平成25年度 第2回-2 アジア研究会 報告2 「ASEANの企業動向」株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長 平賀 富一 (ひらが とみかず)【2013/07/18】

日時:2013年7月18日

テーマ「変貌するアジア(主要国の新しい動き)
~2015年アセアン統合及び主要国指導者交代を見据えて~」

平成25年度 第2回-2 アジア研究会 報告2
「ASEANの企業動向」


株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長
平賀 富一 (ひらが とみかず)

1. 存在感を増すアジアの企業
 一人当たりGDP(国内総生産)について、アジア地域で、既にシンガポールが我が国より大きな金額となっているが、さらにそれをPPP(購買力平価)ベースで見ると、香港・台湾にも抜かれているという状況にあり、わが国が国際競争力の強化を図ることに関して、我々が参考としうる事例は、シンガポール、香港などアジア地域の内部にも存在しているといえる。
 今後は、製造業に続き、サービス産業にもアジア市場でのビジネスチャンスが大きい。日本企業として有望視している投資候補国として直近ではインドネシアが目立っている。中国やインドは定番だが、タイ、ベトナム、次いでミャンマーやカンボジアなども入ってきている。ただし、これらの諸国に注目しているのは日本企業だけでなく、韓国、中国など他国の企業も同様でありライバルの存在を認識する必要がある。
 インドネシアなどでは、大企業についての新規の進出増や既存事業の拡大・拡充に加え、中堅・中小企業の進出増があり、最近では、域内分業の観点でCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)に製造拠点を置く日本企業も増えている。バックオフィス業務では、シンガポールなどが中心だが、最近は三井住友銀行が、事務のサービスセンターだけでなく、研修センターをシンガポールからマレーシアに移したという事例も出ている。また、イオンはマレーシア所在のASEAN本社と中国本社という、アジアの2大本社体制を構築している。同社はマレーシアでカルフールの店舗を買収し、現地で2位の大手小売企業になっている。
 Fortune Global 500を見ると、2005年には37社だったアジアの企業が2012年には104社に増えておりアジアの企業の存在感が高まっている。中でも中国の大手国有企業が多く、韓国はサムスンなど財閥系大手だが、インドなどの国有企業も多い。ブルームバーグのデータでアジア主要国の株式市場での有力企業の時価総額ランキングを見ると、テレコムや通信、エネルギーのような産業の国有企業や、華人系企業が多いことが分かる。

2. タイの2大企業:サイアムセメントとPTT
 アジア新興国の代表例として、タイについて見てみると、大学生の就職人気企業(2011年の調査)では1位がチャロンポカパン(CPグループ)で、2位はサイアムセメント、3位はPTT Public Companyとなっており、日本企業ではトヨタが5位に入っている。中国とは異なり、タイでは日系企業の人気もかなり高い。サイアムセメントは、1913年に国王の命によって設立された企業で、現在も王室の財産管理局が多くの株式を保有している超名門企業だ。2012年度の決算は連結ベースで、売り上げが4,076億バーツ、当期利益235.8億バーツ、総資産3,955.7億バーツという規模だった。元はセメント会社だったが、現在、セメントは、利益ベースで全体の36%程度となっており、化学、紙、建設資材、輸送業、投資といった分野に多角化している。この会社の国際事業戦略の重点は、ASEAN域内における拡大だ。また、元々セメントのような付加価値の低い製品の製造が多かったが、最近は高付加価値商品にシフトしている。海外展開の中心は上記のようにASEANだが、中でも重要なのは、「人」の部分だ。海外の会社を買うのは比較的容易に出来るが、異文化の中でその会社をどのようにうまく経営していくのかということを大切にしている。そこでは、タイ人のグローバル人材を育成すること、各国拠点のローカルスタッフのやる気を出させること、各地域への社会的貢献を重視している。
 同社の研修体系は非常に優れており、幹部層や中堅マネージャー以上の人は米国の一流ビジネススクールに大量に派遣し研修を受けさせている。日本の会社にはおそらく、このような規模で徹底しているところはほとんどないと思う。例えばデューク大学には、2年で111人も派遣しており、ハーバード・ビジネススクールの最上級プログラム(AMP)にも31年間にわたり幹部職員を毎年2人ずつ定期的に送っている。さらにウォートン校(ペンシルバニア大学)には32年間に1,307人といった派遣実績で徹底した人づくりをしている。それ以外の若手従業員の海外大学への派遣実績を見ても、MBAや工学系、その他の専門分野で、アジアを含む世界の著名校に大量の人員を派遣している。人が資本だということで、一所懸命にやっている。日本企業ではバブルの頃までは、数多くの企業が熱心に多くの社員を派遣していたが、最近は一部の企業を除き、企業派遣はかなり減っている。
 次に、PTTは、時価総額ではタイで最も大きい企業グループだが、国営企業でタイ政府が66%の株式を保有している。ここもアジア進出に積極的で、石油、天然ガス関連事業の上流部分から下流部分、および国際貿易業務も行っている。また発電事業への取り組みも、ミャンマー、ラオス、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどで行っている。

3. サービス業の状況(ASEANの生命保険市場における英プルデンシャルの事例を中心に)
 サービス業における状況ということで、多くの方にとってはなじみが少ない分野かも知れないが、興味深いポイントがある生命保険について見ていきたい。まず、NIESの4ヵ国だが、この辺は日本に近い生保の普及率や度合いになっている。一方、シンガポールを除いたASEAN諸国などはまだ普及率が低く、逆に言えば、大きく伸びる余地がある。マレーシア、インドネシアといったイスラム教徒の多い国では、イスラム保険(タカフル)が普及する可能性もある。
 アジアの生保市場で、外資企業がどのような状況にあるのか、各国における収入保険料、売り上げベースの上位10社のランキングを見ると、イギリスのプルデンシャル、AIA、カナダのマニュライフというところが有力で、多くの市場で上位に入っている。日本企業も進出しているが、現時点ではそれほど上位には入っていない。中国・インド・韓国では地場企業が非常に強いが、ASEAN諸国では外資企業の影響力が非常に大きいといえる。
 プルデンシャル(米国の同名グループとは別である)は、イギリスのロンドンに本拠を置く会社で、アジア地域本部は香港に所在する。そして、その傘下に各国拠点がある。プルデンシャルは収入保険料ベースで世界19位程度だが、アジアにおける存在感は大きい。1923年にインドに進出したのが最初で、アジアに本格的に展開し始めたのは1994年、香港にアジア地域本部を設立してからのことだ。現在は、12地域で展開している。新規保険料は、グループ全体の45%をアジアで稼いでおり、営業利益も32%がアジアだ。インドネシアがアジアにおける最大の拠点である。アジア各国の拠点別に出資比率を見ると、インドや中国のように外資に対する出資限度があるところは別にすれば、基本的に100%ないしは圧倒的なマジョリティを取るのが基本戦略と推量される。
 日本企業は、早稲田大学の白木三秀教授が言われるように、製造業を含む多くの企業がいわゆる「2国籍企業」で、スタッフは日本人か拠点所在地の現地人だといわれるが、このプルデンシャルも含めた多国籍企業は、様々な多国籍の有能人材を活用している。そして、拠点間の異動も経験させ、人材を育成、活用している。
 インドネシアへは1995年に進出したが、今やトップ企業になっている。イギリスの会社だが、イスラム保険(タカフル)の分野でもトップで、さらに注目すべきは、ブランド認知度で業界首位になっていることだ。1912年設立のブミプトラ1912という長い歴史を持った地場の名門企業がインドネシアにはあるが、集中したブランド戦略の取り組みでそれを凌駕した。生保業界は会計上の特殊性もあり黒字化までに時間がかかるのが一般的とされるが、2001年以来黒字化し、2004年以来は親会社への配当送金も実施しており、同国における顧客数は130万人となっている。経営陣は、平均15年以上の生保業界の経験と10年以上のプルデンシャルでの勤務経験を持つ。インドネシア拠点のトップはマレーシア国籍者で、その下で現地人材の活用、多国籍人材の活用が進んでいる。業績(保険料収入)は2006年から2010年の間に、年平均3割以上伸びている。保険の販売員であるエージェントの数も顕著に増加しており、インドネシアの1万7000以上の島嶼を、業界最多のエージェントネットワークでカバーしている。同社の販売網はそのエージェントに加え、銀行によるものがあるが、この会社では、エージェントが非常に強く、その強みを活かしつつ、プラスして銀行を通じた販売を行っているということである。
 保険業は多くの国で規制産業であるが、インドネシアにおいてプルデンシャルは販売網の近代化を監督官庁と協力しつつ行うなどの取り組みをしており、言ってみれば、市場を自分たちで作り育て拡大している。世界的なグループであるプルデンシャルの強みを生かし、自社の得意な商品であるユニットリンクという投資型保険をインドネシア市場に導入・応用してそれが利益の源泉になっている。インドネシア拠点は、人材面や商品開発や資産運用、銀行との提携、事務・ITなどの面でアジア地域本部や同グループの他の拠点からの支援を得ている。
 サービス業のASEAN展開につき生保事業を例にお話ししたが、プルデンシャルの事例を見ると、世界的に共通なノウハウや国際ネットワークなどの自社の強みや効率性をうまく活用し、同時に必要なものは各現地のニーズ・嗜好に合わせる形で応用展開し成功している。これは、同じく成功事例と思われるAIAやカナダのマニュライフに関しても同様である。この点は、わが国のサービス業がアジア事業で成果を挙げる上ために重要な参考になるのではないかと考える。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部