平成25年度 第5回 国際情勢研究会 報告「最近の中東情勢:イラン、シリア、そしてエジプト」 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 客員研究員 元防衛大学校 国際関係学科 教授 立山 良司 (たてやま りょうじ) 【2013/09/12】

日時:2013年9月12日

平成25年度 第5回 国際情勢研究会
報告「最近の中東情勢:イラン、シリア、そしてエジプト」


一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 客員研究員
元防衛大学校 国際関係学科 教授
立山 良司 (たてやま りょうじ)

1. 不安定な中東情勢とシリアの内戦
 2010年12月にチュニジアで「アラブの春」が始まってから1年半以上経つが、依然として混乱が続いている。体制転換があったのはチュニジア、リビア、エジプトの3ヵ国で、いずれもまだ厳しい状況にある。また、イエメンについては体制転換とはいえないが、やはり混乱が続き、シリアについてはまさに内戦状態となっている。他の中東の国では、イラクでも最近またテロが活発になっている。これは隣国のシリアの影響を受けたもので、シリアの影響はレバノンにも及んでいる。
 シリアでは内戦が既に2年半続いており、難民が非常に増えている。国内避難民も含めると、全体で600万人強が家から逃げている状況だ。これは4人に1人が避難民になっているということで、重大な人道危機だ。シリアのアサド政権はアラウィ派の体制ともいえるが、キリスト教徒やスンニ派の人々も入っている。現在のシリアができたのは第一次世界大戦後で、イラクやヨルダンと同様、シリアは極めて人工的な国家だ。国民の凝集性は低く、体制側にあまり正統性がないほか、反体制側も分裂している。アサド政権はアラウィ派単独の政権ではないが、特にイスラム教多数派のスンニ派と対立している。アラウィ派は不明な点がきわめて多い宗派だが、シーア派に近いとされ、アサド政権はシーア派のイランとヒズボラから支援を受けている。
 このような周辺諸国の介入は、問題をさらに複雑にしている。サウジアラビアやカタールは反体制側を支持し、トルコも同様だ。ヨルダンはあまり支援していないようだが、やはり反体制側を支持している。一方、域外ではロシアや中国がアサド体制を支持し、国連常任理事国では米仏英が、早い段階でアサド体制に見切りをつけて反体制側を支持した。このように国内の問題に加えて中東域内の対立関係、さらには国際社会における対立関係という3つのレベルの対立が内戦に反映され、代理戦争のような状況だ。今後についてアサド体制側は、来年大統領選挙があるため、そこで国民の意思を問えば良いとしている。
 一方、シリアの内戦には、イスラエルもかなり関係している。報道によれば、今年1月~7月にかけて、イスラエル軍がシリアに対し、4回の空爆ないしミサイル攻撃を行った。米国のオバマ政権は、軍事介入を極力回避したいと思っていたであろうが、様々な形で圧力がかけられてきた。シリアが化学兵器を持っているということは、以前から公然の秘密のようにいわれていた。そして内戦が激化する中、シリアが保有する化学兵器がヒズボラのような組織に行く、あるいは管理が不十分になってアルカイダ系へ行く危険があるといわれるようになった。昨年7月には、シリア外務省の報道官が事実上、化学兵器の保有を認めた。これに反応する形で翌月、オバマ大統領は「化学兵器の使用はレッドラインになる」と言った。化学兵器の使用疑惑事件は2013年1月ごろからいくつも起き、今年6月にはオバマ政権が、シリア政府側の化学兵器使用を確認したと言っているが、証拠は出されていない。さらに8月21日にダマスカス近郊で化学兵器が使われ多数の死者が出たということで、映像が世界に流れた。
 米国は、8月30日に独自の調査に基づく報告書を発表した。それによると、8月21日にはダマスカス近郊の少なくとも12ヵ所で化学攻撃が行われ、その結果、子供426人を含む1429人が死亡したとしている。ただ、報告書を読んでも決定的な証拠についてはわからない。そして同月31日にはオバマ大統領が、シリア政府による化学兵器の使用は米国やその友好国にとって極めて危険なことであり、規模、期間ともに限定的だが軍事攻撃を行う、ただし議会の承認を求めるという内容の演説を行った。
 そのような中、今月9日にはケリー米国務長官が、シリアが保有している全化学兵器を国際社会に引き渡して検証できれば、軍事攻撃はしなくて良いのではないかと述べ、さらにロシアのラブロフ外相が、化学兵器を国際管理下に置いて破棄し、シリアは化学兵器禁止条約に加盟するという提案をした。そしてシリアのムアレム外相が受け入れを表明し、状況は大きく変化した。今後、国連安保理で化学兵器廃棄問題の進め方を協議する予定だ。シリア問題ではこの2年半、安保理決議は2、3しか成立しておらず、あとはすべてロシアと中国が拒否権を発動している。つまり国連安保理はシリア問題に関し、機能不全の状態に陥っており、安保理での協議が注目される。

2. エジプトの混乱とイラン核開発問題
 エジプトでは7月に突然、軍の参謀総長でもあるシーシーという国防大臣がムルシー大統領を解任して憲法の効力を停止した。その直後に最高憲法裁判所長官が暫定大統領に就任し、今年11月ごろまでに憲法修正案を作って国民投票にかけるという。さらに新憲法に基づき、来年には議会選挙と大統領選挙を行い、新体制に移行する予定だ。
 2011年1月~2月に反ムバラク・デモが起き、ムバラクは大統領を辞任した。そして議会選挙と大統領選挙を経て、昨年6月にはムスリム同胞団を中心とする政権ができた。選挙は比較的自由で公正であったといわれるが、これによって就任したムルシー大統領は、突然解任されることになった。世論調査に基づけば、ムルシー政権が発足した直後には大統領に対する支持率は高かったが、その後は次第に低下していった。ムスリム同胞団は強引に新しい憲法を制定し、いくつかの県知事にイスラム主義者を登用した。また経済は一向に良くならず、国民の不満は拡大していった。これに乗じて自分たちがムバラク政権を倒したと考えている世俗派やリベラルな考え方の若者らが、今年5月ごろから活発なデモや集会を行い、治安確保の名目で軍が介入した。
 チュニジアやリビアも同様だが、「アラブの春」で新政権が発足し、新しい憲法や体制を整える際、イスラム教をどう位置づけるかという問題がある。例えば、国教とするのか、あるいは「イスラムは重要な教えである」という程度に抑えるのかコンセンサスが得られない。ムスリム同胞団を含むイスラム主義者は当然、イスラムを重視する政治体制や法システムを作ろうとする。そして、これに反対する世俗派やリベラルとの間で対立が生じる。そのような流れの中で、軍も同胞団による、ある意味で勝手な行動に脅威を感じたということかもしれない。そして、軍がリベラルや世俗派と手を組む形で同胞団政権を倒してしまった。以降、同胞団に対する徹底的な弾圧が続いている。
 同胞団は1920年代後半に設立され、その後、様々な形で影響力を行使してきたが、長い間、非合法とされてきた。そしてムバラク体制が倒れた後、初めて政党を作り、政治の表舞台に出た。しかし、その結果、わずか1年程度で弾圧される状況になった。今後について最も懸念されるのは、指導部を失った同胞団の一部が過激主義に走ることだ。
 一方、イランでは今年6月、イスラム法学者のロハニが大統領に当選した。ロハニ大統領は非常に現実的といわれ、国家の透明性向上や、核協議における新提案の用意を示唆している。イランの経済状況は非常に厳しいため、今後は現実政策をとっていくのではないかという見方がある。しかし、イランでは核問題は大統領でなく、最高指導者の決定事項である。最高指導者のハメネイは核問題に対して極めて厳しいといわれ、「どうせイランは変わらない」とイスラエルのネタニヤフ首相は声高に言っている。

3. 中東の無極化
 シリアに対し、オバマ政権がどうするかだが、やはり軍事的制裁をしない限り、国際規範を守ろうとする気持ちはなくなるだろう。さらに、オバマ政権が「やるぞ、やるぞ」と言ってやらなければ結局、オバマ大統領や米国の信頼は地に落ちるといわれる。一方、イスラエルにとってみれば、シリアへの攻撃はイランに対するメッセージであり、これをやらなければイランへのメッセージは届かないということだ。
 リチャード・ハースは「無極化の時代」という論文で、無極化を「何十もの政府アクターや非政府アクターが様々なレベルで自分が有する多様なパワーを行使しようとする世界」と定義したが、シリアは正にそのような状況にある。内戦にはイランやサウジなどの政府アクターや、ヒズボラのような非政府アクターも参加している。まさに一定の極がなく、状況をコントロールできない、あるいは国際社会が対応をとれないまま、現在に至っている。そういう状況が存在していることは、大きな問題だと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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