第121回-1 中央ユーラシア調査会 報告1 「上海協力機構はどこへ行く?:2012年北京サミットの評価と展望」防衛省 防衛研究所 主任研究官 湯浅 剛(ゆあさ たけし)【2012/07/19】

日時:2012年7月19日

第121回-1 中央ユーラシア調査会
報告1「上海協力機構はどこへ行く?:2012年北京サミットの評価と展望」


防衛省 防衛研究所 主任研究官
湯浅 剛(ゆあさ たけし)

1. 上海協力機構 (SCO)- アドバルーン的機構
湯浅 剛 2012年6月6~7日、上海協力機構の通算12回目のサミット、北京首脳会合が開催され、大統領に返り咲いたプーチンが旧ソ連以外での本格的な外交主導の第一歩として参加した。長期的平和と共同繁栄の地域創設に関するSCO首脳宣言、SCOの中期的発展戦略の主要な方向性の承認に関する首脳理事会決定など10文書が採択され、オブザーバ国、対話パートナー国として、アフガニスタンとトルコが承認された。
 なお、補足的な情報であるが、次期事務総長として元イルクーツク州知事のメゼンツェフが指名された。今までSCOの事務総長は各国の外交官が就任していたが、初めて政治家が事務総長に就いた点は注目すべきところである。
 サミットはイベントとして大成功であった。しかし、内容に関しては形骸的である印象が否めない。文書を採択してもどう実行するのか。文書の中身そのものがどれほど実効性があるのか疑問点が多い。これまで長い間、国際テロ対策がSCOの主な課題だったが、果たしてその路線のままでこの機構が存続し求心力を持ち続けられるのか。アフガニスタンは、上海協力機構あるいは加盟国にとってどのような意味を持つのか論点となるところである。

2. 制度化と加盟国の多様化
 上海協力機構の2004年当時の年間の予算規模は350~380万ドルであった。これだけの予算規模で、事務局(北京)と地域反テロ機構(Regional Anti-Terrorist Structure: RATS, タシュケント)を動かしている。その後の北京の経済状況等で少しは予算規模が増えているかもしれないが、それほど大きな変化はないだろう。透明性が低いので情報がない。定期的に行われる軍事演習に関しては、軍事演習を実施する会場になっている国、ホスト国あるいは要員を派遣する国が負担している。
 ここ数年の変化として、加盟国の多様化がある。非正規加盟国が増えた。数からいうと、正加盟国6カ国より多数派になった。ただし、議決権はない。いまや、ユーラシア(スラヴ・テュルク・モンゴル・ペルシャ)といった文化圏を包括するような地域協力の象徴的フォーラムという形を獲得したと言える。オブザーバ国、対話パートナー国は、次のとおりである。オブザーバ国(2004年:モンゴル、2005年:インド、イラン、パキスタン、2012年:アフガニスタン(2004年よりゲスト参加))、対話パートナー(2009年:ベラルーシ、スリランカ、2012年:トルコ)、ゲスト参加(トルクメニスタンなど)。準加盟の国々を含めたSCOの地理的拡大は、これで一応の区切りをつけたのではないだろうか。
 加盟国の多様化の背景をどう評価するか。アフガニスタンのオブザーバ昇格は一つの前進だったと言える。カルザイ大統領はゲスト国のステータスだった2004年以降、毎年上海協力機構のサミットには協力している。そういった意味でも、アフガニスタン自身が国としてSCOを重視していた。SCOもアフガニスタンを重視するかのような関係者の言動が出てきている。しかし、実態は伴っていない。具体的に政策を実行する組織、人員が欠如している。
 中国の国際問題の研究者等と議論をすると、必ずしも中国にとっては安全保障上に関しても経済的に関してもアフガニスタンはそれほど重要ではないということを頻繁に聞く機会に出くわした。例えばアフガニスタンにレアアースが出るといっても、中国にも類似のメタルはあり地理的に離れているのでそれほど重要ではない。安全保障に関しては、越境するテロリスト、過激主義者が中国にとって問題であったが、5年前、10年前に比べれば脅威度は低くなっている。
 さらには、トルコが対話パートナーとして参加することになった。去年の秋からロシアではいち早く報道されていた。2000年代以降、イスラム政党である公正発展党がすすめている多角的外交の成果の一つであろう。SCO加盟国の中ではやはりトルコ系の国々、特にカザフスタンについては、カザフスタンが主導しているCICA(アジア信頼情勢措置会議)の第3回サミットがイスタンブールで開催され、そういった強いつながりがある。中央アジア諸国の対外政策上重要なパートナーとして実績もあり、その分頼りになるということが言える。
 他方、イラン、インド、パキスタンは加盟国に昇格するのが阻止されている。昨年のサミットで上海協力機構の加盟申請にあたっては国連安保理による制裁を受けていないことが要件となるという取り決めがなされたので、イラン加盟は当分ありえないだろう。インド、パキスタンに関しては、それぞれ加盟国に昇格することをサポートする国はあるが、現在の加盟国の利害が一致していない状況である。
 上海協力機構の中で二国間あるいは多国間で様々な軍事演習が行われている。代表的なものが、2005年以降行われている平和のミッションである。第5回は北京サミットにあわせてタジキスタンで開催された。平和のミッションの第1回は華々しかった。IISSの数字によれば、ロシアと中国合わせて8000の要員が演習に参加したとなっている。波があるが、回を追う毎に規模が縮小されている。始めは実働演習と指揮所演習を両方やっていたが、今は実働演習だけである。タジキスタンの第5回の演習では、ウズベキスタンが直前になり参加しないことになった。ロシア国内の報道では2000という数字にとどまっている。今年4月には、平和のミッションとは別の枠組で中露が黄海で海軍演習が行った。ロシア側の参加要員の規模はどこをみても見つけられなかったが中国側は4000である。中露にとって必ずしも軍事演習は上海協力機構の枠組みを使わずとも行いたいときに行いたい場所で行うようになってきている。

3. まとめ-実働部隊なきフォーラムとしてのSCO
 上海協力機構は、実働部隊をもって行動しているのではない。加盟国が多様化したことで、安全保障を中心とした多国間の協議の場、フォーラムとして一定の機能をしている。加盟国は意見表明の場としてSCOを活用することはあっても、一枚岩となって具体的な利益を国際場裏で追求することはないのではないか。軍事演習も傾向が変わり低調になってきており、より実質的な軍事同盟には程遠い存在となっている。加盟国内の政変、暴動に対して無力であった。旧ソ連圏ではこれを集団安全保障条約機構CSTOが補完し、非対称戦への対処として、例えば麻薬密輸等に対して、実際の作戦が展開され効果を上げている。カナルという対麻薬密輸への取締りはかなり体系的になり効果を上げているようだ。CSTOの実働部隊の編成状況としては、つい最近ウズベキスタンが脱退声明を行っている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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