平成25年度 第2回-1 アジア研究会 報告1「東アジアの経済統合に向けて」 経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課長 春日原 大樹 (かすがはら だいき)【2013/07/18】

日時:2013年7月18日

テーマ「変貌するアジア(主要国の新しい動き)
~2015年アセアン統合及び主要国指導者交代を見据えて~」

平成25年度 第2回-1 アジア研究会 報告1
「東アジアの経済統合に向けて」


経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課長
春日原 大樹 (かすがはら だいき)

1. ASEANとの関係拡充
 東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国は2015年の経済統合、共同体の創設を目指して活動しているが、これを中核とした周辺国の様々な枠組みがある。東アジア・サミットについては、かつてはASEAN+6だったが、2010年に米露が加わり、現在は18ヵ国になっている。さらに広いアジア太平洋経済協力(APEC)や、現在、非常に注目を浴びている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などがある。TPPについては7月23日から、日本が正式に交渉に加わる。これらの様々な枠組みが互いに刺激し合いながら、アジアの地域統合が進んでいるという状況だ。日本としては、いずれの枠組みにも関与する非常に良いポジションにあると思う。日本がASEANと組み、様々な枠組みを主導していくことは重要だ。
 このような中で、私たちが現在推進していこうとしているものには、4つの柱がある。1つは「経済連携の促進」で、様々な枠組みでの経済連携を、ハイレベルで包括的なものにしようとしている。第2の柱は、「コアになる連結性」と言っているが、コネクティビティを強化していくことだ。さらに第3の柱として「成長の質の向上」があり、エネルギーや環境のような問題を捉え、また産業の高度化、中間層の拡大などを推し進める。第4の柱である「地域アーキテクチャー」では、経済統合を推進するメカニズムをつくるため、まず東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を立ち上げる。
 また「連結性の強化」とも関連して、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)が中心となり、「連結性マスタープラン」をまとめている。このERIAをしっかりとサミット・プロセスに位置づけ、その貢献が評価される仕組みを作っていきたい。日・ASEAN関係についてもロードマップを作り、中長期的な成長戦略を位置づける。今夏にはASEANの経済大臣会合が開かれるほか、10月にはサミットがあるので、それらの場でインプットしていく。

2. 4つの柱の具体的な取り組み
 次に、4つの柱の各項目に触れたい。第1の「経済連携の促進」では、TPPやRCEPのようなものを日本として推進しているが、究極的にはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に至るビルディング・ブロックとして対応していく。ベースには二国間交渉があり、現在、様々な国と進めている。特にASEANについては、日・アセアン包括的経済連携(AJCEP)が2008年12月から、物品については発効している。AJCEPは、1つのASEAN+1の枠組みだが、ASEAN+1は、他にASEANと中国や韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの間でも、投資・サービスも含めた形での協定が合意されている。しかし、日本とのAJCEPでは、投資・サービスが完成していないという残念な状況だ。そのような悩みを抱えながらも、AJCEPについては今年のうちに形を付けようと交渉している。さらにRCEP、TPP、そして欧州連合(EU)との交渉も進めていく。
 RCEPについては今年5月から、本格的な交渉に入っている。RCEP交渉の基本指針のポイントは、物品、サービス、投資の3分野だけでなく、経済協力、知財、競争、紛争解決、その他の事項を含む幅広いものとすることだ。そして既存のASEAN+1や自由貿易協定(FTA)を上回る包括的で質の高い協定を目指し、2015年末までの完了を目標とする。将来的には16ヵ国以外も加わり得る開かれた枠組みとする、などとなっている。
 次に、「連結性の強化」だが、経済統合を進めていく上で、道路や港湾などのハードインフラだけではなく、ソフト面、制度、国境措置も含めた接続性を増さなければならない。さらに、人と人との接続性も視野に入れた「連結性の強化」がクローズアップされている。アジア地域のインフラ・ニーズは非常に大きいといわれ、アジア開発銀行(ADB)では、2020年までに8兆ドルのインフラ需要があるとしている。このうち約半分がエネルギー関係のインフラで、その他、道路、港湾、通信が中心になる。
 ERIAでも、「アジア総合開発計画」や「ASEAN連結性マスタープラン」の策定などで協力している。「連結性の強化」では、いくつかの広域の経済回廊の構想も重要になる。そこで、インドネシア経済回廊(IDEC)というようなコンセプトを出してみたり、大メコン圏(GMS)の取り組みでは、さらに広くインドとつなぐメコン・インド経済回廊というようなコンセプトも提示している。ミャンマーについては、国家計画経済発展省(NPED)とERIAが一緒になり、総合開発ビジョンの策定作業を進めている。また、ダウェーを含め、様々なインフラについて、コネクティビティの観点から足りない部分の議論も行っていく。
 第3の柱の「成長の質の向上」に関しては、東アジアのエネルギーに関する連携強化が非常に重要になる。一次エネルギーの総需要について、過去の経緯や今後の見通しを考えた際、アジアの増分は極めて大きい。これをどのようにマネージしていくのかが、大きな課題になっている。そのために、中長期のエネルギー需要見通しの策定や、クリーン・コール・テクノロジーを用いた石炭利用などを進めていく。またインフラについては全体的に弱いが、特に電力インフラの課題が大きいため、これに対応していく。そして原子力発電の安全管理では、日本の非常に不幸な経験をベースにしながら、より安全を高めていく。このほか、運輸部門の省エネルギーなどについて、合意がなされている。
 第4の地域アーキテクチャーについては、昨年の経済大臣会合で日本とASEANの中長期的な成長戦略を描き、3つの柱の下に具体的なプログラムを位置づけた。これらを短期、長期でやるべきものに分け、ローリングで進捗を管理していこうとしている。狙うところは、日本とASEANの間でウィンウィン関係を構築することだ。3つの柱は、①日・ASEANの市場統合、②ASEANにおける産業の高度化に向けた協力、③生活の質の向上を通じた市場改革、となっている。
 またERIAも1つのアーキテクチャーで、元は「東アジア版OECD」というアイディアに基づき、提唱した。東アジアの知を結集し、東アジア流の経済統合を推進するための青写真を描く研究機関として位置づけられている。ERIAはASEANを知的に支えるシンクタンクだが、同時に日本的な政策、日本的なビジネスのやり方というものが、ASEANの共同体づくりの中でしっかり受け入れられるような仕組みも作ろうとしている。今年は特に、日・ASEANの関係が40周年となり、12月には日・ASEAN特別首脳会合もある。したがって、これらの機会も有効活用し、日・ASEAN関係のマイルストーンをしっかり築いていきたい。

3. ニ国間関係について
 今夏には経済大臣会合が開かれるが、同時に日本とメコン5ヵ国即ちタイとCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の経済大臣会合も行われる。ここでは様々なロードマップを策定し、インフラ整備や特に遅れているCLMVをサポートするプログラムについて、民間の方のインプットも踏まえ、対応していく。
 二国間関係の最近の動きとしては、まずミャンマーとの要人外交が頻繁に行われている。1月2日には、麻生太郎副総理とテインセイン大統領との会談が行われ、今年5月には安倍晋三総理が、40名を超える企業の方々を含む民間ミッションと共にミャンマーを訪問した。政府開発援助(ODA)に関しては、無償と円借款を合わせて約900億円のコミットがなされたので、それをしっかりやっていく。ティラワの経済特区に関しては、MOUを締結し、進捗を促進する取り組みも行っている。 
 インドネシアについては特に、インドネシア経済開発回廊のアイディアを、日本やERIAから提示した。これはインドネシアの「経済開発迅速化・拡大マスタープラン」(MP3EI)にも取り上げられている。さらに首都ジャカルタについては、メトロポリタン・プライオリティ・エリア、首都圏の投資促進特別地域を設定し、ODAも含めてフルサポートしていく。ジャカルタの現在のインフラ整備状況は非常に悪いため、インドネシアがさらに高いレベルに発展するためのベースとして、これらの計画を進めていく必要がある。
 ベトナムについては、2003年から「日越共同イニシアティブ」を進めている。これは日本とベトナムの官民が協力し、投資環境を一歩一歩、改善していくというもので、民間の要望を踏まえて課題を列記し、進捗評価を続けていく。今年7月26日に第5フェーズを開始する。この第5フェーズでは、ノンバンクや流通のような課題も取り入れ、対応していく。
 もう1つ、ベトナムの産業の足腰を強化するため、ベトナムの工業化戦略を日本がフルサポートしている。これはベトナム国内の産業化戦略だが、そこに日本が直接関与し、様々な産業政策を考えていく。ベトナムの副首相が主宰するハイレベル委員会でも、日本の大使や経済人などが顧問となって議論する枠組みを作っている。
 インドについては非常に大きな可能性を秘めた国である一方で、独特の難しさもある。現時点では、約1000社の日系企業が進出している。また日印の官民協力となる、デリー・ムンバイ産業大動脈構想(DMIC)も進められている。さらに、特に自動車産業を中心にニーズが広い南部地域についても、開発を進めるプログラムが進行している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部