平成24年度 第4回-2 アジア研究会 報告2 「最新のミャンマー情勢」時事通信社 時事総合研究所 客員研究員 山川 裕隆 (やまかわ ひろたか)【2012/10/15】

日時:2012年10月15日

テーマ「東アジアの変動と日本」

平成24年度 第4回-2 アジア研究会 報告2
「最新のミャンマー情勢」


時事通信社 時事総合研究所 客員研究員
山川 裕隆 (やまかわ ひろたか)

1. 首都ネピドーの状況
 9月下旬に日本商工会議所のミッションに同行し、初めてミャンマーを視察した。岡村正 日本商工会議所会頭をはじめ、総勢120人のメンバーで、最初にベトナムのハノイを訪問した。その後、ハノイから全日空のチャーター機でミャンマーのネピドーに入った。ネピドーの国際空港は真新しい空港で、我々が到着したとき、他の飛行機を全く見かけなかった。
 ミャンマー政府は2006年に、ヤンゴンからネピドーに遷都した。ヤンゴンからネピドーへの直行便は当初、1便しかなかったそうだが、最近になって数便増えたということだ。空港から15分ぐらいバスに乗ったが、その間の風景は私が小学生だった昭和30年代の日本の農村のようだった。その一方で、片側10車線という道路もあり、これには非常に驚いた。有事の際、戦闘機などが使用できることを念頭に造ったという話を現地の方に聞いた。我々はネピドーで一泊したが、数回の停電があり、やはり電力事情がまだ悪いという印象を受けた。ただ、自家発電機があるので、2、3分で回復した。
 ネピドーでは今、ホテルの建設ラッシュだ。東南アジアのオリンピックといわれる東南アジア競技大会が来年、ネピドーで開催される予定で、これが建設ラッシュの1つの要因だという。もう1つの要因は、2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国にミャンマーが決定されていることで、ここを中心に会議が行われるという。ネピドー市内には現在、大型のショッピングセンターが3つあり、またゴルフ場も2ヵ所ある。主に中央政府の建物があり、各省の人たちが住んでいるので、それらの人たちがゴルフ場を利用しているという。ネピドーに首都を移転した理由については、ミャンマーの中心部に位置しているからではないかと現地で聞いた。また、ミャンマーの人たちは占いが好きで、占いによってこの場所が非常に適しているということになったようだ。
 ネピドー市内の道路はアスファルトではなく、コンクリートでできている。アスファルトは輸入しなければならないので、現地で生産できるコンクリートを使用しているのではないかと思った。車はヤンゴンに比べてかなり少なかったが、おそらくあと5年ほど経つと、相当、増えると思う。

2. 賃金、家賃の急激な上昇、電力不足
 次にヤンゴンを訪問したが、ネピドーからの所要時間は飛行機で約40分だった。東京-名古屋間くらいの距離かと思う。ヤンゴンはミャンマー最大の都市で、人口は約700万人だ。ミャンマー全体の人口は、約6200万人だという。ヤンゴン郊外にあるミンガラドン工業団地を訪問した。この工業団地は三井物産が開発したが、金融危機や欧米の経済制裁などがあって、あまり企業が入らなかったため、三井物産は2006年に撤退したそうだ。現在は、ミャンマー政府とシンガポールの企業が管理・運営している。全体で41区画あり、最近のミャンマーブームによって、すべて完売したそうだ。日本企業では味の素、縫製メーカーなど5社が入居している。
 ここでは、日系の縫製工場を訪問した。ワーカーは約1200人おり、ワイシャツなどを中心に年間300万枚を生産している。すべて日本向けで、イトーヨーカ堂やAOKI、タカキューなどに卸しているという。約1200人のワーカーは女性が99%で、平均年齢は24歳と非常に若い。勤務時間は日曜日を除く毎日で、1日10時間の勤務体制になっている。賃金は残業込みで月額92ドルということで、現在のレートで日本円に換算すると月約7200円だ。社長の話によれば、今年は賃上げで非常に苦労したという。ここ数年は、毎年10%程度の賃上げをしてきたが、今年はそうはいかなかったそうだ。ミャンマーでは国家公務員の給与が倍増し、約3万チャット増えた。このため、公務員並みに給料を上げるよう求めるストライキが各地で起きた。この縫製メーカーでは、例年よりさらに10%引き上げ、今年は20%の賃上げをしたという。社長の話で非常に印象的だったのは、ミャンマーの労働者は民主化が進んだ結果、賃上げを要求すれば実現できると思っている、ということだ。今後、中国やベトナムだけではなく、ミャンマーでも賃上げを求めるストライキが多発するとなれば、進出している日本メーカーの人たちは、かなり苦労するのではないか。
 また、ミャンマーにとって大きな課題はやはり電力問題で、今年3月下旬から7月上旬は、深刻な電力不足だったそうだ。ほとんど毎日のように半日停電し、大変苦労したということだった。結局、自家発電機を使用せざるを得ず、非常にコストがかかったという。このように、ミャンマーでは今後も賃金の上昇や電力問題が大きな課題になると思う。日本貿易振興機構(JETRO)の賃金上昇調査によれば、ミャンマーの賃金は中国やタイの約5分の1だというが、この差は今後、縮まっていくと思われる。
 ヤンゴンでは最近、とにかくホテル代が高くなっているという。また、オフィスや駐在員が利用するサービスアパートの家賃も、大変な勢いで上がっていると駐在員の方々が言っていた。特に最近は、欧米からの観光客も非常に増えているそうだ。さらに日本をはじめ、韓国、欧米などのビジネスマンがミャンマー詣でをしているため、需給が非常にアンバランスになり、ホテル代が高騰しているという。昨年は1泊、シングルで75ドル程度だったが、最近は約3倍の200ドル前後になっており、今後まだ上がるのではないかということだ。オフィス代も1平米当たり月70ドル前後と高騰し、シンガポールよりも高いようなオフィスもあるという。サービスアパートについては、80平米で月3500ドルというところもあるそうだ。こうした高騰は、今後もしばらく続くと見られている。大手建設会社はネピドーに集合しており、なかなかヤンゴンにまで手が回りにくいということだった。
 ミャンマーの計画省によれば、ミャンマー国内には現在、18の工業団地があるという。そしてヤンゴンから約600キロ南方にあるダウェーが、経済特区に指定されている。このほかにヤンゴンの中心部から、20数キロ南に位置しているティラワ地区、そして西部のチャオピュー地区も、いずれ経済特区に指定されるということだ。18の工業団地については、地元の駐在員によると、インフラが十分でないところが多いという。従って、しっかり自分の目で確かめてから決める必要があるということだった。

3. ミャンマーブームにおいても慎重な対応を
 最近はミャンマーブームになっているが、やはり慎重に対応しなければいけないのではないかと感じた。ティラワは官民で開発するようだが、早くて2015年になるという。インフラ整備が遅れた場合には、さらに1~2年ずれる可能性もあると思う。一方、ミンガラドン工業団地については、これ以上、拡張する予定はないという。
 ミャンマーでは昨年、中古車の規制緩和が行われ、ヤンゴン市内では自動車販売店が増えているそうだ。また朝晩の通勤時にはかなりのラッシュがあるといい、驚いた。車は日本製がほとんどで、中古車が非常に多い。一方、ヤンゴン市内に今年3月にオープンした大型ショッピングセンターは非常に近代的で、中には日本の100円ショップ、ダイソーも入っている。我々が行ったのは平日であったが、かなりの客がいた。商品の価格は、日本円の180円に当たる1800チャットで、日本より高めだ。また、ヤンゴンに今年6月出店した富士レストランという日本料理店に入ってみた。200席あり、非常に立派なレストランだ。ミャンマーの人たちには、価格が高いレストランではないかと思うが、我々が行ったときには、かなりの客が入っていた。米国のコカコーラが約60年ぶりにミャンマーで販売を開始したそうで、ヤンゴンではコカコーラの看板も見かけた。
 今回、初めてミャンマーを訪問したが、思った以上に変化が激しいという印象を受けた。最近はミャンマーブームが起きているが、停電や賃金の急激な上昇のような問題がある。ティラワの工業団地が完成するのは早くて2015年ということで、メーカーはおそらく、そのころから工場を造り、生産を開始するのかという感じがする。その前にやはり道路や電力、橋などが必要で、メーカーはあまり急ぎ過ぎない方が良いのではないかというのが今回、ミャンマーを訪問して実感したことだ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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