平成26年度 第3回 アジア研究会 報告 「中国の対外援助の現状 ~ASEAN地域を中心に~」独立行政法人 国際協力機構(JICA) JICA研究所 副所長 北野 尚宏 (きたの なおひろ)【2014/09/29】

日時:2014年9月29日

テーマ『変貌するアジア:その2 ~アセアン統合、指導者交代を踏まえつつ~』

平成26年度 第3回 アジア研究会 報告
「中国の対外援助の現状 ~ASEAN地域を中心に~」


独立行政法人 国際協力機構(JICA)
JICA研究所 副所長
北野 尚宏 (きたの なおひろ)

1. 中国の対外援助政策と制度
 中国では対外援助60周年を迎えた2010年に、全国対外援助工作会議が開催された。同会議を踏まえて2011年に公表された『対外援助白書』では、中国の援助政策として、国際社会の評価を強く意識してか、被援助国の「発展能力の向上支援」という、先進国の開発目標に近似的な政策が第1の柱として打ち出された。それに続き、「いかなる政治条件も付加しない」、「平等互恵共同発展」、「力相応の援助」といった項目が挙げられた。
 制度の改善については、援助機関を作るべきという議論があるものの、より現実的な方策として対外援助の法制化が課題とされており、今年「対外援助管理弁法案」がパブリックコメントにかけられた。その他、対外援助額の増加に人員が質量ともに追いつかないという課題については、専門知識を持った人材の育成が焦眉の急となっている。全体的に、中国はこれまで以上に積極的に国際機関やバイの機関から手法や経験を学ぼうという姿勢を強めている。
 最近では、商務部対外援助司のほか、援助の受け入れを担う同部の国際経済貿易関係司も積極的に対外援助に関わろうとしている。中国輸出入銀行と国家開発銀行に関しては、制度改革の議論が進められている。輸出入銀行はコマーシャル・ベースの活動より政策金融を重視すべきという方向のようだ。加えて、財政部や人民銀行の役割が大きくなっている。例えば、「アジアインフラ投資銀行」の設立準備に当たっては、財政部がイニシアティブをとっている。また、外貨準備活用も兼ねた、
 アフリカ開発銀行への資金供与については人民銀行がイニシアティブをとっている。

2. 2014年版対外援助白書:地域枠組みの記述を充実
 7月に公表された2014年版『対外援助白書』は、2011年版白書を継承し発展させたものとなっている。構成は、基本的に前回の白書と同じ流れだが、他部局の情報も含め、地域協力の枠組みにおける援助の記述や、国際協力における多国間援助の紹介の記述が、以前より充実している。何より第2版が公表されたこと自体を評価したい。
 2010~2012年の3年間の援助総計額は約144億ドル、スキームの内訳は無償が36%、無利子借款が8%、優遇借款が55%だ。借款の割合が大きいという点は日本に共通している。地域ごとの分布を見ると、アフリカが大きく、次がアジアだ。また、経済インフラ向けが大きい傾向がある。但し、国別や年別の内訳など情報開示は進んでいない。今回も国別や年別の数字は公表されなかった。
 記述が充実した地域協力の枠組みとは、中国・アフリカ協力フォーラムや中国ASEAN首脳会議などを指す。主なものは、3年に1度程度、協力パッケージをコミットしている。注目すべきは南アジアで、現在枠組みがない。中国は南アジア地域協力連合(SAARC)との間で、同様の枠組みを作ることを目標としており、最近インドとの関係が改善されているところ、今後の動向が注目される。
 中国はこういった枠組みを使い、特に中央アジアやメコン地域との関係について、連結性強化という観点から、取り組みを進めている。アジア開発銀行(ADB)が事務局を務める枠組み等も利用し、周辺国に対する経済協力と、周辺国と隣接する国内の地域の発展とをうまく融合させている。

3. 中国の対外援助推計
 6月に同僚と共にEstimating China's Foreign Aid: 2001-2013をJICA研究所のワーキングペーパーとして発刊した。同研究によれば、支出純額(ネット)では2013年に約70億ドルという推計結果となった。経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)のメンバーである28ヵ国に中国を加え、29ヵ国中の中国の順位を見ると、従来は16位前後だったのが、2009年ごろからどんどん上がり、2012年には日本やフランスに次いで6位になった。その一方で、国民総所得(GNI)当たりの比率では、中国は29位と最も低い。対外援助量は今後とも増加傾向にあるとみられる。また、対外援助には含めていないものの、輸出信用としての性質を持ちながら、優遇借款と同等の条件の優遇バイヤーズ・クレジットの供与額は対外援助額に匹敵する規模である。

4. 国際機関、各国との取り組み
 こういった中国の動きに対し、国際機関やDAC諸国は中国が国際的な開発援助のフレームワークに積極的に参加し、ミレニアム開発目標(MDGs)やアフリカの貧困削減、インフラ整備などに貢献してもらいたいと考えている。
 世界銀行グループは、昨年国際金融公社(IFC)が「協調融資運用ポートフォリオ・プログラム(MCPP)」という制度を新たに導入し中国はその最初の参加国となった。今年4月には中国輸銀との初の協調融資案件も承認されている。二国間では、イギリスがグローバル・デベロップメント・パートナーシップ・プログラムという新たな予算枠を導入し、中国等新興国との三角協力を推進している。ドイツも開発援助分野での中国との関係深化に積極的な姿勢を示している。ニュージーランドは、クック諸島で上水道整備のための中国との資金協力を実現させている。

5. ASEAN地域における中国の対外援助
 中国とASEANとの経済協力に関しては、2014年版白書の中では、ASEANはアフリカに次いで2番目に重要とされており、特に、実務関係の協力を全面的に推進していくこと、インフラ整備や農業発展の促進にも力を入れることが謳われている。
 インフラについては、昆明からバンコクまでの南北回廊が第4メコン橋完成により貫通した。鉄道に関しては、タイにおいてはラオス経由で中国とタイをつなぐ高速鉄道2路線の実施が検討されている。ラオスにおいても高速鉄道早期建設に向けた中国との協力協定の締結が両国間で協議されている。
 「シルクロード構想」に関して特に注目しているのが、陸路のうちの南のルートである。バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済協力フォーラム(BCIM)の枠組みで中国から南アジアにぬける回廊の計画が策定中である。農業に関しては、ラオス等で農業技術モデルセンターの建設に力をいれている。能力建設の分野では、2010年から12年の3年間で5,000人以上を中国で研修している。
 ミャンマーについては、チャオピューと雲南省を結ぶガスパイプラインが2013年に開通し、石油パイプラインは2015年に開通予定となっている。しかし、鉄道については、住民の反対運動などがあり、計画を中止したという報道もある。チャオピューの経済特別区(SEZ)についても、中国が動きを止め、代わりにシンガポールのコンサルタントが国際入札の準備をサポートしているといった報道がある。
 中国と日本の援助プロジェクトも近接しているケースが増えている。ハノイの都市鉄道では、2号線は円借款だが、2A号線は中国輸銀が借款を供与し中国のコントラクターが建設を請け負っている。 
 民間ベースの協力では、住友化学の中国現地法人が、中日友好協会と共同で、大連で生産されたマラリア予防用に効果を発揮する蚊帳「オリセット®ネット」をミャンマーに寄付するといった事例もでてきている。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:貿易研修センター)

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担当:総務・企画調査広報部