平成23年度 第4回-2 国際情勢研究会 報告2 「インド経済の現状 ― 近隣諸国との関係を含めて」 ジャワハルラール・ネルー大学 教授 プレム モトワニ(Dr.Prem Motwani)【2011/07/08】

日時:2011年7月8日

平成23年度 第4回-2 国際情勢研究会
報告2 「インド経済の現状 ― 近隣諸国との関係を含めて」


ジャワハルラール・ネルー大学 教授
プレム モトワニ(Dr.Prem Motwani)

Dr.Prem Motwani 1. 好調なインド経済
 1991年6月にインドが自由化政策を打ち出してから、20年が経過した。インドでは独立後、約45年間にわたり、ほぼ閉鎖された経済が続いてきたが、この20年間で急激に成長している。現在、インドのビジネスや経済指標は好調で、国際財政赤字、そして国際経常収支は対GDP比でマイナスだが、それ以外はほぼ好調になっている。
 インドからの輸出を見ると、この20年間で、特に中国や中東への輸出が急激に伸びた。一方、日本とインドはグローバル・パートナーシップを謳い、日本はインドに大変関心を示しているものの、日本向けの輸出はあまり増えていない。中国との貿易は急速に増え、2008年以来、中国はインドの最大の貿易相手国だ。両国政府が目標としていた金額は既に上回り、次の目標は2014年までに1000億ドルを突破させることだが、これについても予定より早く達成されるとみられている。課題はインドが輸入超過になっていることで、インドから中国への輸出品目は綿や鉄鉱石であるのに対し、輸入は資本財が多い。インドは薬品やITに力を入れて輸出を増やそうとしているが、なかなか狙いどおりに進んでいない。一方、インドに対する直接海外投資は2008年のリーマン・ショックによって減少したが、2010年から今年にかけて、再び伸びてきている。
 NIFTYという指数でインドのトップ50社を見ると、20社は地場企業だ。多国籍企業がインドに多く進出しているにもかかわらず、純粋なインド企業の方が良い成績を出している。上場企業数も過去20年で倍増して約5000社になり、その10%はIT企業が占めている。株価指数については、この20年間で1000ポイントから約19倍に増えた。

2. 自由化後の経済政策とインドの強み
 インドの経済自由化は、「第2の独立」ともいわれる。インドは自由化直後、Look East Policyを打ち出し、隣国や東南アジア諸国との経済関係改善に力を入れてきた。南アジアは政治的に非常に流動的な側面があり、また中国とインドの間には国境問題もある。そして中国はアジアにおいて脅威になってきているため、対抗意識もある。さらにインドとパキスタンの関係は、大きな問題だ。にもかかわらず、現在は貿易や経済関係が優先され、政治的な問題とは無関係に貿易が拡大している。これにはLook East Policyも、大きく関係していると思う。
 インドでは独立以来、政府が抑制的な政策をとってきたため、製造業などはあまり発達してこなかった。自由化後の経済で原動力になっているのはIT、サービス業のような新経済で、これは主に欧米向けビジネスだが、その一方で隣国、新興国、国内向けにビジネス展開し、旧経済に従事する公的、民間企業がある。
 アジア諸国との自由貿易協定は既にできているが、それ以外の動きとしてはまず、1985年にできた南アジア地域協力連合(SAARC)がある。これには政治的課題がかなり多いが、2国間では急速に貿易、経済関係が進んでいる。そして、地域7ヵ国のBIMSTECや、2000年に発足したMekong-Ganga Cooperationというインドとビルマ、カンボジア、ラオス、ベトナムの経済協力もある。さらにASEAN+6、東アジア首脳会議にも最近インドが加わっているほか、日本とアメリカはインドに、アジア太平洋経済協力(APEC)にも加わってほしい。しかし、中国への警戒心の高まりや南アジアで続く政治的な不安定のため、インドは様々な課題も抱えている。
 インドは発展途上国に対して長年援助を行なっており、これは日本の政府開発援助(ODA)とは違い、資金援助ではなく、技術研修や人材育成を行なうものだ。このため隣国ではインドに対するプラスのイメージがあり、ミャンマーやアフガニスタン、中東などでは、このような政策があるからこそ、インドの公的企業が活躍している。またインド企業による直接海外投資も伸びており、2007年には初めて、対印の直接海外投資をインドからの海外投資が上回った。インド企業は吸収合併で、海外への展開をかなり大規模に行なっている。海外投資では現在、インドが世界第21位で、ここ10年で750億ドルの投資を行ってきた。
 インド企業は1991年まで、ライセンス制の下、ほぼ独占的な環境で活動していた。このためインドの製造業にはグローバル・ブランドがなく、製品の品質も高くなかった。しかし、1980年代には部分的に民営化がなされ、スズキやホンダのような企業が海外から入ってきた。さらに1991年に本格的に自由化されると、強力な多国籍企業が入ってきて、中国、韓国企業とのコスト競争、欧米、日本との技術競争が展開されるようになった。製造業はインドの強みではないため、いわゆる新経済、サービス業に重点が置かれ、新しい企業が続々と登場した。また製造業についても、インド企業は低コスト・モデルだけではなく、かなり技術志向性が強い。外国の経営コンサルタントやベスト・プラクティスの導入、技術提携、そして日本的経営の導入なども非常に盛んだ。純粋なインド企業が自発的に日本的経営を導入しており、いわゆるQCD(クォリティー、コスト、デリバリー)の面で日本の経営ほど優れた手法はないということを、インド企業も理解している。それらを導入することで、効率アップと技術レベルを高めている。
 そしてインドの強みとしては、インド人の英語力も挙げられる。欧米企業はインドに多くの研究開発センターを立地し、優秀な人材を使って低コストの製品を開発しようとしている。また海外居住インド人(NRI)には技術者が圧倒的に多いが、かつてはアメリカン・ドリームを求めてアメリカへ行った人たちが、最近ではインディアン・ドリームを求めてインドへ戻るようになってきている。
 インド企業の海外戦略を見ると、大手企業と中堅企業に目立ったアプローチがある。まずは低コスト・ビジネス・モデルで、例えばアフガニスタンや旧ソ連諸国、アフリカ、南アジアの隣国などで、中堅企業が積極的にビジネス展開をしている。また中国企業のほとんどが公的企業であるのとは異なり、インドには民間企業が多く、公的企業であっても中国のように政治色がないため、新興国や隣国では中国企業よりもインド企業を好む傾向がみられる。そしてインドは非常に多様性がある国なので、インド企業には現地文化への適合という動きもかなりみられる。一方、大手企業の場合、主に欧米での吸収合併に基づいて、グローバル・ブランドの獲得や営業の拡大、国際競争力の確保を行なっている。中には、新興国での吸収合併もある。低コスト・モデルに関しては、インド企業や欧米企業がこれによって南アジアやアフリカで勢力を伸ばしているが、日本は優れた技術を持っているにもかかわらず、なかなかこれができない。したがって日本企業もこの部分を学ぶべきだと思う。

3.相互補完性活かし、日印関係の改善を
 インドのさらなる経済発展に向けては、やはりインフラ整備やインフレの抑制、製造業の強化が必要になるだろう。そしてさらに、自由化政策を進める必要がある。インド政府もこれらの課題を十分理解しており、来年から行なわれる第12次五ヵ年計画に関して、1兆ドルの支出を発表している。また新たな製造業政策も、近いうちに発表される。さらに来月には、いわゆるマルチブランドの小売業の開放も行なわれるなど、次第に規制緩和も進む見込みだ。  日本とインドは非常に相互補完性があり、日本は製造業、ものづくりが強みで、インドはITが強みだ。また日本には小売や経営のノウハウといったいわゆるソフトパワーがあるが、インドではそれらが弱みでもある。したがって、今後は互いにこれらの点を活かし、日印関係、経済関係を改善していくことが望まれる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。


担当:総務・企画調査広報部