平成24年度 第1回-2 アジア研究会 報告2 「ミャンマーの開発戦略:現状と課題」アジア経済研究所 ERIA支援室 主任研究員 工藤 年博 (くどう としひろ)【2012/06/07】

日時:2012年6月7日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第1回-2 アジア研究会 報告2
「ミャンマーの開発戦略:現状と課題」


アジア経済研究所 ERIA支援室 主任研究員
工藤 年博 (くどう としひろ)

1. 政治安定が経済発展の前提条件
 ミャンマーの政治状況については、安定していると言って良いと思う。テインセイン政権による軍政の改革は、基本的に、国軍メンバーからも支援されている。ただ、今年4月1日の補欠選挙では、45議席のうち43議席を国民民主連盟(NLD)が獲得した。このため政権内では、「果たして2015年の総選挙で勝てるのか」という問題意識が出てきている。アウン・サン・スー・チー氏は、既に補欠選挙の時点で、憲法改正を訴えていた。現在の憲法で保護されている国軍の権益、具体的には4分の1の議席を持っていること、そして国防治安評議会での国軍司令官の強い権限などについて、改正を目指している。現憲法下では、議会全体の4分の1は国軍議員の議席になっているため、2015年の選挙で争われるのは、残りの4分の3である。この4分の3のうち3分の2、つまり66.6%を獲得すれば、全議席においても過半数になる。これはNLDにとって2015年総選挙で獲得可能な数字で、そうなれば連邦議会でNLDが大統領を選ぶことができる。
 現在の憲法の規定では、外国籍の息子が2人いるスー・チー氏が大統領になることはできない。しかし、NLDから別のビルマ人を大統領に選び、実質的には彼女が大統領になるということはできる。また、NLDが圧勝した場合には、憲法改正の議論が起き、改正が実現するということもあり得る。2015年の総選挙でNLDが勝つことはかなり可能性が高いといわれている。問題は勝ち方がどの程度かということだ。いずれにしても、NLDが圧勝した場合には、スー・チー氏の出方が焦点になる。これは確かに1つの政治的リスクであるが、同時に、チャンスでもあると考える。例えば、2015年にNLDと連邦団結発展党(USDP)の連立政権ができれば、民主化問題についてもソフト・ランディングできるだろう。政治的な安定が2015年以降も続くことが、ミャンマーの経済発展の条件になると思う。

2. エネルギー輸出で好調な対外部門
 ミャンマーでは現在、エネルギー輸出によって、対外部門が好調に推移している。ミャンマーの通貨、チャットも非常に強い。最近のミャンマー視察ブームによって、最大都市ヤンゴンではホテルやサービス・アパートの料金などがどんどん上昇している。非貿易財は概ね値上がりしており、面白いところではエコノミスト不足により彼らの賃金も高騰している。
 これはオランダ病的な状況だが、ミャンマーは必ずしもエネルギー資源国とはいえない。現在は国内であまりエネルギーを使っておらず、大部分を輸出しているから、外貨流入で現地通貨高になってしまっている。しかし、国内では相変わらず停電ばかり起きている。しかも、民主化の進展によって、国民がキャンドルを持ち、電気が足りないことに抗議するデモを行うようにさえなった。このため政府は、国民に優先的に電気を流す必要があり、工業団地に電気が回らなくなってしまっている。悪循環である。
 ミャンマーでは、最大の資源はエネルギー資源というよりも、人的資源であり、農業資源であろう。このため、これらの資源を有効に使って開発していく必要があり、稀少なエネルギー資源の輸出による「資源の呪い」は回避しなければならない。また、周辺の国々は、ミャンマーをランド・ブリッジとして使いインド洋へ出たがっている。これはアジア大のコネクティビティ改善という意味では良いことだが、ミャンマーとしてはこうした地域大の接続性の改善を、いかに自分たちの成長へと結びつけることができるのかということが課題になるだろう。
 経済統合も進んでくる。アセアン経済共同体(AEC)を2015年までに実現する計画が進められているが、これはミャンマーにとって機会(チャンス)でもあり、挑戦(チャレンジ)でもある。中国やインドとの関係においても、チャンスとリスクの双方がある。
 ミャンマーにおける開発のキーワードは現在、貧困削減、包括的な成長、持続可能な発展、人間中心の発展などのはやり言葉ばかりとなっている。最近、大統領は「第2の改革のステージに入った」と宣言した。いずれの言葉もよく定義されて使われているわけではないが、これらが政府の関心事になっていることは確かだ。国際機関や各国政府、NGOが、経済改革支援や政策提言を行うようになり、百家争鳴という状況になっている。ミャンマー側にも、政策提言のための様々な組織やチャネルが設置されている。近々正式に設置される国家経済社会アドバイザリー・カウンシル(National Economic and Social Advisory Council)は、大統領への諮問機関である援助監督委員会の作業部会の直轄となる予定で、これは「市民社会ベースの諮問機関」だという。
 日本貿易振興機構(JETRO)、同アジア経済研究所(IDE-JETRO)、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)等の間で、主に2つの政策提言型の研究が動いている。1つはバンコクJETRO事務所で行う研究で、もう1つはERIAが中心になって行う「ミャンマー総合開発ヴィジョン」(MCDV)だ。これは、ほぼすべての政策、分野、地域を含む、まさに包括的なものにしていかなければならない。

3. 今後の主要な政策課題
 1人当たりの国内総生産(GDP)をCLMV諸国やバングラデシュを比べると、ミャンマーはまだ、非常に低いことがわかる。産業構造は、農業が占める部分が多い。対外部門は現在、非常に好調である。天然ガスや宝石・翡翠の輸出が活発化したことで、21世紀に入ってから、貿易額は大きく伸びた。2003年には米国の経済制裁を受け、当時最大仕向地であった米国市場を失ったが、それにもかかわらず輸出は引き続き伸びた。天然ガスは現在、ヤダナとイェーダグンという2つの海底ガス田からタイへパイプラインで送られているが、2013年にはラカイン州沖合のシュエー海底ガス田からパイプラインで中国へも送られる。
 輸出の相手国では2000年は米国が最大だったが、現在はタイが全体の45%で最大だ。そして、これからは中国の割合が大きくなるだろう。輸入は現在、中国が全体の4割近くを占め、タイ、シンガポールがこれに続いている。一方、外国投資額を見ると、この2年間で過去20年間を大きく上回る大きな投資が認可された。これらは中国、タイ、香港、韓国からが多く、水力発電、天然ガス、銅鉱山が主な投資先である。製造業や農業については、まだあまり外資は入ってきていない。
 持続的な経済発展を達成するために、いくつか主要な政策課題がある。1つはいわゆる「資源の呪い」を避けることだ。そして2つ目は、経済統合の果実をどう得ていくかということだ。経済統合が進むと分散力と集積力という2つの力が働く。集積力は、産業集積があるからさらに産業集積を呼ぶという循環的・累積的な過程が生まれる。2015年の実現を目指しているというASEAN経済共同体(AEC)に関しては、まずどのようなことが起きるのかを理解し、そのための準備をしていくことが必要だろう。
 そして、3つ目はいかに外国直接投資(FDI)を呼び込んでくるかであるが、これについては先進ASEANやベトナムの経験を学んでいく必要がある。ASEAN大のコネクティビティ実現では、ミャンマーはとても重要な地理的位置にある。ASEAN大のコネクティビティの改善はミャンマーに利益をもたらすとされるが、その果実を得るためには、まだまだやらなければならないことがたくさんある。4つ目に、環境、社会問題への配慮も必要だ。
 ミャンマーには非常に大きなポテンシャルがあるが、現在のところ、まだ活用されていない。これを活用していくのはそれほど簡単な課題でないことは間違いない。重要な政策課題について、ミャンマー政府・実業会に対して、考える材料を提供していくような形で支援していきたい。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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