平成25年度 第4回 国際情勢研究会 コメント「米中首脳会談の評価について」東京大学大学院 法学政治学研究科 教授〈研究会座長〉 久保 文明 (くぼ ふみあき)、東京大学大学院 法学政治学研究科 教授 高原 明生 (たかはら あきお) 【2013/07/08】

日時:2013年7月8日

平成25年度 第4回 国際情勢研究会
コメント「米中首脳会談の評価について」


東京大学大学院 法学政治学研究科 教授〈研究会座長〉
久保 文明 (くぼ ふみあき)


 6月初めの米中首脳会談について、実際に何が話されたのかについては、現段階ではわからない部分があるが、会談後、オバマ大統領から安倍首相に説明があったということだ。日本のメディアは、米中の首脳が会うと、すぐに「今後の世界は米中が仕切るのだ」と、G2(Group of two)論を強調する傾向がある。そのインプリケーションとしては、「日本は米国などに頼っていてはだめだ」というものがあるようだが、私自身はこれについて、非常にはずれた見方だと思っている。米中の共通利益の基盤は、中長期的に見れば、かなり狭くなっている。
 冷戦時代、米ソは2万発ほどの核弾頭を相互に向け合う関係であったが、中国は当時のソ連のように、米国に挑戦しようとしている訳ではない。また、米ソ間にはかつて、経済的な相互依存関係はほとんどなかったが、現在の米中関係は高度の経済的相互依存によって結ばれている。他方で、中国の軍事力拡大や人権、あるいは経済では知的所有権の問題、内外無差別の原則の問題、さらに裁判セキュリティの問題などがあり、対立点はむしろ多くなっている。
 したがって、今回の首脳会談について、G2のような議論として捉えるのは、根本的に誤りであり、相当、厳しいやり取りもあったと理解している。オバマ大統領自身も、習近平国家主席に対し、日本が同盟国であるということを改めて伝えたといわれる。ただ、尖閣諸島の問題に関して米国は、再三再四、国務長官などの高いレベルで、「日米安保の第5条が適用される」と伝えているが、これが中国に本当に伝わっているのかどうかについては、やや疑心暗鬼であるだろう。中国の行動には変化がなく、これは中国側に伝わっていないということなのか、伝わっているがわかっていないふりをしているのか、わかっているが、長期的な戦略の下に現在の行動を続けているのかということだ。首脳会談を行えば、「意味があった」と内外に示す必要があり、喧嘩をしたという印象を与えないようにするのは当然だが、実際には相当、対立点が多かったのではないか。
 首脳会談以外で、しばらく注視する点としては、ケリー国務長官のアジアとの関わり方だ。ヒラリー・クリントン前国務長官は在任中、当初は「今後は米中の時代だ」として米中関係強調のスタンスにあったが、最終的にはやや強硬路線に転じた。ケリー国務長官はどうかということについては、まだわからず、今後どのようにアジアにコミットしていくのか、彼が中国をどのような形で認識するのかについて、見ていく必要がある。
 米国の中では、「オバマ政権は中国に、十分強い警告を与えていないのではないか」という意見も、やや右の方にある。それらの人達は、もう少し日本に対するコミットメントを強く表明すべきだとも言っている。共和党の、例えば下院の軍事委員会、そして保守系のシンクタンクではそのような意見が表明されている。したがって、オバマ政権の現在の立場は、それよりやや中国に気を使いつつも、それほど日本を突き放している訳ではないという印象だ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
高原 明生 (たかはら あきお)


 習近平国家主席は昨年11月に総書記になり、今年3月に国家主席になって、まだ3ヵ月も経っていない段階で首脳会談に臨んだ。習近平国家主席としては政権発足に当たり、そしてオバマ米大統領は第2期政権の発足に際し、首脳間で気脈を通じておこうということだったのだろう。G2ではなくても、2つの国の関係をうまくマネージしていきたいという両首脳の気持ちが、この会談につながったのではないか。
 中国はご存知のように、非常に矛盾した二面性を持っている。一方では国力が急速に向上し、自信を持ってきている。中国の論者たちがこの会談について言っている1つのことは、「自分たちは自信が付いたから、プロトコールなどあまり気にしない」というものだ。外交上のプロトコールからすれば、おそらくオバマ米大統領が中国を訪問する番であったと思うが、そのようなややこしいことは言わず、会えるチャンスに会って、長時間話をする。名よりも実を取るという余裕が出てきている、と一方では、中国の人達は言いたがる。
 しかし、もう片方においては、習近平国家主席は現在、中国のトップとして非常に厳しい状況に直面している。経済はなかなか浮上せず、また中国国内の論争は、いよいよ激しくなってきている。中国の人に会って話を聞くと、毛沢東時代を懐かしむ人が非常に増え、鄧小平以降の社会の変化を猛烈に批判している。その「毛沢東対鄧小平」のせめぎ合いが、いよいよ激しい。
 今年1月の演説で、習近平国家主席は、「改革の前後の時代を対立させて見るべきではない」という趣旨のことを言っている。これは一見、非常にバランスの取れた見方であり、毛沢東に軍配を上げる訳でもなく、鄧小平に肩入れする訳でもない。そのようにも見えるが、考えてみれば、やはりなかなか驚くべき発言だ。今の時代は改革開放後であり、改革開放は、鄧小平をはじめとして、当時の指導者らが文化大革命を否定することにより始まった。したがって、習近平発言は、右の方へ寄っていたものを、もう1度、真ん中に引っ張り戻しているような発言とも受け取れる。国内ではそれだけ、左が強いということだろう。
 米国とうまくやっていく場合に重要な点として、国際法や国際規範がある。これらは米国が他の国々と共に、戦後、営々と築いてきたものだ。現在の国際秩序の原理原則を、尊重しなければ、中国は米国やヨーロッパ、そして周辺の国々ともうまくやっていけない。しかし、国内の左側の人達は、それを否定している。
 現在、厳しい論争になっているのは、「憲政(constitutionalism)」や「普遍的価値」という概念だ。文化大革命を否定したとき、法治化、法制化を進めることになった訳だが、それらの問題について問い直されている。法治化について疑問視する人達と、米国とうまく付き合っていかなければならない習近平国家主席のような立場の人には、相当な乖離がある。なおかつ実態として、依然として法治がなく、力のみを頼りに秩序が支えられている。習近平国家主席は、このような国内と国外との矛盾をうまくハンドルしなければならない状況にある。米中間で、秩序を支える規範について話し合っただろうか。
 中国側によれば、今回の会談で用いられた最も重要な概念は、「新型大国関係」だった。今後、これを発展させるという。しかし、これがどのような関係なのかについては、はっきりしない。会談の終了後、楊潔?国務委員は記者会見で、「新型大国関係」には、互いの核心的利益の相互尊重も含まれていると説明した。しかし、習近平国家主席がそのような内容について、オバマ大統領に説明したのだろうか。もしも説明していたら、オバマ大統領は、それを受け入れなかったはずだ。
 ご存知のように、「新型大国関係」という概念が出る前、中国が米国に売り込んだ概念は、「核心的利益の相互尊重」であった。2009年11月の米中共同声明にこれを入れてしまったことについて、米国は後悔している。核心的利益とは何か、中国側が勝手に定義できるからだ。中国が持ち出した概念については、大変注意しなければならない。大統領は、「新型大国関係」というフレーズは使っていない。しかし、ドニロン米国家安全保障担当大統領補佐官は、今回の首脳会談に続く記者会見で、中国側と同じ言葉を使っている。誰か、ドニロン氏に、「あなたはどのような意味でその言葉を使っているのだ」と聞くべきだった。
 本来、この会談の最大の目的は、両首脳間の気脈を通じるということであったと思う。いずれにしても、米中関係は、非常に良い関係が長続きするものではなく、また非常に悪い関係が長続きするものでもない。しかし、関係をうまく管理するためには、首脳間の最低限の信頼関係が重要になる。果たしてそのような、ホットラインで互いに話せるような関係を築けたのか、あるいは関係首脳間の個人的な関係が発展する可能性を、両者は感じたのだろうか。その点についても知りたいが、今のところは情報が足りず、よくわからない。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部