平成23年度 第5回-1 国際情勢研究会 報告1「ロシア経済と日ロ経済関係の展望」ロシアNIS貿易会 ロシアNIS経済研究所 副所長 高橋 浩 【2011/09/06】

日時:2011年9月6日、場所:(財)貿易研修センター

平成23年度 第5回-1 国際情勢研究会
報告1「ロシア経済と日ロ経済関係の展望」


ロシアNIS貿易会 ロシアNIS経済研究所 副所長
高橋 浩 (たかはし ひろし)

1. 先進国的、途上国的要素の混在
高橋 浩 ロシアでは1998年にかなりの金融経済危機があり、デフォルトが起きた。しかし、2000年にはプーチンが大統領に就任し、その後は高成長が続いてきた。最近では、2008年のリーマン・ショックによって成長率が落ち、翌年にはマイナス成長となったが、昨年は再びプラスに戻っている。2003年にはBRICsの1ヵ国として、高成長を遂げる4大国の1つという扱いを受けるようになった。ロシアは他のBRICs3ヵ国とは異なり、面積は大きいが人口は少ない。しかし、これは本質的な問題ではなく、根本的に他の3ヵ国と異なる点は、人口が減少していることだ。一方、携帯電話の加入台数を100人当たりで見ると、他の3ヵ国よりも断然多い。さらに雑誌『フォーブズ』(Forbes)が毎年公表している資産を10億ドル以上持つ資産家の人数では、2011年は中国が1位だったが、それまではロシアが断然多かった。中国はさすがに人口が多いため抜かれたが、人口比で見れば現在もロシアが相当多い。このように、ロシアという国は先進国的な要素を持ち合わせており、国民総所得(GNI)もかなり高い。ところが、2009年の平均寿命を見ると、男性ではインドと同じ63歳で、一時は60歳を下回っていた。このため、ロシアには先進国的な要素と発展途上国的な要素の双方が混在しているというのが、私のロシアに対する見方の1つだ。

2. 固定資本の老朽化、歳出の増大
 ロシアの経済成長率は、2000年には10%で、その後は5~10%台が続いてきた。しかし、私自身はロシア経済が発展するには、これより高い成長が必要だと思う。成長は遂げていても、ロシア経済の自力がどの程度のものかが重要だ。これについては様々な見方があるが、1つの指標としてロシアの固定資本の老朽化がある。ロシアでは固定資本が老朽化しており、問題は、改善の傾向がみられないことである。2000年に入り、投資の伸びはそれなりに大きかったが、根本的な改善にはつながらず、常時20%程度の固定資本投資の伸びが続かなければ、このトレンドは今後もおそらく変わらないであろう。
 では直近のロシア経済がだめなのかというと、すぐにだめという訳ではない。1998年にロシア経済がデフォルトを起こしたことで、政府は財政赤字に対して非常に注意を払うようになった。経済、財政の引き締めもそうだが、2000年以降のプーチン政権では、ロシアの虎の子である石油ガス部門からの税徴収という仕組みも作り上げた。そして原油価格が上昇し、相乗効果もあって、財政では黒字が続いてきた。2009、10年はリーマン・ショックの影響もあり、赤字になったが、少なくともロシアの政府部門が短期的に破綻することはないであろう。
 1999年から2000年代を通じ、政府は財政の安定化へ非常に努力したが、民間企業や民間銀行の対外債務は経済成長と共に増大し、2011年には政府と企業、銀行は対外債務では、1990年代とは完全に立場が逆転した。政府部門はリーマン・ショックの影響をあまり受けず、民間の銀行や企業が大きな打撃を受けたため、政府が民間部門を救済した。財政の黒字基調と石油関係の安定化基金を前から準備していたことが、それを可能とした。
 政府財政は良いのだが、如何せん、述べたように経済全体では産業の老朽化等がほとんど改善されていないのが問題である。
 ロシアは資源大国で、経済、財政が石油、ガスに依存しているといわれる。2010年には歳入の46%が石油、ガス部門からのもので、確かに依存が激しい。このため財政は原油価格の影響を大きく受けるが、最近の問題はロシアの財政が赤字あるいは危機的になる原油価格の水準が高くなっており、ロシアの基準原油であるウラル原油の価格が93ドルを下回ると危機的になるとの見方がある。この水準は、数年前までは40~50ドル程度であったので、歳出規模が巨大化していることを意味する。ウラル原油は国際的なWTIよりも10ドルほど低めの数値なので、93ドルというのはかなり高く、少し不安な水準だ。石油安定化基金等もあり、すぐに問題になることはないであろうが、不安要因のひとつである。
 ロシアの歳出がなぜ増えてきたのかというと、まずは公務員数の増大や公務員給与の上昇が挙げられる。大統領も公務員削減の必要性を指摘している。さらにロシアの大企業では、常識を超える職員数のところがかなりあり、私はこれを「隠れ公務員」と呼んでいる。ロシア中央銀行には職員が7万人もいるほか、民間銀行だが政府系と言っても良いズベルバンクには24万人、VTB銀行にも4万人の職員がいる。さらに石油ガス部門を見ると、ガスプロムが30万人、ロスネフチが7万人となっている。これらは民間企業だが、政府が出資しており、削減を進めなければロシア経済の根本的な改革はなされないだろう。

3. 日本との貿易経済関係、今後のロシア経済
 ロシアは日本の貿易経済関係においてマイナーな存在だが、最近は急速に関係を深めている。ロシア側に経済発展を伴う需要増があるほか、日本側の輸入もかなり変わってきて、原油、LNGの輸入が相当増えてきている。個別に日本の貿易に占めるシェアを見ると、貿易総額、輸出・輸入に占めるロシアは大したレベルではないが、自動車の輸出台数などに占めるロシアのシェアは大きい。
 東シベリアからの原油輸入も始まった。LNGの輸入も2009年から始まり、ロシアに対する輸入構造は、日本でも欧州と同様のエネルギー中心になってきている。またロシアでは、日本企業による自動車や建機等の工場建設も進んでいる。
 このように、日本とロシアの経済関係は大きく伸びているが、かなり偏った構造で、輸出では自動車が6、7割を占めている。日本の消費財の輸出はかなり増えているが、他の物が自動車の勢いにかき消されつつある。輸入については、ここ数年で一気に原油、LNGにシフトし、今後はさらに増える可能性がある。
 また日本との関係では来年、アジア太平洋経済協力(APEC)の首脳会議がウラジオストクで開かれる。最近はロシアの世界貿易機関(WTO)加盟も話題になっているが、これについてはロシア国内で消極的な意見がある。しかし、加盟の段取りが国内で順調に進めば、このAPEC首脳会議時に正式加盟となるだろう。
 ロシアの財政は、リーマン・ショックの余波により、この2年ほど赤字になっているが、基本的には黒字基調にある。黒字の理由の1つとしては、国家によるインフラ投資があまりなされていないことが挙げられる。このため道路整備などが遅れているが、APEC首脳会議や冬季オリンピック、ワールドカップなどは国家プロジェクトで、政府が大々的な投資を行わざるを得ない。そういう意味では、これらを梃子に道路や鉄道などが整備される見通しだ。2013年にユニバーシアードが開かれ、あるいはロシアの極東で現在、ロケット発射基地の建設が進んでいる。ここには小さな町のようなものを作っており、2015年ごろに有人宇宙飛行のロケットを打ち上げる話もある。こういった大規模プロジェクトが続くのは、ロシア経済全体にとっても良いことだろう。これらのプロジェクトだけで、大規模な発展、成長があるかというと、老朽化や投資の問題もあって短期的には難しいと思う。
 今後数年のロシア経済を予測するのは難しいが、政府の方から崩壊することはほとんど考えられず、民間でも小さな危機はあるかもしれないが、1998年のデフォルトのような危機はあまり考えられない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部