第131回 中央ユーラシア調査会 報告 「アフガン撤退と南アジアの政治経済情勢-バングラデシュ・インド選挙と中印関係など」有限会社ユーラシア・コンサルタント 代表取締役 清水 学 (しみず まなぶ)【2013/10/29】

日時:2013年10月29日

第131回 中央ユーラシア調査会
報告 「アフガン撤退と南アジアの政治経済情勢—
バングラデシュ・インド選挙と中印関係など」


有限会社ユーラシア・コンサルタント 代表取締役
清水 学 (しみず まなぶ)

1. 米・NATOにとってのアフガン撤退
 2014年末までにアフガニスタンからアメリカ・NATOの戦闘部隊が撤退することになっている。
 今月ケリー国務長官は、米ア・二国間安保合意(BSA)を目指して、アフガニスタンを訪問した。アメリカは、一定数の米軍の駐留の可能性を模索しているが両国間に温度差がありうまく話が進んでいない。アメリカは軍事面での単独行動権や米兵のアフガン法適用への免責などを要求している。
 今後の可能性を巡っては、後は野となれ山となれということなのか、タリバーンが影響力を拡大することは明らかで否定できない事実である。タリバーンをどういう形で組み込むかが重要で、タリバーンとの和解工作をここ米国は2年くらい散発的に行っている。米国にとって再度の軍事介入の覚悟はない。周辺諸国も米NATO軍の撤退後、なんらかのアフガニスタンへの働きかけを強めるだろう。こういう節目の時期には必ずアフガニスタン分割構想がでてくる。南東地域のアフガニスタン最大の民族であるパシュトゥーン人が住んでいる地域をタリバーン地域にして、あとはいくつかの主要民族毎に分けるという構想もあるが実現したことはない。他方、タリバーンがアフガニスタン外に進出する可能性は極めて弱い。アフガニスタンには、タジク民族が北東地域にいる。面白いことにタジク人は、アフガニスタンでは第二の人口を占めているが、それでもタジキスタンのタジク人よりも数が多い。ウズベク人もかなりいる。ウズベク族、タジク族、トルクメン族などは、アフガニスタン北部国境と接する中央アジア諸国と同じ民族であるが、アフガン国民としての帰属意識が強く、北の中央アジアの国と統合しようとする意識はほとんどない。
 米戦闘部隊撤退後の中央アジア・南アジア地域における再編成の動きの中で、アフガニスタンの地理的条件に対する再評価と期待の高まりを考慮した新構想が必要である。タリバーンも含めた形で新構想に組み込んでいくのが一番望ましい。アフガニスタンはユーラシア大陸の南北縦断輸送路にとって不可欠であり、一種の新シルクロード構想の枠組みを念頭において、この地域のことを考えるべきである。

2. 南アジア
 南アジアは選挙の季節を迎えている。パキスタンでは今年5月に議会選挙が、ブータンは4月、5月に国民議会選挙があった。ブータンは王政の国だが、2008年に国王自らがイニシアティブをとって民主化を進め、議院内閣制を導入した特異な国である。中国が国境を接している国のなかで唯一中国と国交がない国で、中国との国境紛争も解決していない。ブータンはインドの強い影響下にあるが、中国は影響力を強めようと働きかけを強めている。モルディブでは1週間ほど前、警察当局が大統領選挙の延期を発表した。理由はよくわからないが中印関係が絡んでいる可能性がある。バングラデシュは、2013年末か2014年初めに国会選挙が行われる予定である。アフガニスタンでは2014年9月に大統領選挙が行なわれる。
 インドは2014年5月に連邦下院選挙があり、この選挙の結果によっては、外交、経済政策も含めて、大きな転換点となる可能性がある。現首相のマンモハン・シンは81歳であるが、インドは今年になり経済成長率が急激に低下している。首相の座を狙う一人であるインド人民党(BJP)のナレンドラ・モディは、現グジャラート州首相で、過去10年ほどの同州の経済成長率を平均10%という高い水準に維持してきた、経済問題については非常に自信を持つ人物である。しかし、他面2002年にグジャラード州ゴズラで起きた1000人以上のイスラム教徒の虐殺事件に間接的に関与したという疑いを持たれている。現与党国民会議派のシンボルであるラフール・ガンディーは3代にわたって首相を出してきた俗称ネルー「王朝」の血を継ぐプリンスであるが、今ひとつ人気が沸かない。BJPは政治面では中道右派で、国民会議派のラフール・ガンディーは中道左派である。しかし経済問題でナレンドラ・モディが現段階では攻勢に立っており次期首相のファースト・ランナーである。最近は桁外れに大きい汚職問題も目立ってきている。
 さてバングラデシュが位置するベンガル湾地域には、世界の人口の4人の1人がこの周辺に集中していると言われる。バングラデシュの人口は1億6千万で日本よりも多いが、2012年にはクリントン国務長官が米高官としては久方ぶりに訪問したように、ASEAN・南アジア・中国に挟まれた地域として、その重要性が高まりつつある。現与党のアワミ連合のハシナ首相と野党のBNP党首カレダ女史の二人の女性の間の対立が激しく、そのなかでBNPと結びつく形でイスラム主義運動が台頭している。
 中国は南アジアの国々に対して積極的な外交攻勢をかけている。中国・パキスタン間のインドを念頭に置いた「伝統的」戦略的協力関係は不変で、今年5月李中国首相は訪印後、パキスタンも訪問し、パキスタンの主権と領土保全を支持し、全天候型とする良好な両国関係を強調した。また海上交通や国境管理での協力、陸上交通の整備をうたった覚書に調印した。ネパールとは経済関係を強化しようとしている。ブータンとは国交樹立に向けての働きかけがある。モルディブには大使館を2年前に開設し、いまや観光立国モルディブの最大の観光客は中国人となっている。バングラデシュは対印関係を重視しながらも中国を睨んだ全方位外交を展開している。今後の南アジアの課題としては、若年層の就業機会の確保、宗教の政治化の抑制、成長経済の維持などが挙げられる。

3. アフガン問題のカギを握るパキスタン
 2013年5月に、パキスタンの歴史において初めて文民内閣が5年の任期を全うして、次の文民の大統領に政権を引き継いだ。カイヤニ陸軍参謀長は11月に任期がくるが予定通りの引退を発表している。新しい首相となったナワーズ・シャリーフは就任直後、中、米を訪問している。今年4月も訪中後に、訪米したシャリーフ首相は、援助再開を条件に内々に米軍の無人爆撃機攻撃を承認したとも言われるが実際は不明である。
 タリバーンには、アフガン・タリバーンとパキスタン・タリバーンの二つのタリバーンが存在する。軍関係者がアフガン・タリバーンへの影響力は相変わらず維持している可能性が高い。パキスタンは、アフガン政府とタリバーン、あるいは米軍とタリバーンの間で交渉が行われても、それがパキスタンの利益を侵害すれば、その事実上の拒否権を行使する可能性が強い。パキスタン・タリバーンはパキスタン政府を敵とする勢力であるが、アフガン・タリバーンとも無関係ではないという複雑な関係にある。両タリバーンの接点としては、アフガニスタンと国境を接している連邦直轄部族地域であるが、パキスタン政府が完全にコントロールできていない地域である。
 ところで、パキスタン軍とエジプト軍は比較されることが多いが、私はかなり違うと見ている。パキスタン軍は行政能力を持ち経済政策を実施した豊富な経験がある。パキスタンでは、軍政時代のほうが経済成長率が高く、民政時代になると経済ががたがたになると言われるが、統計を調べると実際そうである。エジプト軍は、行政能力も経済運営能力も全くだめである。パキスタンはインド軍と対抗しているので戦闘経験を持つが、エジプト軍は最近では戦闘経験もない。パキスタン軍は外交を含めて国家の戦略を同時に有するが、エジプト軍は利益団体として自己の利益を守ることにのみ専念している。

4. インドのアフガン政策、対中関係
 インドは2012年、アフガニスタンとの間で長期的な戦略的協定を結び、2014年以降もアフガニスタン支援等に長期的に関与し続けることを明らかにしている。アフガニスタンは伝統的にインドとの関係がよい。インドはアフガニスタンの主要都市5か所に領事館を持っている。アフガニスタンは2005年にSAARC(南アジア地域協力連合)の正式メンバー国でもある。
 今年4月、中国軍がカシミール・ラダク地区で、事実上のインド実効支配線を20キロメートル近く越えて侵入して駐屯するという事件が起きた。インド側が撤退を求めてもすぐには応ぜず、3週間後にようやく撤退し、両国間の国境の緊張は一時的鎮静化した。その直後、中国の李中国首相が3日間訪印したが「信頼関係の強化と協力関係の増強」を強調して先の問題には触れなかった。
 マンモハン・シン首相は、10月22日から3日間訪中した。中国側との会談では、国境紛争鎮静化・南アジア安定化・貿易投資促進と片貿易是正が課題として取り上げられた。具体的には、実効支配線で対峙する中印両軍間でのホットライン設置、双方の支配線や国境周辺の軍の移動に関する相互の事前通報のルール設定、相手国支配地域への追跡の禁止などが合意されたが、国境問題に関する根本的解決には触れずに終わった。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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