平成24年度 第2回-1 アジア研究会 報告1 「中国経済の現状と日中協調発展の展望」一般財団法人 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 瀬口 清之 (せぐち きよゆき)【2012/07/03】

日時:2012年7月3日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第2回-1 アジア研究会 報告1
「中国経済の現状と日中協調発展の展望」


一般財団法人 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
瀬口 清之 (せぐち きよゆき)

1. 今年も8%台が予測される中国の成長率
瀬口 清之 中国の成長率は、2003~2007年まで二桁成長を続けた後、ジェットコースターのように上がり下がりを繰り返している。マクロ的には現在、物価を安定させるという一番重要な課題を達成するのに良い範囲内にあり、景気は失速していない。今年の成長率は4月下旬時点では8.5~9%と見られていたが、おそらくそれより少し低いと思う。欧州の危機の影響が、予想より深めに出てきているが、その影響による輸出の弱さはあまり心配されていない。
 今年は政府の目標として、7.5%という成長率が公表されている。昨年まで7年間続いていた8%という目標と比べると、0.5%低いが、これはあくまでも精神的な目標で、実際には8%を超えるとみられている。成長一辺倒のこれまでの政策から、よりバランスのとれた経済成長モデルへ移行させようとしており、成長率はやや下げても生活の質は向上させる、そして引き続きインフレ圧力の抑制を重視するということが、この目標にこめられている。
 インフレの最大の要因は、賃金の上昇だ。第一四半期の新規雇用創出は330万人と、予想を100万人も上回る伸びを実現し、労働需給が逼迫し、賃金上昇につながっている。ここ数年の物価の推移を振り返ると、インフレ抑制のために実施された07年10月以降の引き締め政策の効果により消費者物価指数(CPI)は下がった。そこにリーマン・ショックが発生して一段と低下してしばらく安定していたが、4兆元の経済刺激策が効き、二桁成長に近づくにつれて10年11月に再び5%を超え、過熱気味になった。昨年来再び引き締め政策をとっており、最近ようやく3%台となって、物価が安定し始めている。
 現在も賃金の上昇率が約20%に達するという状況が背景にあり、これがコストプッシュ、ディマンドプルの両面から、物価の上昇圧力になっている。そして今年は再び、投資が増えそうだ。高速鉄道の事故があり、一時は鉄道部の投資が止まったが、再開されることになった。また金融緩和が4、5月からはっきりしており、地方ベースのインフラ建設は、金融緩和の影響を受ける。鉄道の投資は中央からの指令で動くが、地方の高速道路や空港、地下鉄、ダム建設などは、地方政府の資金が基になっている。4、5月以降、資金需給がゆるむとともに、地方に対する建設許可も出始めた。このように、今年の後半は、投資主導で再び景気が少し強くなりそうだ。同時に、金融も緩和されており、民間の設備投資が盛り上がる可能性も指摘されている。今年前半の成長率は8%程度だが、今年後半には8%台後半から9%程度になり、トータルでは8~8.5の間に落ちるのではないかというのが、現時点で考えられる今年の流れだ。
 不動産については、昨年から今年にかけて、北京と上海で下がっている以外、広州は横ばい程度で、他の地域、内陸では上がっている。中国では不動産価格が高過ぎて庶民はなかなか買えないことが深刻な社会問題となっている。その不満に対応するため、高い値段の不動産取引を認めていない。とくに不動産価格の高い北京と上海が厳しく規制されている。この不動産取引規制が解除されれば、不動産価格が大きく跳ね上がるため、大手業者は有力な大手の金融機関からバックファイナンスを受けて、今は売らずに我慢している。4月以降金融緩和が始まり、「不動産価格はもうそろそろ、下がらないだろう」ということで、需要が抑えきれなくなってきたことによる反転もみられる。むしろ心配なのは、これから形成される可能性があるバブルの問題だ。
 取引規制が解除されれば、不動産価格はすぐに3、4割上がるとみられ、これをどう止めるかについて政府の関係者らは頭を抱えている。このようにマーケット・エコノミーが中国経済に浸透する中で、不動産規制のような行政手法による価格コントロールを行うと、後で大きなひずみが出てくるということが、中国経済の問題点として指摘されている。

2. 強まる内陸部と沿海部のリンケージ
 現在は、予想外に貿易黒字が膨らんでいる。ここ数年、貿易黒字の減少傾向が続いていたため、今年も1100~1200億ドルまで落ちるかと思っていたが、1~5月の累計では383億ドルと、前年比で6割増ぐらい伸びている。足下の内需減速で輸入があまり伸びていないため、このような結果になっている。
 しかし、内需拡大の2つのエンジンは相変わらず働いている。1つは都市化である。農村人口は減り続け、都市の人口が増えている。農村から都市へ人口が移っていくためには、産業間の労働移動が起きる。第一次産業から、二次、三次産業へと移っていく訳だが、そのスピードがここ数年、速まっている。2020年ごろには都市化のエンジンが止まってくる可能性が高い。もう1つのエンジンはインフラ建設だが、これは昨年の高速鉄道の事故の影響で、予想よりも後ろ倒しになってきている。
 成長率は全体的に下がっているが、内陸部の成長率は高い伸びが続いている。このため沿海部の寄与率はどんどん下がっており、構造変化が進んでいる。このように内陸部主導が明らかとなるとともに内陸部と沿海部のリンケージが強まってきている。沿海部から内陸部へ産業集積が拡大する中、鉄道や高速道路のネットワークが内陸部と沿海部をつなぎ、生産拠点の共有化が進み、部品供給の水平分業のようなものがみられている。このため、沿海部が海外の影響を受けると、内陸部も影響を受けるという格好になっている。
 この間、日本の第4次対中投資ブームは引き続き高い伸びを続けている。データを見ると、他の国の対中投資はあまり変わらず、日本だけがどんどん伸びている。現在、中国で行われている日本の直接投資は、中国で売るためのものだ。したがって、中国に進出すると、日本からの部品供給が増えるが、日本への逆輸入はほとんど起きない。2000年代前半は、日本に逆輸入するための直接投資が多かったが、今はそうではないため、日本国内の雇用へのプラス効果がもっと早く出ると考えられる。

3. 日本企業に求められる経営のグローバル化
 最後に、日本の政策課題だが、2020年ごろまではおそらく、中国の高度成長が続き、日本経済にとって強力な景気下支えの材料になるだろう。ただし、中国でビジネスを展開する日本企業を見ると、グローバル化対応の高い企業と、そうではない企業の間で二極分化が起きている。うまく行っていない代表例は大手商社で、中国のマーケットになかなか入れない。苦戦の最大の原因は、日本人に頼り、従来型のビジネスをしようとしていることだ。それに対し、グローバル化への対応力が高く、優秀な中国人をうまく活用する企業は、どんどん業績を伸ばす可能性がある。
 日本企業ではグローバル人材のニーズが高まっている。その条件は、中国の国内市場の現場を重視し、チャレンジする勇気と困難に直面してもぶれない軸を持ち、成功するまであきらめない粘り強さを持っていることだ。そうした人材をどのように発掘し活用するのかということが、日本企業の大きな課題になる。
 一方、政策運営面では、日本も法人税を25%に引き下げ、中国、韓国並みの競争条件を確保することが求められる。中国で日本企業のビジネスが成功しても、本社が重い税負担を逃れるために日本から海外へ出て行ってしまえば、日本は恩恵を受けられない。
 もう1つの重要な政策は、日本の交通インフラ整備だ。例えば、羽田、関空から上海や北京への航空ルートでは、飛んでいる時間が2~3時間程度なのに、オフィスを出てから搭乗までの時間が2時間半、3時間とかかり、非常に非効率だ。効率を大きく向上させるには、3つの条件がある。第一に、日本の高速鉄道技術を活用して、東京、名古屋、大阪等主要駅から最寄りの空港までの時間距離を10~20分に短縮することだ。第二に、日本と中国の主要空港間に、シャトル便を就航させる。第三に、関東地方の高速道路、外環道や圏央道などをしっかり整備し、空港とのアクセス時間を短縮する。そのための財源確保には数年間に限って社会保障費を削減するといった方法も考えられると思う。その雇用創出効果は大きい。
 中国との関係をもう少し抽象的、高い見地から見ると、今後は情報収集が非常に重要だ。各省がばらばらに情報収集を行うのではなく、米国のホワイトハウスのように各方面の情報を1か所に集中させ、中国との交渉にうまく活用する必要がある。安全保障面でもやはり、総合的に中国を把握し、交渉していくことが重要だ。日本として重視すべきは、経済、外交安全保障の両面において、中国と周辺国とのバランスを保っていくことである。
 最近考えが浮かんだ一つの仮説であるが、1990年から2020年ごろまでがグローバル化の第1フェーズで、米国がハブになり、全世界に米国のネットワークが張り巡らされる格好でグローバル化が進んでいく。しかし、経済の重心は徐々に、東アジアに移ってきている。もちろん、金融や安全保障の主導権は、米国からすぐには移ってこない。しかし、貿易や投資では徐々にアジアの方に重心が移ってきて、日中韓が中心となり、そこにまたアセアンやインドが加わってくる。日中韓が主導するグローバル化は、米国中心のグローバル化とは質が異なる。中国という巨大な国が発展途上国のまま、日韓両国の技術力を取り込む形で発展していくため、3国の経済が融合する形でグローバル化が進んでいく。ただし、日本企業が中国市場に入っていくには、経営を本格的にグローバル化していかなければいけない。
 そのようにして、中国も日本も変化する格好で、世界第2位、第3位の国が主導する新しい融合型のグローバル化が、始まりつつある。2020~2050年ぐらいまでは、これが世界の1つの潮流になり、そこにアセアンやインドが巻き込まれる時代が来るだろう。まだ仮説の段階だが、そういうことがうまく進めば、「中国の発展は日本の発展、日本の発展は中国の発展」という私の持論が、より実現しやすくなると考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部