平成24年度 国際情勢講演会 「ポスト福島のエネルギー戦略」 (一財)日本エネルギー経済研究所 特別顧問 前IEA事務局長 田中 伸男【2012/11/08】

講演日時:2012年11月8日、於:東海大学校友会館

平成24年度 国際情勢講演会
「ポスト福島のエネルギー戦略」


(一財)日本エネルギー経済研究所 特別顧問
前IEA事務局長
田中 伸男

 昨年(2011)8月末に、国際エネルギー機関(IEA)事務局長の4年間の勤務を終え日本に帰ってきたが、その前にもIEAの姉妹機関の事務局他で海外暮らしが長く、世界の視点から今の日本のエネルギー戦略、エネルギー計画を見てきた。本日は前事務局長として外から見た日本のエネルギー戦略の問題点や今後リーダーシップをアジアにおいて発揮できるのか等をお話ししたい。

革新的エネルギー・環境戦略と世界の視点
 9月14日、政府のエネルギー・環境会議において「革新的エネルギー・環境戦略」が決定された。そこでは「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした。これについては、「原発をなくす」とは言っていないという議論があるが、海外では日本は「原発をゼロにする」と思われている。このため、こう言ったことが本当に良かったのかについては、疑問を感じざるを得ない。クリーン・エネルギーを推進するのは良いが、ただちに進むものではない。その間、液化天然ガス(LNG)などで穴を埋めるとしても、どこから買ってくるかという問題がある。北米では、「シェールガス革命」が起きており、そこから買えば良いという議論もあるが、本当に買えるのかという分析もない。
 電力システムの改革も重要で、発送電分離は良いのだが、その中に足りないものがある。この戦略によって、将来への不透明さが増したと感じている。エネルギー・インフラには非常に大きな投資が必要であり、政府の政策が右へ左へと変化すると民間は投資できず、世界の視点を欠いている。特に短期的にはイラン危機の可能性について、考えた節が全くない。原子力については、福島第一原子力発電所の事故によって安全に対する懸念が高まり、国内で反対が非常に強まっていることは理解できる。しかし、世界では事故後も、原子力をやめない国がはるかに多い。このような中で、日本がやめるとなれば、何が起きるのかということも考えなければならない。
 また国内では歴史的に、東日本が50ヘルツ、西日本が60ヘルツという周波数の異なる2つの電力市場が存在してきたが、エネルギー・セキュリティの観点から、この問題も解決する必要がある。東西で電力を融通する場合や変動の多い再生エネルギーを使うには、1つの大きな市場を一体的に育てることが極めて重要になるが、政府の戦略では、これに対する適切な答えが準備されていない。さらに、今後のエネルギー戦略については日本だけでなく、地域的な広がりをもって考えることも必要だ。

北米のエネルギー・インディペンデンスとエネルギー安全保障
 国際エネルギー機関(IEA)は1974年の第一次石油ショックを機に、OECD諸国によって設立された。しかし、エネルギー消費は近年、中国やインドのような発展途上国で特に伸びている。したがって、IEAはこれらの国々と協力していかなければ、世界のエネルギー・セキュリティを確保することはできない。中国やインドはIEA加盟国ではないが、これらの国々との協力体制は整えられてきた。
 IEAの『世界エネルギー展望』(World Energy Outlook)によれば、中国やインド、東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々で、今後ますます石油の輸入量が伸びる。それに対し、先進国の輸入量は下がっていく。中国は2020年ごろに米国を抜いて世界最大の石油輸入国となり、35年ごろには最大の消費国になる。一方、米国ではシェールオイルの割合が増え、石油の輸入は今後大きく減っていくとみられる。またカナダにはオイルサンドが大量にあり、北米は今後、エネルギー・インディペンデンスを強めていくだろう。
 ガスについても、米国は液化天然ガス(LNG)の大量輸入国になる予定だったのが、「シェールガス革命」の結果、輸出国になる。これによって、米国の中東に対する関心が今後、弱まるというリスクがある。その場合、ホルムズ海峡やペルシャ湾の安全、自由通行を従来のように米国が守ってくれるかという問題がある。ホルムズ海峡については、世界の石油貿易量の約2割、日本の石油輸入量の85%が毎日通過し、LNGでは世界の貿易量の約3割、日本の輸入量の約2割が毎日通過している。
 またIEAでは加盟国が石油の純輸入量の90日分を備蓄するという義務があるが、米国の石油輸入量が減れば、備蓄量も減っていくだろう。IEA加盟国の石油備蓄量は現在、約16億バレルとなっている。昨年6月のリビア危機では、1日当たり200万バレルの放出を30日間行った。その程度の放出量であれば、備蓄によって約2年間持ちこたえられる。1日当たり400万バレルを出すと、1年間ほど持たせることができる。一方、過去の途絶を見ると、第二次石油ショックが最も大きく、1日当たり560万バレルであった。しかし、ホルムズ海峡が封鎖されれば、パイプラインで迂回可能な量を差し引いても、1日当たり1300万バレルが途絶することになる。そうなれば、備蓄した石油を毎日放出しても、2、3ヵ月しか持たない。また石油価格の急激な上昇は、日本の経常収支にも大きな打撃を与える。その場合に原発が動いていなければ、状況はさらに悪化する。イラン危機は、東日本大震災のような大地震よりもはるかに頻繁に起きる可能性があり、そのための準備を行わなければ、大変な間違いを起こすのではないか。
 IEAが昨年の『世界エネルギー展望』で示した「低原子力シナリオ」は、OECD諸国で新たな原発の建設が一切なく、途上国でそれなりに増えていく場合に何が起きるかということを計算したものだ。途上国も先進国も、再生エネルギーの普及や省エネを進めるとしても、石炭か天然ガスに依存せざるを得ない。その場合、石炭はオーストラリアの一般炭輸出の約2倍に当たる量を輸入する国が出てくる。ガスについても、ロシアの輸出量の3分の2程度、増やす必要がある。再生エネルギーは、現在のドイツにおける量の5倍程度の増加が必要で、相当なコストが生じる。またガスの輸入相手国によってはリスクが増大し、二酸化炭素(CO2)排出量も6%程度、増加する。
 ガスは今後も重要なソースで、原子力を十分使えないと仮定すれば、頼らざるを得ない。ガスの生産はシェールガス革命によって、カナダや北米でも始まり、それ以外の国々でも行われている。多様なソースができるのはエネルギー・セキュリティにとって良いが、中国などの需要が増えるので、価格が安くなるかというと簡単ではない。また運び方も多様化する必要があり、日本はLNGだけでなく、ロシアからパイプラインで購入することも重要になるだろう。ロシアは日本にガスを売りたいと思っているが、日本にとって重要なのは、国内で需要を増やさないことだ。原発をやめれば、ロシアに足下を見られることになる。さらに国内では電力やガスの市場を改革し、競争型にしていくことも必要だ。ロシアに依存し過ぎると危ないという議論もあるが、日本のロシアへの依存度は現在、石油で約4%、ガスでは約9%だ。一方、欧州のロシア依存度は、石油もガスも3割になっている。このため、パイプラインでのガス購入は可能であり、また両国の新たな地政学的関係を築くためのチャンスにもなる。
 2018年には日米原子力協定の改定期を迎えるが、日本が原発をやめるとなれば、米国は日本と韓国のどちらかを核不拡散、原子力のパートナーとして選ぶかという選択を迫られる。原子力をやめるということは、再処理、サイクルをやめるということで、そうなれば、米国はこれを進めようとしている韓国とパートナーを組む可能性がある。
 国際的には、「福島の失敗による教訓をシェアしてほしい」と我々は言われており、今後の原子力における日本の貢献では、「やめる」というのは答えにならない。現在の政府の考え方は、あまりにも国内だけしか見ていない。国際的な視点に立ち、様々な点を考慮しながら、エネルギー・ミックスについて考えていく必要があると思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部