平成24年度 国際情勢講演会 インドネシア・タイ投資セミナーin九州「タイの投資環境と進出に向けての留意事項について」 (独)中小企業基盤整備機構 国際化支援センター 国際化支援シニアアドバイザー 加藤 洋一郎【2012/11/14】

講演日時:2012年11月14日、場所:(社)九州経済連合会会議室(福岡)

平成24年度 国際情勢講演会 インドネシア・タイ投資セミナーin九州
講演1「タイの投資環境と進出に向けての留意事項について」


(独)中小企業基盤整備機構 国際化支援センター
国際化支援シニアアドバイザー
加藤 洋一郎

※主催:一般財団法人 貿易研修センター
 共催:九州経済産業局、(社)九州経済連合会、九州経済国際化推進機構

日系企業のタイへの進出
 私どもの窓口相談では日本全国を含め年間3000社ぐらいのご相談をしている。過去、断然、相談が多かった国は中国、2番目はベトナムだ。いわゆる尖閣問題もあり中国の比率は減ってきており40%、タイの相談件数は昨年3000社の中で6%程度である。ご相談の中には、全く会社としては海外展開など考えていなかったが、これだけの円高で来月にはタイで工場を作りたいといった切羽詰った相談もある。
 タイの政治は現在、比較的安定している。また今年の成長率は、5.7%程度と予想される。タイには既に多数の日系企業が進出しており、バンコク商工会に登録している日系企業は2000社以下だが、実際は7000社超だと聞く。タイへの投資額は日本がナンバー1で、食品会社や家電、自動車関連の企業のほか、最近ではレストランの進出も増えている。
 タイに工場を造ろうとする場合、サービス業、小売業も含め、私たちがまず勧めているのはタイ投資委員会(BOI)に相談することだ。事務所は東京にも大阪にもあり、日本語が話せる方がいる。タイは世界貿易機関(WTO)に加盟しているため、優遇という意味のインセンティブはあまりないが、BOIを経由することによって、例えば法人税の3年免除や資材の輸入税免除など、様々な特典を受けることもできる。
 日系企業の工場はバンコク近辺にかなり集中していることから、昨年の洪水では大きな被害を受けた。これらの企業は現在、洪水対策を進めており、例えば機械類を1階でなく2階や3階へ移動する、製品の資材を他の場所に保管するなどしている。一方、中小企業が進出する場合には、あまり広いスペースは必要ないため、レンタル工場を利用するという方法も考えられる。ベトナムなどでは数年前から、盛んにレンタル工場が造られてきたが、タイでは現在まだ造っている段階だ。
 タイの累進課税は37%で、中小企業で現地在住の場合、30%程度が税金として必要になる。ただ、内容は日本と異なり、例えば社宅や運転手付きの車なども、個人所得税扱いとなる。さらに旅行保険や家賃なども含まれるため、日本と同額の給与をもらってタイへ行くと、手取りが非常に少なくなる。これらの点は、事前に考慮しておくのが良いだろう。資材の輸入税については、自分で使う場合は無税扱いで、また自分で使う機械設備の輸入も同様だ。しかし、どのような資材や機械設備を使用するかに関しては、会社を登録する際に細かく申請しておく必要がある。
 現地に会社を出そうとする場合、まずやらなくてはならないのは、どこに会社を作るかを、ある程度、決めることだ。そして会社の詳細のほか、何を作ってどこへ持っていき、どの程度の割合が売上げになるのかという、いわゆる事業計画書を作成することも必要だ。他には、日本の企業が実際に存在していることを証明するため、登記の謄本や決算書なども必要になるだろう。
 タイに進出する場合、避けて通れないのは統計品目ナンバーのHSコードだ。これは初めの6桁が世界共通のナンバーで、例えば日本から資材を送る場合、現状ではまだ、そのコードナンバーによっては、かかる税金が異なってくる。その品目は、非常に細かく分かれている。またASEANでは現在、日本から資材を持っていき、現地で製品を作る場合、付加価値が40%以上付けば、その国の製品ということになる。タイ製の製品ということになれば、日本とまだFTAが結ばれていないニュージーランドやオーストラリアのような国へ輸出する際にも関税がなくなるというメリットが出てくる。
 タイの自動車産業に関し、他のアジア諸国と異なると思われるのは、既にメーカ系列の城下町が出来上がっているということだ。このため、自動車関連で今後進出するのであれば、安くて良い製品を作らない限り、同様の製品を作っている日系企業との間で値段のたたき合いになる可能性がある。また、近い将来、ASEANでは関税がすべてゼロになる。したがって、自動車メーカーなどは、ベトナムのようなさらに人件費の安いところから日系企業の部品を購入するようになるかもしれない。タイへ進出する際には、このような点も考慮しておく必要があるだろう。さらにタイの自動車産業は現在、かなり飽和状態になってきているため、ターゲットはインドネシアへ移ってきている。

注目を集めるメコン・デルタ地域
 バンコクで洪水被害が生じたことから、現在、日系企業に人気が出ている地域はタイ東部だ。しかし、例えば100年に1度の地震が起き、津波があれば、東部でも被害が生じるだろう。リスクはおそらくどこにでもあり、全くリスクのない状態で、海外で勝負しようとするのは難しい。「リスクのあるところには、儲けがある」と考えた方が良いと思う。
 今後の進出を考える場合に注目されている場所として、例えば、いわゆるメコン・デルタ地域がある。この地域だけでも、人口は3億人程度になる。ベトナムのホーチミンからバンコクまでは、南部経済回廊によってつながっている。そのメリットとしては、短距離の区間に生活水準が異なる複数の国があることが挙げられる。このため、例えばカンボジアで、いわゆるグレードの低い製品を作り、ベトナムで、少しグレードの高い製品を作る。さらに、それらをタイへ持っていき、アセンブリーするというようなことが考えられる。それによって、人件費を抑えることが可能になる。ホーチミンとカンボジアは250キロ程度しか離れていない。また、カンボジアのプノンペンからタイへの距離は600数十キロで、ホーチミンからハノイへの距離の半分程度だ。通関の手続きも現在、簡素化されつつあり、今後は日系企業もこの地域で活発に経済活動を行えるのではないか。このほかタイ政府は現在、ミャンマー南部の大型船が停泊できる深海港であるダウェイ港の開発にも力を入れている。

フィルターをかけずに現地の人たちと交流を
 海外進出に関して企業の方々が困っているのものとして、言葉の違いがあるが、工場内では日本語を使えば良く、英語は必須でない。工場で働く人たちに簡単な日本語を覚えてもらい、さらにコミュニケーションをとるためには、日本語を話せる現地の方を採用すれば良い。また、私が重要だと思うものに対日感情があり、対日感情が良くないところではやはり、様々な問題が出てきてしまう。
 東南アジア、アメリカ、中国、ヨーロッパを含め、様々な人たちに会ってきたが、人種などは関係なく、どの国においても優秀な方は優秀で、信頼できる人はできると思う。現地駐在の日本人で時々、現地の人に対して横柄な態度をとられる方がいる。しかし、商売をする際に自分からフィルターをかければ、見えるものも見えなくなる。フィルターをかけずに、まずは相手が信頼できる人かどうかを見極めることをお勧めする。
 現地の方は鋭く、日本人がどんな服装をしていても、日本人だと見分けられる。おそらく服装のほか、歩き方や骨格、髪型などによってわかるのだろう。したがって、海外へ出た場合には、見えないパスポートが頭のところに付いているというぐらいの感覚を持ち、やっていくことが大事だろう。タイやインドネシア、ベトナムのようなアジアの国々では、日本は非常に尊敬されている。これは私たちの先輩が、過去に苦労して作り上げてきたものであり、それを汚すようなことはせず、海外へ行っていただくのが良いと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部