第132回 中央ユーラシア調査会 報告2 「ISAF撤退を控えたアフガニスタン・パキスタン情勢:10月のイスラマバード出張を踏まえて」防衛省 防衛研究所 主任研究官 湯浅 剛 (ゆあさ たけし)【2013/11/19】

日時:2013年11月19日

第132回 中央ユーラシア調査会
報告2 「ISAF撤退を控えたアフガニスタン・パキスタン情勢
:10月のイスラマバード出張を踏まえて」


防衛省 防衛研究所 主任研究官
湯浅 剛 (ゆあさ たけし)

はじめに
 非常に限られた時間ではあったが10月にイスラマバードを3日間訪れ、NDA(パキスタン国防大学校)での講義や意見交換、研究所等の他の組織との意見交換などを行なった。本日はその個人的な所感とその訪問を踏まえた地域情勢についてご報告したい。

イスラマバードを訪問しての個人的所感
 ご存知のとおりイスラマバードは、人工的な計画都市で、1960年代の建設当時はきれいでぴかぴかだったが、今回の訪問での印象は一部の区画を除いてインフラは老朽化しており、あまり暮らしやすいようには感じなかった。大使館、外交団が集まるDiplomatic Enclaveが街の東部に官庁街に並ぶように作られているが、その周辺を主に移動した。非常に警備が厳しく、私にとって馴染みのあるロシア、中央アジアの国々に比べても非常に物々しい状態で、要塞都市という印象を持った。
 NDAは官僚や軍人、士官を養成する大学だが一般の学生も受け入れている学部があり、修士、博士課程を含めて教育のコースが提供されている。大学を選ぶ基準が、軍の大学で安全だからと答えた女子学生がいて街の事情を推察した。書店には、一般的なガイドブック等はいろいろとあるが、例えば専門書等がたくさん並んでいる感じではなかった。アメリカ、インド、中国といった国々の外国事情、テロを巡る問題、国際情勢を巡る問題が中心であって、中央アジアに関しての情報は少なかった。
 NDAとの研究交流を通じて、建前ではなく率直に日本の防衛省やその研究機関との協力を推進したいという熱意を感じた。NDAはパキスタンの中でステータスが高く、なおかつ日本が防衛政策、対テロ支援でパキスタン艦船に水や燃料を供給した実績があり、また地震等の自然災害に対する軍の対応などにも関心があって、質疑応答が熱心になされた。NDAだけでなく、他のPKOを専攻する大学のセンターに出掛けて行っても、了解覚書等の文章を締結しようと必ず先方から提案され、熱心な様子が窺えた。
 Diplomatic Enclaveにはアメリカ大使館が7階建てのビルを建設中であった。堂々たる建物でその威容が印象的だった。同ビルが完成した暁には千人規模のスタッフが業務を遂行できるとのことである。また、イスラマバード駐在の米軍スタッフの筆頭は空軍中将で、隷下に直属のスタッフが70人いるということだった。2014年以降を見据え、アメリカはこの地を拠点として機能させる意図があると思われる。
 パキスタンとは、軍のプレゼンス、社会における位置づけが非常に強い国家である。この国の軍や治安機関は、過去にはタリバーンとのつながりもあり多様な側面を持っていた。前回の清水先生の報告で、パキスタンはエジプトと比較して、国を軍隊に任せると実は上手く行くとのご指摘があったと聞いているが、パキスタンでは軍の位置づけや権威が非常に高い一方、警察に対する評価は低い。
 アフガンとの国境管理、人の移動についていえば、管理が行き届いていないのが現状である。最近は、米軍による無人機攻撃で一般の人も含め犠牲者がでている。この米軍によるパキスタンの国家主権を侵害する攻撃は、実はパキスタン軍が承知しているともいわれる。しかし、最近のナワーズ・シャリフ首相の訪米時での発言に見られるように、人権や国家主権を侵害する問題として、パキスタンは問題視している。
 このような状況をどう考えたらよいのだろうか。日本人の私からすれば、パキスタンは国家主権の在り方について、日本とは全く違うようにうつる。日本では場合によっては、国家主権にかんする国民の意識が低いと批判する向きもある。周辺国との間で領土をめぐる論争があるとはいえ、自衛隊は予算や人員規模で制約のあるなか、領土保全のための態勢を整えている。他方、パキスタンでは軍が「国家の中の国家」ともいうべき位置づけにあり、約60万の要員を擁しながらも、十分に領土保全が守られていない。

アフガニスタン・パキスタン情勢とその展望
 アフガニスタンのカルザイ政権は過去13年続いてきた。憲法制定、三権分立に基づく民主主義的な体制を築きつつあり、非常に高度な経済成長を達成したと評価できる一方で、経済成長は外国からの支援に依存している。経済成長のための基盤となるべき、農業を育成する政策は十分でない。また、選挙の公正さに対する疑問、政権周辺での汚職、治安回復の不徹底、治安回復地域が非常に限定化されつつある等、政権の在り方をめぐる否定的な側面は非常に多い。
 最近のパキスタン側のコメントから判断すれば、連邦直轄部族地域(FATA)におけるパキスタン・タリバーン運動(TTP)、その他のアフガン側のタリバーンやその拠点も縮小しつつあり、変化があるとは言えるが、カルザイ政権が実効支配できている地域が限られていることは認識すべきであろう。アフガニスタンの対外政策はアメリカ一辺倒であったところからより多角的なバランスをとった外交へと変換しつつあると言える。

 アフガニスタンで活動するタリバーン本体に加え、パキスタンを主たる活動拠点とするハッカーニ・ネットワークあるいは、TTP等が地域情勢の不安定化をもたらしている。パキスタンでは「良いタリバーン」「悪いタリバーン」という言い方をよく聞いた。前者が概してアフガニスタンで活動するタリバーン本体を指すのに対し、パキスタン領内でテロ活動を繰り返すTTPを「悪い」と表現し区別しているのである。

 展望と課題として、次の3点を論点として挙げたい。(1)米国・アフガニスタン二国間の安全保障の取り決めがどうなるのか。駐留米軍の規模や地位協定の協議が進行中である。(2)アフガン治安軍への治安維持機能移譲については、治安を司る機能がアフガン国家治安部隊(ANSF)に移行するが、実際の財源は今後も国際社会が負担することになっている。国際社会の財政的貢献は確実に継続していくのだろうか。不安な要素である。(3)内政面では2014年4月頃に大統領選挙が行なわれる予定である。カルザイの後継政権が進んでいくのか、あるいは院政という話もあるようだ。野党側も出馬表明を含めて準備を進めている状況が進んでいる。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部