第123回-2 中央ユーラシア調査会 報告2 「米中露の思惑交錯するアフガニスタン・中央アジア」国際教養大学 客員教授 小田 健(おだ たけし)【2012/10/17】

日時:2012年10月17日

第123回-2 中央ユーラシア調査会
報告2「米中露の思惑交錯するアフガニスタン・中央アジア」


国際教養大学 客員教授
小田 健(おだ たけし)

 アフガニスタンに展開するISAF(国際治安支援部隊、米軍を中心とする事実上のNATO軍)が2014年末までに同国から撤収する。米中露、中央アジア諸国5カ国、さらにインド、イラン、パキスタンなどにとっても大問題である。アフガニスタン、中央アジア諸国、その周辺国を含めた一帯が不確実な未来に今直面している。大国の地政学的駆け引きも活発になるだろう。
 2014年以降のアフガニスタンの行方については、3つのシナリオが考えられる。(1)タリバンの主流派が対話に同意し、カルザイ政権の中央政府との和解に踏み出す。(2)これまで同様に、タリバンと政府軍が衝突を続ける。(3)タリバンが勢いづきアフガニスタンが内戦に陥る。今も内戦といえば内戦だがその度合いが圧倒的に強まり、カブールが陥落する。
 米軍とNATO軍が撤収した後のアフガニスタンが安定に向かうことは考えにくい。タリバンとその周辺のムジャヒディン(イスラム聖戦士)勢力が一気に攻め込んで、短期間にカルザイ政権を倒す可能性はこれまでの経緯から見ても低い。しかし、いずれそうなるという見方も有力である。カルザイ政権は汚職にまみれ、内外で評判が悪い。
 アフガニスタン情勢の不安定化が進んだ場合に周辺国が心配しているのは、イスラム過激派の勢力拡大と麻薬の流入増である。中央アジア諸国だけでなく、周辺のロシア、中国、そして米国にも共通する懸念である。しかし、共通の利害をもちながらも、米露中はそれぞれの思惑で動いている。例えば、ロシアと中国は対米牽制で一致するが、ロシアはNATO軍の撤収をソ連崩壊で失った影響力を高める好機と捉えている。プーチン大統領が去年11月に発表したユーラシア同盟構想にはそうした思惑が窺えるし、さらには中国の影響力の拡大への牽制も垣間見える。最近ロシアはパキスタンにも接近し始めた。
 中国は以前からこの地域一帯で石油、天然ガスといった資源確保に積極的だ。すでに旧ソ連の中央アジア諸国だけではなく、アフガニスタンでも具体的な動きを示している。中国の動きがロシアの勢力拡大とどう調整されるのかが、今後の焦点の一つである。
 NATO軍が撤収すれば、アフガニスタンとその周辺における米国の影響力は当然弱まる。米国は今、中央アジア外交を練り直し、さらにはインドとの関係改善へ一段の努力を払っている。当の中央アジア諸国はこうした大国の競争をうまく利用して、時に接近、時に距離を置いて自国の利益を高めようとしている。インドとパキスタンも撤収後のアフガニスタンで影響力の拡大を狙っている。

撤収後も一定の関与を続ける米国
 アフガニスタン戦争における米軍の死者は2012年9月末の時点で2,000人に達した。ほかのNATO諸国の軍隊を含めると3,000人以上が死亡している。NATO軍が撤退するといってもアフガニスタンから完全に撤退するわけではない。2014年以降もアフガニスタン軍や警察の養成などに積極的に関与することを決めている。オバマ大統領は2012年5月、カルザイ大統領との間で戦略的パートナーシップ協定に調印し、2014年以降の関与を約束した。米軍は一言で言うと、多大の犠牲を払いながらもアフガニスタンを安定させるという十分な成果をあげられないままで撤収する。当然、アフガニスタンへの影響力は小さくなるが、無責任にアフガニスタンを放棄するわけにも行かないし、その周辺の地政学的重要性も高まっており、米国は撤収後も一定の関与を続けるだろう。米軍はアフガニスタン軍のアドバイザーあるいは養成要員として2万人規模の米兵を残す可能性があるとの情報もある。また中央アジア諸国にも一定規模の米兵を駐留させ、アフガニスタンでの緊急事態に対応する可能性もある。
 米国・NATO諸国は撤収をにらんで、中央アジア諸国やロシアを通過するNDN(the Northern Distribution Network、北方輸送網)の整備を進めてきた。パキスタンとの関係がギクシャクしてカラチ経由でアフガニスタンにつながるルートが止められたことがあるし、このルートでは物資の盗難も起きるといった問題があり、新たな輸送経路を開拓した。米軍は従来、パキスタン経由の2つのルートでアフガニスタンに物資を運び込んでいたが、今後2014年にかけては、逆にアフガニスタンから物資や兵員を運び出さなければならず、それにNDNを使う。
 米国はタリバンと和平の可能性を探るため水面下で接触してきたが、捕虜の交換をめぐり対立、今年2月頃の接触を最後に決裂状態にあるようだ。タリバンとの交渉が前進すれば、アフガニスタン情勢は落ち着く方向に動くだろうが、現状ではその見通しはない。
 米国がアフガニスタン・中央アジアを戦略的に重視する理由は、国務省の説明によると、第一に、西側諸国の安全保障のためである。アルカイダとその関連組織の壊滅をめざし、一帯がテロリズムの温床にならないことをめざす。第二に、資源の供給源としても貴重であるからだ。その輸送経路も確保しなければならない。第三に、麻薬の密輸阻止という動機がある。アフガニスタンのケシの栽培がいかに盛んであるかは明らかで、国連の監視組織UNODCによると、去年の生産量は前年比61%増えた。麻薬対策はなかなか成果を上げられないでいる。国務省の説明にはないが、一帯がロシアや中国の影響圏に完全に組み込まれないようにするという理由もあろう。

緩衝地帯確保に必死のロシア
 ロシアにとって中央アジア諸国はイスラム世界からの緩衝地帯だ。ロシア国内の北コーカサス地方を中心にイスラム過激派による活動が活発になっているという事情もあり、ロシアはイスラム過激派の浸透を強く警戒している。中央アジアはエネルギー・経済の取引相手としても重要な地域である。ロシアはこの地域への米国、中国の影響力の拡大を抑えるためにも積極的に関与していくだろう。こうした観点からロシアはアフガニスタンにも強い関心を持っている。しかし、ロシアが再びアフガニスタンに軍事的に関与する可能性はない。1979-88年の軍事介入で手痛い失敗を蒙ったし、今の軍事ドクトリン、外交方針から判断してもそう判断できる。
 ロシアのこの地域への対応で興味深いのは、NATO軍の撤収を懸念していることである。ロシアは、NATOを自国の安全保障に対する脅威の一つであると表明しているが、その一方で、米軍を中心とするNATO軍のアフガニスタン作戦には協力してきた。
 中央アジア諸国にはイスラム過激派の浸透を許さない安定した体制を取ってほしいが、ロシアへの依存は続けてもらいたい――これがロシアの中央アジア外交の基本戦略である。ロシアは、中央アジアで支配的なパワーであり続けると同時に、アフガニスタンからの脅威をロシアの国境から遠いところで止めたいと考えている。
 ロシアが中央アジアに影響力行使する際の梃子の一つは、経済関係だ。特にこれら諸国から大勢の出稼ぎ労働者を受け入れていることが大きな意味を持つ。中央アジア諸国からロシアへは、天然ガスと石油のパイプラインが延びており、ロシアは中央アジア諸国のエネルギーの重要な輸出先だ。ロシアは自らが主導して2010年にベラルーシ、カザフスタンと3カ国関税同盟を発足させた。将来はほかの中央アジア諸国を含め欧州連合(EU)に似た「ユーラシア同盟」の設立をめざしている。だが、各国にロシアべったりになることへの警戒感も強く、ロシアによる旧ソ連圏(バルト三国は対象外)の統合は茨の道だ。
 次に、軍事協力という梃子がある。ロシアは中央アジア諸国も加盟するCSTO(集団安全保障条約機構、現在ロシアなど6カ国が加盟)を主導し、タジキスタンとキルギスタンに軍事基地も持っている。CSTO諸国には安い価格で兵器を提供している。ただし、CSTOが軍事同盟組織として機能していないという実態もある。ロシアがCSTOを再構築できるのかどうかを注視したい。今年6月にはウズベキスタンがCSTO加盟国の地位を停止すると発表した。事実上の脱退とも受けとめられる。キルギスタンとタジキスタンは今年、相次いでロシア軍による基地の使用契約の延長に合意したが、交渉がまとまるまでには厳しい条件闘争があった。すんなりとロシアの要求を受け入れたわけではない。
 ロシアのパキスタン接近の動きにも注目したい。プーチン大統領が10月にパキスタンを訪問する予定だったが直前に中止された。腰を痛めていることが理由と思われる。代わりにラブロフ外相が訪問した。その後、パキスタンの軍の最高実力者、カヤニ陸軍参謀総長が10月初めにモスクワを訪問している。インドの反応が注目されるところだ。

旧ソ連諸国の主な地域組織と加盟状況(2012年10月現在)

新疆への影響を警戒する中国
 中国は、NATO軍のアフガニスタン撤収が新疆ウイグル自治区の分離独立運動に与える影響を警戒している。新疆にはトルコ系ムスリムのウイグル人が約900万人いて中国の支配に反発する空気が強い。その新疆はアフガニスタンとも国境を接する。アフガニスタン北東のバダクシャン州に400kmに及ぶワハン回廊という地域がある。タジキスタンとパキスタンに囲まれた一帯で、ここと新疆が接する。新疆には外からの勢力が入りやすい地理的条件がある。
 中国はアフガニスタンがタリバンに支配された場合、東トルキスタン・イスラム運動という分離独立運動組織に避難場所を与え、アフガニスタン国内での訓練を認めることを心配している。中国は、アフガニスタンでの米欧側の勝利もイスラム過激派の勝利も、米軍基地の常設も新疆ウイグル分離運動の訓練基地常設も望んでいない。
 治安・情報担当の周永康常務委員が2012年9月、アフガニスタンを訪問した。46年ぶりの常務委員訪問だったという。テロリストの動向や国境警備について話し合ったと言われている。だが、中国は外国への非介入政策を掲げているので、中国軍が表立ってアフガニスタンに関与するようなことはないだろう。
 中国は中央アジア諸国で資源開発を進めていることはよく知られているが、すでにアフガニスタンでも経済利権の確保に動いている。中国企業がカブール近郊で巨大な銅山を開発中で、2015年の生産開始をめざしている。石油・天然ガス開発にも着手している。中国企業の積極的な関与が目立つ。

パワーゲームを利用する中央アジア諸国
 中央アジア諸国はアフガニスタンと国境を接しているので、アフガニスタン情勢の影響を直に受けやすい。イスラム過激派の浸透、そして麻薬の流入を強く懸念している。このため、中央アジア諸国は米軍・NATO軍にアフガニスタンへの輸送ルートを提供し、協力してきた。さらにキルギスタンは米軍にマナス基地を提供、ウズベキスタンもかつては米軍に基地を提供していた。中央アジア諸国はNATO軍の作戦を基本的に支持している。
 NATO軍の撤収後も米軍などに基本的には協力を続けるだろう。だが、中央アジア諸国の対米欧接近はロシアや中国との離反を意味しない。中央アジア諸国は基本的に多方面外交を展開しており、ロシア、米国、中国といった大国のパワーゲームを上手に利用して自国の利益を得たいと考えている。
 アフガニスタン情勢とは別に中央アジアの不安要因として、フェルガナ渓谷での新たな民族紛争の可能性と、水資源を巡る対立の可能性を指摘しておきたい。フェルガナ渓谷はキルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタンが国境を接する地域で、これまでも民族衝突が起きている。中央アジアではアム・ダリヤとシル・ダリヤという二つの川が主要な水資源で、この二つの川の上流にタジキスタンとキルギスタンが位置する。この両国でダム建設計画が動きだそうとしている。ダムが完成するとこの二カ国が水資源の管理を牛耳ることになるため、下流のウズベキスタンのカリモフ大統領は強い調子で警告している。

鍵握るパキスタン
 米軍を中心とするNATO軍のアフガニスタン作戦にとってパキスタンは極めて重要な協力国。しかし、パキスタンの軍と特殊情報機関のISI(Inter-Service Intelligence)は米国を信用していない。パキスタンはアフガニスタン情勢に今後も大きな役割を果たす。パキスタンはアフガン・タリバンとその関連組織の避難地になっている。パキスタンの対応が注目される。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部