第130回 中央ユーラシア調査会 報告2 「タジキスタン甘草生産BOPプロジェクト」株式会社国際開発センター 主任研究員 渡辺 博 (わたなべ ひろし)【2013/09/25】

日時:2013年9月25日

第130回 中央ユーラシア調査会
報告2 「タジキスタン甘草生産BOPプロジェクト」


株式会社国際開発センター 主任研究員
渡辺 博 (わたなべ ひろし)

 JICAの支援により、タジキスタンで甘草生産事業準備調査(BOPビジネス連携推進)プロジェクトを行っている。本日はこのタジキスタン甘草生産BOPプロジェクトについてご紹介したい。

1. はじめに
 甘草は、中国西部、シベリアに分布するマメ科の多年草で、漢方薬に用いる生薬の一つである。鎮痛、解毒、去痰などの作用があり、小柴胡湯、甘草湯、葛根湯、安中散などに含まれている。一説によると、中国の漢方薬の8割に使われているそうである。甘み成分のグリチルリチンが含まれており、甘味材料としても古来使われてきた。正倉院の御物の中にも甘草根があり、ピラミッドの副葬品からも甘草根が出ている。漢方薬の他には原料として各種の医薬品、例えば目薬、歯磨き粉、化粧品、食料品、タバコやガムなどにも利用されている。春になると藤の花のようなきれいな花が咲く。
 タジキスタンは1991年のソ連解体により独立国家となったが、その後内戦が勃発、1997年に和平合意、2000年の議会選挙を経て和平プロセスが完了した。中央アジアの中では最貧国で、2009年で人口に占める貧困層の割合は46%に上った。一人当たりのGDPはわずか700ドルで、市民生活はGDPの3~5割を占める出稼ぎ労働の仕送りに支えられている。
 CIS諸国の中では、一番最後に土地改革が行われ、コルホーズ、ソホーズが解体されつつあり、ようやく7万軒の農家に土地の利用権を渡している最中である。就業人口の70%以上が農民であるにも関わらず、農業分野のGDPに占める割合は25%程度にすぎず、生産性が低い。
 タジキスタン甘草生産プロジェクトは、タジキスタン南部のハトロン州農民がグループ組織をつくり、農機具のリース、農業指導を受けて甘草を生産し、本邦企業である宏輝システムズ株式会社の現地合弁会社Avalin(タジク語でパイオニアという意味)に販売するビジネスを実行することで、農民の就業機会の拡充、所得向上を目的とする、BOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネス連携事業である。今年の3月から開始され2016年2月迄の3年間継続される。この間、専門家を派遣して、ビジネスモデルの構築、技術指導、経営指導、集荷場開設、甘草試験栽培の実施などの協力事業を行う。

2. 事業の概要
 Avalin社は、タジキスタン51%、宏輝システムズ株式会社49%出資の会社であり、ハトロン州に生産プラントを持つ。Avalin社はタジキスタン政府から原料確保に必要な甘草生育地3000haの利用権のうち現在までに1500haの付与を受けているが、資源量は十分とは言えないため農民が直営地以外で採取する甘草根の購入を行う。農民は採取した甘草を集荷場に集めて乾燥させ、Avalin社の工場に販売する。工場では中間製品を作り、最終的には日本等に運び、薬の原料にする。そのサプライチェーンの一番初めの原料の供給ビジネスになる。現地では、甘草の原生地を耕し、秋冬は綿花を作り、冬から春にかけては小麦を作っている。小麦と綿花の栽培後の農閑期に甘草採集を行い現金収入にしてもらう仕組みである。
 事業を行うタジキスタン南西部のハトロン州は、ウズベキスタン国境、アフガニスタン国境に近く、アフガニスタン国境からは約12kmである。タジキスタン、アフガニスタン国境を流れるピャンジ川の支流コファルニコン川に沿った地域で、原生甘草の生育地である。川原含めて付近一帯、甘草が野生で生えている。この甘草がお金になると知られる前は、現地の農民は一生懸命に甘草を抜き綿花や小麦を作っていたとのことである。
 繰り返しになるが、プロジェクトの目標は、ハトロン州の農民がグループを作り、甘草生産販売をして所得を向上させることにある。主な成果は、グループの設立、甘草生産販売、採取による枯渇を防ぐための試験栽培の3つが挙げられている。
 甘草収穫は、トラクターで鋤を引かせて土を掘り返し、土中から出てきた甘草を収穫する。この地域の特性として、現金収入があまりないので男性のほとんどが、ロシア、カザフスタン、中東等に出稼ぎに行き家計を支える現金収入を得ているのが現状であるため、実際の農作業等々は女性がほとんど行っている。採取後は、甘草野生地に近い所に設けられた集積場に集めて2~3ヶ月乾燥させる。その後、工場に持ち込み、クルード・グリチル・アシッド(CGA)という中間原料にする。それを陸路、海路で日本に運ぶ。タジキスタンから中国への陸上輸送、ならびにアフガニスタン、イランを経由して、バンダアバス港から海上輸送される2つの経路で、日本や中国に輸出する。
 日本からは専門家を4名派遣する他、農機具、甘草根の機材を提供している。タジキスタン側のカウンターパートは中央政府、州政府、農民組織の責任者で、用地や収穫発送場、試験栽培地の提供がある。タジキスタン側では農業担当副首相、経済開発貿易大臣、ハトロン州知事、クボディヨン郡の郡長、タジキスタン国立銀行、環境保護委員会、統計局などが支援を行っている。タジキスタン側の農民組織には、保有する土地に野生の甘草根があり、似たような事業を過去に行った経験がある方々を選んだ。現地では、今までにも、UNDP、世銀等により、様々な農業振興プロジェクトが行われている。
 現在、甘草根は5年周期で採掘するため、3000haでの生産が行われれば、資源枯渇の懸念はないが、増大する需要に対応するため、甘草栽培を目的とした試験栽培も行う計画である。試験栽培の場所は、土がよい場所であること。不思議なことに稲作をした土地では甘草が育たないことがわかっているので耕作歴にも影響される。また、野生の甘草の生育地で、植えた後の盗難がなく、試験栽培が簡単で、モニタリングができる場所ということで、プラントの近郊の村に用地を確保した。試験栽培用の苗床の栽培地は、水遣りや盗難防止、モニタリングの便がよいということで、プラントの中の敷地を苗床として確保し、9月にフィールドマネージャーが現地入りをして、苗床を整備してきた。種苗になる甘草根を水に浸したりする処理や、植え方、土や肥料について指導を行った。
 来週、私は現地に行き、3年間のプロジェクト期間に農民所得がどれくらい向上するのかを調べるため、現地農民の家計調査を行う予定である。また1ヶ月前に植えた苗床がどうなったかのモニタリングも行う。11月には綿花の収穫がまもなく終わり農閑期になる。ロシアも厳冬期になり出稼ぎに行った男性たちも現地に戻ってくる。その方たちに甘草根を採取するビジネスをお願いしようと考えている。来年の3月には、先ほどの苗を試験栽培地に植える予定である。
 農民による独自ビジネスの立ち上げが難しい地域事情を考えると、商業規模の生産技術、経営実績および販売市場を持つ日本企業が、現地に進出して地域農民とBOPビジネスを連携して行うことの効果は大きいものであると考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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