平成24年度 第3回-2 アジア研究会 報告2 「ミャンマーのビジネス・投資環境と日本企業の動向」日本貿易振興機構 海外調査部 アジア大洋州課 課長代理 元・ヤンゴン事務所長 小島 英太郎 (こじま えいたろう)【2012/09/10】

日時:2012年9月10日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第3回-2 アジア研究会 報告1
「ミャンマーのビジネス・投資環境と日本企業の動向」


日本貿易振興機構 海外調査部 アジア大洋州課 課長代理
元・ヤンゴン事務所長
小島 英太郎 (こじま えいたろう)

1. テインセイン政権による改革
小島 英太郎 ミャンマーで新政権が発足してから、ミャンマーに進出する、あるいはミャンマーにかかわるビジネスを行うと発表した日本企業は9月時点で私が把握しているだけでも延べ40件以上ある。新聞情報によれば、ローソンやいすゞ、クボタ、ホンダ、ヤマハといった、そうそうたる企業の名前も出てくるが、延べ40件以上という数字は、各社ウェブページ上のプレスリリースなどで確認できた企業の数である。私自身は2007年4月から2011年2月まで現地に駐在していたが、その間にミャンマーで企業設立した日本企業はわずか1社だったことを考えると、今は隔世の感がある。ミャンマーに進出するなどを発表する日本企業は、特に今年2~3月ごろから増えた。ただ、実際には手続きにも時間がかかるため、少しずつ会社ができてきたという状況で、とりあえず駐在員を置いて様子を見るという段階のところが多い。
 ミャンマーの政治に関しては、まずテインセイン改革が進み、内閣改造が行われた。内閣改造は今年8月半ばごろから行われ、9月7日にようやく承認された。テインセイン大統領がこの1年半、改革を進めてきたという認識は、ミャンマーの国民の間にも広がってきているのではないか。今回の内閣改造では、この改革を加速させることが1つの主眼であったと思う。特に大統領府の閣僚には、ソーテイン前工業相など改革を進めていくために欠かせないと思われる人たちが選ばれた。また、社会福祉経済復興相で、初めて女性の大臣が誕生したほか、民間からの登用もかなり進んだ。さらに保守強硬派、守旧派といわれていた人たちが避けられたことは、改革を前進させるために必要な措置だったと思われる。その代表格として、保守強硬派のティンアウンミンウー副大統領が辞表を出し、海軍司令官であったニャントゥン氏が就任した。このほか、保守強硬派の1人といわれていたチョーサン情報大臣も交代し、協同組合省の大臣になった。
 副大統領に就任したニャントゥン氏については、ファミリー・ビジネスをしていないことも1つの決め手になったといわれる。テインセイン大統領は清廉潔白を実践しているような人で、贈り物すら受け取らないといわれ、その中で身ぎれいな人を連れてきたようだ。これには改革を前進させる、そしてクリーンな政治を実践するという意味があったと思う。賄賂等は、末端までなくなった訳ではないだろうが、それをなくすために下級公務員の給料を倍増させる改革も4月1日に行われている。テインセイン政権はこのほかにも、アウンサンスーチー氏や少数民族との和解を進め成果を挙げてきた。

2. 今後の政治的課題と2015年総選挙
 今後の政治的課題としては、2013年にネーピードーで「東南アジア競技大会」(SEA Games)が開催されるほか、2014年にはミャンマーが東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国になる。さらに2015年にはASEAN経済共同体が発足する予定で、地域のイベントが目白押しだ。またミャンマーでは2015年末に、総選挙が行われる。テインセイン大統領以下、何とかそれまでに国づくりを進め、立派な国にしていかなければならないという思いがひしひしと伝わってくる。政府開発援助(ODA)に絡む相談をミャンマー政府としていても、2014年末までに何とか目に見えることをしてほしいという意識が非常に強いということもよく聞かれる。
 国内でかなり急激にポジティブな改革が進められていることから、欧米の姿勢も変化している。制裁はまだ一部残っている状態だが、大幅に緩和された。欧米との関係は改善されており、国際機関、アジア開発銀行(ADB)なども事務所を開いているほか、欧米のミャンマーへの関与が強まっているようだ。その一方で、中国との関係は気になるところだ。昨年9月に、中国が進めていたカチン州におけるミッソンダムの建設計画が、突然凍結された。これについては「環境に悪い」などという理由があったものの、非常に大きい中国案件を止めたことで話題になった。このころから、中国との関係はぎくしゃくしているようだ。中国案件では、他にもいくつか止まっているものがあり、中国との関係はやや気になる。
 2015年の選挙がどうなるのかについて、私の所感をいくつか申し上げると、アウンサンスーチー氏は、とにかく国民に人気がある。逆に言えば、国民の間では、旧軍政が嫌いという思いがなかなか消えない。テインセイン大統領は実績を着実に積んでいるが、これによって国民の感情が変化するかどうかについては、非常に注目して見ている。スーチー氏やその関係者が政権をとることになった場合には、政権交代によって政治状況が不安定にならないかどうかが気になる。その場合には、日本との関係がどうなるのかということも、やや懸念される。
 スーチー氏から見れば、現在の流れはあまり嬉しくはないのではないか。テインセイン政権誕生後、国際世論は劇的に変化し、スーチー氏はやむを得ず旧軍政が敷いたレールの上に、乗らざるを得ない形になっているようにも見える。2012年4月の補欠選挙までの1年は、まさにそうした流れだったように思える。現在は、テインセイン大統領との協力関係・信頼関係が深まっているように見えるが、沸々と沸く感情もあるのではないか。また、過去、欧米はスーチー氏を支持し経済制裁も行ってきたが、日本は別の考え方に基づき対話政策的なことをしてきた。緊急人道支援に限ってはいたが、旧軍政時代もODAを継続してきた。つまり、スーチー氏には、日本が旧軍政を支援してきた国として見えている可能性もある。よって、万が一、政権が交代した場合には、日緬関係がどのようになるのかも含め、注目しているところだ。今後、日本としては、現政権を支援し、関係を深めていくと同時に、スーチー氏との関係をどう築いていくかも課題ではないだろうか。
 経済についてテインセイン大統領は、雇用を増やして所得を上げなければならない、貧困を削減しなければならないと強く思っている。今年6月には年7.7%の成長を目指すことが発表されたが、詳細はまだ発表されていない。経済分野で気になるのは、消費者物価の動向だが、非常に抑えられている。最も下がっているのは食品インデックスで、特に米や豆の価格が落ちている。現地でビジネスマンらと話をすると、意外なほど「不景気だ」という人が多く、7割近くの就労者がいる農業分野でお金がうまく回っていないのかという感じだ。一方、伸びているのはハウス・レントのインデックスで、昨今の急激な家賃の高騰を反映しているようだ。政府は不動産取得税の軽減をやめるなどの対策をとっているが、ごく一部の人たちが利益を得ているようだ。現地通貨のチャットについては、4月1日に管理変動相場制になって以降、チャット安だが、数年前と比べると依然としてチャット高の水準だ。これも食品関係、農業関係の人には、輸出を阻害することで影響を与えているのではないか。
 一方、民間企業の強化、育成等について、ミャンマー政府はかなり腐心している。その1つが民間銀行、金融機関の育成で、民間銀行に対し、2011年10月以降、外為業務を認めるなどしている。さらに2015年を目指して証券取引所の設立準備も始まっている。輸出入については、基本的には伸びているが、輸入の方がやや伸びが速い。輸入規制を少しずつ緩和していることが、影響している。また、貿易関係でも、少しずつ円滑化の動きがある。投資については11年度、日本勢で10年ぶりに、縫製業の投資が2件あった。累積額では依然として、中国の占める位置が高い。欧米については、まだ投資に踏み切ったとは聞いていないが、2012年7月の米国経済制裁大幅緩和後、ペプシやコカコーラが代理店を設置した、GEが医療器具を販売した、などのプレス発表が出されている。
 外国投資法については審議中になっていたが、先日9月7日にまとまった。テインセイン大統領は外国投資誘致に前向きで、非常にオープンなものを作ろうとしていたが、若干その揺り戻しが起き、一旦は国内産業保護色が強いものになった。それがまた多少薄まった形で、最後はまとまったと聞いている(しかしながら、その後、再度、テインセイン大統領から再審議するよう議会に要請があり、10月中旬から始まる連邦議会で議論されることになった)。他には、経済特区法でも現在、見直しが進められている。

3. 日系企業の動向と日緬関係
 日系企業の動向については、貿易だけを見ると、非常に伸びている。日本からは中古車、トラック、建機などが輸出され、ミャンマーからは衣類、履物などが輸入されている。ミャンマーは生産拠点として、また、消費市場として注目されるが、さらに資源や原料調達先としても注目される。さらに最近では、ODAが今年度以降、大幅に動くため、インフラやプラント輸出先としてもミャンマーに関心を持たれる方が増えてきた。
 生産拠点としては、基本的には人件費が目を引く。少しずつ上がってはいるが、アジアではまだ非常に低いレベルだ。日本企業の進出に関しては、縫製業以外の分野では、なかなか拡がりがない。一方、生産拠点の派生として、ITのオフショア開発先として、にわかに注目されてきたところがある。約100~200ドル程度でITエンジニアが雇え、かつ、ミャンマー人は日本語の習得能力が高いところが評価されているようだ。
 また消費市場としても、注目されるようになっている。日本から見ると、あまり市場という感じはしないが、タイやマレーシア、シンガポールでは、市場として見ている方が比較的多いと思う。ミャンマー全国的には1人当たりGDPは、850~900ドル程度とされるが、ヤンゴン地域に限れば、1700ドル程度ともいわれる。現地には、ショッピング・センターも複数できており、今年3月にオープンしたショッピング・センター(ジャンクション・スクエア)には、タイのダイソーのフランチャイズも出ている。
 ハード面の課題としては、4~7月初旬まで計画停電がなされるなど、電力の問題が大きい。また、インフラが未整備なことも課題であるが、その中で、注目されているのは、港湾・経済特区開発だろう。シットウェーは北東インド向けの港として、インドが開発している。チャオピューは、中国向けパイプラインが2本敷かれる起点となる港で、中国が開発している。またダウェーは、タイのイタルタイが行っている。このダウェーの工事がやや停滞する中で、昨年後半から注目されてきた場所がティラワだ。ティラワについては、ヤンゴンに近く、早く進めたいという声がミャンマー政府からも聞かれる。その中で日本政府は、ティラワ開発に協力すべく検討・準備を進めており、これに注目する日本企業も多いと思う。このティラワができれば日系企業の進出もしやすくなると見られるだけに、この案件についてはしばらく、注目していく必要があり、JETROとしても情報連絡会を立ち上げるなどサポートしているところである。
 日緬関係は、テインセイン大統領が来日した2012年4月以降、さらに深まっており、タスクフォース等もでき具体的な協力案件が検討・準備されている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部