第128回-2 中央ユーラシア調査会 報告2 「中央アジア・コーカサス地域におけるJICAの取り組み」 独立行政法人国際協力機構(JICA) 東・中央アジア部長 柳沢 香枝(やなぎさわ かえ)【2013/06/17】

日時:2013年6月17日

第128回-2 中央ユーラシア調査会
報告2「中央アジア・コーカサス地域におけるJICAの取り組み」


独立行政法人国際協力機構(JICA) 東・中央アジア部長
柳沢 香枝(やなぎさわ かえ)

1. 中央アジア・コーカサス地域の事業環境
柳沢 香枝 中央アジア、コーカサス地域においては、石油やガスなど資源に恵まれる国は、国際開放度が低く民主化も進んでいないように、資源の賦存状況と政治体制に負の相関関係がある。ソ連崩壊後の10年間はどの国の経済も停滞していたが、この10年間でかなり差が広がった。世界銀行の分類する所得レベルでも、高中所得国、低中所得国、低所得国の3つのグループに分類されている。ガバナンス、ビジネス環境でも差がでている。ガバナンス指標が最も良好なグルジアは、政治の安定性が低い、といった皮肉な現象もある。2014年にアフガンからISAF国際支援部隊が撤退するが、特に国境を接しているウズベキスタン、タジキスタンにどのような影響を及ぼすか大変懸念されるところである。

2. JICAの支援方針
 ソ連崩壊後、JICAはどの国に対してもほぼ同じような形で支援をしてきたが国によって格差が広がった今では、中央アジア、コーカサスという地域でくくることも難しくなり、各国の状況に応じた支援をしなければならないと考えている。いずれの国でもソ連時代のインフラが老朽化し、それをだましだまし使っている状況で、更新という意味では膨大なニーズがある。さらには、老朽化したインフラの更新だけでなく、システムの再構築、社会サービスの向上などが優先度の高い重要な課題として挙げられている。最近重視しているのは農業である。ソ連時代の農業システムが崩壊した後、新しい形態の農業の再構築が課題である。インフラの支援では地域統合にも留意し、CARECなどの枠組・イニシアティブとの協調も推進している。
 ウズベキスタンに対しては3つの重点支援分野が挙げられている。一つは鉄道、道路、電力などのインフラ分野で、日本の技術が生かせる部分での支援である。二つ目は、民間セクターを発展させる制度構築で、これはウズベキスタンではもっとも難しいところでもある。三つ目の重点分野は、農村部における所得、社会サービスの向上となっている。
 キルギスは所得レベルが低いということもあり、農業やビジネスの新興を通じて輸出力を強化し、国際市場への進出を掲げているが道は簡単ではない。輸出振興は実際には遠くにある目標である。
 タジキスタンはキルギスと所得レベルは同じだが社会状況がさらに悪い。今でも水、保健、道路の改修といった基礎的インフラ整備を通じた持続的経済成長の基盤作りに重点を置いているが、農村開発も進めていきたいと思っている。

3. 協力事例と実績
 中央アジア・コーカサス地域にはウズベキスタン、カザフスタン、キルギスの3か所に日本人材開発センター(日本センター)を設置し、人材育成支援を行っている。モンゴル、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーといった国々でも日本センターという事業をしているが、その原型はもともとロシア支援の中で始まったものである。日本センターでは、市場経済化推進に向けた民間セクターのビジネス人材育成のほか、日本語コースや相互理解促進事業も行っている。
 一村一品運動は大分県の平松知事がもともと始められたものだが、アフリカやタイといった国々でも展開している。キルギスでも一村一品運動を展開し、民間企業(無印良品)から協力をいただき、マーケットに出せるものを作った。一昨年、去年と引き続き、クリスマスシーズンのロンドンでギフト商品としての販売実績がある。
 しかし、中央アジア、コーカサス地域における事業は、日本の対外援助全体において、1.5%(2010年)という大変に少ない状況にある。今、日本国内の関心は、ミャンマー、ベトナム、インド、アフリカといった国々に向いている。中央アジアがほとんど忘れられている状況で、この地域の重要性を訴えていくことが最大の課題になっている。
 中央アジア・コーカサスの各国が1991年に旧ソ連から独立を果たした後、1993年にはODA受け取り国になり、JICAは同年から同地域の研修生受け入れを開始し、2011年までに延べ7000人を受け入れている。青年海外協力隊といったボランティアもウズベキスタンとキルギスで展開している。
 円借款は、海外協力基金(後、国際協力銀行を経てJICAと統合)の時代に橋や空港等の整備への支援を開始した。キルギスは、途中で債務不履行に陥り、新しい借款が停止されていたが、昨年以来、見直しが行われて今年2月の大統領来日に際して借款再開の同意にいたった。国別の実績では、円借供与額が大きいカザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャンへの支援額が多くなっている。

4. 地域の連結性強化の動き
 内陸国である中央アジアに対し、地域の連結性を強化しようという動きもある。CAREC(中央アジア地域経済協力)は、1997年からアジア開発銀行が主体になり始めた取り組みである。運輸、エネルギー、貿易を重点分野とし、地域協力推進のため、様々なプロジェクトに取り組んでいる。そのコンセプトは、もともと一つの連邦で各国がつながるように敷かれたインフラを生かして、地域の連結性を高めるとともに、地域の外にも出て行けるようなものを作るというものである。中央アジア5カ国からはじまったが、アゼルバイジャン、中国、モンゴル、アフガニスタン、パキスタンが加わり10カ国の枠組みとなった。欧州開発銀行、IMF、イスラム開発銀行、世界銀行、国連開発計画もメンバーになっている。日本はオブザーバー参加である。毎年1回、閣僚会議と高級事務レベル会合を開催している。
 TAPIは、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドの頭文字をとったもので、トルクメニスタンのガス田から産出される天然ガスをパイプラインでアフガニスタン、パキスタン、インドに輸出する、約1,800kmにも及ぶパイプラインプロジェクトである。ADBが主導で支援しているが、アフガン情勢が安定していないのでどこまで進むのかわからない。
 CASA1000は、中央アジアと南アジアを1000メガワット容量の送電線で結ぼうというプロジェクトである。主に、キルギスとタジキスタンの水力発電から生じる夏場の余剰電力を、アフガニスタン、パキスタンに送電しようという計画だが、同じ河川流域を共有し、下流域に位置するウズベキスタンが強行に反対している。

5. 最近の各国の現況
 2013年4月にバクーで、初の南コーカサス・中央アジア版の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)が開かれた。これはアゼルバイジャンのアリエフ大統領が誘致に成功したもので、資源の効果的活用、貿易の多様化、貿易等いくつかのテーマが掲げられていた。アリエフ大統領やアゼル政府の閣僚のオープンな態度が印象的だった。参加国、参加者は石油関連が主だった。
 5月にはカザフスタンで第6回アスタナ経済フォーラムが開かれた。国際社会(国連等)との協調関係と世界の「知」へのオープンさを強調し、カザフスタンの立ち位置を示していた。カザフスタンは、2050年までにトップ30に入るという「ビジョン2050」を発表しようとしている。トップ30とは一般的に考えれば経済レベルにおいてであろうが、経済だけではなく総合力として30に入るには、石油依存からの脱却、人材育成等の課題が挙げられていた。政府の実務能力向上も課題である。
 アスタナフォーラムの前日には、ビシュケクでIMF、EBRD、スイス政府とキルギスの中央銀行が主催した、中央アジア・コーカサス地域の今後の展望を協議する会議があった。キルギスの通貨ソム導入20周年を記念するイベントとの並行開催であった。中央アジア・コーカサス地域は経済も成長し、貧困削減、インフレも抑制され、ソ連崩壊直後の混乱した状況からは脱しているが、まだまだ改革が必要であることなどが会議で語られた。特に、政府のビジネスへの介入、ガバナンスの欠如、民主化の遅れ、汚職、中央銀行が独立性など、いろいろな課題が挙げられた。移行経済から、新興市場に移るためには、改革を更に進化させる必要があるというメッセージであった。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。


担当:総務・企画調査広報部