相が異なり、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々では2010年初頭以降、マレーシアをはじめとして政策金利を引き上げに転じた。実質的な経済危機といわれた期間は1年と少しだったのである。現在は既にASEANのすべての国で、景気過熱を抑えようとやっきになっており、金融危機などどこ吹く風、という状況だ。
 回復が早かったことの原因の1つは、財政出動が効いたことだ。アジア通貨危機のときとは、全く様相が違っていた。そして景気回復の最大の対外要因は、中国経済が全くと言って良いほど世界金融危機の影響を受けず、安定して10%弱の成長率を維持してくれたことだ。しかし、逆に言えば中国頼みということで、ASEAN諸国は、中国の下請け経済、下請け企業に成り下がったという見方もできるかと思う。さらにもう1つ要因を挙げると、世界経済の構造変化が起き、G7の時代からG20の時代になった。日本をはじめ、先進国の地位が下がり、先進国は金融危機で大変苦しんでいる。元気が良いのはBRICs、東南アジアではインドネシアだ。原油価格が上がったお陰でトウモロコシなど一次産品の価格も上がり、資源を持っている東南アジア諸国の輸出が伸びて、経済を引っ張ることになった。
 中国ASEANの経済関係については、1998年に対米輸出で中国がASEANを上回った辺りが、1つの転換点だったのではないか。そして中国は東南アジアに対し、非常に強気で出られるようになった。その結果、2000年11月、朱鎔基総理がASEAN+3またはASEAN+1の会合で、自由貿易協定(FTA)の締結を要請した。この地域には当時、AFTA(ASEAN自由貿易地域)という東南アジアだけのFTAはあったが、中国とASEANがFTAを結ぶようなことは考えられなかった。このためASEANは当初、まともに受け入れなかったが、中国は熱心だった。 FTAと言っても正式な名前は包括的経済協力で、中国はASEANに協力する、ASEANを支えるという意志を示した。結局、ASEANもこれに応じ、ASEANと中国とのFTAが締結された。日本もこれに続いてFTAを締結したが、日本の場合は中国とは異なり、日本ASEANというFTAのほか、ASEAN7ヵ国とも個別にFTAを結んでいる。これは合理性がないように思われるが、中国の学者は「日本のやり方は良かった」と言っている。基本的には経済活動はすべてウィン・ウィンで、片方が負けたということはありえないが、中国とASEANのFTAについては、中国よりもASEANが多くを得たことがわかる。中国は損をした、負けたという訳ではないのだが、どちらが多く取ったかというとASEANの方になる。また日本とASEANの間の方が結果的に、非常に高い規律のFTAを結ぶことができた。実は中国ASEANのFTAは、国際的な基準で見るとFTAにならず、世界貿易機関(WTO)には特恵貿易取り決めとして通報している。2005年には中国ASEANの間で財貿易に関するFTAが、2007年にはサービス貿易の自由化が発効したが、その結果としても、中国側がASEAN側から得たものはあまり多くない。
 貿易構造の違いを見ると、ASEAN中国貿易では、2005年以前もある程度、部品が行き来していた。主にマレーシア、シンガポール、インドネシアから中国に向けてで、また中国からマレーシア、シンガポール、インドネシアにも電気・電子の部品や自動車部品、一般機械の部品が貿易されていた。そのほとんどは、おそらく日系企業が行っていたのであろう。安い部品は東南アジアから入れ、心臓部になるようなCPUやエンジンなどは日本から入れ、中国で組み立て、それを先進国、欧米に売るというイメージで捉えていただければ良い。
 ところが、近年のASEAN中国貿易の約半分は完成品の貿易とみられる。様々なものが売り買いされ、できあがったものが売買されている。そして、資源、一次産品および鉱物資源が、特にミャンマーやラオス、ベトナムから北上していく。具体的に何が貿易されているかというと、中国の奇瑞汽車の安い自動車が、東南アジア各地で走るようになっている。これは日本円にすると30万~50万円台の車で、オートバイにボディを付けたような感じのものだ。これは実は完成品ではなく、非常におかしな貿易なのだが、一度完成した自動車を中国の港で1回分解し、部品にしてからインドネシアへ持っていき組み立てる。インドネシアで生産したことになっているのだが、ほとんど完成品を貿易しているのと同じで、関税を下げるためにそうしている。
 また東ティモールなどでは、中国によって外務省の建物が建設されている。さらに中国はラオスで陸上競技場を建設しており、100億円ぐらいのコストがかかっているといわれる。日本もラオスで武道場を造ったが、総工費は2億円で50倍も違いがあるといわれている。日本の建物も立派だが、やはり陸上競技場と比べると、見劣りがする。
 現在、中国はメコン河に、中国国内だけで14の水力発電所を持っているが、ミャンマーとの国境にも水力発電所を造り、40年間、電力を買う契約をしている。このほかフィリピンのサンフェルナンドとマニラ、バギオとマニラを結ぶ鉄道を復旧することになっており、既に住民らが立ち退いている。ベトナム中部では中国がボーキサイト鉱山を買ったようなことになっており、市民による反対運動も起きている。このように、なりふり構わずというのが中国的なやり方だ。

2.日本は得意分野で力の発揮を
 日本はこのようにしてASEANが、中国の裏庭になっているということを納得する必要があると思う。ASEAN側から見ても、本当に日本の影が薄くなったというのが私の印象だ。また対中包囲網として環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)があると、政治の研究者は言っているが、TPPはあまり高い次元のFTAにはならない。したがって、日本が入っても、おそらく米などの貿易自由化は行わないことになると思う。
 先日、国際協力機構(JICA)の方から話を聞いたが、やはりJICAなども非常に危機感を持っており、ASEANで中国と「一騎打ちする」というような言い方をされていた。中国が南北回廊の高速道路を整備するのであれば、日本は東西回廊で行く、中国がベトナムで鉄道を造るならば、日本はインドネシア、マレーシア、ボルネオなども含めた一大インフラ・プロジェクトを行う。そういうことで、一騎打ちするということだが、これについて私は得策でないと思う。
 これまでの中国のなりふり構わぬASEANへの関与を見ていると、日本は民主主義国なので、合意形成に時間がかかり、中国の後塵を拝することになるだろう。中国の競争優位は、官民一体ということよりも官民の区別がないところにある。日本の場合、現在は大使館も日本企業の進出などを後押ししており、随分様子が変わったと聞くが、やはり中国との差は大きい。そうなると日本は例えば、医療や観光、村上春樹の小説、テレビ・ゲーム、ヤマト運輸がやっているような中国、ASEANを含めた宅配流通網の形成など得意な分野で力を発揮すべきで、インフラに力を入れるのは得策ではない。ASEANにおいてはこのように、中国との棲み分けを狙った戦略を立てて対応すればいかがか、というのが私の提言だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部