平成23年度 第5回-2 国際情勢研究会 報告2「ユーロ圏周辺国の債務問題に揺れる欧州」ニッセイ基礎研究所 主任研究員 伊藤 さゆり 【2011/09/06】

日時:2011年9月6日、場所:(財)貿易研修センター

平成23年度 第5回-2 国際情勢研究会
報告2「ユーロ圏周辺国の債務問題に揺れる欧州」


ニッセイ基礎研究所 主任研究員
伊藤 さゆり (いとう さゆり)

1. ギリシャ・ショックと問題解決への試み
伊藤 さゆり ヨーロッパの危機が始まったのは、2007年夏ごろだった。当時はパリバという商業銀行の傘下にある投信会社が、サブプライム問題で支払い停止の一時的な措置をとった。この「2007年問題」はそれなりに収拾したが、翌年9月にはリーマン・ショックが起きた。ヨーロッパで最初に危機に陥ったのは、中東欧の移行経済の国々だったが、時間が経つに従い、これらの国では改革が進み、回復した。しかし、これと入れ替わる形でユーロを導入した国々の危機が深まった。筆頭はギリシャで、問題が発覚したのは2009年秋だった。政権交代に伴い、財政赤字、政府債務残高が、実は想定よりはるかに大きいとわかった。その対応として、まずは2010年5月にギリシャの支援を行うことになった。実はユーロに参加した国が財政危機に陥ることは、ユーロの制度として想定されていなかった。このため、問題解決への枠組みがなく、これがギリシャ・ショックといわれる世界的な株価下落につながる原因になったが、5月の時点でいったん決着がついた。
 ユーロ参加国が全体の3分の2を、国際通貨基金(IMF)が3分の1を拠出することになり、ギリシャに続く形で財政危機に陥った国が出た場合には、欧州金融安定メカニズム(EFSM)、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)という新たな基金とIMFが、やはり3分の2、3分の1というシェアでサポートすることが決まった。そして、大きな役割を果たしてきたのが欧州中央銀行(ECB)で、EFSFやEFSMは機動性や柔軟性に欠ける側面があるため、これを巧みにカバーしてきた。金額の制限、固定金利による資金供給という形で、流動性の危機に陥った銀行が市場で資金調達できなくなった部分に潤沢に資金供給を行い、さらに直接的に国債市場に介入を行った。このようにして、ギリシャ・ショックから1年2ヵ月の間、ヨーロッパ全体で見ると経済はおおむね順調に回復してきた。

2. 少ない対策の効果と中核国への波及
 ユーロの問題について日本の、特に経済の専門家は、財政を統合せずに単一通貨を導入したことが大きな誤りだったと指摘する。一方、ヨーロッパ大陸の専門家のトーンは少し異なり、この点に問題はなかったとしている。もちろん、財政も統合すれば、より完璧な通貨統合になるが、ルールが守られていれば問題は起きなかったということだ。そして、金融監督も十分に機能しなかった。このため、問題を1つ1つ片付けていこうという認識があり、まずは危機に陥った国をECBや救済基金で助け、その傍らで様々な制度の見直しを行おうとしている。しかし、欧州の債務問題に関する不安は、アメリカの景気減速懸念とシンクロする形で、現在も世界経済、世界の金融市場の不安材料になっている。
 では、なぜ対策の効果がないのか。ユーロ圏のリスクが大きいと見られる国々について、2011年の格付けの変遷を見ると、支援を行い制度見直しの動きも進んでいるのに格下げが止まっていない。これには大きく分けて、2つの問題があると考えられる。1つは、ギリシャ危機に対して講じられた処方箋に関するものだ。本来的には支払い能力はあるのだが、金融市場の緊張が高まり、なかなか資金調達ができなくなった。そして貸し手がいないので、とりあえずお金を付けるという対応が講じられた。ギリシャでは当時、政府統計の見直しの最中だったので、現在認識されているよりも政府債務残高の水準はまだ低かった。それでも、GDPの100%を超える水準になっているということで、成長力を考慮すると明らかに返済不能だと、多くの人が思っていただろう。しかし、支払い能力を回復するため債務削減などの措置をとると、金融市場に及ぼす影響は甚大になる。したがって、そのような措置はとらず、流動性のサポートをして時間稼ぎをする間に財政改革を進めて、信用を回復し、市場に復帰するというのが第1次のギリシャ支援で想定したシナリオだった。しかし、蓋を開けてみると、政府の債務残高の水準は思った以上に高かったことも影響し、市場復帰は絶望的な状況になった。
 もう1つの問題は、政府の債務残高をGDP比で安定化させるには、債務による資金調達を除いた純粋な財政収支を黒字化していくことが必要だが、必要なプライマリー・バランスの水準は、いくつかの条件によって変わる。ギリシャの場合、思い切った緊縮財政の結果として名目成長率が落ち込み、その一方で市場の評価が非常に悪くなって利払い費が高まった。そして政府債務残高の安定に必要とされるプライマリー・バランスが、非常に高い水準になってしまった。実は、ギリシャは2009~10年にかけて、GDP比で5%相当のプライマリー・バランスの赤字削減を実現している。これは、かなりの努力が必要となる数字だが、それでは全然足りないということで大きな問題が生じた。ポルトガルやアイルランドについても、同様のことがいわれる。思い切った緊縮策や財政構造の改革は必要だが、それによって成長率が落ち込む部分へのサポートが、決定的に欠けていた。そして、緊縮財政で景気が悪化し、ますます財政の指標が悪くなり、金利が上昇するという悪循環に陥った。6~7月にかけて、ギリシャの追加支援の必要性が浮上、ギリシャの第1次支援がうまく機能しなかったことが明らかになったことで、スペインやイタリアに関する不安を引き起こした。
 このような流れの中、7月にはユーロ圏の首脳会合で、ギリシャ支援の骨格が決められた。第2次支援は2011年から2014年で、総額1090億ユーロだ。支援には2つの重要な点があり、1つはEUからの融資の返済期間を延長し、融資金利を下げることだ。もう1つは議論を呼んだ点だが、民間投資家に、いわゆる債務の交換という形でそれなりの損失を負担してもらうことが決められた。そして、一定の元本保証などをつけることで、民間投資家が応じやすいスキームを提供することになった。さらにこの日、他にも決まった事項があり、これには2つのポイントがある。1つは、危機国の成長促進策に関するもので、もう1つはEFSFの支援可能額をおよそ2500億ユーロから4400億ユーロに増やすことだった。ただし、改訂EFSFといわれる全体の枠組みでは、ユーロに参加しているすべての国が合意しなければ、これは発動できない。したがって、いわば空白の時間が生じているというのが現在の姿だ。ギリシャ支援についても同様で、例えば民間投資家がどの程度、債務交換に応じてくれるのかという問題もあった。
 さらに、不安な経済指標が出てきたことによって、EUの中核国にも危機が波及することになった。危機国3ヵ国の国債発行残高は5000億ユーロ程度だが、イタリアは1国で1.5兆ユーロ、スペインを加えると2.1兆ユーロになる。ドイツやフランスの国債市場より大きいのがイタリアの国債市場であり、本当に救済しきれるのかという疑問が生じた。また、トリプルAの最高格付けを持つ中核国の1つであるフランスが最高格付けを失うことへの懸念も浮上、その結果、EFSFという救済基金自体が維持できなくなるという不安も広がっている。
 8月にドイツとフランスの首脳が協議する前には、大国への危機の波及という事態に対応するためユーロ共同債を発行する、あるいはEFSFの規模を拡大するという措置に踏み込むのではないかという期待もあった。しかし結局は制度改革を行い、規律をより強化するといった点に重きを置いた合意事項に留まり、これらの対策は否定された。このようなこともあり、現在もなかなか足元まで危機が治まらない。

3. 求められる救済基金拡大、監視機能の強化
 ユーロ共同債については、本当の意味で導入するとなると、債務管理庁のような新たな超国家的機関を作って財政統合することになる。ユーロ参加国では、このようにして国家主権をさらに超国家機関に委譲するというコンセンサスはできておらず、抵抗が非常に強い。また、これには基本条約の改正が必要になり、相当な時間を要する上、実現は難しい。危機の伝播に歯止めをかけるための当面の対策としては、現在の救済基金をもう少し大きくするということに留まらざるを得ない。
 さらに、参加国間での財政構造改革に関する監視機能強化が必要だ。独仏の首脳合意では、首脳会議のレベルで監視するための定例会合を設けることを提案している。政府間と欧州委員会などの現存する超国家機関が連携して監視を強め、救済基金も強化する。その過程で、既に起きてしまい返済不能な債務について処理を進める。そういった形で時間をかけながら、問題に決着をつけていくのが1つの方向ではないか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部