平成24年度 第2回-2 アジア研究会 報告2 「中国の対外経済協力の現状 -メコン地域を中心に-」独立行政法人 国際協力機構 JICA研究所 副所長 北野 尚宏 (きたの なおひろ)【2012/07/03】

日時:2012年7月3日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第2回-2 アジア研究会 報告1
「中国の対外経済協力の現状 -メコン地域を中心に-」


独立行政法人 国際協力機構 JICA研究所 副所長
北野 尚宏 (きたの なおひろ)

1. 拡大する中国の対外経済協力
北野 尚宏 中国では、日本の経済産業省に当たる商務部の中に、対外援助の政策・実施を担当する対外援助司がある。対外援助のうち、日本の円借款に当たる元建の優遇借款については中国輸出入銀行が実施している。しかし、この実施体制については一部の途上国から、商業的関心(commercial interest)が強過ぎることを指摘されている。中国の中でも様々な議論があり、対外援助を今後も商務部が担当する、外交部が担当する、そして国務院直属の援助機関を設立するといった案が出ているが、本格的な検討には至っていない。
 アジア地域への援助では、日本の国際協力機構(JICA)が域内における抜きんでた二国間援助機関として援助を行う時代はもう終わり、中国、韓国と切磋琢磨する時代になったといえる。研修についても、中国では第12次五ヵ年計画(2011~15年)の間に8万人の研修生を受け入れる予定で、急速に受け入れ人数を伸ばしている。商務部は現在全国で8ヵ所の研修センターを認定しているが、これをさらに増やそうという計画もある。中国の対外援助政策については、昨年はじめて白書が出されている。同白書によれば、中国の対外援助政策として、被援助国の自主発展能力向上を支援することが最初に述べられている。、研修生の受け入れをはじめ、能力開発(capacity development)に力を入れることにより、中国の対外援助が商業的関心だけではないことを強調している。2010年の対外援助の財政支出額は136億元だったが、2011年には159億元、2012年には192億元となり、着実に増加している。加えて優遇バイヤーズクレジットという、対外援助ではないが、輸出金融と援助の中間に当たる借款の金額が急増していると言われている。援助対象国については、アフリカ重視だといえる。
 2011年11月、第14回中国・ASEAN首脳会議の前に、「中国のASEAN協力」という中国政府としてのポジション・ペーパーが英語と中国語で出された。さらに、12月の第4回大メコン圏(GMS)首脳会議の前には、GMSへの経済協力に対する国家報告が、そして2012年6月の「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)の前には「持続可能な発展国家報告」というポジション・ペーパーが出されるなど、「途上国として南南協力を推進する中国のポジションに立ったペーパーが、次々に出されている。
 一方、対外援助の領域における中国との関係構築では、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)など、各機関ともに努力を重ねている。二国間においては、例えば米国は、中国との戦略・経済対話において様々な対話を行っており、2012年5月の同対話では、援助の分野に関する対話の進展が成果文書に記述され、輸出金融については国際的なガイドライン作成に向けた検討グループ設置で合意している。後者についてはOECDの輸出信用部会がこれに参加するのか等、今後どのように進展していくのかという点について、注意深く見ていく必要がある。JICAはこれまで対中の政府開発援助(ODA)を通じ、商務部や中国輸出入銀行との関係を築いてきた。これらの機関との意見交換を、現場レベルでも、より進めていなければいけない時代が到来している。

2. アフリカでのインフラ整備、周辺国とのコネクティビティ向上
 2012年7月には、中国・アフリカ協力フォーラムの第5回閣僚会議が、北京で開催される予定だ。中国は、資源獲得のために援助を使っているとの批判に対し、そうではないことを示そうと、今回の会議では、AUとの関係強化や、インフラ整備に力を入れるというメッセージを打ち出すとみられている。例えば中国は既に、エチオピアで初めての高速道路建設を行っている。注目すべきは、エチオピアにはこれまで高速道路がなかったため、中国の高速道路の規格を導入しているということだ。このように、中国はスタンダードをめぐる競争にも参入している。また、一部では中国の援助プロジェクトで、日本企業が機器を納入するというケースも出てきている。このような例はあまりないが、中国の援助量が大きくなるにつれ、増えていく可能性がある。
 中央アジアについては、中国は2国間の関係を重視し、経済貿易委員会の枠組みにおいて、貿易や投資、援助を進めている。また中国における内陸地域の発展と、周辺国との経済的な連携、コネクティビティ向上は、密接不可分な関係にある。特に中央アジアとのコネクティビティ向上で注目されるのは、新疆ウイグル族自治区-キルギス-ウズベキスタンの鉄道建設と、アフガニスタンのアイナック銅鉱山開発に向けた、ウズベキスタン国境につながる鉄道プロジェクトだ。鉄道建設に関して注目されるのは、線路幅だ。この地域は旧ソ連圏なので、広軌になっているが、中国は日本の新幹線と同じ標準軌を採用している。中国は物流効率化の観点からこの地域に標準軌を導入したいと考えているが、今後の展開が注目される。
 次に多国間協力の枠組みについて触れたい。中央アジアを含む地域協力機構である上海協力機構(SCO)は、2012年6月に北京で首脳会議を開催した。中国は、2009年に引き続き100億ドルの借款を再びコミットすると共に、SCO開発銀行の構想推進に改めて言及した。また、アジア開発銀行(ADB)が主導して1997年に設立された、中央アジア地域経済協力(CAREC)という域内協力の枠組みにおいては、中国はメンバーとして、日本はパートナーとして参加している。中国はこういった枠組みもうまく活用し、地域における交通の円滑化等に取り組んでいる。
 メコン地域に関しても、基本的に二国間関係を重視しており、タイではインラック首相が2012年4月に東京で開催された日本・メコン地域諸国首脳会議の直前に北京を訪問し、共同行動計画に調印している。ベトナムは中国とは同じ社会主義国、共産党政権の国で、中国との2国間協力指導委員会というハイレベルの対話のフレームワークがある。さらにミャンマーやラオス、カンボジアについても、中央アジア諸国と同様な2国間のフレームワークがある。またこれらの国々と中国の間では、貿易経済投資関係も近年緊密になっている。中国は、メコン地域においても、近年多国間の関係にも熱心に取り組むようになってきており、なかんずくASEANとの関係を強化している。2008年の中国ASEAN首脳会議では100億ドルをコミットするとともに、中国ASEAN投資協力基金設立を発表している。2011年の首脳会議では150億ドルをコミットした。
 拡大メコン地域(GMS)の枠組みでは、雲南省や広西チワン族自治区の発展を念頭に置き、ADBやタイとともにラオス・タイ等に通じる道路整備も進めている。ミャンマーについては、石油・ガスパイプライン、水力発電所、送電線、港湾、鉄道建設といったインフラ整備が主に中国の協力で進められている。例えば水力発電の分野では、イラワジ川支流に中国華能集団がBOT方式で発電所を建設し、中国南方電力網に売電してミャンマーの輸出にも貢献している。一方、中国大唐集団公司もがBOT方式で建設した水力発電所は、一旦売電を開始したものの、現地の治安が悪化して現在は売電できない状況になっている。

3. 求められる各国間の対話
 中国の経済協力は、メコン地域をはじめとする周辺国・地域及び国境を接する中国内陸部の経済開発に原動力を提供している一方、現地の政治社会情勢の影響など、様々な課題にも直面している。中国の関係者もこの課題を認識しており、企業の社会的責任の分野などで「日本企業の経験に学びたい」という話も聞かれる。ハノイの軌道交通システムについては、一部路線を円借款を供与して整備している一方で、フランス・ADB、中国がそれぞれ別の路線に融資しており、現在、日本、フランス、中国の3つの規格が存在する状態になっている。このため、今後どのように一体的な形態で運営していくかが課題だ。このように、同じ国、同じセクター、同じ地域・都市において、日本と中国、場合によっては韓国もプロジェクトを手がける事例が増えている。事業が最大限に効果を発揮するように、まずは、各国で対話を積み重ねていくことが重要であるといえる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部