平成26年度 第1回 アジア研究会 報告 「ASEAN経済共同体の進捗と展望」日本貿易振興機構 アジア経済研究所 新領域研究センター 経済統合研究グループ長 梅﨑 創 (うめざき そう)【2014/05/28】

日時:2014年5月28日

テーマ『変貌するアジア:その2 ~アセアン統合、指導者交代を踏まえつつ~』

平成26年度 第1回 アジア研究会 報告
「ASEAN経済共同体の進捗と展望」


日本貿易振興機構 アジア経済研究所
新領域研究センター 経済統合研究グループ長
梅﨑 創 (うめざき そう)

1. 多様な国々から成るASEAN
 東南アジア諸国連合(ASEAN)の10ヵ国は、非常に多様性に富んでいる。最大格差は、人口で600倍、名目GDP(国内総生産)で100倍、1人当たりGDPでは60倍にのぼる。この多様性が正に、経済統合の原動力になっている。これだけ多様な国々であるからこそ、様々な産業を最適地に立地し、各国がつながっていこうというインセンティブが働く。その一方で、国によって政府の能力や産業構造、インフラの整備状況、民族、言語、宗教、経済統合に臨む姿勢や優先分野も異なることから、それらが経済統合の遅れの要因にもなっている。多様性はまた、1つの国の中にも存在する。陸路で国境を接している国々では、国境地域は国内の他地域よりむしろ、隣国との経済的つながりが強いことが少なくない。このため経済統合では、それらの機会を活かすことが求められる。
 ASEANは、1967年のバンコク宣言によって設立された。周辺に大国がある中、東南アジアの小さな国々が結集する必要があるということで、ゆるやかな経済協力という形で始まったが、大きなステップになったのは1990年代後半のアジア危機だ。当時は中国経済が伸びてきて、ASEANとしてまとまっていく必要性を各国が強く認識するようになっていた。2003年には第二ASEAN共和宣言がなされ、正式にASEAN共同体構想が打ち出された。さらに2007年には、ASEAN経済共同体(AEC)のブループリントが採択され、AEC構築に向けた動きが具体化されている。
 2010年にはまた、ASEANの「接続性マスタープラン」への合意がなされた。AECのブループリントはできたものの、非常に多くの事業を含んでおり、なかなか進展がなかった。このため、各国を結びつける接続性(connectivity)というキーワードを使って重点プロジェクトを選別することで、経済統合に向けた動きの加速化が図られたとみることができる。その後2012年には、資金調達というボトルネックを緩和するために、アジア開発銀行(ADB)の協力の下でASEANインフラ基金(AIF)が発足している。ただ、AIFの運用状況を見ると、必ずしも経済統合に資するプロジェクトが優先されるという流れにはなっていないようだ。最終的には2015年末のサミットで、ASEAN共同体の設立が宣言されるものと見込まれる。

2. 統合に向けた進捗状況
ASEAN共同体については元々、経済共同体から始まり、その後に政治安全保障共同体や社会文化共同体が後付けのような形で出てきた。ASEAN経済共同体は、(1)単一市場・生産拠点、(2)競争力のある経済圏、(3)平等な経済発展、(4)世界経済にも開かれた統合を柱としている。1992年から進められているASEAN自由貿易地域(AFTA)を核に、貿易の自由化を超え、貿易の円滑化措置や投資の自由化・円滑化、サービスの自由化、ヒトの移動の自由化、広域的なインフラ開発も含めた、より深い経済統合を目指している。
 貿易の自由化については1990年代から取り組まれており、ほぼ完成に近づいている。後発ASEANのCLMV諸国には原則的に2015年まで、そして一部は2018年まで猶予が与えられてきた。先発ASEANの6ヵ国については、2010年時点で関税の平均値が事実上、ゼロに近づいており、後発ASEANも2.6%となっている。しかし、ベトナム、フィリピンなどの自動車産業はまだ、タイやインドネシアと比べて非常に弱く、2018年に関税が完全に撤廃されれば、域内からの輸入が拡大し、芽が出てきた自動車産業が沈んでしまうことも懸念されている。貿易における焦点は今後、円滑化措置や非関税障壁の削減に移ってくる。貿易の円滑化には様々な措置があるが、中心に置かれているのがASEANシングルウィンドウを作ろうという動きだ。これは各国がナショナル・シングルウィンドウを作り、ASEAN全体でつなげようというものだ。2013年10月時点で、カンボジア、ラオス、ミャンマーを除く7ヵ国でASEANシングルウィンドウの運用試験が行われ、2015年までの運用開始を目指している。
 サービスの自由化については、モード1から4という形に分類される。モード1の国境を越えるサービスの取引やモード2の海外におけるサービスの消費については、基本的に問題がない。モード3の業務上の拠点を通じたサービスの提供については、2015年にかけて段階的に自由化を進めるということで現在、交渉が行われている。第8パッケージまで、80分野以上の交渉がなされており、第9パッケージは昨年内に完了予定だったが、まだ終わっていない。第7パッケージまでのコミットメントを見ると、サービスの貿易に関する一般協定(GATS)などと比べても遜色ないレベルになっている。ただし、実際に投資を受け入れるためには、国内法や各種制度の整備がしっかりなされる必要がある。モード4は、自然人の移動によるサービスの提供で、基本的に様々な資格を持っている人たちの越境移動を対象としている。これまでのところ、エンジニアや看護師、建築士、測量士、医師、歯科医師、旅行業の専門職について資格相互承認協定(MRA)が締結されている。その一方で、政治レベルでの合意はできても、運用に向けた制度作りはなかなか進んでいない状況だ。さらに2015年末に向けて、ASEANサービス貿易協定を作っていくための交渉も始まっている。
 貿易投資従事者の異動に関しては、分野横断的な自然人の移動協定が2012年に締結され、一時的な滞在期間などの条件を定めた各国の約束表が提示されている。旅行者の移動では、ASEAN国籍者に対するビザの免除やASEANビジネストラベルカードの導入などが進められているほか、非ASEAN国籍者に対するASEAN共通ビザの導入なども進められている。
 交通インフラについては、ASEANハイウェーネットワークとして、国と国を結ぶ幹線道路の整備が計画されている。ミャンマーの状況が大きく変わり始めたことから、今後は進展が期待される。広域の鉄道ネットワークに関しては、接続性マスタープランで改めてしっかり行うという合意がなされたこともあり、タイ、カンボジア国境のような、これまでミッシング・リンクとなっていた部分が動き出している。航空の自由化に関しては、ASEANの単一航空市場を最終目標として、2004年から枠組み協定および詳細を定めた附属文書の締結が進められているが、インドネシア、フィリピンで附属文書の批准に遅が見られる。そして単一海運市場については元々、「海運自由の原則」があり、どのような付加価値を目指すのかが論点となってきたが、未だに枠組みをどのようにするかという議論が進められている状況だ。

3. ASEAN統合に向けた課題
 ASEAN統合に向けた課題について見ると、まず計画の策定が非常に硬直的で、環境、情勢変化に応じた修正が難しいということがある。シンガポール‐クンミンの鉄道や単一海運市場もそうだが、実行可能性の検討があまりなされないまま、大臣レベルで合意されてしまった。そして、もう後には引けないということで何とか進めようとしている状況だ。また、公平な経済発展はAECのブループリントで4つの柱の1つになっているが、域内格差の問題は依然として顕著であり、具体的、効果的な対策が求められている。この点については現在、世界銀行との協力でモニタリングの仕組みを作り、運用していこうという動きがある。
 ASEAN全体としての政策の実行力に対する信頼性が損なわれるという懸念もあり、接続性マスタープランが出てきたが、状況は大きくは変わっていない。AECブループリントの進捗が遅れがちで、実態が良く見えない中、接続性マスタープランでASEAN統合の中心課題が再定義された。このプランについては、プラン作りにADBが関与し、他のドナーも関心を示したことから、ある程度の意義はあったと思う。そして昨年10月にブルネイで開かれたサミットでは、初めて「ポスト2015」のビジョン策定に向けたタイムラインで合意がなされている。
 ASEAN域外との接続性強化については、アジア経済回廊構想ということで、東南アジアと南アジアを結ぶ構想が動きつつある。また、これと並行して環ベンガル湾の協力枠組みであるBIMSTECで、三国ハイウェーの構想が動き出している。一方、日ASEANの航空協定については、2013年12月の日ASEAN交通大臣会合で締結に向けた検討開始に関する合意がなされた。今後、東南アジアの活力を活かしながら日本経済も同時に伸ばしていこうと考えた場合、生産ネットワークのつながりの中で空の便を使うケースも出てくるだろう。現在、既に沖縄経由で日本各地とASEANを結ぶルートが開拓されているが、日ASEAN航空協定をうまく使うことによって、日本とASEANの空の接続性を非常に高められると考えている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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