平成25年度 第3回-2 国際情勢研究会 報告2「中国の国家資本主義とエネルギー部門」専修大学 経済学部 教授 大橋 英夫 (おおはし ひでお) 【2013/06/07】

日時:2013年6月7日

平成25年度 第3回-2 国際情勢研究会
報告2「中国の国家資本主義とエネルギー部門」


専修大学 経済学部 教授
大橋 英夫 (おおはし ひでお)

1. 国有石油会社の独占問題
大橋 英夫 中国の石油会社のなかで、抜群に大きな売上高を誇っているのが、中国石油化工集団(Sinopec)と中国石油天然気集団(CNPC)である。そして、中国海洋石油総公司(CNOOC)もかなりの市場シェアを持っている。中国には、国有企業の市場シェアが非常に高い産業がいくつかあり、石油もその1つで、国有石油会社による市場独占の状態にある。
 中国では2005年2月に非公有企業の発展に関する政策である「非公有36条」が発表され、石油、航空、電力、通信、鉄道などの自然独占業種への民営企業の参入が認められて話題になった。その一方で、どうもこの頃から2000年代の後半にかけて、国有企業の発言力が増してきた。2010年には「新非公有36条」が打ち出されたが、ここでは国有企業の参入範囲について、「国家安全と市場失敗が認められる分野」という非常に曖昧な基準が示され、裁量によってどこまでも広がるような位置づけになった。
 2000年代後半にはまた、各種法律上の整備が急速に進んだ。会社法の改正や国有企業を優先する物件法、そして中央及び地方の国有資産監督管理委員会が国を代表して所有権を行使するとした企業国有資産法といった法的枠組みが整備された。さらに独占禁止法では、「国民経済の命脈と国家安全にかかわる産業」、つまり国有企業を保護することが明記され、国有企業が優位に立てるような立法が急速に進められた。2006年12月には、「国有経済が絶対的支配権を持つべき業種」として7業種が挙げられ、その中に石油、石油化工が含まれている。
 中国の改革開放後の動きを見ると、生産、雇用の双方で、国有企業の占める比率が低下してきているが、一部の産業・業種では明らかに国有企業が優位に立っている。そして、法的枠組みに関しては、国有企業、国有経済を積極的に支援する体制が、ほぼできあがってしまった。このような動きが見られるようになったのは、2003年に国有資産監督管理委員会が設置されてからのことである。委員会が成立した頃は、国有企業改革をさらに進め、積極的に民営化を行うのかと思ったが、これまでのところ、この委員会は国有経済を堅持していくためのものになっている。
 国有の石油企業について見てみると、1999年に「小型製油工場の整理整頓と原油及び石油製品の流通秩序に関する意見」、2001年には「石油製品の市場秩序の整理と規範化に関する意見」が出され、すべての原油、石油精製品をCNPCとSinopecに販売することが義務付けられた。これは現在も続いており、民営企業が仮に石油を採掘しても、この両者に原油を販売しなければならない。しかもこの指針は、海外での石油生産にも適用される。おかしな話だが、国務院の特定部門が出しているこれらの意見や指示が、国務院全体で出した「非公有36条」のような上位にある規定・法律よりも優先されている気配がある。これこそ、独禁法に抵触しているのではないかと思う。
 中国企業の対外投資の多くは、タックスヘイブンと呼ばれる租税回避地に向けてなされており、さらにタックスヘイブンから第三国・地域に向けて投資がなされている。業種別に言えば、エネルギー、電力、そして金属が圧倒的に多い。また中国の対外投資には、海外工事請負も数多く含まれている。そのトップ企業は、いまや華為技術有限公司(ファーウェイ・テクノロジーズ)である。要するに、旧来の建設・土木会社ではなく、中国の通信企業が世界各国のテレコム市場を席巻しつつある。

2. 「戦略的新興産業」としての再生エネルギー
 中国では戦略的新興産業として、省エネ・環境、新世代情報技術、バイオ、先端装置設備製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー車の7業種が挙げられている。従来は投資主導で高度成長を維持してきたが、もう少し経済効率や「技術進歩」についても考えなければいけないということから、これらの業種が選ばれたようである。
 実は、特定の産業をターゲットとするこのような方法にも問題は多い。要するに、補助金がかなりつぎ込まれる割には、成果が出ていない。その典型が風力発電や太陽光発電などの新エネルギー産業である。風力発電については、事業参入のメリットはきわめて大きい。2006年1月には、全量買取制度が始まった。また第11次5ヵ年計画(2006~2010年)では、風力発電の総設備容量を1万MWにするとしたが、実際には風力産業への参入は急速に進み、設備容量は目標値をはるかに上回ることとなった。風力発電については、付加価値税の50%還付(2008年12月)や企業所得税の「三免三減」(2007年12月)のような優遇措置もとられた一方で、風力発電機製造業では、70%以上の国産化率(2005年7月)という規定が設定された。さらに、補助金(2008年8月、600元/KW)や輸入関税・付加価値税の免税(2009年7月~)といった様々な優遇措置を用いて、風力発電産業を成長させようとした。このため、設備容量は急速に上昇し、1万MWという目標の4倍以上にもなり、風力発電産業は急速に発展した。
 しかし、同時に様々な問題も生じてきた。1つは品質の問題で、試運転の規制緩和を行ったために、風力発電機の不具合が多発した。そして、送電線の解列事故や、風力発電所は建設されたものの電力網に結び付いていないというケースも相次いだ。その他、標準の問題などもあり、生産能力はかなり過剰な状況にある。
 風力発電産業では、結局のところ、外国メーカーのライセンス生産や、外国メーカーから設計図を購入して基幹部品を輸入するという方法が数多く採られている。つまり、戦略的新興産業であるにもかかわらず、他の多くの産業と同様に、委託加工のような形態にとどまっているに過ぎない。そして、様々な優遇措置、補助金が設けられた結果、資金力を持つ国有企業が子会社を設立して、この分野に相次いで参入した。戦略的新興産業は本来、イノベーションを追求するものであろうが、簡単に技術を購入したり、企業を買収したりする形で急激な成長を実現したにすぎない。実は、太陽光発電も同様で、技術水準の高い太陽電池のセルを輸入し、モジュールに組み立て、それをヨーロッパに輸出して、深刻な貿易摩擦を引き起こしているのである。

3. 国有企業と商業的利益
 最後に、国有企業であることと、企業としての商業的な利益との折り合いについて、どのように考えれば良いだろうか。第1に、私は「政治経済的活動空間」という表現を使っているが、中国の場合、様々な企業や役所、あるいは軍隊も同じだが、中央政府、あるいは共産党が大きな目標を立てることから始まる。ただし、それぞれの実働部隊はそこまでの実力を持っておらず、現実と目標の間に大きなずれが生じる。そのずれをどのように埋めていくかについては、企業、あるいは活動する事業単位に任されている。エネルギーなどはまさにその典型であり、安定供給という目標だけが出され、どのようなやり方をするかについては、特に指示がない。このため参入できる企業は数社に限定され、目標と実力の間に大きなレントが発生する可能性が高い。
 第2に、それでは国有企業とはいったい何者かということだが、簡単に言えば、資本を持っていて権力に近く、商業利益を追求している主体ということになる。まず、海外での上場もなしており、資本はかなり潤沢である。そして、銀行の融資が非常に得やすく、パイプラインの建設などでも国家開発銀行がファイナンスしてくれる。それに加えて、補助金をたくさん手にしている。中国の政治過程では、これまで石油関連の指導者が非常に出世してきた。そのため、これら指導者の発言力は強くなる、あるいは資源・エネルギーの重要性を強調することが受け入れられやすい状況にあるのではないか。
 第3に、商業利益の追求だが、石油の安定供給は国有企業の任務であるが、それには様々なやり方がある。その中で、中国の国有石油会社は、エクイティ・オイル、つまり出資をしてその分の権益を石油で受け取るという形式に非常にこだわっているケースが多い。恐らくこの形態が非常に利幅の大きいビジネスであるからだと思う。さらに大部分のエクイティ・オイルは、中国に長距離輸送するのではなく、現地ないしは国際市場で売却することが多い。どちらかと言えば、高値の国際市場、あるいは値段の高い時期に売却するケースが多い。これについては国有石油会社が、中国政府の意向に反した動きをとっているという見方もできよう。一方、国有石油会社としては、企業として政府の指示通り動いている訳ではない、これこそ市場経済化を表す行動だという言い方もできよう。
 また、中国国内の問題として、石油が供給不足に陥るケースが時々みられる。これは原油価格の高騰時に起こる。いまだ中国では石油は統制価格なので、価格転嫁ができず、石油会社は赤字回避のために、供給をストップしてしまうことが起きる。名目的には「定期的メンテナンス」と称し、特に軽油、ディーゼルなどを販売せず、むしろ輸出してしまうというケースがある。このケースに着目すると、国有石油会社であるとはいえ、かなり自由勝手な商業活動が認められていることになる。
 このように、中国の国有石油会社に関しては、国有企業と国家利益、あるいは公共利益という問題について考える必要がある。第1に、外国での石油開発は、中国の外交的な観点から言うと、必ずしも国益につながらない場合がある。例えば、CNPCによるスーダンでの積極的な石油開発については、おそらく外交部はあまり快く思っていなかったはずである。また、やや異なるケースだが、パキスタンにおける原発支援も、外交部と核工業建設集団との利害が一致していたとは考えられない。
 第2に、昨今の中国の深刻な大気汚染の問題と、石油企業の独占について考えると、もう少し環境に良いものを販売すべきだという話になる。
 そして最後に、これはよくあることだが、これだけ海外に投資しても失敗のケースがかなり多い。石油の場合には、累計4000億ドルを投資しているのに、3分の2のプロジェクトが赤字だという報道もなされている。風力発電についても、あれだけ補助金を出しているのに必ずしもうまく行っていない。 
 エネルギー部門に代表される国有経済と中国経済が歩む道との関係は、ややねじれた形になっているのではないだろうか。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部