平成24年度 国際情勢講演会 「北朝鮮新体制を巡る動向」 関西学院大学 国際学部国際学科教授 平岩 俊司【2012/05/28】

講演日時:2012年5月28日 於:東海大学校友会館

平成24年度 国際情勢講演会
「北朝鮮新体制を巡る動向」


関西学院大学 国際学部国際学科教授
平岩 俊司

1. 金正日急逝と金正恩政権の出帆
昨年12月、北朝鮮の最高権力者であった金正日(キム・ジョンイル)総書記が急逝し、現在までの半年も経っていないような短期間で、ポスト金正日の政治体制の後継事業が完了した。後継者問題は、金正日総書記が生きている間から取り沙汰されていたが、本格的に具体化したのは2009年初頭だといわれる。その以前08年9月の北朝鮮建国60周年のパレードに最高指導者の金正日総書記が出席せず、国外から多数の医療団が北朝鮮を訪問したという情報等による健康問題がある。同年11月頃には、金正日総書記は復活し、その頃、韓国の情報機関が三男の金正恩(キム・ジョンウン)氏が後継者に決定したとの情報をつかみ、09年初頭に韓国の報道機関によって報道されている。
その後、金正恩氏が公式デビューしたのは、2010年9月の党代表者会だった。本来、共産圏の国というのは党が中心であるが、党大会や党の中央委員会は1980年から開催されておらず党はほとんど形骸化し、2009年4月の第12期最高人民会議では、1998年憲法の修正によって国防委員会の権限が明確化され、すべての権力が国防委員会に集中する体制になった。したがって多くの専門家は、後継問題も国防委員会の枠組みの中で起きると考えた。しかし、実際は党代表者会での党の軍事委員会副委員長就任で表舞台に登場した。この金正恩氏が公式デビューするまでに行われてきたことというのは、もちろん金正恩氏を後継者として準備するということではあったが、それ以上に、金正日総書記が自分の体制を、再整備するというプロセスだったのだろうと私は解釈している。金正日総書記を中心とする党を再編し、その中に後継者としての金正恩氏を明確な形で組み込み、先軍政治の中で党の中央軍事委員会の副委員長という新たに設けたポストに就けたというのが、おそらく金正日総書記が生きている間に行われていた金正恩氏のデビュー、そして金正恩後継の準備という意味だったのだと思う。
そのような中、金正日総書記が昨年12月に急逝した。金正日総書記の死亡については当初、韓国の諜報機関もつかみきれていなかったという。そして急遽、金正恩体制がスタートした。28歳の若者が突然、最高指導者になったので、北朝鮮は当面、いわゆる集団指導体制で乗り切らざるを得ないだろうと思う。集団指導体制と言っても、金日成、金正日とつながるシンボルとして金正恩氏を祭り上げ、その下に実質的な判断を行う党と軍の有力者である長老たちのグループがあると考えるべきだろう。

2. 米朝合意と人工衛星発射実験
対外的な行動では、新たな体制でこれまでのところ、何か大きな決断がされたことはないと思う。人工衛星発射実験や核実験も、ある意味、金正日総書記が生きていた間にレールが敷かれていた。金正恩体制は、金正日総書記の意向、影響力を最大限に利用しようとした体制で、その正統性は金日成、金正日を継承することにある。このため、よく「遺訓政治」といわれる。
そこで注目されたのが、4月11日の党代表者会と、4月13日の最高人民会議だ。我々が非常に驚いたのは、まず党代表者会の段階で、金正日総書記が「永遠の総書記」となり、総書記が欠番になったことだ。そして金正恩氏自身は、「第一書記」という新たなポストに就いた。その後、さらに国防委員長も欠番にして「永遠の国防委員長」とし、金正恩氏は「国防第一委員長」という新たなポストに就任した。
金日成が死んだとき、金正日は父親の「国家主席」のポストを欠番にし、国防委員会という別の組織を権力の中枢に据えて、その長として君臨した。しかし金正恩氏は、同じ組織に欠番を設け、ある種、金正日と自分が一体であるということを前提に、権威付けしようとしている。これは、「遺訓政治」を制度化したような形だ。
現在の北朝鮮の対外姿勢を見る場合、2つの大きな見方がある。1つは、北朝鮮内部が権力闘争によって混乱しているからこそ、一方で米朝合意をし、直後にミサイル発射実験を予告するような、混乱した対外政策になっているという見方がある。一方、国内に権力闘争はあっても、金正恩氏を中心とする体制そのものを支える核心に大きな変化はなく、むしろ彼らなりのロジックでやっていることが国際社会には受け入れられないという考え方もあろうかと思う。私自身はもちろん、北朝鮮国内に全く権力闘争がないと見ている訳ではないが、むしろ後者の見方をとっている。
今年2月29日には米朝合意が行われ、北朝鮮の挑発行為は収まるかと思われた。北朝鮮は核関連、とりわけウラン濃縮タイプの核活動を制限し、その見返りとして米国が24万トンの栄養補助食品を提供することになった。さらに、米朝合意が行われている間、北朝鮮はミサイル発射も中断するということだった。ただし、米朝がそれぞれ発表した内容には、違いも生じていた。米国は北朝鮮が中断する核活動の中に、いわゆる「プルトニウム・タイプ」も含まれるとしたが、北朝鮮はこれには言及しないとしていた。そして3月16日、北朝鮮は光明星3号、銀河3号の発射を予告する。北朝鮮の主張では、これは平和目的の宇宙開発なので、米朝合意にも抵触しない。このミサイル発射実験は明らかに、米国の姿勢を試すようなもので、「発射するのは人工衛星で、信頼関係があれば、米国がこれをミサイルと言うはずがない」というのが彼らなりのロジックだ。
北朝鮮はこれまで何度かミサイル発射実験をしており、それに対して度々、国連安保理決議が採択されてきた。2009年5月になされた安保理決議1874は、従来の決議より強化され、「弾道ミサイル技術を利用したあらゆる発射実験」について、国連決議違反であるとした。つまり、北朝鮮が行ったものが、人工衛星であろうがミサイルであろうが、国連決議違反であるというロジックを国際社会は準備した。しかし、今回の米朝合意における問題は、この1874のように、「弾道ミサイル技術を利用したあらゆる発射実験」に関する合意をしなかったことだ。ただ、北朝鮮自身は「我々は国連決議を受け入れておらず、宇宙開発は国家主権で、国連決議ごときに制限されるものではない」というロジックをとっている。
北朝鮮はミサイル発射実験、彼らの言う人工衛星発射実験を行うが、失敗する。国連は議長声明で厳しく対応し、米国も「米朝合意違反」という立場をとって、24万トンの栄養補助食品の支援も中断する。そうなると、北朝鮮のロジックでは「米国が米朝合意を反故にしたので、米朝合意のウラン濃縮、核実験、弾道ミサイル発射実験の凍結に拘束されることはない」となる。しかし、少なくとも今の段階では核実験、ミサイル発射実験は行っておらず、この背景には米朝交渉が首の皮1枚かもしれないが、依然としてつながっていることがあるのだと思う。したがって、北朝鮮に次の口実を与えてはならず、その口実とは国際社会が北朝鮮に対し、北朝鮮側から見て「不当な圧力をかけてきた」というときだ。具体的に言えば、国連と米国の動きが重要になる。

3. 今後の米朝協議の行方、日韓の立場
米朝協議が現在もつながっているならば、北朝鮮としては、まだ次の一手を切るタイミングではないと判断しているという気がする。ただ、米国では今年、大統領選が行われるため、あまりにも弱腰な対応はマイナスになる。このためオバマ政権は、一方で厳しい姿勢を見せながら、他方で北朝鮮に次の核実験、ミサイル発射実験の口実を与えないやり方をするという非常に難しいゲームを強いられているという気がする。
日本や韓国は残念ながら、この大きなゲームでは少し脇にある。中国は、米国と北朝鮮の仲介者として両者を取り持ち、何とかコントロールしているため、韓国や日本が別の形で関与すれば、ゲームがより複雑になってしまうという判断があるのではないか。このため、日本や韓国は米国を軸とした日米韓の枠組みにおいて、国益が反映されるよう働きかけていく必要があると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部