平成24年度 第1回-1 アジア研究会 報告1 「経済産業省の対アジア通商政策について」経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課長 篠田 邦彦 (しのだ くにひこ)【2012/06/07】

日時:2012年6月7日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第1回-1 アジア研究会 報告1
「経済産業省の対アジア通商政策について」


経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課長
篠田 邦彦 (しのだ くにひこ)

 経済産業省のアジア大洋州課による対アジア通商政策には、3つの柱がある。1つ目は、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とする東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を進めていくことで、2つ目は経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)による貿易投資の自由化や円滑化だけではカバーできない、ハード・ソフトのインフラ整備を行っていくことだ。そして3つ目は、「成長の質の向上」で、特にこの地域の持続的な経済発展に向けて、エネルギーや環境分野での協力を進めていく。

1. 東アジア地域のEPA・FTAを中心とした経済連携
 東アジア経済統合を進めるにあたっては、この地域の生産拠点としての魅力、さらに、販売市場としての魅力をいかに高めていくかが重要である。東アジア地域では、年収5000ドルを超える世帯の人たちが、2020年には中国、インド、インドネシアの3ヵ国だけで10億人程度増えるという試算結果もある。1985年のプラザ合意以降、日系企業はASEANや中国、インドなどに次々と進出してきたが、今後は中間層の拡大を見込んで、製造業だけでなく、サービス産業の進出も増えていくだろう。
 インドやベトナム、インドネシアなどの新興国への進出では、インフラ整備が最大の課題となる。そして、不透明な法制の運用や、ソフト面でのインフラ整備などのビジネス環境整備が重要な政策課題だと思う。また、東アジア経済統合を考えるにあたっては、ASEAN+3、+6、+8、アジア太平洋経済協力(APEC)、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の相互作用において、日本としてどのように振舞っていくのかを考える必要がある。
 東アジアでは、1990年代半ばから後半にかけては、世界貿易機関(WTO)が設立された後、APECが地域経済統合の主導権を握っていた。しかし、早期自主的分野別自由化(EVSL)の失敗や、APECがアジア通貨危機に十分対応できなかったことから、ASEAN+3を中心とする東アジアの方にシフトして来た。さらに日本とシンガポールのEPA交渉が刺激となって、中・ASEAN、日・ASEANの交渉も始まった。このようにして、FTA、EPAの空白地帯であった東アジアに、FTAのネットワークができてきた。
 その後、2006年に日本が提唱したASEAN+6の東アジア包括的経済連携構想(CEPEA)や、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)はAPEC側を刺激するもので、アメリカは、アメリカ抜きの地域経済統合を進めているのではないかという疑念を抱いた。そしてAPECの方でも、それまであまり関心をもたれていなかったアジア太平洋のFTAを進めていく構想に火が点き、P4といわれる4カ国のFTAに米国や他のAPEC参加国が加わって、TPPに発展することになった。他方、TPPの交渉に刺激を受けて、最近、中国が日中韓やASEAN+3のFTAの交渉を推進しようとしている。
 なお、ASEANは2015年の「ASEAN経済共同体」構築を最優先にしているため、日本としては引き続き、ASEANのみならずその対話国を加えた東アジアの経済統合についてASEANに働きかけると同時に、他の国々とも連携していく必要がある。東アジアにおける経済連携協定では、特にASEANを中心として、既に日本、中国、韓国、オーストラリア・ニュージーランド、インドと、ハブアンドスポークのFTAができており、それをいかに束ねて大きなネットワークとしていくかが、今後の鍵だ。
 今年4月にはASEANの首脳会合が開かれ、年内にRCEPの交渉入りを目指すことが首脳レベルで合意された。現在は事務的な交渉を進めているが、ASEAN側の動きは遅い。まずは物品貿易分野において6月末ごろに、ワーキング・グループを立ち上げ、物品以外のサービス、投資のワーキング・グループについても、夏ごろまでに立ち上げることが目標である。
 ASEAN経済共同体の構築についても、経済産業省として支援していく。ASEAN10ヵ国にある日本の商工会議所の連盟(FJCCIA)を作り、各国のビジネス環境整備に向けた要望を出させることで、具体的な行動に結び付けていこうとしている。ここではFTAによる自由化であまりカバーできない貿易円滑化や基準認証のようなソフト・インフラ整備、知的財産権、そして産業人材育成といった取り組みが中心になる。

2. 連結性強化のためのハード・ソフトのインフラ整備
 2番目の柱である連結性強化では、2010年の東アジア・サミット関連会合で、ERIAが策定した「アジア総合開発計画」について報告を行なったほか、「ASEAN連結性マスタープラン」も作成された。その後、ASEANだけではなく、中国やインドも含めた連結性を強化しなければならないということで、昨年11月の東アジア・サミットでは、東アジア大の「連結性マスタープラン・プラス」を作成することも決まった。
 インフラ整備について国別、地域別に見ていくと、インドネシアでは6つの国土経済軸に分けて、軸ごとに重点産業や重点産業育成のために必要なインフラを定め、特に重要なプロジェクトについて支援しようとしている。
 また、日・メコン協力では、4月21日にメコン地域の5ヵ国の首脳が来日し、日・メコン・サミットを開催した。基本的には、1. ハード・インフラ整備、2. 貿易円滑化、3. 中小企業振興、4. サービス産業分野の強化―という4本柱の協力を進めていく。
 タイについては昨年10月以降、洪水問題が顕在化したため、今後も同様の問題が起きないよう、堅固な堤防を造ることなどを要請、また日本の地震保険のような、公的な再保険制度を設けることをタイ側に働きかけている。さらに、ミャンマーとの経済協力では、今年1月に枝野幸男経済産業相が現地を訪れ、1. インフラ開発支援、2. ビジネス環境整備、3. 資源・エネルギー利用―の3分野において、政府、関係機関、産業界が一体となって支援を進めていくことを表明した。
 インドではデリー・ムンバイ間産業大動脈構想を2006年に始めているが、次第に計画から具体的なプロジェクト実施の段階へ移ってきている。日本とインドで協力し、90億ドルに上る金融ファシリティーを立ち上げたほか、現地のDMIC開発公社にも日本から出資し、専門家を派遣して、プロジェクト形成に日本の意思が反映される体制を作ろうとしている。
 さらに日系企業の進出が多い南部のチェンナイ・バンガロールでも、中核拠点開発構想を進めている。1つは、チェンナイとバンガロールを結ぶ広域の開発のためのマスタープラン作りを国際協力機構(JICA)と協力して行っており、年内に骨子ができる。もう1つは、実際に今、企業が問題を抱えている分野において、インフラ整備を進めている。例えば、チェンナイ北にあるエンノール港の浚渫が不十分であったり、そこから工業団地へアクセスするための道路の強度が十分でないといった問題がある。また、日系企業が進出できる工業団地も足りないということで、日本とシンガポールの企業がコンソーシアムを組んで新しい工業団地を造る取り組みも行っている。

3. 成長の質の向上
 最後に、「成長の質の向上」では、資源エネルギー庁が中心となり、エネルギー安全保障の取り組みを進めている。東アジア諸国のエネルギー需要はかなり伸びており、需要が供給を上回るような事態に備える必要がある。今後のエネルギーの見通しや緊急時対策、石炭等化石燃料の活用、原子力発電、クリーン・エネルギーやスマートコミュニティの開発といった取り組みを進めていくため、ERIAと協力し、各国ごとにエネルギーのロードマップを作ろうとしている。
 また今年4月末には、「ASEANロードショー」ということで、ASEAN10ヵ国の経済大臣、副大臣らが日本を訪れた。その際、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について、年内交渉開始に向けて取り組んでいくことで合意した。今後は日・ASEAN間の協力を進めるための「戦略的10ヵ年ロードマップ」という計画を策定する予定となっている。さらに震災復興の知見、教訓の共有も進めていく必要がある。特に震災地の復興のため、国内での復興活動だけでなく、ASEANとの絆を強めてサプライ・チェーンを強化することにより、ASEANやアジアの国々の活力を被災地復興に役立てていこうとERIAが提言している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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