第120回-1 中央ユーラシア調査会 報告1 「中央アジアの電力網について」慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問) 稲垣 文昭(いながき ふみあき)【2012/06/18】

日時:2012年6月18日

第120回-1 中央ユーラシア調査会
報告1「中央アジアの電力網について」


慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
稲垣 文昭(いながき ふみあき)

1. はじめに
 私の専門は中央アジアの国際関係及び水問題、特にタジキスタン、ウズベキスタンの水を巡る対立であるが、今回は水力発電に絡み中央アジアの電力網についてご報告したい。また、2012年3月26日から27日に、第5回アフガニスタン地域経済会議(RECCA V)が、タジキスタンのドゥシャンベで開催され、実務者会合に加え開催された学術者会合に参加する機会を得た。RECCA Vにおいても、中央アジアの電力網について触れられていたこともあり、本日は電力網に加えRECCA Vについても報告したい。

2. RECCA V第5回アフガニスタン地域経済会議
 RECCA Vは、アフガニスタンの安定化と南アジア・中央アジアの地域経済統合を模索する国際枠組みである。タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、イランの各国家元首(大統領)が参加した。さらにはドイツ、韓国、中国、国連、UNDPがパートナー国として名前を連ね、米国国務次官補、日本の外務政務官、フランス、EU、OSCEなど世界40カ国以上および国際機関から多数の代表団が参加した。メインテーマは、「インフラ整備を通した経済発展の達成(交通運輸)」、「人的資源開発(職業教育訓練の推進)」、「投資、貿易、移動と国境管理の推進(国家機関及び国際支援機関間の協力・協調関係の強化)」の3つであった。タジキスタンとアフガニスタン間の電力網整備に対してアメリカが資金援助する調印もなされるなど、タジキスタンにとって南アジアが重要であることを示す会議となった。

3. .中央アジアの電力系統とCAPS (Central Asia Power System)
 中央アジアの電力系統は、カザフスタン国内で3つに分かれている。カザフスタン北部はロシアと、西部はウラル地方とつながり、南部はCAPSを介して他の中央アジア諸国と縦横無尽につながっている。CAPSは、カザフスタン南部とキルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンを自由につなぐ電力系統で、1960年に完成し、ソ連の計画経済のなかで機能していた。給電指令センターはウズベキスタンに設置されていた。1991年のソ連解体後、中央アジア諸国は五カ国共同出資でそれをエネルギア(統一電力送電管理センター)に改組し、CAPSの枠組みを維持していくことになった。

中央アジアの電力供給関係
1993年にウズベキスタンの国営企業に一度改組したが、ウズベキスタンの影響力が強いことを懸念し、2002年に各国電力会社出資の非政府組織化の協議が始まり2007年に調印され、CDC エネルギアに改称して今に至っている。
 CAPSの協調関係を補填する法的基盤には、CISレベル、地域レベル、CACPC(中央アジア電力調整評議会)ならびに二カ国間レベルの3つのレベルがある。ウズベキスタンはいずれのレベルにも未調印の合意等があり、マルチなレベルでの電力供給に関して留保することが多い。理由の一つにウズベキスタンは自国内で電力供給をまかなえるシステムを作り上げつつあることがある。
 2003年には、トルクメニスタンもトルコ、イラン、アフガニスタンへの電力供給を優先しCAPSから離脱した。2009年には、ウズベキスタンがタジキスタンのログン水力発電所建設に反対し、CAPSからの離脱を表明し、タジキスタンへの送電を停止した。
 CAPSの電力取引は、1990年は総取引25,413GWhであったが、2000年には78%も減少し形骸化している。しかし5,000GWhの電力は供給され続けている。タジキスタン、キルギスはCAPSに依存しているところもあり、CAPSが機能しなくなることは死活問題につながる。

4. ロシアの電力改革の影響
 ロシアでは、1980年代より、不足から電力インフラの刷新が滞っていたが、経済が低迷していたこともあり、旧来の電力インフラで十分であった。1998年のロシア金融危機後、石油価格が高騰し、ロシア経済が好調になるとともに電力増加が見込めるようになった。一定水準の供給量を保つために、電力市場を拡大して需要家を開拓しようという発想がでてきた。そして、2000年にロシアの電力会社 UES(Unified Energy System)が、増加する電力需要に応えるため電力事業改革を提案した。民間資本を募って電力改革を進め、結果的に、発送電分離型、アングロサクソン型の電力自由化計画を進めることになった。その計画を推し進める中で、ロシアは中央アジアを含むユーラシア電力市場創出を目指すようになった。

5. カザフスタンとロシアの確執と協調
 ロシア国内は7つの電力系統に分かれているが、カザフスタンはこのうち4つの電力系統と繋がっている。ロシアが電力改革をすると周辺諸国が影響を受ける。ロシアによる電力値上げを不当として料金支払いを拒否した結果、カザフスタンの対露電力負債は1994~96年分で2億4千万ドルに達した。この負債を理由に1996年にロシアはカザフスタン北部への電力供給を停止、カザフスタン北部は電力供給が一時止まってしまった。
 カザフスタンは南部から北部への送電線網を整備して、北部の電力不足を補った。1996年にはエキバストス(Ekibastuz)第一火力発電所をアメリカのAESに運営を任せる外資導入を始めた。2000年にはカザフスタンは発送電分離を実施し、KOREMという電力市場を導入した。
 1999年頃から、ロシアはエネルギー統一圏の再創出を目的とするようになった。カザフスタンに対して、負債の代わりに発電所の権利譲渡を求め、2000年にはUESがエキバストス第二火力発電所の権益50%を負債の代わりに受け取ることで合意した。合意を受けてロシアとカザフスタンの送配電網が再接続される。カザフスタンが、CAPSと北部の送電網を整備していたこともあり、UESとCAPSも接続されることになった。
 これと平行して、世界第2位のウラン鉱石埋蔵量を誇るカザフスタンとロシアは、1998年に核燃料サイクル事業統合に合意した。2001年に、同合意の一環としてキルギスを交えてウラン鉱山開発合弁企業を設立、2006年には、カザフスタン・ロシア原子力発電所を創設、2016年稼働開始を目指しカスピ海沿岸のアクタウ市に軽水炉VBER-300(最高出力300Mw)三基を建設する計画に合意し現在建設が進んでいる。その一年後の2007年には、国際ウラン濃縮センター設置に関する協定についてナザルバイエフとプーチンの間で合意した。このように、90年代は対立していたが、カザフスタンとロシアは電力を巡り協調関係をとるようになってきている。

6. タジキスタンへのロシアの参入
 2004年6月、ロシアはタジキスタンとの間で対露債務の代償として、サングトゥーダ第一水力発電所(Sangutuda-1)への出資に合意した。出資比率は、ロシア政府が66.39%、UESが14.92%、電力輸出入企業インテルRAOが2.24%である。ロシアが大部分の資金を提供している。レオニード・ドラチェフスキーUES副社長は、同水力発電所の顧客としてタジキスタンだけではなく、イラン、パキスタン、アフガニスタンとロシアの一部が予定されている旨の発言をしており、明らかに南部、南アジアに対する電力供給にロシアが関心を示している。

7. 中央アジア・南アジア地域電力市場
 2005年、CASREM(Central Asia South Asia Regional Electricity Market)は、 ADB、EBRD、国際金融公社、イスラム開発銀行、世界銀行などの国際金融機関とともに、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタンの4カ国がキルギス、タジキスタンの水力発電所からの電力輸出に関する国際プロジェクトである。
 2007年にCASREMの主要プログラムとして合意されたCASA1000は、世界銀行とADBが5億ドルの資金援助を行い1,300Mwの高圧電力網の整備する計画である。タジキスタン側の中心的な計画であるログン水力発電所の整備、建設が鍵になっている。タジキスタンでは冬場にエネルギーが不足する。下流域国は夏場の灌漑用、農作業用に水を使いたい。そこで世界銀行は、夏場に、タジキスタン、キルギスが水力発電所を稼動させて電力を南アジアに売って外貨を獲得し、ウズベキスタン等から天然ガス等の冬場のエネルギーを確保するスキームを考えた。しかし、ウズベキスタンがログン水力発電所の建設に強固に反対して計画が止まり、現在は世界銀行のフィージビリティ・スタディの結果待ちとなっている。

8. アフガニスタン復興と米国の支援
 アフガニスタンは長期の内戦と運用上の問題により、公的な電力供給を受けているのは全国民の20%に過ぎない。アヘン、麻薬が国際的にも問題になっている。ケシ栽培の撲滅には農村部の開発が非常に重要であり、その一つの手段が軽工業の促進で、そのためには電力の安定的供給が必要になる。
 SARI/Energy (2000)は南アジアをターゲットにして、電力貿易、電力市場の創設、地域レベルでのクリーンエネルギーの促進をめざしている。中央アジアをターゲットにしているのが、REMAP(Regional Energy Market Assistance Program)で、中央アジアにおける競争的な電力市場の創出を支援していく。RESET (Regional Energy Security, Efficiency and Trade)プログラムは、REMAPを支えるサブ・プログラムであり、効果的で持続的な市場に基づく域内電力取引体制の構築、国家・地域電力インフラ及び発電設備建設のための積極的な投資、中央アジア域内及び域外との電力貿易の拡大を目的にしている。2014年以降のアフガニスタンの安定をどう保つかが課題の一つである。

9. 結論
 ロシアも米国も、中央アジアと南アジアを一体化した電力市場創設を意図している。中央アジア諸国の電力会社は、ロシア語ソフトウェアによる送配電制御を採用しており、米国が推奨する英語版のジーメンスの制御ソフトの利用は、トルクメニスタンとアフガニスタンのみである。米国がロシアの覇権を受け入れるか否か、今後の動きに注目したい。
 また、中央アジアには諸国間の対立、特にウズベキスタンとタジキスタンの対立問題がある。ADBは両国の対立を理由にCASA1000への支出を一部停止しているが、米国とロシアが支援や投資を行うかどうかが今後の課題である。
 マルチの関係構築を拒否するウズベキスタンを外して電力市場が再統合される可能性もある。タジキスタンはキルギスを経由してカザフスタンと繋がり、カザフスタンとロシアが繋がると考えると、ユーラシア同盟の枠組みで電力市場が形成され、そこにアフガニスタンがぶら下がることになる。電力網という観点で考えると、ロシアが望むような形でのユーラシア間の再統合が進みつつあるのかもしれない。それに対してタジキスタンがロシアの影響力を排除しつつどのように自国の利益を確保するか苦悩しているようである。タジキスタンは南アジアとの関係を推進していきたい意欲が見える。電力問題を通して見ると、タジキスタンなどの中央アジア諸国が大国とどう渡り合いながら予算を確保していくのかが、アフガニスタン問題の一つの鍵となるといえよう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部