第120回-2 中央ユーラシア調査会 報告2 「ウズベキスタン共和国における養蚕プロジェクトの成果と今後の課題」東京農工大学 国際センター 准教授 川端 良子(かわばた よしこ)【2012/06/18】

日時:2012年6月18日

第120回-2 中央ユーラシア調査会
報告1「ウズベキスタン共和国における
養蚕プロジェクトの成果と今後の課題」


東京農工大学 国際センター 准教授
川端 良子(かわばた よしこ)

1. はじめに
 平成21年9月1日から今年の平成24年8月31日まで、東京農工大学はJICA の草の根支援プロジェクト「ウズベキスタン共和国シルクロード農村副業復興計画-フェルガナ州における養蚕農家の生計向上モデル構築プロジェクト-」事業を受託し活動している。プロジェクトの目標は、フェルガナ州フェルガナ市、ヨズヨボン市、トシュロック市のパイロット農家グループにおいて、養蚕技術改善、副産物有効利用による農家生計向上モデルを構築することである。

2. ウズベキスタンの養蚕事情
 ウズベキスタンは、中国、インドに次ぐ世界第3位の繭生産国で、旧ソビエト連邦の養蚕の中心地で、旧ソ連時代には、遺伝学的研究が進んでいた。
 蚕のエサとなる桑の多くは、境界木、街路樹として、蚕飼料と果実の生産をかねて植栽され所々に大木も見られる。ソ連崩壊後、養蚕、製糸の技術進歩は停滞して、質、量ともに国際競争力ある生糸・絹織物は生産されていない。ソ連時代は蚕種を供給できていたが、独立後はそれもできなくなり、中国から低級蚕種を買っている。生産された繭の多くは廉価で政府に買い上げられ、農家は養蚕への期待を徐々に失いつつある。
 養蚕の繭は専売品である。フェルメル(農業共同体)が所有する桑の木の数にあった量の、蚕種が政府から配られる。生産ノルマがあり、それを超えなければ罰金が科せられる。拒否すれば農薬や肥料を回してもらえない。そのため、いやいや養蚕を行っている実情がある。しかし、養蚕は1ヶ月という短期間でできる農作物である。短い農作業期間で非常に高利益を生むので、日本もJICAを通じでアフリカなどの支援に養蚕業を移転する事業を行っている。世界2位のインドの養蚕業の発展も日本がJICAの技術供与を通じて20年ほどかけて行われ、大きな成功例として挙げられるプロジェクトでの結果である。ウズベキスタンは、世界的に有名な養蚕国の中で、唯一ソ連だったために日本の高品質の繭が生産されていない地域である。

3. プロジェクトの目標と3年間の養蚕業への技術協力の結果
 日本の養蚕体系を現地に適応させた小規模飼育に向けた蚕の改良と、特徴ある絹製品の開発を第一の目標にした。ソ連崩壊後、ウズベキスタンの農村では、失業率も高く、老人、女性の働く場が少ない。そこで、彼らの就労機会を創出し、農家の収入の安定確保を目指すこととした。綿花や米といった農作業が始まる前4月~5月の一月間で養蚕の飼育は終わるので、現金収入を得るセーフティネットとして非常に有効である。本プロジェクトは、ウズベキスタンの中でも養蚕業の一番さかんで農家の技術も高いフェルガナ州で始めることにした。並木の桑で生糸を作り、絹製品、加工品を作る。同時に、桑が老木化しているので順次伐採し、更新材を使って、桑加工品を作り現金収入を得ることを総合的に行い、副業としての養蚕業を農家の中に定着させることを目標に行った。
 3年間技術協力の結果、日本の最高品種の飼育に成功した。国際的な技術援助でこの品種を飼うことができたのはウズベキスタンが最初である。また、養蚕を行う交雑種をつくるための原種の育種にも成功した。各農家で日本産の高品質の繭を飼ったところ、収量は20~40%増加した。農家は同じ労働力で最大2割の収入増になった。しかし、日本では年に3~4回、インドでは6回養蚕するが、ウズベキスタンでは、春に1回しか行わない。そこで、秋の養蚕を試みたが、綿花の収穫のためにまく落葉剤の影響で失敗した。

4. 繭の検定結果/ウズベキスタン産と日本産の品種による飼育結果の比較
 繭の検定結果を紹介する。一年目は錦秋×鐘和を、昨年は春月×宝鐘、錦秋×鐘和をヨズヨボン市とトシロック市で飼育した。春月×宝鐘は最高の品質で大きな繭で長い糸が取れる。錦秋×鐘和の繭は小さいが、春月×宝鐘に比べ飼育が容易である。そして、ウズベキスタンの交雑種イパクチを飼育した結果と比較した。
 結果、繭格はウズベキスタン種のイパクチ1がEと4Aとなり、ヨズヨボン市で育てた日本種の、錦秋×鐘和、春月×宝鐘は最高品質の5Aとなった。トシロックで育てた繭からは1200m(0.34g)程の長さの糸がとれ、イパクチ1は短く839m(0.24g)であり、日本種の方が一つの繭からたくさん糸が取れることがわかった。また、指導員が指導したところと、指導がないところを比較すると、やはり指導があったところで一番いい繭がとれた。
 交雑種を飼うと同時に、春月、宝鐘、錦秋、鐘和の4種類の原種を持っていき、現地で交雑種を作ることも行った。今年の春には現地で作った交雑種で飼育も行った。交雑種は、春月の雌雄、春月の雌雄、宝鐘の雌雄、宝鐘の雌雄それぞれを掛け合わせて作る。日本ではまず、生まれた雌雄を分離しておきそれぞれを交雑させて交雑種を作る。しかし、ウズベキスタンの人たちは雌雄分離が正確に行えず、原種を維持する能力に未熟さがあり、交雑種が均一に作成できなかった。原種を維持するためには、さらなる技術協力が必要である。
 結果として、ウズベキスタンで飼育したウズベキスタン種と日本種の品種による飼育結果を比較すると、収量、繭の質に大きな違いが出た。ウズベキスタンの繭でも、日本で製糸した場合、最高級品ではないが縦糸として十分使用できる高品質の糸がとれた。日本種の繭を日本で製糸した場合、最高級の縦糸になる糸がとれる結果が得られた。一方で、ウズベキスタンの製糸工場で日本産の繭とウズベキスタン産の繭を糸にした場合、日本産の繭から引いた生糸のほうが品質は良かったが、両方とも縦糸として使用できる品質ではなく、いわゆるB級~C級品の糸になった。
 以上のことから、ウズベキスタンの農家の養蚕技術が高いことがわかった。少しの指導で、高品質の繭を生産する技術が農家にはある。しかしウズベキスタンの生糸技術は発展途上である。高品質の繭を生産する技術はあるが、製糸技術が追いついていないため、世界品質で販売できる生糸に達していない。

5. 伝統的な絹織物アトラス
 生糸に付加価値をつけるためには、布にして、製品を売り出すことが必要である。ウズベキスタンの伝統的な絹織物にアトラスがある。絣と同じ織り方で、縦糸を先染めして織る。女性の民族衣装に使われるカラフルな色合いの絹織物である。アトラスはシルク100%で、アドラスは縦糸がシルクで横糸がコットンになっている。これを商品にして、付加価値をつけて売るのが農家の現金収入として有効である。そこで講習会を行い、農家の人たちに、シュシュ、携帯ストラップ、ポーチ、ランチョンマット、コースターなどを作ってもらった。現地の外国人向けのお店や、成田空港、関西空港にあるJETROの世界の一村一品マーケット、JICAの地球ひろばに置いてもらい販売した。日本では、売れないことはないが、商売として成立するほどの販売量にはならなかった。やはりウズベキスタン国内で外国人向けのお土産物として成功しないと多くの数を販売できない。製品のアイデアを募集するために、日本でハンディクラフト・コンテストを開催した。ウズベキスタンの女性の自立化支援と、日本の製品の質の高さを伝えることを目的にして、著作権を辞退しウズベキスタンで製品化することに合意してくれる方の作品を募集した。布は参加費として2m買ってもらった。126名、300点の応募があった。つくばのショッピングモール、イーアスつくばで、表彰式と入賞作品展示を行った。群馬県庁で全作品を展示し、来月はウズベキスタンの平山郁夫氏の博物館キャラバン・サライで展示した後、その中から製品化をしようと考えている。

6. 今後の課題
 今後の課題として一番大きなことは、現状ではウズベキスタンで交雑種の種を自給できる体制にはならないことが挙げられる。現地に種を置いてきたが技術指導がないと品質の維持は難しい今後も自給できるようになるまで指導したいと考えている。また、桑の木の質の向上の課題がある。仕立て方を指導し、葉が大きく厚いより養蚕に適した桑の木に更新していく。さらに、世界品質基準まではいかなくても、アトラスを作るのに、糸がほつれたりすることがない程度に、製糸技術、絹製品の品質を向上させる必要がある。このフェルガナでの成功をウズベキスタン全土に普及させることも課題である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部