平成24年度 第3回-2 国際情勢研究会 報告2「オバマ政権の評価と2012年大統領選挙」東京大学大学院 法学政治学研究科 教授 久保 文明(くぼ ふみあき) 【2012/06/15】

日時:2012年6月15日

平成24年度 第3回-2 国際情勢研究会
報告2「オバマ政権の評価と2012年大統領選挙」


東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
久保 文明 (くぼ ふみあき)

1. 2008年とは大きく異なる今年の大統領選挙
久保 文明 米国の大統領選挙は、大変な接戦になっている。2008年の大統領選挙と今回の選挙は、相当異なる。2008年は、現職大統領がいない選挙で、マケインもオバマも新人同士だった。特にオバマの登場によって、当時の大統領選挙は、単に共和党から民主党への政権交代があり得るという状態とは、大きく異なるものになった。オバマを当選させることによって、皆が「アメリカはやはり良い国だ」と思いたかった面がある。特に民主党系の人たちやインテリの人たちがそうで、オバマに夢を託していた。
 オバマのレトリックは、ナラティブとして、よくできていた。「アメリカというのは、1つになって団結したときには、何でもできる偉大な国だ」、「イギリスからの独立も、多くの人は『できる訳がない』と言っていたが、皆が協力することによってできた」、「奴隷制の廃止も悲惨な戦いであったが、成し遂げた」、さらにナチズムとの戦い、南部に残った人種差別との戦いも、「黒人と白人、共和党と民主党が協力し合って達成した」というようなものだ。
 今回の大統領選挙にもオバマは出馬するが、前回とは異なり、現職が必死で再選を求める普通の選挙となるだろう。オバマ大統領自身はそれなりのナラティブを続けているが、あまり聞いてもらえない。多くの人たちは、8.2%という高い失業率に不満を持ち、やはり結果を求めている。前回の選挙では、選挙人については365対173で、民主党の圧勝だった。ただオバマ政権が十分な成果を達成できる圧勝であったかというと、そうでもなかった。選挙人というのは勝ち方を劇的に見せる効果があるが、上院の議席は民主党対共和党で最終的には60対40となり、かなり強い数字ではあったものの、十分な成果を達成するには64~65ぐらい必要であった。下院の数字を見ると257対178で、これも大差のように見えるが、アメリカの政党は規律が弱く、十分な成果を出すには280ぐらいが必要といわれる。

2. オバマ政権の内政、外交の展開と転換
 しかし、実際にはオバマ政権は、かなり画期的な成果を上げている。オバマ政権の支持率は現在46%程度で、当初は約70%だったので、かなり下がっているが、何もできないから低下したという訳ではない。支持率の内訳をみると、民主党の大統領としては異例で、テロ対策では68%、外交は45%、経済は34%となっている。つまり、経済の評価が圧倒的に低く、逆にビン・ラディン殺害などによって、外交、安保、テロでは高いスコアになっている。
 オバマ政権はこれまで、民主党の長年の懸案であった国民皆保険に向けた改革を達成した。さらに、金融改革法などでも成果を上げている。中間選挙ではティー・パーティなどの台頭で攻撃され、敗北したが、その後も同性愛者に対する軍での差別撤廃や、米韓自由貿易協定(FTA)など、かなり重い、内容のある成果を達成している。しかし、いくつかの部分で、特に最も大事な政策について、世論があまり評価しない。7870億ドルの超大型の景気刺激策についても、あまり評価されなかった。
 オバマ政権は最初の2年間、民主党の多数に乗って、強力に民主党的なアジェンダを通していった。ただ、そのプロセスで共和党や世論の強い批判を浴び、中間選挙では敗北した。その後、上院では議席が減ったものの、かろうじて過半数を超えているが、下院では過半数を失った。これによって、政治状況は一変する。それ以来、共和党は下院を拠点にして、追加的な財政出動をすべて拒否してきた。したがって、オバマ政権は中間選挙後、景気のてこ入れをしようにも何もできなくなった。このため、中間選挙後には少し路線を変え、共和党が多数の下院で堅実に向き合い、部分的に超党派で政策を進めようとしてきた。かなりビジネス寄りに変化し、ブッシュ減税の延長や、米韓FTAなどに同意した。
 しかし、これによって、民主党の中で相当な批判を浴び、「妥協し過ぎだ」、「オバマは魂を失った」といわれるようになった。さらに、このように変化すれば、共和党がより協力してくれると思っていたが、協力は得られなかった。その典型例は、昨年8月2日を期限にした連邦政府の借入限度額引き上げ問題だ。連邦政府の借入限度額を引き上げなければ、連邦政府は借り入れができなくなり、連邦債の利子の支払いや予算の執行もできなくなる状況だった。最終的に、かろうじて妥協できたが、結果的に米国債の信用は落ちた。
 そして、それまではかなりノーブルでナイスなオバマ大統領だったが、「いかなる手段をとっても共和党に勝つ」と心に誓ったといわれる。今年の選挙では特に、かたくなに増税を拒む共和党の姿勢を批判することになるとみられる。共和党は国民のごく一部である超富裕者に対し、わずかの増税をすることについても、ほぼ全員が反対する体質だ。そこを徹底的に突くのが、オバマ路線だと思う。米国の失業率は現在8.2%で、そこを突かれると現職は苦しい。したがって、ホワイトハウスの戦略は現状よりも、ビジョンで競うというものである。共和党のビジョンは結局、富裕者を優遇するだけのビジョンだが、自分たちは富裕者への増税を行ないミドルクラスや教育、インフラに対する投資を進めていく。このような将来に対する投資で、ミドルクラスを基盤にした強力なアメリカを作るというのがオバマ大統領のビジョンだ。
 一方、オバマ政権は外交でも、米露の核合意やイラクからの撤退、ビン・ラディン殺害などで、かなりの成果を上げている。中国については南シナ海問題などを経て、かなり対峙する方向へ変化してきている。予算の縛りが非常に大きくなり、今後10年間でさらに13~14%の削減が必要となる可能性も出ているが、オバマ政権はアジアに回帰し、「アジア関係の国防費は減らさない」として、中国に対峙しようとしている。この中国に対する姿勢はかなり厳しいものであるが、共和党からは「オバマの外交は弁明、釈明、弁解、謝罪の外交だ」と批判されている。共和党では例えば、ロムニー候補が「大統領に当選したら、初日に中国を為替操作国に認定する」とし、イランの核開発問題では「武力行使の威嚇をもっとすべきだ」とオバマ政権を批判している。
 大統領選挙で共和党内の戦いをみると、ロムニー候補については不満な人も多く、他に様々な候補が登場したが、結局、皆長続きせず、最後まで残ったのはロムニーだった。ロムニーはメディアでは「穏健派」と形容されるが、彼の政策は非常に保守的で、これは誤りだと思う。共和党の他の候補と比べると、やや穏健派の傾向があるというだけだ。経済政策でも徹底的に小さな政府を支持しており、外交では相当なタカ派だ。
 一方、ロムニーは大変な富裕者で、「首切り名人」というイメージも強い人物なので、民主党としてはこの部分を批判していける。今回の大統領選挙については、前回のように共和党にとって悪条件が揃っている訳ではなく、民主党は勝利しても、あまり多くの票を獲得できないと予測される。今後、失業率の改善が足踏みしたり、最悪の場合には上がっていくとなれば、オバマ大統領の再選は相当厳しいと思う。

3. 今後予想される展開
 今後の注目点は、まず景気、経済が立ち直るかどうかだ。またオバマ大統領としては、現状についての評価が弱いため、選挙戦は将来のビジョンを語る戦いにしたい。そのため、特に共和党のかたくなな増税拒否路線を徹底的に叩くことになると思う。共和党の方は、1つは副大統領候補を誰にするかが、大きなファクターだ。例えば、選挙で重要な州といわれるオハイオ州の上院議員、ロブ・ポートマンを副大統領候補にするのは、かなり良い選択肢だといわれる。
 今後は限られた時間、限られた資金をどこへ投入するかということになるが、オバマ大統領としては、接戦のフロリダ州で勝利できなければかなりの打撃になる。またノースカロライナ州やヴァージニア州は、前回の大統領選挙では、いずれも民主党が勝利した州だが、本来は共和党が強いところで、今回は共和党の勝利が予測される。アメリカの大統領選挙は大体、接戦になるが、選挙人が多く重要な州としてはフロリダ州、オハイオ州、ペンシルバニア州の3つがよく挙げられる。このうち2つの州で勝利すれば、全体での勝利が確実になるといわれる。しかし、現在のところ、この2つ州で勝利できるかについて、オバマ大統領としては確信が持てない状況だろう。一方、前回の選挙で共和党が勝利した州で、今回、民主党が勝利する可能性があるのはアリゾナだけだとみられる。それ以外では、民主党は、前回勝利した州でもかなり敗北するとみられ、どれだけ踏みとどまれるかということになりそうだ。
 また選挙からは離れるが、今後、非常に厳しい財政削減がどうなるのかも注目される。これは大統領選挙だけではなく、議会の動向にもかかっている。下院では今後も共和党が多数党を維持するとみられ、オバマ大統領が再選されても、現在の対立状態は変わらない可能性がある。私自身は大統領選挙について、オバマとロムニーの得票は五分五分になるという気がしている。議会の動向次第では、上下両院が共和党で、政権も共和党になることもあり得なくはない。そうなればアメリカの政策、特に外交政策は、対中国、イランなどで相当ふれることになるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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