第132回 中央ユーラシア調査会 報告1 「トルクメニスタンの政体と日本企業の進出状況」外務省 国際情報統括官組織 第二国際情報官室 上席専門官 前駐トルクメニスタン臨時代理大使 堀口 暢 (ほりぐち みつる)【2013/11/19】

日時:2013年11月19日

第132回 中央ユーラシア調査会
報告1 「トルクメニスタンの政体と日本企業の進出状況」


外務省 国際情報統括官組織 第二国際情報官室 上席専門官
前駐トルクメニスタン臨時代理大使
堀口 暢 (ほりぐち みつる)

1. 初めに
 私は4ヶ月前までの2年9ヶ月トルクメニスタンに臨時代理大使として勤務していた。トルクメニスタンは、"中央アジアの北朝鮮"という言い方をされることもあり、実際に現地で毎日生活をし、仕事をしていると、時には北朝鮮に近い面があるのではないかと思うこともあった。しかし、最近は、トルクメニスタンに対する評価が少しずつ変わってきつつあり、中には"中央アジアのドバイ"だと言う人も出てくるほど急速な発展をみせている。本日は現地に住み公私共に様々な経験をして感じた内側から見たトルクメニスタンについてご報告したい。

2. トルクメニスタン-豊かな社会と国民生活
 トルクメン人は高度な権威主義国家の中で生活しているため、最初の印象は、まるでお互いが監視しあって生活をしているような閉塞感が漂っていた。完璧なまでの情報統制により、外交官の重要な仕事の一つである情報収集業務が上手くできない。情報収集が難しい具体例として、閣僚級を含む現地の公務員は、一番下位の公務員も含めて例外無く、外国人との個別の外食が禁じられているのだ。監視が行き届かない場所で任国政府に関する情報が外国人に流れることを防ぐためである。
 世界第4位の天然ガス埋蔵量を誇るトルクメニスタンだが、特に同国南東部のガルグヌシュ天然ガス田は、単体のガス田では世界で2番目の規模である。国の財政は税金に頼ることなく、ほとんどガス収入によるものである。GDPの規模は約3兆円強で、大きな経済国ではないが、約500万人と人口の少ない同国では、一人当たりGDPは約6千ドルになる。実際はもう少し貧しく感じられ、平均的な月給は300~500ドルくらいで多いとは言えない。電気、ガス、水道はほぼ無料で、交通機関もバスが中心だが1回当たりの乗車賃は6円、車を1台保有していれば、毎月120リットルのガソリンが無償で配給される。いわゆる食えない人はいないという変わった国だ。

3. ベルディムハメドフ大統領によるトルクメニスタン独自の国家統治法
 6年前にニヤゾフ大統領が突然亡くなった後も、高度な権威主義国家体制を維持していることに変わりはない。ニヤゾフ大統領の肖像画はすべて取り払われ、代わって今はベルディムハメドフ大統領の肖像画(写真)があらゆるところに飾られている。そのベルディムハメドフ大統領だが意外に好かれている。非常に気さくな人物で様々な人々とよく話をする。とりわけ情報には非常に敏感で、側近には厳しいと思うが、少なくとも外面は徹底して良い。外国からの要人や経済人とも頻繁に会っている。
 私の任期中にも、街にはトルクメニスタンの発展を象徴するような巨大な建造物がたくさん建てられ、特に首都アシガバットの外観は随分変わった。例えば世界最大の屋内観覧車や星形の建物等、アシガバットだけでもギネスブックに載っている場所がいくつもある。そういった新しい建物が作られるたびに、各国大使や民間企業のトップは出席させられ、大統領も出席して盛大な開所式が行なわれる。トルクメニスタンが豊かな国であり着実に発展していることを大統領自身が一所懸命国際社会に発信しようと努力しているのだ。最初に一番驚いたことは、そのような政府主催のレセプションや開所式が非常に多く行われ、通常業務に支障が出るほどであった。政府行事は頻繁に行われ、出席しない場合、トルクメニスタン外務省儀典局から出席要請の電話が週末であろうと、深夜であろうと直接自宅にかかってくる。初めの頃はこうした機会が多過ぎることに閉口していたが、次第にその機会を利用することこそ外交活動に必要だと思うようになった。大統領が出席するときには、全副首相と閣僚等も必ず出席することになっているので、私はしばらくして、これは政府要人に直接会って話せる絶好のチャンスだと思うようになった。通常、口上書を出しても長い時には数週間待たないと面談が実現しない状況の中で、政府行事の機会を上手く使えば、直ちに案件を動かせることに気づいたのである。
 現在、大統領にとって最大の課題は、天然ガスの輸出多角化である。3本のパイプラインが中国、ロシア、イランに延びている。ガスは中国に最も多く送られていて、今は年間30Bcmだが、2020年頃までに予定通り65Bcmに増えるだろうと言われている。ヨーロッパ方面へガスを送るトランス・カスピ海パイプライン、インド方面に延びる予定のTAPI(トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドの頭文字)パイプラインも、実現に向けた準備が進んでいる。少なくとも大統領は、そうしたプロジェクトが確実に進捗していることを国の内外に見せようとしている。ロシアもイランも、トルクメニスタンが直接アゼルバイジャン経由でヨーロッパにガスを送ることを望んでいないため、カスピ海問題を棚上げにし、トランス・カスピ海ルートが実現しないようにしているようだ。
 大統領はトルクメニスタンが天然ガスだけに頼る国とならないように工業化政策を推進している。そこで近年大統領は、資本力があり、先端工業技術を持つ日本との関係強化に強い関心を持っている。2009年12月に次いで本年9月中旬に、大統領の2回目の訪日がなされた。大統領は常々、日本企業に対して最先端の技術を供与して欲しいと求める。しかし、トルクメニスタンの最大の問題の一つは人材育成が追いついていかないことである。今後日本がトルクメニスタンに進出して行く場合には、技術移転を成功させるための現地人材の能力向上を如何に図るべきかを考えなければならない。ただし、確実なことは、トルクメニスタンが真剣に工業国になろうとしていることである。

4. 日本をトルクメニスタンに売り込むために、最初にトルクメニスタンを日本に売り込んだ
 トルクメニスタン駐在中、日本企業の誘致のために様々な活動をおこなった。他国を見るといろいろな意味でトルクメニスタンに近いトルコはやり方も上手かったため、私は長年トルクメニスタンで事業を成功させてきたトルコ人から、トルクメニスタンとの協力関係強化のためのノウハウを教えてもらいながら日本企業への支援を続けた。臨時代理大使として、企業の方とは積極的にお会いし、一緒になって協議をしながら要人とのアポイントをとったり、入国ビザの手配を行なったりした。問題が起こればすぐに政府高官に面談を申し入れて話をしに行った。結果的には非常に成功し、私の駐在期間中にトルクメニスタンに接触した日本企業の数は5倍になった。今回の大統領来日の際には、様々なプロジェクトに関する署名がなされ、日本企業が関係し、受注する可能性のあるプロジェクトの総額は1兆円近い。日本企業が抱えるプロジェクトの中は1千億円を超えるものもある。
 日本企業の進出を後押しするために様々な試行錯誤を繰り返したが、一番痛感したことは日本人の間にトルクメニスタンがほとんど知られていないことだった。通常、在外公館の主要な仕事の一つは、日本を外国に広報することだが、私は順序を逆にして、先ずトルクメニスタンの広報を日本でしてやろうと考え、日本のテレビ局と協力してトルクメニスタンに関する番組をゼロから作り上げ日本で放送してもらった。高視聴率を誇る「世界ふしぎ発見!」であるが、最初の放送で視聴率1200万人という驚異的な視聴率を得た。これを機に日本人の間でトルクメニスタンが知られるようになった。また、先日の大統領来日の際にトルクメニスタンは、JATA(日本旅行業者連盟)の「旅博2013」に初出展した。中央アジアで参加したのはトルクメニスタンだけであった。トルクメニスタンは、多くの日本人観光客にトルクメニスタンに来て欲しいと言いながら、入国審査が厳しくなかなか入国できないという矛盾を抱えている。アクセルを踏みながらブレーキを踏んでいるようなものだ。一見変わらないトルクメニスタンだが、私の駐在期間中に変わったこともたくさんある。国際化を図るトルクメニスタンに、最近では国連関係者や各国企業関係者が次々に入ってきている。

5. 今後の日本とトルクメニスタンの関係
 今のところ大統領は日本のことが大好きであり、日本とは非常に良い関係にある。本年5月には駐日トルクメニスタン大使館が開館し、今月(2013年11月)には特命全権大使が着任した。これまでトルクメニスタンは、医療機器に関してはドイツ一辺倒だったが、最近はバランス感覚も発揮して医療分野での日本との関係も強化しようとしている。天然ガス関係の化学プラントについても、商社や大手日本企業が絡むいくつもの案件が進行中である。今のところ、トルコや韓国、中国等の他の国とは住み分けができており、日本企業が得意とする分野には他国が手を出せない状態にある。
 1年ほど前から、大統領が民営化を言い出し、中小企業庁、商工会議所の動きも活発になっている。少しずつ民間企業が育ってきているので、今後は日本の中小企業にもトルクメニスタンに進出して欲しい。今であればどんな業種でも参入できる状況がある。
 トルクメニスタンは急激に変化している国であり、将来は明るいと思われる。何よりも治安の良さは企業が進出する上で重要であろう。トルクメン人は誠実で人が良い。仕事もまじめで良く働く。そういう意味で好感が持てる。初めは驚かれることも多いと思うが、一度は行く価値のある国である。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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