第119回-2 中央ユーラシア調査会 報告2 「トルコ経済、企業の最新動向について」ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 平賀 富一(ひらが とみかず)【2012/05/30】

日時:2012年5月30日

第119回-2 中央ユーラシア調査会
報告2「トルコ経済、企業の最新動向について」


ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員
平賀 富一(ひらが とみかず)

1. 政治動向 内政・外征
平賀 富一 2011年の総選挙で、エルドアン首相率いる公正発展党(AKP)が圧勝し、2002年以来の3期目の政権担当を実現した。エルドアン氏は、共和国建国100年にあたる2023年までに先進民主主義国に入り、経済規模(GDP)で世界のトップ10に入ることを目指している。EU加盟交渉は継続中だが進展の見通しは立っていない。この点に関し、最終的なEU加盟の選択権はトルコにあるとギュル大統領は明言している。加盟はEUスタンダードの国造りという戦略的な目標には適っていることから、経済界、財閥は早期加盟を希望しているようだが、国全体としてはそれほど急いでいない様子である。既にEUとの関税同盟などがあり、実質的なメリットの多くを享受しているため、急いで加盟までしなくてもいいとの考えがあるようである。

2. 経済動向
 トルコ経済の強みとしては、この10年間でGDPが10倍になり、一人当たりGDPは1万ドルを超えた。今後も年間4~5%水準の成長が持続される見通しとしている。2040年頃まで人口増加が見込まれる。産業では製造業が発達しており、労働力も他国との比較において勤勉とされる。経済面のリスクとしては、経済が発展しても貿易赤字・経常赤字が続いていることがある。部品や製造装置を多く輸入に頼っているので国内での付加価値創造が小さいという課題があり、それを克服できなければ、いわゆる中進国の罠にはまることもありうる。また高失業率という問題もある。
 財政赤字のGDPの比率をみると、2009年末時点で、トルコが5.5%で、今話題のギリシャは13.8%である。政府累積債務のGDP比率(2010年時点)はトルコが48.1%、ギリシャは144%であり、トルコについては、EUのマーストリヒト基準の60%を下回る水準になっている。
 輸出先は多様化している。EU諸国向けの比率が減少し、中東や北アフリカ向けの比率が増えている。理由のひとつとしてはFTA展開が進んでいることが挙げられる。リビア、エジプト、シリア、イラク、アルジェリアといった国々で輸出が伸びている。トルコ企業も北アフリカなどに積極的に進出している。日本企業が北アフリカに進出する場合には、現地マーケットを熟知しているトルコ企業と組めばよいといった話も聞いた。
 GINI係数が漸減傾向を示しており、経済格差も縮小の方向に向かっている。
 次に、アジア経済との比較をしたい。
 一人当たりの名目GDPについて、シンガポール、日本が4万ドルを越えており、韓国が2万ドル水準であるが、マレーシアが8000ドル、タイが5000ドルレベルであるので、トルコの1万ドル超は相当のレベルにあることがわかる。トルコの経済規模(名目GDP)は、インドネシアと競り合う水準で世界17位である。GDP実質成長率の推移をみると、韓国、タイ、インドネシアはアジア通貨・金融危機のダメージを受け、その後に大きく回復している。トルコは2008年の世界的な危機の直後は影響を受けたものの、成長率はその後堅調に推移している。トルコは2001年の通貨危機のあと、アジア危機後の韓国・タイ・インドネシアと同じように、IMF等のコンディショナリティー遵守のための諸改革による経済構造の改善・強化の効果が現れていると考えられる。
 近年のトルコ経済の好調の背景としては、トルコの有する各種の優位点がある。立地面のメリット、コストが比較的低廉で若く勤勉な多くの労働者の存在、EUとの関税同盟、周辺地域を含めての生産拠点化などが挙げられる。また上記の通貨危機への対応による諸改革の実施や政治外交の安定などもある。トルコは、経済規模で、欧州で9位、中東ではサウジを上回り最大である。経済構造では内需が大きく中間層が増えている。平均年齢は28.5歳で、人口が7400万人と多いので、生産拠点だけではなく消費市場としても重要度を増している。多くの国で少子高齢化が進む中で、トルコはそのスピードが遅く人口ボーナスが長く享受できる国としての優位性がある。
 日本との関係では、これまで投資はそれほど多くなかったが、近時急速に増えつつある。しかし日本以上に韓国や中国の積極的な投資姿勢が目立っているとの印象である。現地で、日本企業の進出は韓国に比べ5年遅れているとの声も聞いた。投資のポイントとしては上記の労働者に関する魅力(比較的低廉なコスト、労働者の質、勤勉さ等)、各種投資インセンティブの存在などがあげられる。また、ヨーロッパ、ロシア、中央アジア、中東、北アフリカといった地域の中心に位置し戦略的に優位な立地にあり、周辺に大きな経済圏があることも重要なポイントである。2011年12月公表の国際協力銀行の調査結果によれば、日本企業の中期的投資有望国(3年程度)としては、トルコは人気が出てきてはいるが、上位に数多いアジア諸国に比べると、まだ15位である。また、長期的投資有望国(10年程度)のランキングでも上位に入っていない。
 自動車関係では、トヨタ、ホンダをはじめとして、世界の17ブランドがトルコに進出している由である。労働コストだけみれば、トルコよりももっと低廉な国があるが、2000を超えるサプライヤーや発達した物流網があり、トルコは欧州のタイとも言われている。しかし、ここでタイとの違いを考えてみたい。タイでは、裾野の広い自動車産業において、その中には日系・外資系だけでなくタイの地場部品工場など数多くあり、自国内で調達できるものも多く、貿易収支・経常収支も黒字構造になっている。しかし、トルコは多くの部品を輸入に頼っている。ベトナムとはレベルが違うと思うが、アジアで言えばベトナムのように、輸出が増えれば、輸入もそれにしたがって増えて、貿易収支や経常収支が赤字となる構造が課題になっているといえる。産業構造の高度化、高付加価値製品の製造による輸出産業を中心とした経済成長、地理的な有利さを生かした多角的経済外交を実現していくことが大切であろう。
 トルコから見た製品の印象について、日本製は品質も良いが価格も高い、韓国のサムスンやLGは、品質面で日本製とほとんど変わらないが価格は相対的に安いと認識されていると聞いた。またトルコには地場の家電有力メーカーがあり、そこそこの品質・価格のものが販売されている。中国製品は大量に入っており価格は安いが品質もそれなりの水準とのことである。

3. 日本・日本企業の課題について
 上記のとおりトルコは経済構造の転換を遂げ成長軌道にある。日本企業、日本政府としても、インフラ面も含め投資やODAなどによる関係強化に注力している。しかし、韓国のイ・ミョンバク大統領が自ら訪問したり、次期指導者である中国の習近平副主席も訪問するなど各国ともトルコに対して相当な力を入れている。
 先に述べたようにわが国の企業から見た投資有望国のランキングで、トルコはタイやインドネシアなどアジアの国々と比べて下位に位置しており、投資対応が遅れている面があるといえる。他方、欧米諸国、韓国、中国などの企業は積極的にトルコに進出しており、日本企業としても遅れるわけにはいかないだろう。中堅・中小企業は限られたリソースの中でどこに進出するかの厳しい選択をせまられるのでトルコへの投資が難しい点もあろうが、大企業の多くについては、体力的にも、アジア諸国に加えてトルコに進出することは可能と思われ積極的な投資の重要度・必要性が大きいと考えられる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部