平成24年度 国際情勢講演会 「日・タイ協力でアセアンの未来を拓く~TPA-TNIの事例~」 泰日経済技術振興協会(TPA)会長 プラユーン・シオワッタナー【2012/10/04】

講演日時:2012年10月4日
於:東海大学校友会館
協力:嘉悦大学、(社)日・タイ経済協力協会

平成24年度 国際情勢講演会
「日・タイ協力でアセアンの未来を拓く~TPA-TNIの事例~」


泰日経済技術振興協会(TPA)会長
プラユーン・シオワッタナー

 本日は3つの話をしたいと考えている。最初はASEAN経済共同体(AEC)の形成とその後の魅力、秘める可能性を簡単にお話ししたい。次に日・タイ経済協力協会 (JTECS)と泰日経済技術振興協会(TPA)の40年間にわたる協力、これが顔の見える日本の協力だということ。最後に、この日タイ協力、特にJTECSとTPAがこれからの東南アジア諸国連合(ASEAN)でどのように展開できるか、日本の1つの成長戦略としてASEANとどのように付き合うかを1つの重要な要素としてテーマを皆さんと考えてみたい。

ASEAN経済共同体の可能性と魅力
 今後の日本の成長戦略において、東南アジア諸国連合(ASEAN)とどのように付き合っていくかは、1つの重要な要素になるのではないか。ASEANはミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア、タイ、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、シンガポールの10ヵ国からなり、2015年にはASEAN経済共同体(AEC)を構築するという取り決めがなされた。
 なぜASEAN経済共同体が必要であるかというと、まず各国の規模が大きくないということがある。インドネシア以外はほとんどが中小国で、グローバル化の中で競争力を発揮するのは難しい。このため各国が団結し、共同体として互いに良いところのマッチングを行い、安定的、かつ豊かで競争力の高い経済圏を構築するというのが、ASEAN経済共同体のビジョンだ。これによって6億人規模の市場が誕生し、中国ほどではないが、米国やEUに匹敵する規模になる。また、外国からASEAN経済共同体に投資をすれば、他の国々へ輸出しても原則的に関税はゼロだ。
 単一市場と生産基地が完成すると、物品やサービス、投資、資本、そして熟練労働者の移動が可能になる。域内の移動では、ビザは必要なくなる。そうなれば英語の重要性がさらに高まるため、タイでは近年、英語ブームが起きている。日本も今後、他のアジア諸国とコミュニケーションしていくために、英語という1つの大きな武器を持つ必要があるだろう。ASEAN域内ではまた、いくつもの大規模な投資計画がある。「ブルネイ行動計画」は、2010年のブルネイ会議で採択された陸空海上の運輸戦略で、ASEAN10ヵ国の中では地理的にタイが中心になっている。これに基づき、ASEANの南北、東西を結ぶ高速道路や高速鉄道などが造られる予定だ。
 ASEAN経済共同体の可能性と魅力についてまとめると、第1に、健全かつ成長する6億人の市場がある。ASEANの国々はいずれも発展途上国なので、EUや北米自由貿易協定(NAFTA)のような同規模の地域と比べ、今後も急速に成長していくだろう。第2に、ASEANには豊かな労働力があり、比較的安い賃金も投資家にとって魅力だ。さらに、石油や天然ガス、錫、海洋資源、木材のような資源が豊富で、これらの多くはまだ開発されていない。最後に、インドや太平洋、そして中国南部とマレーシア、シンガポールをつなげるロジスティックも非常に魅力だと思う。ただし、ASEANを競争力のある経済地域にするには、世界レベルの生産技術も必要だ。日本は省エネ技術をはじめ、食品技術や発酵技術、精密技術、ロボット技術、素材技術、生産技術、ジャスト・イン・タイムなど、世界に誇れる様々な技術を持っている。それらの技術をASEANで活かし、ASEANの国々と共に競争力のある地域を作っていただきたい、というのが私の願望だ。

TPAの活動
 日本の優秀な生産技術や生産管理、経営管理技術などを39年以上にわたって、タイの産業界で働いている人たちに移転し、協力を行ってきた協会がある。それは日・タイ経済協力協会(JTECS)と泰日経済技術振興協会(TPA)だ。TPAはまた、2006年に泰日工業大学(TNI)を設立した。この大学には、工学部、情報工学部、経営工学という3つの学部、そして10の専攻コースがある。他のタイの大学と差別化するため、「ものづくり」をベースとし、現場を重視した教育を行っている。初年度の2007年度には、新入生の数は400人程度であったが、その後は順調に増え、現在は毎年約1000人の新入生がいる。全体の学生数は約4000人で、2011年度の卒業生は、学部で508人、修士課程で51人の計559人だった。ちなみに、卒業生の就職率は100%だ。バンコクの日本人商工会議所は奨学金を出して学生を支援してくださり、また日本の企業からは設備も寄贈していただいた。さらに、日本で行われている「ものづくりコンテスト」への学生の派遣なども行っている。
 新しい大学であるにもかかわらず、卒業生の就職率が100%になっているのは、TPAの長い歴史、信頼関係、ネットワークという基盤の上に育った大学であるためだ。TPAは1973年1月に、当時の通産省の補助金を得て設立され、来年で40周年を迎える。非営利団体で、日本の元留学生や元研修生が中心になって運営している。しかし、TPAは開かれた組織であり、その目標やビジョンに共感するタイ人は、誰でも入ることができる。その目的はタイ企業の競争力強化で、そのために人材育成を行っている。技術移転は重要だが、人と人との関係を良くすることも必要だ。このため、異なる文化や価値観への理解を深め、互いの言語も学べるよう、セミナーなどを行っている。そしてタイの技術者に日本語を教え、日本人の技術者や経営者にタイ語を教えている。またTPAでは2008年以降、自らの事業収入のみで活動を行っている。
 TPAには3つの事業がある。1つ目はセミナーと教育で、2つ目は語学と出版事業、3つめは測定標準の校正だ。語学コースは設立以来累計1万5000コース実施し、受講者数は既に約20万人となっている。TPAが自らタイ語や日本語の教科書を作り、販売している。また出版事業の中心的な活動は、日本の優れた技術書をタイ語に翻訳して出版し、技術者に販売することだ。また雑誌も発行しており、そこでは日本やタイの事例を紹介し、勉強に役立ててもらっている。さらに毎月発行している協会の雑誌では、松下幸之助など、日本の経営者や管理職の方の紹介も行っている。出版事業ではこれまで700タイトル以上の本を出版しており、全体で700万部近くを販売した。最後に測定標準の校正は、製造業の品質管理において欠かせないものだ。毎年、タイ国内各地の3000社以上から約4万個の測定器が届き、TPAで校正して返却している。測定器の校正サービスはタイ国内で最大規模になっており、全体の約3分の1を占めている。TPAが今日まで育ってきた背景にある重要な原動力は、2つの大原則だ。これは設立者であるタイのソンマーイ・フントラクーン先生と、日本の穂積五一先生が決めたもので、1つ目は、お金は出すが口は出さないという原則だ。これについて私は、大変すごい決断であったと思う。そして、もう1つの原則は窓口の一本化だ。
 TPAは、人間の絆、人間の関係、人間の信頼性によって運営されてきた。私を含め、かつて文部省の留学生として日本へ留学した人たちが親密な友人となり、絆を作ってきた。そして教育や人材育成が社会、経済発展の重要な要素だという共通の認識を、皆が持ってきた。私たちは日本で勉強をしただけでなく、その規律や勤勉さも学んだ。時には先生に叱られて、私に言わせれば、「タイ式の侍」が作り上げられた。それらの人たちがタイへ帰国した後、TPAを設立し、国の発展にも貢献してきた。TPAが現在のような組織に成長できたのは、経済産業省をはじめ、文部科学省やアジア学生文化協会、海外技術者研修協会、日・タイ経済協力協会、日本の民間団体、日本の友人たちの幅広い支援と協力のお陰だ。

今後の日・ASEANの繁栄に向けた協力
 ASEANには様々な魅力があるが、今後発展していくためには日本の協力が必要だ。日本の優れた生産技術や管理技術を移転していくため、TPAの40年間の経験を活かしていきたいと思っている。TPAとTNIでは、CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)との関係も持っている。TNIでこれらの国から留学生を受け入れているほか、ミャンマー政府生産局の測定標準に関する協力なども行っている。
 またASEAN諸国には、日本で学んだ元留学生や研修生がたくさんおり、これらの人材を活かしていく必要がある。2011年のASEANから日本への留学生の数は、ベトナムで約4000人、マレーシアでは約2400人、タイでは約2300人となっており、かなりの数だ。これらの貴重な人材を活かし、今後の日本とASEANの関係や両者の繁栄、そして互いのウィンウィンに向けた道筋を探ってみないかということが、私からの提案だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部