第129回 中央ユーラシア調査会 「”アラブの春”パート2:シリア内戦とエジプトの混乱」一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 客員研究員 元防衛大学校 国際関係学科教授 立山 良司 (たてやま りょうじ)【2013/07/14】

日時:2013年7月14日

第129回 中央ユーラシア調査会
「"アラブの春"パート2:シリア内戦とエジプトの混乱」


一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 客員研究員
元防衛大学校 国際関係学科教授
立山 良司 (たてやま りょうじ)

1. 「アラブの春」全体の動き
2011年3月、チュニジアから各地に「アラブの春」が拡大していった結果、チュニジア、リビア、エジプトでは体制が変わった。エジプトではさらに今年6月末からの混乱の中で、ムスリム同胞団の政権が倒され、新たな政権作りに入っている。シリアは内戦がずっと続いたままである。アラビア半島の南端のイエメンでは体制転換とは言い難いが大統領が辞任を余儀なくされた。それ以外の国でも何らかの形で政治改革要求運動が起きた。王政の国は、体制そのものが大きく揺らいだり、変化があったわけではないが、ヨルダンやモロッコは憲法の改正などを行った。バーレンは不安定な状態が続いている。イエメンでも「アラブの春」の関係での不安定さに加えて、テロ組織が拠点を置くなどの不安定さが続いている。

2. シリアの内戦
2011年3月、シリアでは南部の町ダラーアで起きたデモの激しい鎮圧がきっかけになって反政府デモが各地に拡がっていった。今、2年以上が経ち、内戦が長期化し、多数の難民が出ている。7月中旬現在で、周辺諸国に180万人強で、レバノン、ヨルダンあるいはトルコが多い。UNHCRの推定では国内避難民が425万人とある。死者数は、6月下旬現在で10万人以上と推定されている。
 シリアは、第一次世界大戦後にオスマン帝国が崩壊する過程で人工的に作られた国家である。フランスの委任統治領となり、現在の地理的な枠組みになったので、凝集力、一体性を持った国民ではない。宗教、宗派、民族というさまざまな形で分かれている。民族が同じでも考え方が違っていたり、また郷土意識が非常に強く、シリア国民というよりは、サブナショナルな意識のほうが強かったりする。アサド家は少数派のアラウィー派で、治安部隊や政治の中心はアサド家とその親戚が押さえている。シリア国内はスンニ派が多数派である。
 反体制側を一番支援しているアラブの国は、サウジアラビアとカタールである。それ以外のアラブの国や欧米の国も反体制側を支援しているが、反体制側の支援の足並みも必ずしも歩調が取れているわけではない。アサド体制を支持しているといわれているのは、イランとヒズボラ、中国、ロシアで、外交的、金銭的な支援のほか、軍事支援もしている。
 現在の大きな問題は、過激なジハード主義者が入ってきていることと、宗派間対立ではなかったものが、アラウィー派がシーア派に近く、現実にアサド体制がイランあるいはヒズボラの支援を受けていることで、シーア派対スンニ派的な宗派対立の様相が深まってきていることである。イランとは完全に戦略的な同盟関係と言える。
 シリアに対する国連決議は、2012年4月から8月に3回成立しただけである。このように対立が激しくなっている中で、ロシア、中国がアサド体制を支持するのは、軍事的なつながりやアメリカ主導型の国際秩序への反発などがある。

3. エジプトの混乱
 エジプトでは、2011年1月にタハリール広場を中心にして大きなデモがあった。それからわずか2週間後には当時のムバラク大統領が軍からも見放され辞任を余儀なくされた。その後議会選挙が行われ、ムスリム同胞団を中心とするイスラーム主義勢力が議会の多数を握り、大統領選挙でもムスリム同胞団のムルシーが大統領になった。それからちょうど1年が経った今年の6月末から大規模な反ムルシーデモあるいは反同胞団デモが行われている。7月3日には、軍がムルシーを解任、憲法効力を停止し、代わって最高憲法裁判所長官を暫定大統領にした。
 タハリール広場に集まった人々、つまりはムバラク政権を倒した原動力となった若者、リベラル派、世俗派の人たちは、自分たちが起こした革命が、結果的にイスラーム主義者に乗っ取られてしまったという不満を持っていた。他方、一般民衆の多くは同胞団に対する期待を込めて、議会選挙でも大統領選挙でも同胞団あるいは他のイスラーム政党に投票した。
 しかし、ムルシー政権の強引とも言える新憲法発効や、イスラーム主義者の登用、経済の悪化、失業率の増加、観光業の不振などといった問題を背景に、同胞団あるいはムルシー政権への批判が高まり、世俗・リベラル派の呼びかけで大規模デモが行われた。
 軍もまた、昨年までは同胞団、イスラーム主義者と手を組む姿勢を見せていたが、今年になってから状況が変わった。もともと軍にとってみれば、同胞団を含めて、イスラーム主義者は危険な存在であり、機会があれば同胞団ないしイスラーム主義者の権力を少しでも抑制したいと思っていた。
 今エジプトでは、イスラーム主義者、ムスリム同胞団を中心とするグループ、世俗派、リベラル派、ムバラク政権を倒した若者を中心とするグループ、軍の3つが三つ巴になっている。どのような政治体制を構築していくのか、その要求もばらばらで、イスラームの教えと政治・社会との関係についてのコンセンサスがとれていない。軍も今回はイスラーム主義を追い落としたが、もし、世俗リベラルが権力を握って、シビリアンコントロール、軍予算の透明性確保と言いだしたら、再びクーデターを起こす可能性が十分ある。
 「アラブの春」をきっかけとした民主化、あるいは民主主義体制の中で、イスラームをどう位置づけるかという問題への答えが今のところない。イスラームをどう重視するのか、世俗派、リベラル派でも考えが違っている。一般的にイスラーム主義者と呼ばれる人は同胞団も含めて、経済や社会、治安などあらゆる問題の解決をイスラームに求めればよいと考えている。しかし、イスラームとは何なのかという解釈の問題になると、イスラーム主義者の間でも違ってくる。テロを肯定するようなイスラーム主義者(ジハード主義者)から、順次イスラーム化を実現していこうといういわゆる穏健派といわれる人々もいる。同胞団は穏健派といわれる勢力の代表である。

4. トルコ
 今年の5月末、イスタンブールでの公園再開発反対運動をきっかけに大きなデモがおき、エルドアン首相の辞任要求デモに発展した。80都市、250万人が参加したといわれている。
 公正発展党(AKP)、エルドアン政権は、2002年に単独で政権をとった。過去3年間選挙で勝ち、得票率も伸びてきている。経済成長率が非常によく、人気が高い。しかし、国民特に都市部の若者たちは、エルドアン政権の強権的な政治に不満を持っている。拘留されているジャーナリストは中国よりも多いとも言われ、民主主義が十分に発展しているとは言い難い状況である。
 トルコは世俗主義を憲法に謳っている国で、そういう意味では、エジプトを含むアラブ諸国にとってトルコはモデルにならないだろう。公正発展党も自分たちをイスラーム主義政党とは言っていない。自分たちは保守政党であると言っている。
 他方で、エルドアン首相はじめ、AKPの中枢部はもともとイスラーム主義者なので、イスラーム的な側面を強化したいと思っている。世俗主義という基本概念とイスラームをどうするかという概念がここでも対立している。ただし、デモ隊も「アラブの春」のように現在のトルコの体制そのものを倒そうということではない。その意味では、日本で起きているデモとあまり変わりないとも言える。

5. イランの核開発問題
 6月に大統領選挙があり、保守派の中では穏健派のロウハーニが第1回の選挙で、予想外に50%の票を獲得し当選した。8月に大統領に就任する予定である。ロウハーニは、核問題についての透明性を高め、国際社会と良好な関係を目指し、経済を改善すると約束している。これらは、つまり、制裁問題に取り組むということである。制裁問題に取り組むことは、すなわち核問題に取り組むことでもある。
 今年5月のIAEAの報告書によれば、イランには、20%までの濃縮ウランが324kgあり、そのうち182kgを20%濃縮で保存し、142kgは燃料棒用に再加工している。つまり、20%までの濃縮ウランは200kg弱しか現在はない。一般に原爆1個の製造に20%濃縮ウランが240~250kg必要であるといわれている。ネタニエフ首相のレッドラインとは、240~250kgを指して言っているのかもしれない。
 国連の安保理決議では、イランは完全に濃縮活動をやめることになっている。イスラエルは、濃縮活動をやめると同時に、濃縮したウランはすべてイラン国外に持ち出し、イラン国内の核施設の一部の完全閉鎖を要求している。これをイラン側が受け入れる可能性はない。この関係、問題をどう解決していくのか。今のところ答えがない。
 今、シリアの政府軍が攻勢をかけているが、その一つの要因にヒズボラが政府軍の側についたことがある。それに関連して、イランが中東における覇権を求め、そのためにアサド体制を支援しているのではないかと言われている。イランがさらに核、核兵器を持てば、イランを押さえることは不可能になる。だからこそ、今押さえるべきだという主張もある。シリアの問題を含めて、イランの問題とも連動しつつあり、状況はいっそう混迷している。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

IISTサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。


担当:総務・企画調査広報部