平成25年度 国際情勢講演会 「尖閣諸島をめぐる諸問題」 桜美林大学リベラルアーツ学群教授(アジア地域研究) 佐藤 考一【2013/07/09】

講演日時:2013年7月9日、於:東海大学校友会館

平成25年度 国際情勢講演会
「尖閣諸島をめぐる諸問題」


桜美林大学リベラルアーツ学群教授(アジア地域研究)
佐藤 考一

尖閣諸島問題の経緯
 尖閣諸島は、八重山諸島の北北西150キロにある5島、3岩礁を指すといわれる。1969年の国連による探査で、石油・天然ガス資源があるといわれて注目されるようになった。しかし、実際には石油・天然ガスの量は大したことはないようである。水産資源はかなりある。
 中国はよく、「古来中国の領土である」という表現を南シナ海の島礁にも尖閣諸島にも使うが、領域国家でなかった時代の話は無効だ。同じことをローマ帝国の末裔であるイタリア人やルーマニア人が言うだろうか。自国の歴史に誇りを持つことは結構だが、これを言えば、ムッソリーニと一緒だ。歴史的に見ると、清朝から中華民国の時期にかけては、日本政府も清国政府も、尖閣諸島には大きな関心は持っていなかった。しかし、石垣島の古賀辰四郎さんという網元が、この島を開拓したいと熱心に言い、日本政府が領土として編入することになった。1920年には中華民国の長崎領事が、「魚釣島に漂着した漁民を石垣島の漁民が助けてくれた」ということで感謝状を贈っている。
 現在の中国政府は1943年のカイロ宣言に遡って尖閣の領有権を主張するが、日本国内の論者が言われているように、「宣言」には法的拘束力はない。「宣言」に法的拘束力を持たせるのは「条約」で、1951年9月のサンフランシスコ講和条約がそれに当たるが、中台共に代表権問題から、講和会議に参加できず、この条約に署名していない。しかし、講和会議に参加できなかったにせよ、当時自国の領土主権を主張することは可能だった。実は中国は、1951年8月の時点、つまり講和会議の直前に周恩来が、南シナ海の島礁については主権を主張している。だが、尖閣については一言も言っていない。関心がなかったとしか言いようがない。また1953年の『人民日報』には、「琉球群島は尖閣諸島を包括する」と書かれていた。しかし、その後は国連の探査があり、また沖縄が日本に返還されることになってパワーシフトが生じた。さらに1976年以降は、200海里漁業専管水域や排他的経済水域に関する取り決めにより、小さな島でも持っていれば周囲200海里の資源が自分のものになることになって、無人島の価値が大きく変化した。中国の尖閣諸島への意識は、これらの影響を受け、明らかに1970年代以降に変化したのである。
 そして、中国は現在、人口増加と経済発展により、タンパク資源とエネルギー資源を陸だけでなく海にも求めている。1990年代以降は「領海法」が公布され、香港・台湾の民間団体が尖閣諸島に上陸するなどしてきた。さらに、日本周辺の海に中国の潜水艦が出てくるなど、物騒なことが起きるようになった。2010年には尖閣諸島の久場島周辺の海域で、福建省の漁船に体当たりされ、海上保安庁の巡視船「よなくに」、「みずき」が被害を受けた。そして、石原慎太郎前東京都知事が、「東京都が尖閣諸島を購入する」と発言し、事態はさらにエスカレートした。柳条湖事件の記念日である2012年9月18日には、中国は世界各地で反日、尖閣国有化への抗議デモを行わせた。尖閣諸島については、中国の主張する日清戦争とのかかわりや、台湾の附属島嶼だという主張には、根拠がない。領有主権の背景にあるのは、反日ナショナリズムと石油天然ガス、漁業資源の問題だ。中国沿岸の海は、カドミウム、銅、石油類、砒素、DDT、PCBなどの汚染物質によって非常に汚れており、魚が獲れない。
 尖閣諸島問題はまた、多様な中国人に対する求心力を中国共産党が得るための触媒としても使える。中国人は漢字と儒教の礼の文化を持ち、皆同じように見えるが、大陸の人は共産党支配下にあり、北京語を共通語として話す。一方、香港は旧英領で、反共、香港映画などの文化があり、広東語と英語の世界だ。また台湾は日本の元植民地で、お年寄りは我々よりきれいな日本語を使ったりする。そして反共、台湾語の世界であり、独自の文化要素として「台湾文学」もある。これらの多様な「中国人」からなる中華世界には、重層的なアイデンティティがあり、国外には華僑・華人がいる。中国共産党は、これらの全ての人に対して求心力を働かせ、重層的アイデンティティの中心にある中国の発展、あるいは政治的影響力を得るために、これらの人々の力を使おうとしている。

中国の海洋戦略と実力
 中国には劉華清の海軍戦略というのがあり、1986年1月に「近海防御」という概念が提唱された。劉華清は当面、第1列島線の内側を守り、経済が発展して軍隊の力が付けば、第2列島線まで進出すると言っていた。
 一方、中国の軍艦について日本の自衛隊と比較すると、近代化がかなり遅れている。アメリカや日本の水上艦のガスタービン・エンジン採用率は100%程度だが、中国のガスタービン・エンジンの採用は9.5%で、ガスタービンを自分で作れないといわれる。艦艇数は日本の2.2倍だが、兵員は5.2倍いるため、年寄りで功績のあった人の処遇に困っているらしい。洋上給油艦は日本と同じ数の5隻だが、1隻はアデン湾の民間船舶護衛に差し向けている。もう1隻は大体、太平洋での演習に随伴しているので、残りは3隻しかない。したがって、南シナ海と東シナ海で同時に問題が起きると困る。航空母艦については、空母の機動部隊の実用化は当面、無理だ。潜水艦は音がうるさく、日本やアメリカの対潜哨戒機にすぐ見つかってしまう。また、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)はロサンゼルスぐらいまでしか届かないが、アメリカに対して完全な抑止力を確保するにはワシントンを狙わなければならない。そして、もう1ついえることは、実は中国の石油備蓄量は30日もないかもしれないということだ。
 中国の海上保安機関は5つあり、国土資源部の「海監」、農業部の「漁政」、公安部の海警、税関の「海監」、交通部の「海巡」だ。パトロールできる船は250隻前後で、「海監」と「漁政」の船では大型船は40隻前後となっており、日本の海上保安庁より少ないが、すべての海上保安機関の船を含めると、海上保安庁より多いかどうかについて、議論がある。
 昨年11月には、胡錦濤前国家主席が「海洋強国になりたい」と言った。そして、大きな力を持って生態文明建設を推進しようとしている。生態文明と海洋強国は、2010年10月ごろから国民経済社会発展第12次五ヵ年計画の中に出ており、環境保護や海洋経済発展に関するものだ。そして、現在は石炭が70%となっている一次エネルギー資源について、石炭の割合を減らし、石油に変えようとしている。石油は陸上では掘り尽くしたので、海へ出るということだ。さらに、タンパク資源を海に求めている。2013年1月には、国務院で全国海洋経済発展第12次五ヵ年計画が策定され、2015年には国内総生産(GDP)に占める海洋総生産を10%にまで増やすとした。そして、新規就業者を海で260万人確保するとし、海軍や海上保安機関には海の護衛強化が求められている。
 尖閣諸島周辺海域には、2012年9月の日本による国有化以来、常時「海監」3~4隻、「漁政」1~2隻が出てくるようになった。5~6日に1回の割合で、領海侵犯をしている。海上保安庁では第11管区海上保安本部が、必要に応じて那覇と石垣島から巡視船を出し、対応している。一方、中国では今年に入り、海上保安機関の統合が進められている(「海巡」を除き、統合される予定)。

今後の展望と日本の課題
 今後の日本の政策オプションとしては、(1)首脳会談で尖閣諸島問題を凍結し、日中海洋協議を再開する、(2)現状のまま、海上保安機関同士の対峙を継続する、(3)「海兵隊」構想、(4)尖閣占拠(先行占拠・上陸阻止・上陸占領後の排除、の3つのオプションがある)というものがある。このいくつかを組み合わせ、使っていくことになる。最も重要なのは首脳会談を行って尖閣問題を凍結、あるいは封印し、海洋協議を再開させることであり、共同管理はだめだ。
 今後の有事シナリオとしては、まず尖閣諸島への民間船舶・海軍の上陸用舟艇等の漂流、座礁を装った上陸・居座りや中国公船の活動の連携が挙げられる。さらに日中台の漁船による撹乱や、中国・外国の漁船や公船による海保巡視船への衝突、内外の漁船の活動に対する中国公船による検査など、行政権の行使を装った挑発も考えられる。このほか、中国公船の周辺海域における海洋調査、測量等の挑発行為、威嚇射撃から局地的戦闘に発展することも想定される。事態の悪化と平行して、貿易、観光、人的交流が差し止められることもあるだろう。中国大陸にいる日本人の、人質事案が起きることもあり得る。さらに東シナ海の領空侵犯、艦載ヘリなどの挑発から偶発的衝突が起きる可能性、さらには直近の可能性は低いが、東シナ海での侵攻作戦となる可能性もある。
 政策提言だが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議外交も使い、中国と対話する努力はしなければいけない。だが、事態の悪化には備えなければならない。日米同盟への積極的貢献と日本の防衛体制の見直しが必要だ。外国公船に領海や接続水域でどう対処するかについては、国内海洋法令を整備してほしい。また、中国は広報がうまいので、日本も広報で対処する必要がある。
 最後に海上保安庁は、映画「海猿」で好評を得ている一方で、非常に苦しい立場に追い込まれているということを申しあげておきたい。アメリカの沿岸警備隊は、全職員数で海岸線を割ると、1人当たりの担当は400メートル弱だ。日本の海上保安庁は、海上勤務の海上保安官1人当たりで割ると6キロメートル弱となっている。しかも、船を出して日本の漁船を守っているのは尖閣周辺だけでなく、北方領土の周辺も同様だ。もっと実質的な支援が必要だ。海上保安庁や自衛隊に課されている、一般の官庁と同じ公務員の定員削減はやめて頂きたい。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)


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担当:総務・企画調査広報部