平成25年度 第3回-2 アジア研究会 報告2 「泰日経済技術振興協会(TPA)の40年:日本からタイへ、そしてアセアン共同体に向かって」泰日経済技術振興協会(TPA) 会長 チュラロンコーン大学 工学部 准教授 Dr. Sucharit Koontanakulvong (スチャリット・クーンタナクンウォン)【2013/10/18】

日時:2013年10月18日

テーマ「変貌するアジア(主要国の新しい動き)
~2015年アセアン統合及び主要国指導者交代を見据えて~」

平成25年度 第3回-2 アジア研究会 報告2
「泰日経済技術振興協会(TPA)の40年:日本からタイへ、そしてアセアン共同体に向かって」


泰日経済技術振興協会(TPA) 会長
チュラロンコーン大学 工学部 准教授
Dr. Sucharit Koontanakulvong (スチャリット・クーンタナクンウォン)

1. 泰日経済技術振興協会の設立
 泰日経済技術振興協会(TPA)は設立から40周年を迎え、今回国際交流基金から表彰された。TPAは産業人材の研修機関で、日本から支援をいただきながらこの40年間、活動してきた。協会が設立された1973年当時、タイは軍事政権から民主政権へ変化しようとしていた時期で、反日運動も盛んであった。TPAはそのような時期に、民間で技術移転を行い、新たな経済協力を実施、日本とタイの良好な関係を築くための機関として設立された。民間ベースの中立的な立場でこのような機関を創れば、日本にとってもタイでの活動を現地の人達にまかせ、長く協力活動を続けていけるのではないかと考えられた。
 日本から帰国した元留学生や研修生たちが、このようなアイディアに基づき協会を創ろうとしたが、元留学生らは当時、まだ若く、自らこのような活動のスポンサーになるのは難しかった。そこで、戦前慶応大学に留学し、先輩として尊敬されていたソンマイ・フントラクン氏(後に財務大臣)に会長をお願いした。その際、協会は中立性を保ち、協会の理事はすべてタイの人達にまかせるということになった。このようにして、日本とタイの間で新しいタイプの関係が始まった。
 TPA設立の目的は日本からの技術移転であったので、まず日本語とタイ語の授業を開始した。タイのスタッフはあまり外国語がわからず、日本の専門家もあまり英語がわからない時代であった。このため技術移転をするには、タイ人の技術者に日本語や日本の習慣について、また日本人にもタイ語やタイの習慣について教える必要があった。最初の10年ぐらいは日本の専門家が直接タイの技術者に技術移転を行ったが、その後は、タイの現地スタッフやトレーナー、コンサルタントを育成していった。そして、TPAは工業大学を創るまでになった。TPAはこのような経過の中で、日本留学・研修経験者が中心となり、タイ人一般に開かれた活動を行い、タイ国内の様々な分野で広く認められる特別な機関として成長していった。

2. 泰日経済技術振興協会のこれまでの歩み
 1970年代には石油危機があり、日本企業はタイや東南アジアへ進出していった。そのような中、現地の労働者や技術者が足りないという事態になった。これをカバーするためTPAはセミナーを実施するなどし、重要な役目を果たしてきた。1980年代になると、技術移転セミナーを行うだけでなく、技術振興、そしてより体系的な活動も行うようになった。日本ではまた、1970年代の石油危機を経て省エネ技術が発展したため、タイの工場にもそれを普及させていくことになった。タイにはあまり真面目に勉強しない人も多く、通信教育などはなかなか受け入れられないので、皆が楽しく勉強できるよう、QC大会やロボット・コンテストなど、我々の習慣に合った教育方法を取り入れていった。
 もう1つ、セミナーだけをやるのではインパクトは小さい。1人の日本の専門家が一度に教えられるのはせいぜい60人程度で、それらの人達もセミナー受講後、工場の仕事に復帰すると、次第に学んだ内容を忘れてしまう。したがって、日本人専門家によるセミナーだけでなく、大会やコンテストの実施、テキストの作成など、様々な方法を組み合わせて教育していく必要があった。タイ語のテキストを作成することにより、セミナーを受講できない地方の人達にも学んでもらうことが可能になった。我々の事業には、成功した事業も失敗した事業もあった。例えばコンピューターに関しては、アメリカのものが普及し、日本のコンピューターはなかなか普及しなかった。
 1998年には協会の新館を造ったが、その一方で協会は借金を抱え、経済的な危機に直面することになった。当時、中小企業の診断制度を導入し、TPAとして初めて400人の診断士を育成するため1年間のコースを開いた。これはある意味、非常に大きなプロジェクトであり、TPAの知名度はこれによって上がり、タイ政府からも認められるようになった。我々の機関は現在、民間のトレーニング・センターとしてはタイ最大で、現地のトレーナーとコンサルタントが約300名、日本語教師は日本人が30名、タイ人が40名ほどいる。工業計測機器の校正事業では、年間2万~3万件を請け負っており、タイ全体のマーケット・シェアは40%程度を占めている。
 さらに2007年には、泰日工業大学を設立した。設立当時は、問題が2つあった。1つは、泰日工業大学という名前で、文部省に申請したところ、受け入れられなかった。泰日というと政府間という意味になり、民間では使えないという規則があった。そこで、日本の大使にお願いし、日本政府から手紙をもらって「この名前を使っても良い」ということを証明しなければ、この名前は付けられないということになった。このため時間がかかったが、日本の大使との交渉を経て、それまで30年の実績もあり、この名前を使っても良いことになった。
 もう1つの問題は、我々は5月に開校しようと思っていたため、前年の10月ごろまでには学生募集を開始しなければならなかった。しかし、この年の9月19日にクーデターが発生し、大臣がいなくなってしまった。このため、大臣の承認を得られなくなったが、様々な交渉の結果、最高位の次官が、「大臣代理」として対応してくれることになった。そして、それまでの業績もあったことから、27日には議会の署名を得ることができた。そうでなければ、学生の募集を1年後に行わねばならないところであった。
 大学では地方の優秀な学生に来てもらう必要があるため、4年間で約12万バーツ(約38万円)の奨学金を支給している。私立大学なので、やはり国立大学とは知名度が大きく異なり、また新しい大学なので、知られていなかった。しかし、タイには日本の漫画や日本語のファンが多い。日本語を勉強したいからと言って文学部へ入学すると、昔の小説などを読まなければならず、ビジネスとは関係ない勉強をすることになる。このため、日本語を勉強しつつ、ビジネスにも役立つ知識を身につけられる我々の大学には、良い学生が集まっている。

3. 成功の要因と今後の活動
 この40年間のTPAの活動が成功してきた背景には、5つの要因がある。まず、運営はタイ人にまかせられてきた。そして日本からの補助があったことによって、タイ側にやる気が出てきた。これは非常に重要なことだ。現在もこのような信念でもって、運営を行っている。2番目に、理事会の役割があった。理事は日本での研究・研修経験をもつものが中心で、日本を目標にタイを急速に発展させたいという気持ちが強いが、なかなか実現しない。しかし、そのような信念を持ちボランティアとして長期にわたり、活動する理事たちがいた。そして、第3に職員だ。彼らは日本と同水準のスタッフで、様々な訓練を受けている。
 泰日工業大学の開校式にはシリントン王女が出席してくださったが、これは我々の活動が国によって認められたことを意味する。我々は、10年ごとに活動を見直し、新しい日本の技術を取り入れ、柔軟性のあるコースを展開してきた。そして現地のスタッフ、講師のネットワークの役割も重要であった。これらの要因によって、TPAは40年間、活動を続けることができ、その成果を活かして大学を開くこともできた。
 日本の技術は我々にとって大変重要で、現地に合ったやり方で移転を行うと、長く続く。ただし、日本の技術はこの10年間、停滞しており、今後については読みにくいところがある。1970年代、80年代、90年代には、日本で技術が進化し、タイや近隣諸国に広がっていくパターンであったが、今後はこのようなスタイルは難しくなりそうだ。タイ側から見れば、ハードでは金属加工で、日本の技術は大変優れている。ソフトに関しては、やはり日本のマネージメント・システムやセンサーなどのIT技術を生かした製造方法が望ましいが、なかなか現地に伝わらないところもある。
 タイでは現在、コネクティビティ政策が進められており、今後は地方の様々な都市が道路や鉄道で結ばれ、工場も移転していくと考えられる。またTPAは近隣諸国、ASEANとの様々な活動も行ってきたが、タイでは今後さらに、他のASEAN諸国への投資や技術移転などを進めていかなければいけない。日タイ経済協力協会(JTECS)初代理事長の穂積五一先生は人間関係について、「まず喧嘩をしないことが重要だ」と言っていた。
 今後の2つのキーワードは、コラボレーションとフレンドシップであり、日本としてはさらに、他の国々との協力を進めていく必要があるだろう。また、タイにとって日本の文化や技術は大変重要だ。また重要なのは技術移転だけでなく、教育や人材の育成もあり、それらを民間ベースで行う我々の活動は、他の国々にとっても1つのモデルになるものだと考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部