平成25年度 第2回-1 国際情勢研究会 報告1「尖閣諸島をめぐる諸問題」 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 佐藤 考一(さとう こういち) 【2013/05/10】

日時:2013年5月10日

平成25年度 第2回-1 国際情勢研究会
報告1「尖閣諸島をめぐる諸問題」


桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授
佐藤 考一 (さとう こういち)

1. 東シナ海紛争の歴史的経緯
佐藤 考一 尖閣諸島(写真1)に関しては、歴史的には日本の政府も中国(清国)の政府もあまり大きな関心は持っていなかったようだ。日本政府は石垣島の網元の古賀辰四郎さんという方の熱意に動かされて行政措置をとり、日清戦争が終わる前の1895年1月14日に尖閣諸島の領土編入が決まった。さらに、中華民国は1920年に、「魚釣島にたどり着いた漂流漁民を救ってもらった」ということで石垣島民に感謝状を贈っている。これは尖閣諸島が日本の領土であることの、1つの動かない証拠だ。

写真1:尖閣諸島の魚釣島

写真1:尖閣諸島の魚釣島

 尖閣諸島は「台湾の付属島嶼だ」というのは今の中国の理屈だが、毛沢東は1936年に米国人ジャーナリストのエドガー・スノーに対し、「日本の敗北後、台湾は中国とは別の道を歩むべきだ」と言っている。しかし、1949年に国民党が遷都すると急に、「台湾は自分たちのものだ」と言い出した。但し、尖閣諸島については、1953年1月の時点でも、『人民日報』は、まだ「琉球群島は尖閣諸島を包括している」としていた。したがって、中国にはこの頃まで、尖閣諸島への欲はなかった。これが変化してくるのが1968年から1969年の東シナ海、南シナ海における国連の海底資源探査の時期だ。探査の報告書を見ると、「日本の南西諸島から台湾までの間に、台湾島の数倍の大きさの堆積層が広がっている」と書かれており、この堆積層が全て石油や天然ガスであれば大変な量の資源があることになる(現在は、日中中間線の日本側の、石油や天然ガスはたいした量ではないことがわかっている)。国連の報告書を見て、中国はその後、急に尖閣諸島の領有を主張し始めた。
 1973年の第4次中東戦争と1976年以降の世界各国の200海里漁業専管水域の設定によって、無人島の価値に変化が出てきた。これによって、小さな島でも持っていれば周辺の天然資源は自分のものになるということになった。尖閣諸島では1978年に日本の政治団体が、魚釣島に灯台を作っている。中国では1992年に尖閣諸島を含む領海法が公布された。また、1996年には上記と同じ日本の政治団体が尖閣神社を建立するなどしている。
 その後、中国からは明級攻撃型潜水艦が出てきたり、中国民間保釣連合会が魚釣島に上陸したり、漢級原潜が出てくるなどし、次第に東シナ海や日本近海の緊張が高まってきた。そして2008年には、尖閣諸島周辺に中国の国土資源部の海洋調査船が初めて出てきた(後に同部の海洋監視船「海監」も出てくる)。続いて2010年9月には?晋漁(ミンシンリョウ)5179という中国の漁船が、海上保安庁の巡視船「よなくに」、「みずき」に体当たりし、農業部の「漁政」船艇も出てくるようになった。また、『人民日報』は尖閣諸島について、「核心的利益に関するものである」と表現する。さらに昨年4月には、石原慎太郎東京都知事が米国で「東京都が尖閣諸島を購入する」と発言したことによって大騒ぎになった。
 基本的な性格を見ると、現在の中国の主張する日清戦争とのかかわりや「台湾の付属島嶼だ」ということの根拠はない。領有権の背景にあるのは、反日ナショナリズムと石油・天然ガス、漁業資源の問題である。しかし、石油については中間線から中国側でも日本の年間消費量の10%程度である1.8億バレルぐらいしかないといわれている。一方、漁業資源については、2011年の中国側統計で約492万トンと、東シナ海にはかなりあることがわかっている。
 現在、重要なのは、中国国内で意識の変化があったであろうということだ。1996年の頃は、かつて日中戦争のとき、大陸浪人が来て、現地部隊がいざこざを起こし、日中全面戦争になったということとのアナロジーで、政治団体、海上保安庁が出てきて最後に自衛隊が出てくるという文脈で、尖閣問題が語られていた。尖閣諸島がどこにあるのかも知らないような人たちが議論しており、これは日本脅威論だった。しかし、2012年になると、尖閣問題の先に「琉球回収」というスローガンが出てくる。報道によれば、中国のデモでは2005年4月ごろから「琉球回収」というスローガンが出始めたようだ。これについては、上海暴動のときに掲げられたという話を聞いたことがある。また、尖閣問題について騒ぐことは、中国にとって世界中に広く散らばっている中国系の人たちの求心力を得られるというメリットもある。

2. 中国の「海洋戦略」とその実力
 中国には、海軍と海上保安機関がある。海軍は1986年、劉華清司令員の時代に「近海防御」という概念を出し、第1列島線、第2列島線という考え方を示した。これについて、アメリカは、中国が第1列島線の内側は、接近阻止(A2, Anti-Access)、そして第1列島線と第2列島線の間は、接近を阻止することはできないが、敵にコントロールはさせない、海域拒否(AD, Area Denial)という考え方をしていると見ている。尖閣諸島と沖縄については、第1列島線から見て微妙な位置にある。
 中国海軍は日本の倍ぐらいの数である130~140隻の船を持ち、兵員数は日本の5.2倍だ。しかし、洋上給油艦は5隻しかなく、日本と同じ数だ。そしてガスタービン・エンジン、最新のエンジンを備えている船は9.2%で、ガスタービン・エンジンは自分たちで作ることができない。5隻の洋上給油艦のうち1隻は、常にソマリアのアデン湾に出ているし、もう1隻は太平洋での演習に随伴している。また通常、軍艦というものは持っている船の3分の1程度しか実戦には使えない。残りの3分の1は訓練で、最後の3分の1はメンテナンスしているケースが多い。従って、洋上給油艦を随伴させる作戦や演習を行うにしても、もう1隻出せるかどうかというところだ。さらに、中国の空母はまだ使えない。第二撃力については、戦略潜水艦を使ったものは、かなり怪しいレベルだ。
 海上保安機関は「海監」「漁政」「海警」「海関」「海巡」の5つがあり、このうち武装していると公にいわれているのは、既述の農業部の「漁政」と、公安部の「海警」だ。「海警」と、日本の税関に当たる「海関」(及び交通部の「海巡」)の船艇は今まで尖閣諸島周辺海域には出てきたことがほとんどなく、国土資源部の「海監」と「漁政」の船が出てくる。近海や排他的経済水域をパトロールできるのは250隻程度で、1000トン以上の大型船は40隻前後しかない。ただし現在、相当な数を造っており、次々に進水させている。
 尖閣諸島での対峙状況だが、2012年9月の日本の尖閣国有化以降、常時「海監」3~4隻、「漁政」1~2隻が周辺海域に出てきている。南シナ海へは2012年に「海監」が延べ172隻の船を派遣しているが、尖閣領海に入った船は、2012年9月から2013年3月までの半年で109隻だ。領海に入っていないときも接続水域にいるので、おそらく1年統計にすれば南シナ海より相当多い数が出ていることになろう。飛行機については、「海監」の飛行機と軍の戦闘機がかなり来ており、航空自衛隊は2012年度に306回ほどスクランブル発進をかけている。そして、哨戒機P-3Cが哨戒活動をかなり行っている。海上保安庁については、第11管区で那覇と石垣島から必要な数の船艇を出して対応している(写真2)。

写真2:尖閣警備の海上保安庁巡視船「よなくに」の乗組員の皆さん

写真2:尖閣警備の海上保安庁巡視船「よなくに」の乗組員の皆さん

中国側では3月19日に海上保安機関の改編が行われ、「海巡」を除き、国家海洋委員会の監督下に国家海洋局として統合された(7月22日現在、国家海洋局のホームページの写真を見ると庁舎の中に、国家海洋局と中国海警局が並存し、建物の正面玄関には双方の名表が掲げられている。人事について公安の次官を公安の立場を持ったまま海警局局長に据えたので、公安の言い分がかなり通ったという話だが、かなりのセクショナリズムが感じられる)。尖閣諸島周辺にはまた、不法操業の中国漁船も出てくる。これらの漁船は浙江省のほか、福建省や海南省から来る。1000隻以上来る年もあるが、平均すると年間700隻から600隻程度だ。

3. 今後の展望と日本の課題
 日本の政策オプションとしては、(1) 首脳会談で尖閣諸島問題を凍結し、日中海洋協議を再開、外交・海上保安機関・防衛当局者同士の交渉に戻し、航行規則や海洋汚染防止策を策定する、(2) 現状となっている海上保安機関同士の対峙を継続する、(3) 「海兵隊」構想によって動的抑止体制を構築する、(4) 尖閣を占拠する―というものが考えられるが、(1)から(3)の間で何とかしてもらいたい。おそらく、事態の推移によって(1)~(4)のオプションのいくつかを同時に並行して動かすことになるだろう。
 有事シナリオでは、漂流、座礁を装った上陸や居座りというのが最も心配だ。そして、漁船による攪乱が起きる可能性や威嚇射撃から局地戦闘になるなど、様々なタイプが考えられる。このほか、東シナ海で領空侵犯が起きることも懸念される。日本としては、官邸から海の現場までの緊急事態訓練の実施、日米同盟への積極的貢献と日本の防衛体制の見直し、日本の立場に関する広報の強化、国内海洋法令の整備などによって、対処する必要がある。
 尖閣問題についてはミクロレベルで考えず、アジア太平洋地域の問題としてマクロで考えるべきだ。中国にとって対外的な安全保障上の問題は、尖閣だけではない。中国は自国を包囲するリーグができないかと懸念しているし、洋上給油艦の数が少ないため、東シナ海と南シナ海で同時に戦争が起きれば対処が困難である。日本としては、中国の挑発が続くなら、南シナ海の安全保障によりコミットし、リーグを作る方向へ向かうことも考えるべきだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部