平成24年度 国際情勢講演会 「平成24年度の通商戦略」 経済産業省 大臣官房審議官 五嶋 賢二【2012/04/19】

講演日時:2012年4月19日 於:東海大学校友会館

平成24年度 国際情勢講演会
「平成24年度の通商戦略」


経済産業省 大臣官房審議官
五嶋 賢二

1.空洞化の進展と EPAの必要性
 世界経済は2008年のリーマン・ショック以降、かなりの変化があったと思う。各国において、市場経済であっても国の役割が大きくなった。また、BRICsなど新興国の重要性が増している。また、資源制約、環境制約について、より考慮が必要になっている。そして、企業の海外展開に対応した新たな成長戦略及び国際的産業政策が不可欠である。
 国内では製造業の事業所や雇用が減り、空洞化が進んでいるが、特に韓国との間で厳しい競争状態にある。日本はこれまで13件の経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)を結んでいるが、韓国は10件である。しかし、貿易量全体に占めるFTA下での貿易の割合を見ると、日本は低いのが実状であり、様々な政策が必要となる中で、今後さらに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を含むEPA、FTA等を進めていく必要がある。EPAについては、ペルーやインドとの間で新たに発効したほか、カナダ、モンゴルとの交渉開始が決定している。
 TPPについては、交渉参加に向けて、関係国との協議を開始している。特に米国、欧州連合(EU)、中国のような大規模な市場を持つ国や地域との経済連携を、早期に進める必要がある。この三大市場は世界の国内総生産(GDP)の約6割を占め、成長率も非常に高い。これらの市場との経済連携でも、実は韓国が先行している。
 TPPでは昨年11月、ホノルルにおけるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で、野田佳彦総理が交渉参加に向けた協議開始への意思を表明した。各国はホノルルでTPPの輪郭、大枠について合意し、今年中に協定を完成させようとしているが、分野が大変広いため、簡単には交渉が進まない。日本のほか、カナダやメキシコも参加を表明しており、フィリピンやタイなども関心を持っている。経済連携についてはまた、様々な国や地域との協議を進めることで、相乗効果を上げていくことも必要だ。

今後の主な日程
 今年予定されている重要な通商協議、交渉としては、5月の連休中にワシントンで日米首脳会談が行われるほか、5月18、19日にやはりワシントンで、G8のサミットも行われる。また北京では5月に、日中韓首脳会談も行われる予定だ。そして6月にはメキシコで、G20サミットが開かれる。さらに9月8、9日にはウラジオストックでAPEC首脳会議が、11月には東アジア・サミットがあり、これはカンボジアが議長国なのでプノンペンで開かれると思う。この間、日EU首脳会談も予定されている。

農林漁業の再生
 通商政策との関連では、農業の問題がある。農業は日本にとって重要な産業であり、しっかり強化していかなければならない。これは喫緊の課題だ。海外のマーケットでは、品質が高い日本の優れた農産品を買ってもらえる余地が、まだまだある。昨年夏には、農林水産省で「我が国の食と農林漁業の再生のための中間提言」が作成された。経済連携等を念頭に置きながら日本の農林漁業を強化し、地域を発展させていこうとしている。また昨年秋の農林水産省における組織改正では、食糧産業局が発足した。農林水産省の中で、「産業」という名前が付いた組織ができたのは初めてだと思う。経済産業省も農林水産省と連携をとって、このような動きを支援していく。

2.日本企業の海外進出
 日本の高齢化が一層進展する中で、一人あたりの生産性の向上が必須である。これを同じ高齢化社会をたどるドイツと比較すると人口の伸び率は同じ傾向にあるが、ドイツ1人当たりGDPの伸び率の推移をみると、特に2006年以降は日本はドイツを下回っており、まだ伸ばせる余地があると思う。日本の海外直接投資についても、まだ伸ばしていける。2008年から2009年には、日本の税制が変わり、2009年度からは外国子会社配当益金不算入制度が適用された。これは、外国の配当に対して外国で税金を払った場合、日本で再度、税金を払う必要はないという制度だ。この制度が導入された結果、各企業から国内に還流する配当金の比率が上昇した。これによって、海外に進出して行った様々な活動の収益が、日本に戻って還元される、あるいは研究開発投資に向かうという流れができつつある。今後は還流障壁の除去および我が国における投資機会の増大が課題であり、円高への対応策として、資金繰りの支援や中小企業の海外展開支援なども進めていく。

3.地域通商政策の展開
 東アジアでは、メコン地域で日・メコン経済産業協力を進めている。またインドでは、デリー-ムンバイ間に貨物鉄道を敷設し、その周囲に工業団地や工場を整備するという大きな構想もある。さらにインド南部では、チェンナイ、バンガロールで日本企業の産業集積が厚くなりつつある。日本から様々な物資をベトナムまで持っていき、そこからプノンペン、バンコク、さらにはミャンマーに入り、ダウェイから海を渡ってチェンナイ、そしてインドのシリコンバレーといわれるバンガロールまで運べるようにする。このような発想で、各国と協力して道路、港湾、電力などを整備していく。一方、インドネシアもアジアの非常に大きな国で、G20のメンバーでもある。インドネシアでは、道路や港湾の整備などに関して様々な課題があるため、経済回廊の整備などによって支援していく。
 タイについては日本の産業の一大集積地、サプライ・チェーンの中心となっている。昨年の洪水では大きな被害があったが、このような経験を踏まえ、タイ政府でも洪水対策、治水対策を進めようとしている。日本政府としては、洪水、震災対策をあわせたセミナーを開くなどし、タイの方々と議論しながら支援していく。さらに、ミャンマーへの支援も重要な課題で、日本政府としては、民主化の流れが逆行しないよう様々なサポートを行う。今年1月には枝野幸男経済産業相がミャンマーを訪問し、インフラ支援、ビジネス環境整備、資源・エネルギー利用支援について合意している。
 中東、北アフリカ地域も、石油関係などに限らず、今後重要になっていく。トップ外交が重要で、従来から行ってきた日アラブ・経済フォーラムについては今年12月に東京で第3回の会合を開く。これらの地域では、インフラ整備での協力も期待されている。あわせてロシアとのトップ外交も重要であり、今年6月にはロシアでの投資フォーラムを予定している。また、APECの議長がロシアであることから、6月4日、5日にはカザンで貿易大臣会合が開かれる。ロシアでは特に極東を中心に、インフラ需要など様々な市場のポテンシャルがあり、これらに関する議論も進めていきたい。
 また、様々な議論がある中で、各国の政策の中に隠れた保護主義も表れており、このような点も考慮しながらFTA、EPAを進め、日本企業の海外展開を支援していく。そして、アジア等の主要な国々との様々な課題を解決できるよう努力していくというのが、今年度の通商政策の主な点だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部